ぱさり、とかすかな音がして、幸村は顔を向けた。視界に入ったのは、去り行く女生徒となにやら四角いビニールに包まれたもの。 自分の真横に落ちたそれを拾い上げ、足早に去っていこうとしている女生徒に声をかけようとした彼の肩を、ぽんと叩く者があった。「それ、大声で言うのは、ちょおっとマズイかなぁ」 見れば、猿飛佐助が困ったような顔で笑んでいる。何故と問おうとした幸村の手から、前田慶次が拾ったものを奪い、人懐こい顔をした。「俺が、届けてくるよ」 言うが早いか、ひょいひょいと人並みをすり抜けて女生徒へ追いつき、何事かを話す。一瞬のやりとりの後、女生徒は少しはにかみながらコッソリと受け取り、去っていった。慶次が、バッチリだ、とでも言うように、口を真横に広げて右手で丸を作ってみせる。 何故そのようなことになったのかをわかっているらしい佐助が一つ頷き返すのを、事情のわからない幸村は首をかしげて見つめていた。「――――あれは、何だったのだ」 放課後、ファーストフード店で帰宅前の腹ごしらえをする幸村の問いに、ストローを指で弄んでいた佐助が首をかしげる。「あれって何さ、旦那」「学校で拾ったものだ」 ああ、と納得した顔をした佐助は、それの説明をする気配が無い。むうと唇を尖らせる幸村に、横から声がかかった。「何、ガキくせぇ顔してんだよ」 見ると、伊達政宗と長曾我部元親が並んでいる。幸村の横に、当然のように政宗が座り、邪魔するぜと言いながら佐助の横に元親が座した。「ガキくさいとは、失礼では御座らぬか」「そんな顔してるアンタが悪いんだろう――で、何があったんだよ」 頬杖をついて問うてくる相手に、更なる抗議をしようとした口を噤み、昼間の出来事を言う。「――――Ah,そりゃあ……アンタが行くよりゃ、猿飛か前田が行ったほうが、良いだろうな」「何ゆえ、某ではいかんのかが、わかり申さぬ」 ちら、と政宗が佐助を見る。そ知らぬ顔をした彼を見て、元親に目配せをし、ニヤリとした。「そりゃあ、アンタが、それがどれほど重要なモンか、知らないからだろう」 なぁ、と同意を求められ、元親が頷く。「あんなモン、大声で呼び止められて落としましたって言われた日にゃあ、恥ずかしくて仕方ねぇだろうなぁ」「なっ――あれは、秘密裏にすべきものなので御座るか」 ほらな、という顔をされて悔しさと安堵を交えて佐助を見ると、なんともいえない顔をされる。「ま、あんま大声で言うようなもんじゃあ、無いよね」「女だけなら、言ってるかもしんねぇけどな」「長曾我部殿も、先ほどの話でアレが何か察しがついて御座いまするか」「ああ、まあなぁ。察しがつくってほど、すげぇ事でも無ぇけどよ」「――某のみが、無知だということにござるか」 三人が顔をあわせ、何かを確認するような目になった政宗に、仕方がないと言いたげに、佐助が息を漏らす。「一体、何でござる」 不思議そうな幸村に、少し身を乗り出す形で元親が口を開いた。「あのよォ、真田ァ――いくらアンタでも、子どもが出来る仕組みってぇのは、知ってるだろ」「生物の授業で習い申した。それが、此度の件と何か――」 元親の目が、政宗に向く。一瞬、意地の悪い笑みを浮かべた彼は、ことさら真剣な顔を作って幸村を見た。緊張気味に、幸村が受ける。「破廉恥だとか、でけぇ声で叫ぶんじゃねぇぞ――――これは、大事な命の営みの一部でもあるんだからな。OK?」 ぎゅっと唇を引き結び、頷く幸村に頷き返した政宗が人差し指で幸村を呼ぶ。顔を寄せた幸村の耳元にそっと囁くと、みるみる顔を赤くした幸村が、わなわなと体を震わせた。「はっ、はっ――」「叫ばねぇって、約束しただろう」 すんでのところで留めた幸村が、激しく首を縦に振って、何かを押さえ込むように、一気にジュースを飲干そうとし、むせる。その背中を、手を伸ばした佐助がさすりながら「落ち着いて」と声をかける横で、元親と政宗が話しだす。「そういや、最近は色んなモンがあるらしいな」「Ah? ああ――ちょっと見ただけじゃわからねぇような包装のモンもあるみてぇだな」「昔はでっけぇのとかあったらしいけどよ、最近じゃ、わかんねぇくれぇ薄かったりするじゃねぇか」 なぁ、と元親にふられた佐助が、手は幸村を気遣いながらも会話に加わる。「あぁ〜……専用の下着じゃなくても平気になってるって聞いたことあるかも、そういえば」「この間よ、ちらっと見えちまったときにハネってんだろ――あれが見えてよぉ……別に、なんか思うわけでも無ぇが――――なんつうか」「ああ、わかるわかる、なんともいえない気分になるよね」「Ah――あれは、ちょっとな」 自分そっちのけで進んでいく会話に、乗ることも逃げることも出来ず、幸村はただ無駄な知識だけがついてしまったのであった。――――しかし、何ゆえ皆様方はそのようなことを詳しく存じて居るのだろう という、聞いてはいけない気がする疑問を残して。2011/04/09