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登場=伊達政宗・長曾我部元親・片倉小十郎

五月晴れ

 潮の香りに包まれ、海風に髪をなぶられながら、舳に立って島影を見つめている。そこは、馬の合う男が統治をしている島で
「元気にやってんだろうなぁ」
 面影を脳裏に浮かべ、しみじみとつぶやいた長曾我部元親の唇は、楽しげに歪んでいた。
「兄貴!」
「おうっ」
 短く応え、着岸の準備のために移動した。
 港は、大型の船が来るのを、手ぐすねをひいて待つ者たちであふれていた。
 積荷を買い取ろうとするもの。
 彼らに荷を売ろうとするもの。
 滞在する彼らを迎えようとするもの。
 人の集まる場所で、芸を見せるもの。
 めずらしかな物を見るために来たもの。
 老若男女問わず人が集まる賑やかな、人の立てる砂埃があふれる空気に身を投じた元親は、彼を迎えに来た平服の、ここ奥州を統べる独眼の竜、伊達政宗と、油断ない身支度と身ごなしで控える竜の右目、片倉小十郎に親しげに手を上げて挨拶としながら
「相変わらず、いい港だな」
「だろう」
 そばに寄った。
 同じ笑いを浮かべて
「しばらくは、滞在するんだろう」
「ああ、世話んなるぜ」
 小十郎が、主と客人を宿に案内した。

「ずいぶんと、立派な宿じゃねぇか」
「アンタがしょっちゅう来るようになってから、俺や小十郎が視察のときも使えるように改装した宿だからな。――――アンタの船の男たちの宿は、港の傍に用意をさせてある」
「おう、すまねぇな」
「その分、Serviceしてもらうぜ?」
 ニヤリとされて
「わぁってるよ。ケチくせぇことはしねぇ」
 交流する事で「さぁびす」という言葉の意味を覚えた元親が、肩をすくめた。
「こっちも、良い思いをさせてもらう気でいるけどな」
 失礼しますと声がかかり、女が酒と肴を運んできた。小十郎がそれを受け取り、女を侍らせることなく帰す。
「そっちの具合は、どうだ」
「目新しいモンは特に無ぇが――ルソンから来た奴が、石積みの技術がどうのと言ってきてよ」
 会話を邪魔しないよう、杯に酒を注ぎ肴と共に二人の手の届く場所へ差し出した。
 政宗と元親の手が杯に伸び、唇を湿らせながら、互いの港に来る外国船からの荷の状態や人の変化、諸国の噂を交換し合う。
 奥州に来る外国船と、瀬戸内に来る外国船は国が異なる。その為、それぞれの港が交易している日ノ本以外の国の情勢を、時折こうして交換をしていた。
「そういや、最近、真田とは楽しんでんのか」
 ぴく、と小十郎の眉が動いた。
「そっちこそ。毛利と派手なDanceを楽しんでんじゃねぇのかよ」
 お互いが好敵手と認めている――元親の場合は、彼が一方的に思っている、という節はあるが――者と刃を交える時の肉欲にも似た高ぶりを揶揄しあうと、それが肴に酒が進む。小十郎が追加を求め、女が運び、そっと空の徳利と新しいものを置き換えると手が伸びて、互いが手酌で杯を煽った。
「っはぁ。奥州の酒は、また味が違っておもしれぇな」
「そっちの酒は、明日、味わわせてもらうぜ」
「おう。瀬戸内自慢の海産物も、用意してきているからよ。酒と一緒に瀬戸内の美味を胃袋にたんとつめこみな」
 そこで、ちらりと元親が小十郎を見て
「添え物にするにゃあ惜しいぐれえ美味な野菜が、互いの味を存分に引き立てあってくれるだろうぜ」
 はっと顔を上げた小十郎が、目元を柔らかくしながら瞼を伏せた。
「そういやあ、鍋を背負った妙なやつが、小十郎の野菜を求めて、やってきたな。あれは、ソッチのご近所さんだろう」
 楽しげな政宗に
「そりゃあ、金吾のことか」
 元親が驚いた。
「伝説の野菜がどうのとか言って来たんで、存分に味わって帰れつったら感涙しながら鍋を作って食っていったぜ」
「あの、泣き虫金吾が奥州くんだりまで、わざわざ足を運ぶたぁ、相当な評判だな」
「泣き虫金吾か、なるほどな」
 思い出すように政宗が目を細め
「執念や目的がありゃあ、本人にとっちゃ、とんでもねぇデカイことでも成し遂げるってぇ事か。――なぁ、姫若子」
 揶揄されて
「うるせぇよ」
 冗談めかして吐き捨てた。
「兄貴ぃいい!」
「筆頭ぅう!」
 階下から、彼らの郎党の呼ばわる声が響いてきた。それに小十郎は眉根を寄せ、政宗と元親は剣呑な光を互いの目に見止め合う。
 腰を浮かせながら
「やれやれ」
「仕方ねぇなぁ」
 楽しげな二人のつぶやきに、小十郎はそっと息を吐いて襖をあけた。
 さまざまな者が集まる港は、とかく騒ぎが起きやすい。長旅の疲れもあり、酒のまわりが早くなった荒波にもまれた男たちが酒場にあつまれば、もめごとが起こるのは必定。たいていは地回りの者が収めるが、この二人がそういうことを楽しむ性格と知っている郎党が、報告する必要のないほどの騒ぎでも、こうして二人がゆるりと酒を楽しんでいる場合には、些末な事でも伝えにくることが、暗黙の了解になっていた。
「まったく」
 ぼやきながらも楽しそうな、ガキ大将のようなフシのある二人の、不謹慎ながらも息抜きと言えなくもない行動を、小十郎も黙認していた。
「さぁて、今回は、どんな騒ぎだ」
 そんなことを言いながら出かけた先は、往来のど真ん中で
「ナメてんじゃ無ぇぞゴルァ」
「文句があるなら、買わなければいい」
 威勢のいい声と、少し発音が不慣れで不明瞭な言葉づかいの声が言い争っていた。
 取引の際のいざこざが原因らしい喧嘩は、言いあう同士の前方で手下らしい数人が、腕まくりをし、自慢らしい二の腕の筋肉を互いに見せつけあいながら、異様な熱気をぎらつかせ、乱闘騒ぎを起こしていた。
「ずいぶんと、楽しそうじゃねぇか」
「交渉は、もっとCoolにするもんだぜ」
 楽しげに低く声を響かせて、二人が同時にもみ合う波に乗り込んだ。
「DEATH FANG」
「イィヤッホウ!」
 次々と荒くれ者たちを空中に舞い上げ、叩き落とし、道端に積み上げていく。ものの数分もかからずに、それぞれの集団の頭目らしき者を除いて伸した二人が汗ひとつかかず
「公平な取引の話を、しようじゃねぇか」
「物事は、Smartに進めようぜ」
 言い終わった途端
「兄貴、兄貴、兄貴、兄貴!」
「筆頭ッ――筆頭ッ――」
 長曾我部と伊達の郎党がそれぞれの節をつけて称える熱気が、場に満ちた。
「動いたら、のどが渇いちまったぜ」
「おう、オメェら、酒宴の用意をしな!」
 おぉおお、と地鳴りのような歓声が沸き、いがみ合っていた者たちも巻き込んだ酒宴へともつれこませて事を収めた二人の姿を、小十郎が安堵の息を苦笑と共に漏らした姿を、見事な五月晴れの空が穏やかに見つめていた。

2012/05/01



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