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※リク主様のみ、お持ち帰りOK※
リクエスト者:さぼてん様
リクエスト題:仲良し〜な感じの幸村と筆頭で何かギャグ的なモノ(幸村が天然)
リクエスト
 バタバタと騒がしく音を立てながら、屋敷を走る。大股で走る彼の一部だけ長い髪はしっぽのように揺れ、着くずすのではないかと心配になるほどに足を裾から覗かせている。
「ぅおやかたさまぁあっ!」
 スパァンと勢いよく障子を開け、顔の半分が口になってしまったのではないかと危ぶむほどに大きく笑みの形に開いて、真田幸村は信玄に挨拶をした。
「民と共に、五穀豊穣に感謝して参ります!」
「うむ。存分に楽しんで参れ!」
「お館様!」
「幸村!」
 拳を握りしめ、熱いものを確認しあってから、幸村は軽い足取りで里へ向かう。着物は平服。鉢巻もつけていない。ウキウキとした雰囲気の彼は、年よりも幼く見えて戦場では恐れられる存在だとは、にわかには信じがたい。
「幸村様、よいお天気ですなぁ」
「うむ、良い秋晴れでござるな」
 里のもの達の表情も、明るい。今日は稲刈りも済み、豊穣を祝い、来年の収穫を願う祭の日だった。人を――――民を思う信玄の元には、民の楽しみを奪おうなどという不粋な者はいない。上も下もなく、皆が喜びをわかちあう。幸村は、皆の喜びが放つ空気に触れ、心を沸き立たせた。
「ゆきむらさまぁ」
 子ども達が走り寄ってくる。
「ほらぁっ!」
 自慢気に藁の先に捕まえたトンボを結わえたものを子どもが見せてきた。
「おおっ!」
 驚きの笑みを浮かべた幸村に、子どもはより自慢気な顔をする。
「おれが、つかまえたんだ」
「すごいでござるなぁ」
「ゆきむらさまも、つかまえなよ」
 子ども達は幸村の周りを取り囲み、着物や手を掴んで共に遊ぶことが決まりごとのように引っ張った。
「あっちの川のへんに、いっぱいいたぜ」
「あっちにも――――あっ!」
 すぃっと目の前をトンボが横切る。捕まえてと騒ぐ子ども達から逃れるように、トンボは林へ飛んでいく。
「ゆきむらさまぁあ」
 せがまれ、幸村はトンボを追い掛けた。
 進んでは止まり、止まりながら進むトンボは、なかなか捕らえる隙を与えてくれない。届かぬわけでもなければ、追い付けぬ早さでもないが、強く行けばつぶしてしまう。そうならないようにするには、トンボがどこかに止まるのが一番いい。急く心を押さえ、幸村はトンボを見失わないようにしながら林へ足を入れた。
 しばらくトンボに誘われていると、相手も疲れたのか背の高い草にそっと落ち着いた。口を引き締め、両手を包む形にして近寄る。
 あと少し、という所でガサリと草が揺れ、トンボが去る。音のしたほうを見ると、キツネが幸村を見ていた。目を丸くする幸村を見て去るキツネが、振り返る。誘われた気がして幸村が足を向けると、キツネは姿を消した。なんとなく――――気紛れに、幸村はキツネの後をふらりと追った。

 その頃、近くの小川が流れる草蔭に、政宗は馬をつなげて休ませていた。――――今年の甲斐はずいぶんと豊作であったらしい。そう聞いた彼は、自分の目で確かめようと思った。退屈していたのも、ある。簡素な着物で馬を走らせてきた彼は、自分が一国一城の主であるなどと露ほども思っていないように見えた。――――小刀すら持っていない。彼の右目が知れば、とんでもない雷を落としながら胃を痛めかねない格好で、馬の首を撫でた。
「OK、おとなしく待っていろよ」
 馬の腹を叩き、持ってきた布で眼帯を隠す。ふと、物音を感じて周囲に目を配った。並の相手になら、素手でも勝てる自信はある。――――物音が近づいてくる。音のする方向を一点に絞り見つめていると、ひょこりと平和そうな顔の幸村が現れた。
「っ!」
 互いに目を丸くして、まばたきをする。
「なんで、アンタがここに――――」
「政宗殿、何故このような所に――――」
 互いに同じ問いを口にし、どちらともなく笑い出す。
「そうやってっと、平和ボケしたガキにしか見えねぇなあ」
「政宗殿こそ、武将には全く見えぬでござる」
 政宗に寄り、ふいと馬を見る。馬はブルルと言いながら、幸村の顔に鼻先を当てた。
「良い馬でござるな。――――今日は、飾り物はしておらぬのか」
 馬の顔を撫でながら話し掛けると、馬は目を細めた。
「この格好を見りゃわかんだろ。お忍びで来てんのに、あれをつけてりゃ意味がねぇ」
 目を宙に浮かせて、何かを思ってから納得する幸村に政宗は呆れた顔をする。
「で、なんでアンタこんなところに居るんだ」
「トンボを追いかけ、キツネを追ったらここに着いたのでござるよ」
「はぁ? なんだそりゃあ」
「なんとなく、追いたくなったとしか言いようがござらぬ――――っおぉ?」
 ガクンと幸村の頭が後ろに傾く。モシャモシャという音が聞こえ、見ると馬が幸村の結わえている髪を食んでいた。
「クッ――――ハハ、アンタそいつに気に入られたな」
「気に入られるのはかまわぬが、某は食せぬ」
 幸村の頭まで食べかねないほどに結わえている所まで口に含んだ馬から逃れようと、頭の後ろで両手を振る彼に笑いながら、政宗が軽く馬の鼻面を叩いた。
「ほら、こんなもん食ったら腹が痛くなるぞ」
「こんなもんとは、酷い言い様ではござらぬか」
「なんだよ、じゃあ上等なもんだから、食えと言ってやろうか」
「――――こんなもんで、かまわぬ」
 幸村の反応に笑みを浮かべながら、馬に放すよう促す。しぶしぶ、といった態で馬が放した幸村の髪は、ヨダレでベッタリと濡れていた。
「うぇえ…………」
 思わず漏らした彼の声に、弾かれたように政宗が笑いだす。
「なっ……何もそのように笑わずとも良いのでは――――」
 真っ赤になって言う幸村に、体を折って笑う政宗を抗議するような目で見ると、涙目になって言われた。
「だっ――――アンタ、その格好っ――――クッ」
 再び笑いだす彼に、ぷうと頬を膨らませた幸村が馬に恨めしそうな顔を向ける。
「そなたが、某の髪を食むのが悪いのだぞ」
 馬は、何事もなかったような顔で首を動かし水を飲みはじめた。ふぅと息を吐いて馬の首を撫でていると、落ち着いた政宗が袖からアケビを二つ取り出して幸村に差し出した。
「食えよ」
 唐突なことに、頭が反応するより先に体が動いて受け取る。政宗が座して食べはじめると、幸村も横に座って噛り付いた。甘い香が鼻の奥にまで広がるのに思わず目を細めた幸村に、もう一つアケビを取り出し、投げて寄越した。
「よく、熟れて美味でござるな」
「甘いもんは、好きか」
「政宗殿は、好いてはござらぬのか」
 幸村の言葉に、しばらく考えるような間を置いて、真剣な眼差しになった相手に怪訝な顔をする。
「なぁ、アンタさっき、キツネを追いかけて来たっつったよな」
「なにやら、誘われたような気がしてつい――――それが、何か…………」
 ふっと視線を反らす政宗に引き込まれるように、幸村が身を乗り出す。ちらりと横目で幸村を見てから、囁くように彼が言った。
「――――実は、俺は化けギツネなんだよ」
 きょとんとして、まばたきをした幸村に、深刻そうな顔で言葉を続ける。
「アンタを見て、見えた姿に化けたんだ。――――本当は、人間に正体をばらしちゃあいけねぇんだが、アンタなら大丈夫そうだと思ってな――――――――驚いたか」
 口をポカンと開けたまま、しばらく政宗の顔を見つめてから、幸村は拳を強く握りしめ、目を輝かせながら言った。
「すごいでござる! お伽噺にしか伝え聞かぬものが実在しようとは――――いや、火のないところに煙はたたぬという言葉もある故、実在していたとしても可笑しくはござらぬ」
 うんうん、と自分の言葉に頷く幸村に、今度は政宗が口をポカンと開けた。
「しかし、何故そなたには政宗殿が視えたのでござろう――――お館様や佐助ではござらぬとは。某、政宗殿と再会するのを無意識に深く望んでおったのか…………」
「おい」
「――――どうしたのでござるか。そのように、奇怪なものを見るような顔をして」
「アンタ、本気で信じたのか」
 首をかしげる幸村に、心底呆れた顔をする。
「そんなんで、勤まるのかよ――――」
 呟き、ため息を漏らす政宗に、まばたきをした幸村は彼の言葉の意味に思い至り、顔を赤くした。
「だっ、だますとは酷いではござらぬか」
「そんな単純な頭の作りをしているとは、思って無かったんだよ」
「政宗殿が、あのような真剣な顔で申すのが悪いのでござろう」
「ころっと騙されたアンタのほうに、問題があると思うんだがな」
 言いながら立ち上がり、馬に歩み寄る。手綱を解きながら、政宗は続けた。
「甲斐はずいぶんと豊作だって聞いて見に来たが、アンタを見たら、そうらしいって事が、よぅくわかった」
「――――奥州は、そうではござらぬのか」
「Ha! 小十郎がいんのに、不作になるわけが無ぇだろう」
 馬上に移り、ニヤリとして幸村を見る。
「おう、次はこんなナリじゃなく派手なPartyを楽しもうぜ」
「その時は、騙し討ちなどは無しでござるよ」
「アンタとやり合うのに、そんなつまんねぇ事するかよ」
 手綱を引くと、馬が首を振り走りはじめる。去る政宗を見送り、手に残ったアケビを噛り幸村は呟いた。
「甘い――――」
 胸も腹も、存分に満たされる年であるらしい――――――――。



―了―
2009/10/16



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