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登場=猿飛佐助・弁丸・片倉小十郎・梵天丸・長曾我部元親・竹千代・他数名

かなわねぇよなぁ:その1

 大学の食堂で、猿飛佐助はつまらなさそうにパンにかじりついていた。
「なんだ。珍しいな」
 そこに、弁当の包を手にした片倉小十郎が現れ、佐助の向かいに腰かけた。ぱらりと開いた弁当の中身に、佐助が目を細める。
「相変わらず、渋い品目だね」
 煮物や和え物中心の弁当は、茶色が大半を占めている。
「体の事を考えりゃ、こうなっちまうんだ」
「ああ。伊達の御曹司ね。でも、子どもはそういう和食より、ハンバーグとかのほうが、喜ぶんじゃないの?」
「テメェん所のボウズは、そういうもんばっかなのか」
「もちろん、栄養の事は考えているけどさ。やっぱ。ふたを開けた瞬間に、楽しくなるようなほうがいいだろ」
 ぱくりと惣菜パンにかじりつけば
「なんだ。珍しいじゃねぇか」
 重箱のような弁当を片手に、長曾我部元親が現れた。どっかと佐助の横に座り弁当箱を開けば、ごろごろとした肉や魚、野菜などが豪快に詰め込まれていた。
「相変わらず、男の料理って感じだねぇ」
「育ちざかりは、しっかり食わなきゃなんねぇからな」
「アンタ、それ以上大きくなるつもりかよ」
 あきれた佐助が、人一倍体躯の良い、みっしりとした筋肉を纏った元親を半眼で見つめた。
「俺じゃねぇよ。竹千代だ、竹千代」
「ああ、ポンポコか」
「ポンポコ?」
 小十郎が首をかしげるのに
「こないだ、狸の着ぐるみパーカーを着せてたろ」
 紙パックのジュース片手に、思い出すよう促せば、小十郎が「ああ」と頷いた。
「あれは、可愛かったな」
「うんうん。かわいかったよね。うちの旦那にも、ああいうの着せてあげたいな。虎とかさ」
「ちょっと待て。ありゃあ、狸じゃなくてリスだリス。ネズミ―ランドのデールだぜ」
「ええ、うそ。狸に見えたよねぇ」
「ああ。狸に見えたな」
 小十郎にも同意され、ちぇっと元親が唇を尖らせる。
「ま、どっちにしろ、可愛いからいいんだけどよ」
「ああ、うん。かわいかったね」
「ああ、そうだな」
 頷き合った三人が、しばし意識を眼前から脳裏へ移動させる。元親は弟のような竹千代のデールのパーカーを着た姿を、小十郎は面倒を見ている伊達家の長男、梵天丸がアニマルパーカーを着ている姿を、佐助は彼が世話になっている武田道場で預かっている弁丸が、ティガーのパーカーを着ている姿を思い浮かべ、ほんのりと頬をゆるませた。
「で、なんで佐助はパンなんだ。今日の弁当は、どうしたんだよ」
 いち早く現実に戻って来た元親の問いに
「ああ。ちょっと時間が無くってね。自分のを作る余裕が、無かったんだよ」
「なんでぇ。寝坊か」
 元親の問いに、佐助が心外そうにした。
「俺様が、そんなヘマをするわけがないだろ。ちょっと、お弁当に懲りすぎちゃってね」
 言いながらスマホを取り出し、心なしか得意げに二人に画面を見せる。
「おおっ」
「すげぇな」
「ふっふ〜ん」
 画面には、子どもたちに人気の特撮アニメ、オヤカッターンの変身前の愛らしい毛玉のような宇宙生物姿と、変身後の猛々しいロボット姿がウインナーやら野菜やらで描かれていた。
「ちょおっと、凝りすぎちゃってさ」
「毎度毎度、よくやるぜ」
「よく、思いつくもんだな」
「だってほら、俺様ってば天才だからさ」
 ふふんと鼻を鳴らした佐助が、携帯をしまう。
「しかしよォ。そんなふうにしていたら、いつかネタが切れちまうんじゃねぇか。そうなったら、飯を食わなくなるかもしんねぇぜ」
「そういう食事ばかりをしていては、普通の食事が出来なくなるんじゃねぇか」
 異口同音に言われ、佐助は少しムッとした。
「うちの旦那は、そんなことにはならないよ。ただ、保育園での御飯の時間を、楽しく過ごしてもらいたいだけだって。友達はいっぱいいるかもしんないけどさ、やっぱ離れて寂しくなることだって、あるだろうなって思うからさ」
 語尾を少ししんみりとさせた佐助に
「そういやあ。迎えに行くのが遅くなった時に、竹千代がちょっとばかし、寂しそうに無理して笑ってたことがあったなぁ」
「梵天丸様も、何かを堪えるような顔をなされたことが、あられたな」
「でしょ、でしょ? だから離れている真ん中の時間に、楽しいことをしてあげたいんだよね。だから、俺様はお弁当をがんばっているってわけさ」
 なるほど、と元親と小十郎が頷いた。
「俺は、梵天丸様の健康を願って、煮物やなんやと詰めてはいるが、子どもにとっちゃあ面白くねぇかもしんねぇな」
 ぼそりと小十郎が言い
「俺も。色気も素っ気もねぇ弁当だぜ。竹千代は、変わり映えしねぇ弁当に呆れているのかもしんねぇな。辛抱強ぇし気を使うヤツだから、何も言わねぇがよ」
 元親も声を落とす。暗くなってしまった二人に、佐助は頬を引きつらせた。
「ちょ、ちょっとちょっと。暗くなんないでよ。子どもの好みはそれぞれだし、チビらの事を思って、二人とも弁当を作ってやってんだろ? だったら――」
「俺も、猿飛みてぇに考えた方が、いいのかもしれねぇな」
「もうちょい可愛らしい弁当を作れるように、勉強をしてみるか」
 ため息まじりの二人に、佐助は少しの罪悪感と優越を浮かべ、総菜パンにかじりついた。
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2013/05/10



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