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登場:長曾我部元親・伊達政宗・徳川家康・石田三成・片倉小十郎・鶴姫・毛利元就・真田幸村・猿飛佐助
学バサー授業はイタズラのネタ探しー

 美術の授業時、デッサンの鉛筆をカッターで削っている時にふと思いつき、伊達政宗はがりがりと削り終えている鉛筆の先を、さらに削り始めた。
 芯の部分だけを別によりわけるように削る彼に、また悪いことを企んでるんだろうなぁと思いながら、その被害者が旦那ではありませんように、と猿飛佐助は警戒を込めながら願いつつ、目の端でニヤニヤしている政宗を意識する。
 いたずらをされるのではないかと心配をされている、などとはつゆしらず、旦那――真田幸村は真剣な面持ちでデッサンに取り組んでいた。
 授業終了後、削った鉛筆の芯の粉を二つに分けて包んでいる政宗に、悪童仲間の長曾我部元親が声をかける。
「なんだ、その削りかす」
「ちげぇよ。これはアレだ。イモリの黒焼きだ」
 ニヤリとする政宗に、はぁ? とすっとんきょうな声を上げる元親の横で、くだらぬことをと毛利元就が呟く。
「あ? なんだよ毛利。なんかわかってんのか」
「気になるならば、多少は身を入れて勉学に勤しむが良い」
「知ってんなら、もったいつけずに教えてくれりゃあ、いいだろう」
「わかりましたっ」
 ぽんっとかわいらしく両手をあわせて、聞こえていたらしい鶴姫が混じる。
「先ほどの授業で習った、お話ですね」
「さっきの授業ぅ?」
 首をひねり思い出そうとする前に、もう、と鶴姫が手を腰に当ててふくれた。
「ちゃんと先生の話は、聞いておかなきゃですよっ! 国語の授業で、先生が余談でおしえてくれたじゃないですか。愛し合っている時に引き離したイモリを黒焼きにした粉を、片方は自分に、片方は好きな相手にふりかければ両想いになれる。けれどイタズラな風が邪魔をして、粉が米俵にかかってしまったので、米俵に好かれてしまったというお話があるって」
「なんか、聞いたような聞いてないような――で、それがどうした」
「もうっ。わからないんですか? いもりの黒焼きの粉は惚れ薬なんですよ。つまり、想う人に告白をする口実に使うってことなんじゃないんですか」
 きゃあっ、と自分の言葉に盛り上がった鶴姫の頭を、ぽこんと軽く、丸めた美術の教科書で叩く。
「そんな回りくどいこと、するかよ」
「じゃあ、何なんですかぁ」
 ぷくぅと頬を膨らませ唇を尖らせる鶴姫に、悪童の顔をしてみせる。
「決まってんだろ。信じやすそうな奴を、だまくらかすんだよ」
 ちら、と元親へ「乗るだろう」と言いたげな目を向ける政宗に
「誰に、かけるんだよ」
 元親が乗った。
「そうだなぁ――真田幸村、と言いたいところだが今回は、石田で行くか」
 幸村の名が出たことに少し緊張をした佐助が、ほっとする。
「旦那、屋上でお昼食べよ」
「うむ」
 巻き込まれる懸念を排除するため、幸村の背を押して弁当を片手に教室を後にした。
「でもよ、三成にかけるとして、もう一つは誰にかけることにするんだ」
「そりゃあ、そんとき考える」
「なんだそれ、中途半端だなぁ」
「元親、片方は誰でもいいんだよ。石田を狼狽えさせられりゃあな」
 そこで、ピンと来たらしい。
「あ、なるほど」
「まぁ! 二人とも、すっごく悪いお顔」
 と鶴姫に称された顔のまま、二人は学食へ向かった。

 三成は、B定食―本日はどうやら、白身魚のフライのようだ―を手に、席を探していた。それを見止め、元親と政宗はそれぞれかつ丼とカツカレーを購入し
「隣、いいか」
 返事を待たずに座った。
「お、なんだ。元親と政宗も一緒か。ワシも、混ぜさせてもらうぞ」
 そこに、家康がA定食―本日は酢豚だ―を手にやってきた。さっと元親と政宗は目配せを仕合い
(Nice!)
(良い時に)
 同じことを考えていると、確認し合った。
「そういやよぉ、元親」
「おう、どうした政宗」
 いかにも相手に聞かせようとしている風で、二人が話し出すのに三成は目すら上げずにいたが、家康は興味の目を向けた。
「これ、ほら」
「なんだぁ」
 政宗が先ほどの鉛筆の削りかすを包んだ紙を二つ、取り出す。
「現国の後に、そんな話がホントにあるのか聞いたら、ホントかどうか試してみるかって渡されたんだよ」
「マジかよ――じゃあそれ、いもりの黒焼きの粉か」
 ぴく、と三成が反応した。
「いもりの黒焼き?」
「おう、家康――家康は現国、先生違ってたよな」
「三成、クラスは違うが先生は同じだから、聞いてるよな」
「下らん」
「なんだなんだ、三成も知っている話か」
「うるさい。食事の邪魔をするな」
「見せろよ、政宗」
 元親が乱雑な手つきで開けようとして
「あっ」
 わざとらしく三成にかけた。
「うっわ――悪い、三成」
「貴様ら……」
「石田、コッチのメスの粉を使わなきゃ問題無いから心配すんな」
「それを寄越せ」
 三成の手が伸びる。奪われる前に避けた政宗の手が
「政宗様」
 背後に現れた片倉小十郎に当たり
「あっ」
 包がほどけて小十郎にかかった。
「政宗様、何をなさっておられるのですか」
 静かに一喝した小十郎の目が、こわばる三成の前にあるB定食を映す。フライの上に、先ほど三成にかけた粉の残り――黒いものがかかっているのを見つけ
「すまねぇな、石田――政宗様にはあとでちゃんと言っておく。代わりに、これを」
 小十郎が手にしていたのは、三成と同じB定食で
「ほんとに、すまねぇな」
 悔いる声音で三成と自分のB定食を取り換える。それを、三成はこわばった顔のまま見つめ
「いらん」
 拒絶した。
「まだ、ほとんど手を付けていねぇじゃねぇか。ただでさえ小食なんだ――顔色も良くねぇ。しっかりと食ったほうがいい」
「いい、私にかまうな」
 いつもは無い警戒の気配に小十郎がいぶかる横で、政宗と元親が込み上げる笑いを必死に抑え込み、家康は首をかしげた。
「三成、せっかくだ。好意を受けたらどうだ」
「うるさい! いらんものは、いらんっ」
 逃げるように去る三成の背を、呆然と家康と小十郎が見送る。
「ぶはっ」
 こらえきれなくなったらしい政宗と元親が吹き出し、ゲラゲラと笑い声を上げるのにギロリと目を向けた小十郎と、困惑顔の家康が理由を問うた。笑いながらも返された答えに、小十郎は二人に昼休みが終わるまでたっぷりと時間をかけて説教をし
「徳川――石田は、あんなに信じやすくて、大丈夫なのか」
 危ぶむ小十郎に苦笑を浮かべ、いもりの粉というのは嘘だと伝えておくよと請け負った。
 後日、ものすごい勢いで名を呼ばわりながら走る三成に、元親と政宗が追い掛け回されるを、学校中の人間が見ることになる。

 「いもりの黒焼き」―上方落語。江戸時代以降の日本には「いもりの黒焼き」という媚薬が広まっていた。イモリが多く出るという丑の刻を狙い、イモリの雌雄が交わっているところを捕まえて引き離し、黒焼き(製法は様々らしい)にしたオスの粉とメスの粉をそれぞれにかけると、想いを遂げられずに離されたイモリの想いが互いを惹きつけ、両想いになれると言われていた。

2012/04/09



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