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学バサーチラリズムー   常識が非常識で、非常識が常識なBASARA学園。そんなBASARA学園で、クソがつくほど真面目な――――悪く言えば融通の利かない学生、赤い鉢巻がトレードマークの真田幸村がご機嫌な様子で歩いていると、ふと目立つ二人がコソコソと階段の脇に座っているのを見つけた。
 一人は、彼がライバルと思っている野球部の伊達政宗。もう一人は体躯のいい、白髪の長曾我部元親。
 時折二人が共に居ることを見かけたことはあるが、身を隠すようにしているのは初めてで、いつも悪目立ちするような二人が一体何ゆえそのようなことをしているのだろうかと、幸村は不思議に思った。思って、そっと二人の背後に近寄る。
 気配を消すことなど幸村にとってはたやすいことだが、それでも気付かぬ二人ではない。それなのになぜか、幸村が真後ろに来ても気が付かないほど二人は何かを気にしている。それは一体何なのか、と幸村が二人の視線を追うように目を階段の上へ向けると――――
「は、破廉恥でござるぁ!」
「うぉ、何だっ」
「Shit!」
 驚く元親が声を上げ、政宗が舌打ちをする。同時に階段の上から「きゃっ」と小さな悲鳴が上がり、軽い足音がそれに続いた。
「ったく、あとちょっとだってのによ」
「何してくれてんだ、真田幸村」
「な、何をとはっ…………貴殿らこそ、一体何をしているのでござるかッ」
 ぼりぼりと頭を掻く元親と政宗を交互に指差し、真っ赤な顔で言う幸村に、あきれたようなバカにしたような顔で政宗が言った。
「何って、さっきアンタも見ただろうがよ。ってか、もうすぐ見えそうだったってのが正解だけどな」
「なっ、なっ、なんと――――破廉恥なっ」
 わなわなと拳を握り締めて震える幸村が見たもの。それは、階下より垣間見えそうだった女子生徒の、スカートの奥――――だった。
「なんだよ、俺たちゃシシュンキなんだからさ、こんくらいの興味はあって当然だろう」
 幸村の肩をガッシリと抱いて言う元親に、政宗も続く。
「つうかよ、興味ないほうが病気だって、病気。つか、ガキ?」
「そ、某が子どもだと、そう申されるのか」
「あ〜、まぁ、なんだ。俺たちの年頃でオンナノコに興味ねぇっつうのは、ずいぶんと遅れているってぇ気がするよなぁ」
「しかし、先ほどのような行為は――――」
「バッカだなぁ。下着見せてくれっつって、ハイいいですよぅっつって見せてくれる女子がどこの世界にいるんだよ。つか、こっそりチラッと見えるのがイイんだろうがよ」
「の、覗き見は破廉恥でござる」
「チッチッチ――――男の、ロマンだぜ、真田幸村。そんなこともわからねぇくれえ、ガキだったなんてなぁ」
 ニヤニヤと笑う政宗に、元親が目配せをして幸村の口と体を押さえつけてしゃがむ。
「何っ、モガ…………」
「シッ、静かにしねぇか」
 耳元で元親が言い、そっと階段の上に視線を向ける。政宗もソレに続き、幸村もつられて見上げ、硬直した。スカートをわざと短くした女子生徒が、降りてくる。太ももに蹴り上げられてゆれるスカートから見えそうで見えない影の先に、チラリと水色が見えた。
「おっ、やべ」
 体躯の大きい元親が幸村を抱きかかえ頭を引っ込める。政宗も続き、彼らが身を潜める横を、女子生徒は通り過ぎていった。彼女の姿が見えなくなってから幸村を解放すると、全身を赤く染めた彼がぶんぶんと頭を振った。
「おっ、何だよ。アンタのシッポがあたるじゃねぇか」
「まさか、破廉恥なんて叫ぶんじゃねぇだろうなぁ」
「あっ、あんなっ――――の、覗き見などっ」
「Ah? あんなにスカート短くしてんだ。見てくれっつってるようなモンだろうがよ」
「そうそう、それに覗き見だって俺らを攻めるんならよぉ、アンタもさっき見たんだろ? 立派な共犯じゃねぇか。なぁ、政宗」
 ニヤリと笑う元親に、政宗も同じ顔で頷く。その瞬間、赤から青に変わった幸村が、ガクリと床に両手をついた。
「ふ、不本意な事とはいえ…………の、覗き見などッ。あの女子に謝罪せねば」
 立ち上がった幸村の腕を二人で引き、バランスを崩した幸村がしりもちをつく。
「何をっ」
 幸村が立ち上がれないよう、しっかりと肩に腕を回して押さえ込みながら政宗が言う。
「それは、コッチのセリフだぜ。さっきの女に謝りに行くってなぁ、アレか。覗き見をしてしまいましたスンマセンって言うことなんだぜ? そんなこと言われた女は、どう思うだろうなァ」
 元親も反対の肩を押さえ込んで、諭すように言った。
「見られたって事自体がアレなのによ、他の誰かに聞かれでもしたら、すんげぇ恥をかくことになるだろう?」
「しかし――――」
「なぁ、真田幸村。黙ってれば、女は気付かない。俺たちはラッキーだと思う。それでいいじゃねぇか。つか、こんなモン可愛い思春期の出来心で、男に生まれたからにゃあ仕方の無い事なんだよ」
「そうそう。お年頃だからよ、アンタも全く女に興味が無ぇってワケじゃあるめぇし」
「だからと言って、このような盗み見など」
「わかってねぇな、アンタ。覗き見をすんのだって、相手は選んでやってんだぜ?」
「見たいと思う相手と、金出されても見たくねぇって相手とが居るからよ、そういう意味では、見られたいって思われた奴ぁ、ある意味、ソレが無形の勲章みてぇなモンだ」
「無形の勲章――――?」
「そうそう、女としてのステータス。どうせ見るなら可愛い子がいいだろうがよ。つまり、そう思われた奴は、可愛いって思われてるってことだ。You See?」
「――――なんだかソレって、ちょっとした屁理屈だよねぇ」
 いきなり声がして、いつの間に現れたのか幸村のお目付け役というか世話係というか保護者代わりというか――幸村に何かあると、どこからともなく現れる猿飛佐助の姿が彼らの横にあった。
「佐助」
「――――アンタ、いつもいいタイミングで現れるな。どっかにカメラでも、つけてんのか」
「まさか。旦那が大将に呼ばれてるってのにぜんっぜん来ないから、おかしいなと思って探しに来ただけだって」
「おお、そうであった。早くお館様の元に行かねば」
 ぶんっと強く腕を振り、油断していた政宗と元親の腕を振り払いながら床を蹴り走り出す幸村の背中にため息をついてから、佐助は二人に視線を向けた。
「ウチの旦那は純情なんだから、あんまりからかわないでよねっ」
 言い置いて、佐助も幸村の後を追う。それを見送った後、二人は顔を見合わせてニヤリと笑んだ。

 放課後、雨のために校内での筋トレにかわった部活のメニューをこなしている幸村のもとに、政宗と元親が現れる。腹筋をしている幸村の頭上にしゃがみ、顔を覗き込んだ。
「よ〜う、真田幸村」
「精が出るなあ」
「政宗殿、元親殿」
 わずかに頭を浮かせただけの状態で、二人に笑顔を向ける幸村にニヤニヤと笑みながら政宗が言う。
「体を鍛えるのもいいけどよ、心のExercuseだって大切だとは思わねぇか」
「えく…………?」
「まぁ、なんだ。アレだ――――心も鍛えたりすんのが大切だとは思わねぇかってことだ」
 きょとんとする幸村に元親が言う。
「おお。確かに、心を鍛えねば逆境などに弱くもなり申す。しかし、心を鍛えるというのはなかなかに難しゅうござる故――――――」
「だから、俺たちがそれをこれからしに行くのに、アンタもどうかと誘ってんだよ」
「なんと、それは真にござるか」
 ぐいんと体を起こして満面の笑みで振り向いた幸村に、二人が大きく頷いて見せる。きらきらと輝く笑みで飛び跳ねるように立ち上がると、幸村は両方の拳を握り締め中腰になり二人の顔を見つめた。
「是非、是非に某もご一緒させてくだされ」
「だから、アンタも一緒に連れて行く気があるから誘いに来たんだろうが」
「お、おお。そうでござるな。――――して、その鍛え方とはいかなる方法にござるか」
「それはな、気配を消して身を沈め、じっと耐えて待たなきゃいけねぇ。待ったとしても、うまくいくかわからねぇし、どんくらいの時間がかかるかもわからねぇ。失敗すりゃあ悲惨な目に遭う事だってある。アンタに、それに絶えられる覚悟があるのかい」
「どのような困難にでも、立ち向かって見せる所存にござる」
 元親の言葉に真剣なまなざしで答える幸村の背中を笑顔で叩いて、笑みを浮かべる。
「よぉし、よく言った。それでこそ男ってモンだ。じゃあ早速、行くとするか」
「時間も勿体ねぇしな」
「何処に向かうのでござるか」
「ついてくりゃあ、わかる」
 歩き出す二人に、幸村が従った。

 到着した場所は渡り廊下そばの階段下で、不要な机などの置き場になっている場所だった。ホコリっぽいそこに身をかがめて潜む政宗と元親に、幸村も続く。
「やっぱ、男三人じゃ狭いな」
「アンタの図体がもうちょっとコンパクトなら、そうでもねぇのによ」
「羨ましがんなよ」
「羨ましがってねぇよ」
「いや、某は元親殿の力強い体躯が、羨ましゅうござる」
「お、素直なのはいいことだぜ、真田の」
「うむ。お館様のように立派な体躯となり、心根も強く深い御仁になりとうござる」
 ぐぐっと拳を握り締める幸村に、政宗があきれた顔を向けた。
「アンタの脳みそは、武田のオッサンのことしか無ぇのかよ」
「うむ、某の目指すはお館様のように強く大きな漢にござる」
 嫌味すらも素直な言葉として受け取る幸村に盛大なため息を突いた政宗の耳に、足音が聞こえる。わずかに身を乗り出す形になっていた幸村に身を隠すよう促し、そっと階段の上を覗き見ると女生徒が三人ほど楽しそうに会話をしながら降りてくるのが見えた。
「おっ」
「Good」
「なっ」
 それぞれが短く声を発し、咎めの言葉を発しそうな幸村の口と体を二人がかりで押さえ込む。女生徒たちがゆっくりと降りてくる。揺れるスカートの裾。一人のスカート丈は短く、ほかの二人は規定の長さのまま。真剣なまなざしが太ももに注がれる。見えそうで見えないもどかしさに、政宗と元親がわずかに身を乗り出した。
「や。皆、恋、してるかい」
 その時、音符が見えそうな口調の聞きなれた声がして、階段の上から長い髪を高く結い上げ、そこに彼の性格を示すような猛禽類の羽を飾っている男――前田慶次が降りてきて女生徒たちに声をかけた。
「もちろん。慶ちゃんに、恋してるよぉ」
「本当かい。そりゃあ、うれしいねぇ」
 軽口を叩き、女生徒たちを追い抜いた彼が、政宗たちの姿を見つけた。しまった、という顔をする政宗たちに、慶次がニヤリと笑いかける。
「恋は、時には不埒になるよねぇ」
 舌打ちをした政宗が立ち上がり、元親も続く。幸村もつられるように立ち上がり、彼らが居たことに気付かなかった女生徒が目を丸くした。
「で、誰の思い人がこの中に居るんだい」
 きゃあっと沸き立つ女生徒たちの声を、幸村の「破廉恥でござるァ」という叫びがかき消した。

 学校帰りのファーストフード。そこに、政宗、元親、幸村、慶次の姿があった。ふてぶてしい顔をする政宗が、幸せそうに甘味を口にする幸村を眺める。元親は三口ほどでハンバーガーを食べ終わり、慶次はポテトをつまんでいた。
「政宗殿、早く食べねば冷めてしまうでござるよ」
「ったく、いつまで拗ねてんだよ。そんなにアノ子らん中で見たい子が居たのかよ」
「へぇ。じゃあ、あの中に政宗の好きな子が居たんだ」
「なんと、左様にござったか」
「そりゃあ、初耳だなぁ」
 眉毛を上げて意外そうな顔をする慶次、目をまん丸にして背筋を伸ばす幸村、ニヤニヤと笑いながら言う元親の顔を順番に眺めてから、政宗は上からドリンクのカップをわしづかみ、奥歯でストローを噛みながら勢いよく飲み始める。半分ほど一気に飲干してから息を吐き、首を左右に振って言った。
「Bored」
 きょとんとする幸村に向かって、咥えたままのストローをカップから引き抜く。しなったストローが幸村の目にジュースのしぶきを飛ばした。
「わっ、何を――――」
 文句を言いかけた彼にビシリと指を突き立てて、言葉をふさぐ。
「Ha」
 鼻で笑うと指を下ろし、ハンバーガーを敵のように食べ始めた政宗の行動の意味を図りかねる幸村は、どうしていいのかわからずに彼を見つめている。なんとなく予測のついたらしい顔をする慶次が、元親に目配せをした。
「まぁ、思春期なんだから仕方が無いっていえば、仕方がないんだけどね」
「アンタも、興味ぐれぇはあるだろう」
「無いって言えば、嘘になるけど」
 ちらり、と幸村を見る。元親も幸村を見て、二人の視線に首をかしげる幸村に政宗が盛大なため息をついた。
「何でござるか」
「――――真田幸村、アンタ……女に興味が無ぇのか」
「興味、とは」
 きょとんとする幸村に、唇を大きく横に開いた元親が言う。
「女のハダカとかに、興味は無ぇのかってことだよ」
「なっ、はっはだっ…………破廉ンガムグッ」
 叫ぶことを予想していた慶次が、すばやく幸村の口をふさぐ。真っ赤になった幸村をなだめるように、空いた手で慶次は背中を叩いた。
「純情にもほどがあるっていうか、ちょっと――――ね」
「純情っていうか、病気だろう病気」
「仮にもライバルだと思っている男が、こんな奴だとは思わなかったぜ」
 苦笑気味の慶次、妙に楽しそうな元親、心底あきれたという顔の政宗に、幸村がむっとした顔をする。
「一体、某の何が悪いと言うのでござるか」
「旦那は何も悪くないって。大丈夫大丈夫」
 軽い声がして、いつから居たのか佐助が食べかけのセットを乗せたトレイを持って席を移動してきた。
「佐助」
 幸村の声にウインクで答えて、いたずらをした子どもに言うような口調で佐助がため息をつく。
「まったくもう、ウチの旦那はちょっと純情すぎるところがあるんだから、あんまりいじめないでくれる?」
「ちょっとォ? ちょっとどころか、天然記念物並だろうがよ」
 元親の言葉に佐助が軽く肩をすくめる。
「こんなんじゃ、先が思いやられるとか、アンタ、思わねぇのか」
 唯一光のある左目を細めて言う政宗に意味深な笑みを浮かべるだけの佐助に、慶次が大きく伸びをしてから頭の後ろで腕を組み、天井に向かって言った。
「まぁ、ちょっと――っていうか、だいぶ…………」
 ちら、と幸村を見て言を止める慶次に、頬杖をついた元親が頷く。だるそうな政宗に少し困った顔で笑う佐助の顔を眺め、幸村は眉間にしわを寄せた。
「一体、皆は何を言いたいのでござるか」
「アンタが、幼稚園児並だっつってんだよ」
「なっ、幼稚園児とはどういう事にござるか政宗殿」
「どうもこうも、あの状況で覗きたいと思わねぇってのが異常だっつってんだよ」
「覗…………」
 きょとんとした幸村の顔が、みるみる赤くなる。
「なっ、はっ、はっ」
「あぁ、はいはい、大丈夫大丈夫」
 ぽんぽんと幸村の肩を叩き、佐助がなだめて彼の叫びを抑える。
「おう、風来坊。アンタは、どうなんだ」
 頬杖をついている手の指で慶次を指して言う元親に、腕組みをした政宗が言う。
「恋だなんだと言ってんだ。興味が無いなんて、言わねぇよなぁ」
「うぅん、まぁ、ねぇ。二人みたいにわざわざ張り込んで、とは思わないけど、見えそうだったら、ちょっと、ね。悪いと思っても、ね」
 困った顔で頬を掻く慶次に、テーブルの上でポテトを食べていた夢吉が咎めるように「キキッ」と鳴いた。謝るようにあやすように、顎の下を指の腹でくすぐる慶次に政宗が後ろを向くように顎で指示をする。つられたように全員の視線が後ろに向き、そこに居る女性とのグループに全員の視線が向かった。彼女らは楽しそうに談笑しながら携帯を触っている。大きな声で「ウケルぅ」と言いながら手を叩く女生徒が足を持ち上げ、スカートの裾が持ち上がり太ももがあらわになる。幸村以外の全員がわずかに身を乗り出し、政宗がニヤリと笑った。
「真田幸村、アンタだけだぜ? アレに興味を示さねぇのは」
 慶次と佐助がバツの悪そうな顔で笑い、元親は政宗と同じ顔で笑う。
「み、皆、破廉恥でござる」
「コレが、普通の反応なんだよ」
 うんうんと元親が頷く。慶次を見ると、困った顔で笑いはするが否定はせず、佐助はこめかみを掻きながら目を泳がせた。
「あっれぇ、チカたちじゃん」
「あ、ホントーだぁ。やっほー」
「慶ちゃんも一緒なんだぁ」
「なになに、男ばっかでムッサーイ」
 きゃっきゃと楽しそうな声がして、先ほどの女生徒たちが移動してくる。
「何してんのォ」
「腹減ったから、寄り道してんだよ」
「へー?」
 女生徒の一人が幸村と慶次の間に体を入れる。ちょうど目の高さに胸がある状態になり、ボタンをきちんと留めていないブラウスからは肌と下着がチラリと覗き、幸村は硬直した。それを面白そうに見る元親の視線に気付いた女生徒が、大げさに胸元を押さえて棒読み口調で言った。
「やっだぁ、ユッキーのえっちぃい」
「んなっ――いや、そっ、某はそのようなつもりではっ」
「つもりじゃなくても、見てたんだろォ」
「もっ、元親殿ッ」
「うっそぉ、真田くんって、そんな人だったんだァ」
「あぁっ、いや――――違ッ」
 にんまりと政宗が笑って、女生徒も同じ笑みを浮かべる。テーブルに腕を着き、その上に胸を寄せるように乗せて幸村を見上げた。
「私、ユッキーとなら、いいよ?」
「へっ、何――――っ」
 軽く目を伏せてから、はにかんで微笑む女生徒が幸村に身を寄せる。
「ね、ちゅー、しよっ?」
 小首をかしげて言う女生徒のとどめの言葉に、真っ赤になった幸村が勢いよく立ち上がる。金魚のように口をパクパクさせたかと思うと、そのままダカダカダカと派手な音をさせ、走り去ってしまった。遠くから「破廉恥でござるぅうう」という叫びが聞こえてくる。
「ちょっと、ウチの旦那をあんまり、いじめないでくれる?」
「Ha、そう言いながら、止めなかっただろうがよ」
ニヤニヤと政宗が言い、困った顔で慶次がつぶやく。 「あれはちょっと、可哀想だったかもねぇ」
「あんぐれぇで逃げ出すようじゃあなぁ」
「ユッキー、かわいーじゃーん」
あきれた顔で元親が言い、女生徒がケラケラと笑った。 「あ、ケータイ鳴ってる。もしもォし」
「じゃ、私らそろそろ行くわぁ、ばぁいばーい」
 ひらひらと手を振りながら、女生徒たちが去っていくのに手を振り返し、急に静かになった席で四人は妙な空気に包まれた。それを最初に、慶次が破る。
「――――幸村ってさ、ちょっと、ウブだよね」
「あぁ? ちょっとどころじゃねぇだろう。大丈夫なのかよ、アレ」
「ううん。まぁ、まだいいんじゃないかなぁって、俺様は思ってるんだけどね」
「そんなこと言ってると、アイツはあのまんまオッサンになっちまいそうだけどな。――――まぁ、俺はそんなこたぁどうでもいいけどよ」
「楽しくケンカができればいいって? それも楽しそうだけど、恋もいいもんだよ」
「幸村は、恋人ができればそっちに夢中になっちまうんじゃねぇか。融通が利かなさそうだしよォ」
「ああ、確かにねぇ。まぁ、夢中度にもよるとおもうけど、竜の旦那と居るときは、大丈夫なんじゃない? そっちで頭がいっぱいになると思うよ」
 ふふん、と佐助が笑いかけると政宗が舌打ちをして目を反らす。それに照れるなよと慶次が言うと、ぎろりと政宗に睨まれた。考えながら喋るように、元親が斜め上を見ながら言う。
「なあ、アイツの部屋さ、エロ本とか、無いわけ?」
「掃除しているときには、見当たらなかったけどねぇ」
「アンタは、持ってんのかい」
「――――いや、まぁ、ほら、うん…………ねぇ」
 慶次に目配せして、二人で顔を見合わせてヘラリと笑いあう。二人の様子にはあまり興味のないらしい顔で元親が言った。
「あれでさ、実はすっげぇエロビデオ持ってたら、すげぇよな――――――あ、俺そろそろ帰るわ」
 チラリと政宗に目配せをして元親が立ち上がる。
「――――――俺も。小十郎がうるせぇからな」
 政宗も続き、席を立つ。じゃな、と去る二人を見送って慶次と佐助がジュースに口をつけた。
「あれはあれで問題だと思うんだけど。幸村と足して二で割ったら、ちょうどいいかもねぇ」
「俺様は、まだ旦那はあのままでも大丈夫だと思うんだけどねぇ」
 ずずーっと、二人がジュースをすする音が響く。そこで、はっと佐助が何かに気付いて立ち上がった。
「まさか、あの二人――――ごめん、片付けしといてよっ」
 じゃあ、と挨拶もそこそこに早足で去っていく佐助の姿を見送り、四人分の食事の跡が散らばるテーブルに視線を戻してから、慶次がつぶやいた。
「みんな、大変だなぁ」
 今日も、平和――――。


2010/04/04


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