庭先の七輪を前に、真田幸村はそわそわとした気配を隠そうともせず、炭の滲むような赤を見つめている。そんな幸村を、目じりを柔らかくした伊達政宗が眺めていた。「そんなに、愉しみか」 こくり、と頷く幸村の口は幸せそうにゆがんでいて「甲斐に海はござらぬゆえ」「新鮮な魚介類は、また違う味わいだぜ」 そう――甲斐に届く海産物は、乾物か塩漬けがほとんどで鮮魚を口にすることはない。何かの折に食の話となり、獲れたての海産物を炭火で焼きあげるだけでも海の塩と磯の香りが調味料となって美味だと、政宗が口にした。口にしながら幸村に食させたいと思い、幸村は目を輝かせて食してみたいと口にして、ならばいつでもこればいい、と誘うと聞いていた信玄が、味も見聞を広めることになると赦して、早速の来訪となった。 せっかくならば海女が潜っている姿も、と勧める者が居たが、幸村の初心さを知る小十郎と政宗が、肌を晒す海女の姿に彼は仰天するだろうと、海産物を庭へ届けてもらい、こちらは酒と七輪を用意して待つ、ということになった。「お待たせしやした、筆頭ッ」 うきうきしながら炭を見ていた幸村が、ぱ、と顔を上げるのと、知己である伊達軍の四人が大きな盥桶を運んでくるのとが同時であった。「真田の兄さん、たっぷりと奥州自慢の海産物を味わって帰れよ」「胃袋はちきれるくれぇ、たんと食いな!」「ほんと、新鮮なやつは生でも最高だからなぁ」「孫、よだれ、よだれ出てるぞっ」 ごとり、と置かれた盥桶には、はみでんばかりに海産物が詰められていて「おぉおお」 幸村の目が、日を浴びた湖面のように輝いた。 足りなかったら追加を運ぶから、と言い置いて四人が去る。ふわりと風が舞い上げた磯の香りに政宗が目を細め、おあずけをくらっている犬のような目を向けてくる幸村に「なら、さっそく食うとするか」「はいっ」 七輪に、それらを乗せた。「おぉおお」 まだ動き生きている海老が、七輪の上で身悶える。「まだ、生きておる」「海から上がったばかりだからな」 政宗にとっては当たり前の、幸村にすれば珍しかな光景を囲み、徳利を片手に床几に腰かけ舌つづみを打つ。「おお、なんという美味ッ!」 ぷりぷりとした海老の身をかじり、味噌を啜り、幸村の酒が進む。ほとんどを彼に与えるつもりでいる政宗は、たしなむ程度に酒で唇を濡らし、焼き役に徹していた。「おお、アワビはこのようになっておるのか」 乾物になったアワビしか知らぬ幸村は、あぶられ躍る姿に見入る。怪しげな舞を無垢な瞳が映すのに、政宗の奥で疼くものがあった。「幸村」 半分は笑みを、半分は疑問を浮かべた顔が政宗を見た。「その姿――何に似ているか、知っているか」 少し首をかしげ「似ているものが、ござるのか」「人の、一部に似ている」「人の……」 つぶやき、幸村の目がアワビに落ちる。しばしの間があって「わかりませぬ」 それでも諦めていないらしい彼は、アワビを見たままで「なら、答えを教えてやるよ」 政宗が立ち上がり、傍に寄った。 酒でほんのりと朱が差している目じりの艶と、何の含みも持たない瞳の差が、政宗の征服欲を揺り動かす。彼の少し後ろに立ち、体を折って覆うようにしながら耳元へ唇を寄せた。「女の体の一部だ」「おんなの――?」 く、とわずかに政宗の唇が卑猥に歪んだことに気付く間もなく、似ている箇所の名前が耳に注がれた。「なっ、はっ、は――ぁう」 破廉恥でござる、と叫ぶ彼を笑おうとしていた政宗が、真っ赤になるも俯いてしまった幸村の姿に首をかしげる。赤くなったということは、その言葉を知っていると言うことで――ならば、この反応は少し刺激が強すぎた、ということなのだろうか。「政宗殿」 唇を尖らせ、恨み言を言うような目で見上げてきた。「What?」「――ご、ご覧になられたことが、ござるのか」「Pardon?」「その、お、おなごの、その――そこを」 目が泳ぎ、落ちた。ぎゅうと膝の上で拳を握り硬く目を閉じている姿は、叱られるのを待つ子どものようで「見た、と言ったら――どうする」 低くささやき長い後ろ髪を指に絡めて遊ぶと、目が大きく開かれた。「――――ッ、ああ、いや……そ、うでござるな。政宗殿に勧められる姫御は数多おられましょうし、そうでなくとも政宗殿は、おなごに求められても然るべき骨柄でござれば、さもありましょうな」 その口調は、苛む色を帯びたり、自嘲を帯びたり、悲しみを帯びたりと忙しく細やかに変化して「――I see what you mean」 そっと腕を回して抱きしめた。「ま、政宗殿?!」「No sweat……不安になる必要なんざ、無ぇよ」「ふ、不安?!」「違ったか……なら、悋気か」「な、何を申されて――」「俺が、アンタ以外に触れたと思って、うろたえてんだろ」「そ――そのようなことは」「無い、とは言わせないぜ」「うう――」 腕に力を込めると、観念したように幸村がうなだれ、赤く染まったうなじが見えた。政宗の視界の端で、アワビが動きを止める。「幸村」 耳元に声を流すと、腕の中の体もアワビのように硬くなる。思慕の炎にあぶられ赤く染まった幸村に、陰陽ふたつの感情を沸き立たせながら、政宗は離れた。 何事かされると踏んでいた幸村が、意外そうに床几に戻った政宗を見る。その顔に「火を通しすぎると、固くなっちまう」 焼けたアワビを差し出した。 宵闇の音に浸された室内で、月光に負けまいと灯明皿の上の炎が揺れている。それの光に当てられた幸村の影が、濃く床に落ちていた。 すらり、と襖が開いたのに身を固くする。「先に横になっていても、良いと言ったはずだが――?」 客間ではなく、幸村は政宗の寝所に居た。「この場の主は政宗殿にござる。それを差し置き先に休むなど」「それを言うなら客は、アンタだ」 続く言葉を察したであろう相手に、あえて口にすることはせず傍による。「昼間、海辺を歩きまわったんだ。疲れてんだろう」 柔らかく、幸村の髪が左右に揺れた。「これしきのことで疲れたとあっては、存分な戦働きなど出来ませぬ」「You betcha」 言いながら、政宗が褥に坐した。幸村の体に緊張を見てとり、ふっ――と政宗の唇から笑みと共に息が漏れた。「あからさますぎたか」「え」 政宗の手が褥を撫でる。部屋には褥が一つしか敷かれておらず「ぁ、う――」 幸村の唇が妙な形にゆがんだ。「久しぶりの逢瀬だからな――存分に語り合いてぇと思ったんだが」「そ、れは――某とて…………」 ごにょごにょと幸村が言う。「I can't hear it」 きょと、と幸村がして「いつものように、うるさいぐらいハッキリ言えよ」 愉快そうに唇をゆがめた政宗に「意地が悪うござる」 幸村の唇が尖った。「HA!」 声を上げて短く笑い、這うように身を乗り出した。尖っていた幸村の唇が引き結ばれ、緊張に膝上で握られた拳を包むように掌を乗せる。「貝、みてぇだな」「え」「じっくりと、炭で焙って食らうとするか――」 政宗の鼻先が幸村の鎖骨に寄り、すん、と嗅ぐ。「動くなよ」 返事が来る前に、噛みついた。「――ッ、ぁ」 ぎり、と立てた歯型をすぐに慰めるよう舐める。「――ッ――、――」 声にならない声を発し、身じろぎすらしない幸村に満足そうに目を細め、肩の着物を滑らせ落とした。「相変わらず、いい肉してやがる」 肩に触れ、指を滑らせ胸筋を確かめるように輪郭をなぞる。脇から下、そして心臓のあたりへ両手で包むように触れていると、幸村の唇から悩ましげな吐息が漏れた。そのまま指を滑らせ尖りに触れて、色づく箇所の周辺を指の腹で撫でる。「――、――――ッ」 もどかしいのか、震える肌の奥で政宗の言いつけを守ろうと筋肉が凝り、堪えている胸筋が槍を掴み対峙している時のように、盛りあがった。「ぞんぶんに、やりあいてぇな」 おもわず漏れた政宗の声に、ふっと幸村の気が緩んだ。「ふぁ――ッ」 すかさず色の中心を掴み、引きながら捩じる。驚いたように仰け反った顎に舌を伸ばし、のど仏に吸い付いた。「はっ――ぁ、あ」 そのまま、両手で乳首を捏ね続け、首に、肩に、印をつけていく。幸村の腕にますます力がこもり、わずかに膝が開かれた。「――勃ったのか?」「〜〜〜〜〜〜ッ!」 低く揶揄すると、酒を食らったような色になった。「もっと、広げろよ」「う、ぅう――」「焙られた貝が、殻を開いたのを見ただろう」「某は、貝――でござるか」「俺という炭火に、今――焙られているだろう?」 闇夜にきらめいた政宗の瞳に、ごく、と幸村の喉が鳴った。熱い息の塊を吐き出し、膝をまた少し開く。「Good」「ぁあうっ」 すりつぶすように乳首を捏ねられ続ける幸村の股間が、膨らんでいく。下帯を押し上げ、窮屈そうになっても政宗は胸より下に手を行かせることなく、乳首を捏ね、胸の輪郭をなぞり、脇をくすぐり二の腕を食んだ。「ぁ、はぁ――っ、は……」 薄い皮膚に押しとどめられた快楽は、弄るような愛撫に身悶え全身にくまなく広がっていく。それが政宗を求め「ひゃ、ぁあ」 普段は触れられても何もない箇所まで、性感帯に変えた。「背中、イイのか」「や――違、ぁ――ふ、んぅうっ」 抱き着くように幸村の胸の頬を押し付け、広背筋をなぞる。目の前で存在を主張するように震えている乳首に、舌を伸ばした。「は、ぁあ――ぁう、ふ、くぅ」 抑えきれなかった快楽が震えながら口から洩れて、それをとどめさせまいと、政宗の舌が饒舌に乳首と語り合う。「んはっ、ぁ、ぁふ、ぅう――ひ、ぁう」 幸村の足の平きが大きくなる。押し上げられた下帯に、染みが浮かび始めた。「ぁ、はぁう、ううぁ、く、ぁ――ぁ、ぅんッ」 体中を震わせながらも、動くまいと堪える幸村の乳首が零れ落ちそうなほどに膨れてからやっと、政宗は口をはなし幸村から離れた。 濡れた目が、政宗に向けられる。「――What a prospect!」 ため息を漏らし、月光に――灯明に浮き上がる幸村の肢体を眺めた。 肩から落ちた着物から、覗く胸は政宗の唾液でてらてらと光り、真っ赤に熟れている。薄く上気した肌は乱れきってはおらず、開いた足の間で膨らむものは、熱い凝りを押さえつけられてもとどめきれず、下帯を湿らせていた。薄皮一枚の下では性欲が濁流のようになっているであろう幸村の背はまっすぐに伸び、薄く空いた唇から艶やかな息が漏れているにもかかわらず、政宗に言われたままに、膝の上にこぶしを乗せたまま凛と坐している。「アンタ――最高だ」 政宗が、自分の帯に手をかけて解き、肌を晒した。ふわ、と幸村の肌から欲が漏れる。「這って、尻を持ち上げろよ」「そ、のような――格好は」「七輪で魚介を焙ったとき、ひっくりかえしただろう?」 からかう声音の中に、政宗の性が滲んでいた。「――と、灯明を消してくだされ」 顔を伏せた幸村に「I got you」 応えた。 月光のみの青白い部屋で、幸村がそろそろと床に手を付き、猫が獲物を狙うように頭を低くし尻を上げた。「こ、これで――よろしゅうござるか」「上出来だ」 幸村の背後にまわり、裾をめくり、尻に添う布に手を入れて引き上げた。「ひっ、ぃい」 ずれた下帯から、子種を作る袋がはみ出る。それを、口に含んだ。「は――っ、ぁあ――ぁ、ふぅ」 下帯の前に手を差し込み、吹き出し口に触れると濡れている。くびれまでの弾力のある先端に指を戯れさせながら、下帯を解き空いた片手で尻を開いた。「あ――ッ」 ひくつく菊花が、政宗の左目に映る。「焙られて踊るアワビと、変わらねぇな」 びく、と幸村の尻が硬直した。「ああ――」 理由に気付いたらしい政宗が、納得の声を上げて「はぁあ、ふ、ぁうう」 菊花と袋の間――会陰に唇を寄せた。「ここに――穴が無いのが、そんなに気になるか」「っ、ぁ、穴――などと、そ、そのようなッ……」「なんだ――京風に、おそそとでも言やぁ良かったか」「そ、そういう意味ではなく――ッ、は、ぁああ」 会陰を強く押され、幸村の牡から液が漏れる。ぐいぐいと押しながら舌は菊花に添え、掌で牡の先端を包んで遊ぶと、幸村の声が蕩けだす。「は、ぁあぁあう、ふ、ぁふ、は、ぁ、ああ――そこっ、ぁ、なにゆえ、ぁ、ああ」 会陰への刺激が初めてで、惑っているのだろう。 政宗の、幸村の牡にある手が濡れそぼち、離すと銀糸を引いた。「ずいぶんと、漏らしたな」「――ッ!」 羞恥に体温を一気に上げた幸村に笑い「たまんねぇ」 舌で緩めた菊花に挿れた。「ぁ、はっ、はぁ、あ、ぁ、い、ぃあッ」 誘いたいのか吐き出したいのか――政宗の指に絡み蠢く肉壁を探り、幸村を狂わせる箇所を強く押した。「っ、はぁあ――」「give you the highest sexual gratification」 肉感的に歯を剥いて笑った政宗の指が、言われた言葉の意味を問う間を与えずに、菊花を広げてかき乱し「ひはっ、ぁあぅお、ぉおぁ、い、ひ、ひぃいッ」 空いた手が会陰をぐりぐりと押した。「ひぁうぉおおっ、ひ、ひぅあッ、ぁひっ、ぃあぁあ」 髪を振り乱し、身をくねらせて逃れようとするのを足を絡めて押しとどめ、繋がる個所がザクロのように染まり熟れても手を緩めず、指を増やし、会陰への刺激と合わせて狂わせる。「ひ、ぁあうぉおおッ、ぉあ、ぁ、はぁうぉ、ぉああ」 床に、尖った乳首が擦れる。その刺激を求めるように、幸村は体を床に擦り付け、閉じる間すら与えられない口からはよだれをたらし、全身をなぶる快楽に涙をにじませ手負いの獣のように、のたうった。「すげぇな――」 暗く熱い声を漏らした政宗の股間はへそまで反り返り、早く繋がりたいと、理性を打ち砕こうと叫ぶように、脈打っている。「I can’t hold out any longer.」「がっ、ぁ、ぁおぉ――っ、は、ぁうううっ」 腰を抱え、一気に貫いた。「クッ――すげ、熱い」「ぁ、は、ぁあうっ、ぁ、ま、さむね、どのぉお」 濡れた顔で振り向き、求めるように伸ばされた腕を取る。「容赦しねぇぜ」「ひっ、いぃいいいいいっ」 両腕を掴まれ、強く引かれながら肉壁を乱される。月明かりに出来た影は滲み、乗馬をしているようにも見えた。「はぁっ、ぁ、ぁううっ、ぁ、あぁあ」「はっ、すげー―もっていかれそう、だ――ック」 床から浮いた幸村が、縋るように飲み込んだ政宗の熱に絡み、絞り、求める。体中のどこもかしこも触れられたくて、たまらず震える肌は同時に、繋がる悦びも表し、牡からは喜ぶ犬のゆばりのように、先走りがあふれ続けていた。「はぁ、ぁぁんぅう――まさむねどのぉお、は、ぁああ」 芯のない声で呼ばれ、裏腹なほど強く締め付けてくる肉壁に誘われ「く、ぅ、――ッ」 ど、と政宗の欲が吹き出し「ぁはぁああああ――ッ」 幸村は、貝の潮吹きのようにビュルリと凝った熱を放った。「ぁ――はぁ、あ――ぁ、あ」「ふっ――、はぁ」 余韻も存分に味わいあい、ふっ、と弛緩した幸村を抱きしめる。肩で息をする相手の目はうつろで、油断に満ちた表情に、政宗の欲が揺らいだ。「――幸村」 おっくうそうに動いた目が、政宗を捕らえる。「この俺を狂わせられるのは――アンタだけだ」 静かに、強く伝えられた言葉に、幸村の目じりが朱を差して、唇が柔らかな弧を描く。「政宗殿」「ん――?」 とろりと甘やかな声に「口吸いを――」「With pleasure」 潮騒のような愛しさが、月光を受けてきらめいた。2012/5/08あおい様より 【お題】 “ダテサナ” ざっくりな記憶ですみません; ラブいもの、という意識と破廉恥、という意識と、あと、共に食べた焼肉の景色が入交りまして、こうなりました。 ――なんか、私の願望を詰め込んだ感じになってしまいましたが……お納めいただければ、幸いです!