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登場=猿飛佐助・弁丸・片倉小十郎・梵天丸・長曾我部元親・竹千代・毛利元就・佐吉・前田慶次

幼児と赤子

「おじゃましまぁっす」
「おじゃまいたすぅ」
「邪魔するぜ」
「来てやったぞ」
「おう。よく来たな!」
 玄関先で、片腕を揺りかごのようにして赤子を抱いている長曾我部元親が、来客の猿飛佐助と弁丸、片倉小十郎と梵天丸を出迎えた。
「ほら。旦那」
 佐助に促され、こっくりとうなずいた弁丸が、両手に抱えた大きな菓子折を差し出した。
「土産にござる」
「おっ。ありがとよ」
 わしわしと弁丸の頭を乱暴に撫でてから受け取った元親に、にぃっと笑った弁丸が、誇らしげに佐助に顔を向けた。
「よくできましたー」
 佐助にも撫でられ、ますます得意げになった弁丸が、上り框に腰かけて靴を脱ぎ、きっちりと揃える。
「俺も、土産を持ってきた」
 紙袋を見せながら靴を脱ぎ、梵天丸の上がりこんだ。
「慶次と毛利。あと佐吉も、もう来てんぜ」
 そういう元親の腕の中に、弁丸と梵天丸は興味津々の様子で、歯を見せて笑った元親が、部屋に行ってからなとリビングに足を向けた。
「おう。大集合だぜ」
「おっ。いらっしゃい」
 佐吉と絵本を眺めていた前田慶次が顔を向け、ひょいと佐吉を抱き上げると毛利元就の膝の上に乗せた。
「みんなのお茶を用意するから、ちょっと抱いててよ」
「我が見ておらずとも、佐吉は好きにすごしよるわ」
「ま、そう言わずにさ」
 ととっと駆け寄った弁丸が、佐吉に顔を寄せる。じっと見つめてくる佐吉に、ぺこりと頭を下げた。
「こんにちは」
 そうして元就にも挨拶をし、慶次に挨拶をして、期待のまなざしを元親に向けた。
「お。そうだな」
 元親がしゃがみ、片腕に乗せた赤子を見せる。
「竹千代だ。よろしくたのむぜ」
 弁丸と梵天丸。佐吉が傍に近づいて、竹千代を覗き込んだ。
「赤ちゃんにござるなっ」
「ちっせぇなぁ」
「……」
「アンタらも、俺様たちからすれば、十分に赤ちゃんで、ちっさいけどね」
 クスリと笑った元親が、床上のクッションに竹千代を寝かせる。
「長曾我部。土産だ」
「おう、すまねぇな小十郎。おっ。ゼリーじゃねぇか。冷やして、後でガキどもにも食わせてやるか」
「暑かっただろ。今、お茶を淹れるからさ。元親、冷蔵庫あけるよ」
「我は、熱い紅茶でよいぞ」
「毛利ぃ。オマエ、人ん家だってのに、随分とえらそーじゃねぇか」
「貴様の家で遠慮なぞ、不必要だろう」
 元就の言葉に、わずかに元親がうれしげになった。
「まあ、俺とアンタの腐れ縁を思やぁ、そうだろうがよぉ」
「何をニヤついておる。気色の悪い奴よ。それよりも早く、その手の菓子折りを開けて見せぬか」
「あ、それ。アンシャンティのフィナンシェ詰め合わせ。ほら、うちの大将ってば、曲がりなりにも坊主だからさ。檀家さんからいろいろもらっちゃって。おさがりで悪いね」
「なかなか良い品ぞ。早く開けぬか長曾我部」
「はいはい。ったく。オメェらは、何を飲むんだ」
 大人たちがそんな会話をしている横で、子どもらは初めて見る赤子の竹千代に夢中だった。
「竹千代どのっ。それがし、弁丸にござる」
「俺は、梵天丸だ」
「……」
「あっ、笑った。ふふっ」
「ちっせぇなぁ。指、こんなんで物が掴めんのか……っと」
「あっ。梵天丸殿の指を、にぎってござる」
「けっこう力、つえぇな」
「……」
 にこにこと、あるいは感心しながら竹千代を見つめる弁丸と梵天丸の間で、佐吉はじっと竹千代を眺める。
「あぁ、あぁあう」
「ふぉっ! しゃべった。おしゃべりを、いたしてくださるのか」
「何言ってんのか、さっぱりわかんねぇな」
「ぁあ、うぁあ」
「ふふっ。弁丸でござる。べ、ん、ま、る」
「まだ、言えるわけがねぇだろう」
「うっだー!」
「うおっ、なんだ急に」
「梵天丸どのが、言えぬと決めつけたから、おこったのでござろう」
 むうっと唇を尖らせた梵天丸が、拗ねたように悪かったと言いながら竹千代を撫でる。にっこりとした竹千代に、尖っていた梵天丸の唇が笑みにゆるんだ。
「はいはい。お子様たち。お茶が入ったから、こっちにおいで。オヤツもあるよ」
 佐助が軽く手を叩いて呼べば、はぁいと良い返事をして弁丸と梵天丸がテーブルへ駆け寄る。元就がゆったりと立ち上がり
「行くぞ、佐吉」
 ちらりと佐吉に目を向けて、席に着いた。わいわいと、食卓がにぎやかになる。その声を聴きながら、佐吉はじっと竹千代を見つめた。
「貴様は、まだおやつを食せない」
「あぅあぁ、あー」
「ゆえに、一人でここで寝かされ待たされる」
「ぁううっ、あっ、だぁ」
 きゅっと竹千代の小さな手を握りしめた佐吉が、ころりと横になった。じっと、頬が触れるほどの距離で竹千代を見つめる。
「竹千代」
 竹千代も、佐吉を見つめた。
「私がそばにいる。だから、さみしくはないぞ」
「あぁぷ、ぅ、ぁだー」
 ふわりと、能面の陽であった佐吉の顔がほころんだ。
「あれ。佐吉はオヤツ、いいの?」
「某が、お呼びいたしましょうぞ」
「ああ、ああ。いいんだよ、佐吉は」
「why?」
 梵天丸の頭を、小十郎が軽く撫でた。愛しみを込めた目で見つめられ、梵天丸は気付く。わからぬ弁丸が、きょろきょろとほほ笑む皆の顔を見回して、佐助に目顔で問うた。
「みんなが、こっちに来ちゃったら、赤ちゃんがひとりぼっちになっちまうだろ」
 佐助の手が、弁丸の頬に触れる。
「旦那は、みんながどっかにいって、一人残されちまったら、どう思う?」
「さみしゅうござる」
 よくできましたと、言葉にせずに佐助が頷く。
「ああ。だから佐吉どのは、残られたのでござるな」
「そういうこと」
「では、みなであちらに行けば、よいのではござらぬか」
「弁丸。それはやめておけ」
「なにゆえでござる、梵天丸どの」
「佐吉は、素直じゃねぇからな」
「どっかの誰かさんみたいに、人前じゃ強がって、甘えられないのと一緒だよねぇ」
 にやりと佐助が意地悪く梵天丸に首を突出し、赤くなった梵天丸が顔をそむけた。弁丸が、きょとんと首をかしげる。
「はは。ま、佐吉は大丈夫だ。後で、竹千代がミルクを飲むときに、佐吉もおやつを食うからよ」
「ああ、そうだ。ミルクの用意、しておいたほうがいいよね」
 そそくさと立った慶次が、慣れた手つきでミルクを作り始める。
「慣れてんな」
「流石は保育士、と言いたいところだけど。この中でミルクを作れないのって、毛利の旦那だけなんじゃない」
「我がそのような手間をするなど、ありえぬわ」
「作りはしねぇでも、ミルクを飲ませるぐれぇはしてみてもいいんじゃねぇか。可愛いぜぇ」
 心底の心持を満面に乗せた元親に、元就が答える前に弁丸が手を上げる。
「それがしっ、いたしとうござる」
「あっ。俺も、してみてぇ」
「佐吉がいいって言ったらな」
 元親の返答に、弁丸は頷き梵天丸はふてくされ、それぞれフィナンシェに手を伸ばした。
 そんな会話を聞くともなしに耳に入れていた佐吉は
「勝手なことを」
 吐き捨てるでもなく呟いて、竹千代を見つめる。竹千代が手を伸ばし、佐吉の華を触り唇を掴みひっぱって、笑った。
「男が、そんな締まりのない顔をするな。竹千代」
 そういう佐吉の顔も、甘やかにとろけていた。
2013/06/12



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