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登場:伊達政宗・真田幸村・猿飛佐助・片倉小十郎
前田慶次・豊臣秀吉・竹中半兵衛
長曾我部元親・毛利元就・小早川秀秋
徳川家康・石田三成・大谷吉継
たまにこういう光景を見たりするんだけど……

 時間制限の無いビュッフェというものは、なんて学生に優しいのだろう。これはもう、長居をしてくださいと言っているようなものだ。昼の部、夜の部と区切られてはいるが、それでも昼の部は夕方五時まで、夜の部は閉店の十時まで、と十分すぎるほどの時間を、過ごしていられる。
「佐助っ、佐助! 白玉にきなことあんこ、双方が用意されておるぞ」
「はいはい、旦那。甘味は後でね」
 テスト期間中、午前のみで学校を出た生徒たちが、テスト勉強をしようと称して集まっていた。
「猿飛」
「あ、片倉の旦那」
「おお、片倉殿」
 から揚げを皿に山盛りにしている真田幸村を見て、片倉小十郎が目を細め、猿飛佐助が苦笑した。
「旦那ぁ、落とさないでよ」
「そのように勿体なきことは、せぬ。一旦、席に運んでまいるぞ」
 席に向かう背を見送り
「猿飛――席が空いてんなら、かまわねぇか」
「いいけど――あ、じゃあ苦手分野、教え合う?」
「猿飛でも、苦手な分野があるのか」
「片倉の旦那のほうが、そういうの無いような気がするけどねぇ」
 席に皿を置き、新しい皿を手にした幸村が戻ってきた。
「あ、旦那。片倉の旦那も一緒するけど、いいよね」
「無論! 大勢で食したほうが、楽しゅうござる」
「OK――なら、他の奴に席を取られねぇよう、荷物を移動しておくか」
 聞こえた声に幸村は笑みを向け、佐助は心底嫌そうな顔をした。
「なんだ猿――不服そうだな」
「そうだよ――片倉の旦那には、アンタがついてくるんだった」
 頭痛を抑えるように、こめかみに手を当てて息を吐く佐助にニヤリとして
「それは、お互い様だろう」
 伊達政宗が言った。
「では、政宗様。荷物を移動させてまいります」
「Ah――頼むぜ、小十郎」
「政宗殿も、片倉殿と共に試験勉強をなさりに来られたのですな」
「まぁな。腹が減ってちゃ、頭が働かねぇしな」
「食べ過ぎも、良くないけどね」
 軽く肩をすくめて見せた佐助の視界に、人目を引く容姿の男が映った。向こうもこちらに気づいたらしく
「あっれ、何なに。揃って勉強会かい?」
 人好きのする笑みで、高く結わえた髪を揺らしながら、前田慶次が近寄ってきた。
「前田殿も、よろしければ共にいたしませぬか」
「あ、ほんと。じゃ、混ぜてもらっちゃおっかな。あ、じゃあ広い場所に行かなきゃいけないし、席が埋まる前に移動しておくよ。アンタらの荷物、どれだい?」
「片倉殿が今居る席にござる」
「りょーかいっと。ほんじゃま、ゆっくり料理を選んでおいてよ」
「かたじけない。では、佐助――どうせなら皆で食せるように、多めに……」
「好き嫌いもあるだろうから、自分のぶんだけでいいよ、旦那」
「ぬう、そうか」
「欲しけりゃ、また取りに来りゃあ良いだけだ」
 佐助と政宗に言われ
「そうでござるな」
 頷いた幸村は、傍にあった焼きそばを皿に盛り始めた。

 テーブルに着いた幸村はニコニコとし、政宗は半分呆れ顔で、小十郎は予測をしていたと思しき色をし、慶次は酷く楽しそうで
「なんで、こうなってんのさ」
 佐助が盛大にため息をついた。
 四人掛けのテーブルが三つ繋げられ、共にと言いあった五人の他に、長曾我部元親、毛利元就、徳川家康、石田三成、小早川秀秋、豊臣秀吉、竹中半兵衛、大谷吉継の姿があった。
「せっかくだから、一緒のほうが楽しいだろ」
 慶次が、姿を見かけて全員に声をかけたらしい。
「ねぇ、早く食べようよぉ」
 小早川英明――通称金吾が情けない声を出し
「そうでござるな」
 幸村が頷いて
「ほら、冷める前に食おうぜ」
 元親が促して
「そうだな。では、いただくとしよう」
 家康が手を合せ
「あぁもう」
 さっさと食べ終えてしまおう、と諦めた佐助に
「そんじゃま。いただきますってね」
 慶次が言って、食事が始まった。
「お、なんだ毛利。ずいぶんと、お行儀の良い盛り方してんじゃねぇか」
「貴様のような野蛮な盛り方は、理解できぬ」
「野蛮じゃ無ぇって。ちゃんと、味が混ざらねぇように、してんだろう」
「ん〜、この、ししゃもの揚げ物、すっごく美味しいッ」
「へぇ? 俺は、それは取らなかったなぁ」
「慶次君、僕、いっぱい取ったから、いっこ食べる?」
「お、いいのかい? それじゃあ、からあげと交換な」
「おい、三成。ずいぶんと少ないが――それで足りるのか?」
「貴様らの皿を見ているだけで、腹が膨れる」
「やれ、なんとも食の細いものよ。三成、せめて最低限の栄養くらいは摂れるように気をつけろ」
「わかっている。だから、これらを選んだ。――貴様こそ、きちんと食しているんだろうな」
「心配せずとも、食べている」
「三成君、もう少し、食べたほうが良いんじゃないかな。――秀吉も、そうは思わないかい」
「――いざというとき、体力がついておらねば困ることになるぞ」
「秀吉様、半兵衛様――お二人が申されるのでしたら、おかわりに参ります」
「おい、幸村。アンタそれ、味が混ざってんじゃねぇのか」
「んむっ――んぅ、んっ。おいしゅうござるぞ」
「Ah――なら、良いんだがな」
「旦那、ほっぺ、ほっぺ」
「ぬ。おお、すまぬ」
「政宗様――野菜が少ないような気がいたしますが」
「気のせいだ」
「あ、毛利なんだよソレ」
「わ、すごい」
 元親と金吾の声に、皆が元就の手元に目を向けた。そこには、小さな中華丼があり
「用意をされていたご飯に、八宝菜を乗せただけよ――与えられたものを応用せず、そのまま食すしか能のない貴様らと我を、同じと思うな」
「さすがは毛利よ――どれ、我の組み合わせも、試してみぬか」
 すると皆が、今度は大谷吉継――通称形部の手元を見て
「ほう」
 小十郎が感心したものは、サラダ用の野菜の上にカレールゥをかけ、その上にコーンを散らしたもので
「政宗様。あのようにして野菜を食されては、いかがでしょうか」
「食った気が、しねぇだろ」
「なかなかやるね、二人とも――僕が秀吉に盛ったものに、負けないくらいだよ」
 半兵衛の言葉に、今度は皆の眼が半兵衛に向き
「へぇ」
 慶次が頷いたものは、冷やしうどんに天ぷらを散らし、香の物を添えたものだった。
「なるほどぉ。そうやって組み合わせて食べるのも、楽しそうだねぇ。僕も、してみようっと!」
 すべてを食べ終えた金吾がウキウキと立ち上がり
「面白そうだな。ワシも、何かしてみよう」
 家康が続き
「カツカレーでも、してくるか」
 政宗が続いて、小十郎が無言で立ち上がり
「そ、某も」
「旦那は、まだあるでしょ。俺様が、甘味を組み合わせておいしいもの作ってくるから、ちゃんと噛んで食べておいでよ」
「すまんな、佐助」
「俺も、なんかしてみようか」
「俺もっ」
 佐助が、元親が、慶次がそれぞれの思う組み合わせを作りに行き
「やれやれ」
「愚劣なものが、どれほどのものを作ってこれるのか」
「ヒヒ――やれ、面白きことになった」
 半兵衛、元就、形部がそれぞれの目で見送った。

 きょろきょろとする金吾が、そうだ、と手を打って椀にうどんを入れる。それに八宝菜を乗せて
「おいしそう」
 にこ、と椀に笑いかける。
「お、いいな金吾。それならワシは」
 家康も椀にうどんを入れて、豚汁をかけた。
「そんなら俺は」
 元親は皿にうどんを盛って、海藻サラダを上に乗せ、胡麻ドレッシングをかけた。
「なるほどな――悪く無ぇ」
 そういう政宗は、言っていたとおりにカツカレーを手にし
「失礼します」
 そこに、小十郎がレンコンの天ぷらと茄子の天ぷらを乗せた。
「Oh――まぁ、いいか」
「よし。俺様ってば天才」
 そう言う佐助の手には、ドリンク用のグラスにソフトクリームが入っており、あんこ、きなこ、白玉が乗せられたパフェの様相をしたものがあった。
「旦那、俺様特製パフェ。どう?」
「おお! でかした、佐助」
 大きな声で褒め、さっそく食べ始める幸村の顔は幸せそうで
「おいしい、旦那」
「うむっ」
「やれ、過保護なことよ」
「なかなかやるね、猿飛君」
「まぁ、悪くは無い」
 最初に創作料理を作った三人の言葉に、佐助は少し得意げな顔をした。
「秀吉。俺も、おまえに作ってみたよ」
 慶次が、下にフルーツポンチを敷き、ソフトクリームを乗せ、クッキーをアクセントにしたものを持ってくる。
「半兵衛にも」
「ああ――ありがとう、慶次君」
 無言で頷いて受け取った秀吉と、にこりとした半兵衛に満足そうにうなずいて、席につき自分の分を食べ始める。そこに
「あ、それ! すっごい美味しそう! 僕も、僕もするっ」
 戻ってきた金吾が慌てて持ってきたものを食べ
「なるほどなぁ。皆、いろいろと考えて面白いな」
 家康が感心して
「俺も、も一つ何か、考えてみるか。なぁ、毛利――なんか作ってきてやろうか」
「貴様の足りぬ頭で作るものなど、いらぬ」
「なんだとぉ。ぜってぇ、度肝ぬくようなモン、作ってやっからな」
「おい、小十郎――そりゃ、なんだ」
「ソフトクリームに、エスプレッソをかけて、ナッツを散らしたものです。政宗様も、召し上がられますか」
「そうだな。頼む」
「は」
 楽しい食事はだんだんと、創作料理比べに変わっていき
「うぇ、なんだ、その組み合わせはよぉ」
「ケーキにソフトクリームを添えて、ジャムをかけただけだよ」
「甘すぎんじゃねぇか」
「金吾は、甘いものが好きだなぁ――ん。ああ、果物のジュースに何かを組み合わせて、三成に持って行こうか。栄養が取れそうな組み合わせで……」
「って、元親! なんで梅干しにソフトクリームなんて」
「シィッ! 大きな声出すなよ。毛利を驚かせてやろうと思ってな――言うんじゃねぇぞ、慶次」
「聞こえておるわ」
「うぉッ?!」
「そのような魂胆ならば、貴様も我の特別な組み合わせを与えてやろう」
「げえ――なんか、洒落になんねぇ気がするんだが。毛利よぉ、止めておかねぇか」
「先に仕掛けたは、貴様だろうが」
「うわぁ、それ、すっごくマズそう」
「Fantastic! 面白ぇ――俺も、小十郎に何か変わった飲み物でも作ってやるか」
「え、ちょっと――それ、どうなの? 政宗君、それ……」
「ちょっとしたSpiceと思えば、問題無いだろう。カレーにヨーグルトみてぇなモンだ」
「政宗様、食べ物で遊ぶなど、おやめください」
「なんだよ小十郎。特製Drinkを作ってやってんだ。席で待ってろ」
「そのように面妖な組み合わせのもの、いくら政宗様からでも、口にいたしたくありません」
「まぁ、そう言うなって」
 エスカレートしていく、誰も食べそうにない組み合わせのものが、どんどんと出来上がりテーブルに運ばれていく。一口食べては
「やっべ、まっず!」
「うっ――こ、れは」
「見た目からして、Grotesqueだぜ」
「これは、食べても平気なのでござろうか」
「旦那、おなか壊すから、食べなくていいよ」
「このようなもの、私に食べろというのか」
 どうみても、食べ残しを集めたとしか言いようのない状態のものが並んでいる状況に
「――――お客様、申し訳ございませんが」
 こめかみをひくつかせた店員が慇懃に、遠まわしに「追加料金を払って出ていきやがれ」と言いに来て、全員が追加料金を取られて追い出されることになった。

「ちょっと、なんで普通に食べていた俺様たちも追加料金を払わせられるのさ」
「連帯責任ってヤツだ」
「だから、食べ物で遊んではいけませんと申したではありませんか」
「うるせぇよ――やっちまったモンは、仕方無ぇだろうが」
「悪いことしたけど、ちょっと、面白かったな」
「こうして、皆で騒ぐのも楽しいな三成」
「私を巻き込むな」
「やれ、無駄な出費よ」
「秀吉、すまない――慶次君の誘いに乗りさえしなければ、こんなことには」
「気にするな、半兵衛。たまには、こういうことがあっても、良いだろう」
「あぁ、もっと食べたかったなぁ、僕――」
「試験勉強をするなどと、この面々で出来るはずはないと、はじめからわかっていたではないか」
「なんだよ毛利。ため息交じりに言っても、参加したのはアンタだろう。――もしかして、さみしかったんじゃねぇのか」
「貴様の物差しで、人を量るな」
「そんなら、駅前のファーストフードに移動して、そこで今度は真面目に、試験勉強をしないかい?」
 慶次の提案に、妙な連帯感を漂わせていた面々は、なんとなく断りきれず、創作料理をする心配の無い駅前のファーストフード店で、そこそこ騒ぎつつも真面目に――しょっちゅう脱線をしながら試験勉強を行い、夕食の頃合いになると、それぞれの帰路についた。

2012/05/09



メニュー日記拍手
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