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・信号機&瀬戸内
※語りの間で句読点などをつけております。
まんじゅうこわい(落語パロ)  春の花見にかこつけて、前田慶次が催した、桜の会に興味持ち、集まりたるは北国の、伊達政宗と、甲斐国の 虎の若子たる真田幸村。
 自らを 鬼と称する西海の 長曾我部元親が 宴の為に子分らと、海の恵みを運び込み、さあさ いざいざ洒落こもう。
 そう申す場は安芸の国。日輪の子の領地にて、見事な枝振り古桜の、見事なりける館なり。それぞれ好きに座しながら、薄桃色を愛でるうち、ほろ酔い染まる頬もまた、薄桃色になりにける。
 さてさて宴もたけなわで、ほどよくほぐれた皆の間に、ふいと転がり込みたるは、鬼の子分の権造だ。
「ひぃっ、ぇえぇ」
「おいおい、血相変えてどうしちまったんだ」
「あぁっ、兄貴っ! あ、あっちの草むらで細くて長い奴がチロチロ赤い舌出して、おいらを睨んで来たんでさぁ」
「お、そりゃあまるで蛇みてぇな野郎だなぁ」
「みてぇな、じゃなくて蛇なんですよっ。おいら、蛇だけはどうしてもダメなんでさぁ」
 ぶるると体を震わせて、権造 自分を抱き締める。誰にも苦手はあるからと、元親 彼を慰めた。
「しかし、鬼の子分が蛇を怖がるなんざぁ情けねぇです」
「仕方ねぇって。誰だって苦手はある。なぁ」
「そうだなぁ。無いって人のほうが、珍しいんじゃないのかい? 俺は、まつ姉ちゃんが、怖いかなぁ。こぉんな、おっかない顔で怒るんだぜ。慶次っ! あなたという人はっ!」
 話を振った元親に、前田の慶次が頷いて 怖き人たる叔父嫁の まつの真似事して見せる。
「竜の兄さんは、右目あたりが怖ぇんじゃねぇのかい」
「怖いっつうか…………あぁ、まあ怖いと言えば怖いかもな。何かと言ゃあ、小言が飛んでくる」
 苦笑まじりに答えつつ 杯を傾け目を向けて、団子を頬張る幸村に、苦手は無いかと問うてみる。
「むっ、苦手でござるか。ううむ、苦手というか――――佐助は時折、団子を食い過ぎるな、などとキツく言ってくる時がござるな。あとは、お館様には畏敬の念を持ってござる」
 真面目な顔して答えつつ、しっかり団子を握りしめ 口を動かす幸村に、元親ふわりと笑んで言う。
「あんたの場合も、お目付け役が怖ぇって事か」
「女ってのも、忘れてるぜ」
 ニヤニヤ笑って政宗の 言うに機嫌を損ねるも、素直に頷き幸村は、権造を見て照れ笑い。
「確かに、女子はちと、苦手でござる」
「ほら、な。こいつらだって苦手なもんはあるんだ。権造、気にすんな」
「兄貴っ…………旦那方もっ」
 優しい視線に感動し、言葉につまった権造の、耳にスウッと差し込むは、冷気のごとき元就の声。
「――――下らぬ」
「あ?」
「叔父嫁など、捨てておけば良いものを。付け上がらせているから、恐がらねばならぬのだ。――――自らの右目が怖いなどと、笑止。うぬが器の浅さ故よ。――――――――忍や女が怖いと申したな。使うべき忍を恐れるなど、自らの愚鈍さを露呈するも同然。女とて同じ事よ」
 ついと優雅に杯を持ち、口を湿らせ放ちたる 言葉に眉を吊り上げて、元親やんわり抗議した。
「なんだよ、毛利。なにか、てめえは苦手も怖いも無いってぇのかい」
「なんと、それはまことにござるか。元就殿は、心の強い御人にござるなっ」
「Ha! 人間味が無ぇっつうか、日輪の申し子ってぇのは、そういう事からか」
 感心しきりの幸村と 鼻で笑った政宗を、困った笑みで流し見た 慶次がズズイと前に出て 小首をかしげて問いただす。
「なぁ、毛利さん。本当に、なんにも怖いものが無いのかい? 別に恥ずかしがる事じゃないし、誰もバカになんてしやしないからさ、こうして花を愛で酒を酌み交わしている今の場だけってことで、一つくらい教えてくれたって構わないだろう」
 慶次が得意の柔く 人たらしたる笑みに乗せ、真っ直ぐ見つめる視線避け、元就わずかに目を伏せる。逡巡するよな素振り見せ ぽそりとつぶやく言葉には、捨て鉢のような響きあり。皆がそろって耳を寄せ、怖きものの名,、知りたもう。
「――――餅だ」
「えっ」
「What? 聞こえねぇ」
「餅だと、申しておるっ」
 ふいと反らせた元就の 横顔すねたる子のようで、思わず笑みをにじませた 元親深く頷いた。
「なるほどな。食い物か。しかし、なんでまた餅なんだ。焼いて食えば美味いし、汁にしたっていいだろう」
「苦手なものは、苦手なのだ。貴様、我をバカにするか」
「いや、してねぇけどよ。意外っつうか、なんつうか」
「食べ物の苦手は、誰しもござろう。元就殿、気に病むことはござらぬよ」
「しかし、あんたの怖ぇもんが、餅とはなぁ」
「まあまあ、独眼竜。――――なんにしても、教えてもらえて嬉しいよ」
 元親 幸村 政宗と、慶次を軽く睨み付け、元就すいっと立ち上がる。
「気分がすぐれぬ。休む!」
 奥の座敷に姿消し、元就ふて寝を決め込んだ。残った面々頭かき、どうしたものかと目を合わす。
「バカにしないって言ったのに、独眼竜があんなふうに言うからだろう」
「元就殿は、恥ずかしかったのでござろうか」
「散々俺たちをバカにしたくせに、このくらい構うこたぁ無ぇだろう」
「しかし、あの毛利の苦手なものが、餅だとはなぁ」
 元親呟きふと見ると、政宗ニヤリと笑んでいる。意味を悟った元親が、権造に銭を握らせた。
「これで、いろんな餅を買ってこい」
「えっ、兄貴、どうするんです」
「毛利の枕元に、並べてやんのよ」
「なっ、長曾我部殿っ。それは酷くはござらぬか」
「Hey、真田幸村。あんた、苦手なもんは克服したいと思うだろう。あの気位の高ぇ奴が、苦手を知られて気分がいいはずが無ぇ。なら、荒療治だが試練を与えて克服させてやろうじゃねぇか」
 政宗 悪魔の笑み浮かべ、がっちり肩を組みながら、幸村の耳に吹き込むと、幸村深く頷いた。
「成る程。そういう事ならば、協力せねばならぬ」
「だ、そうだぜ。多数決なら、決行だよな」
「――――どうなっても、知らないよ」
 慶次は軽く 肩すくめ、権造走りて餅を買う。焼き餅 茹で餅 あんころ餅に、海苔巻き かき餅 きな粉餅。よくまぁこれだけ集めたと、感心しながら面々は、静かに眠る元就の、枕元へとにじりより、ずらりと餅を並べ置く。
「あとは、隣の部屋で毛利が起きるのを待つだけだな」
 元親 政宗ニヤニヤと 慶次は少し哀れんで 幸村キリリとした顔し、それぞれ思惑違えども、毛利元就目覚めるを、固唾を飲んで待ちぼうけ。
 しばらく耳をそばだてて、中の気配を探りつつ、桜を愛でる面々に、息を飲む音聞こえけり。
「なっ、なぜ我の枕元に、かように多くの餅があるのだ。えぇい、忌々しいっ」
 苛立つ声に顔合わせ、皆がそうっと覗き見る。体を折り曲げ元就の、何やら小さき動きあり。ようっく見ようと乗り出せば、襖がバタリと倒れ付し、覗く面々傾れ込む。振り向く元就 目に留めて、元親大きく目を剥いた。
「毛利っ…………、ちょ、何食ってんだよっ」
「貴様の目は節穴か。餅以外の何に見える」
「――――あんた、餅が苦手じゃなかったのかよ」
「目障りなので、退じておるのよ」
「なんと、毛利殿。流石は智将にござる。食せば姿は無くなるという事でござるなっ。――――しかし、苦手なるは餅の味ではなく姿だったとは」
「あはは、面白い解釈だなぁ。――――――――しかしまんまと、一杯食わされちまった。毛利さん、あんた本当は、何が怖いんだい」
 朗らかに問う歌舞伎者。元就ニヤリと唇を弓の形にしならせた。
「あとは、熱く濃い茶が怖い」


2010/02/23


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