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今は、寂しい道だけど

 ふわふわとした茶色の髪が、胸元で揺れている。それが離れ、自分とは違う者の傍に行った。
 笑みを浮かべ、まっすぐな瞳で見上げ、会話をしている。
 子守が必要となるような年では、無くなりはじめた幼君。それを、この手に留めて置けないものだろうか。
 守役として、彼の――弁丸の傍にいる忍、猿飛佐助は最近、思考に隙間が出来れば、そのようなことを浮かべていた。
 これから、彼は武将としての心得を覚え、人を率い、使うことを覚え、自分とは遠い場所に――傍にいるというのに、どうあっても超えることの出来ない壁を挟んだ距離に、座ることになる。それが、佐助には面白くなかった。
 どうすれば、彼を自分のもとへ引き止められるだろう。
 彼がひとかどの武人となることを、阻みたいわけではない。そうなってほしいと、願っている。だからこそ、忍は道具であると彼に言い続けていた。けれど、それを一向に解する様子のない弁丸の瞳を得たいという下心から、そう言っている事に気づいた。
「佐助ッ」
 近頃は、呼ぶ声にりりしさが混じってきたように思う。
「はいはい」
 行くと、どのようなことを学んできたのかを、嬉しげに報告してくる。その内容は、佐助にとってはとうの昔に知りえているものだったが、初めて聞いたように驚き、感心し、得意げになる弁丸の頭を撫で――この時間を、このふれあいを、どのような形になっても失いたくないと、思い極めていた。
 だから
「弁丸様」
 最近では、共寝をせよ、と言わなくなった弁丸の寝所に、訪れた。
「佐助?」
 きょとんとして身を起こした弁丸に
「一緒に、寝たいんだけど」
 顔を寄せて、言った。
 意外な申し出すぎて、すぐに飲み込めなかったらしい弁丸が、花が開くように笑みを広げ
「一人寝が出来ぬとは、佐助もまだまだ子どもだな」
 自分の横を、ぽんぽんと叩いた。
「ありがと」
 そこに身を滑らせ、弁丸を抱きしめる。その腕の様子が常とは違うことに、弁丸が気づいた。
 不思議そうに、佐助を見上げる。
「弁丸様は、俺様の事が大好きって、言ってくれたよね」
「うむ。俺は、佐助が好きだ」
「忍の俺様と、弁丸様じゃあ住む世界が違うって、教えたよね」
「こうして、触れられる場所におるではないか」
 ぎゅ、と弁丸が佐助を抱きしめるように、しがみついた。
「でも、少しずつ離れていくんだよ」
「いやだっ」
 弁丸の腕の力が、強くなった。
「じゃあ、ずっと離れられなくなる儀式、してもいいかな」
「儀式?」
 不思議そうに、弁丸が見上げてきて
「うん――そう、儀式。でも、この儀式は苦しいし、汚いって思うかもしれないんだけど……」
「かまわぬ!」
 佐助の声が終わりきらぬうちに、弁丸が佐助に顔を寄せた。
「佐助と、ずっといられるようになるのだろう」
「うん。俺様と弁丸様が、ひとつになる儀式だよ」
「ならば、どのようなことでも、かまわぬ」
 泣きそうな顔で、佐助が笑った。
「じゃあ、俺様の言うとおりに、してくれるかな」
 強い覚悟を秘めた瞳で、弁丸が頷いた。
「ありがと」
 言葉を、唇に押し当てる。弁丸の目が、こぼれそうなほどに見開かれた。
「俺様のぜんぶ、受け止めて」
 哀願のような言葉と共に、佐助の影が膨らみ、弁丸の体にまとわり付いた。
「さ、すけ――?」
「ひどいこと、するね――ごめんね」
 弁丸が、ぺち、と佐助の両頬を包むように叩く。
「かまわぬと、言ったではないか。二言は無い」
「うん」
「だから、泣くな」
「泣いてないよ」
「泣いておる」
「そう?」
「そうだ」
「そっか――じゃあ、弁丸様の全身で、慰めて」
 ざわ、と影が嬉しげに震え、着物の中に入り込み
「ひゃ」
「冷たい? ごめん」
「謝るな――佐助。どのような儀式かは知らぬが、俺は、佐助の全てを受け止める覚悟は、できておる」
「うん――ありがと」
 両手で顔を包みあいながら、唇を重ねた。弁丸も、見よう見まねで佐助に唇を寄せてくる。
「弁丸様」
「佐助――っ、あ」
 影が、弁丸の胸を這い回り、ぷくりと浮いた場所に気づいて絡んだ。
「っ、は――く、くすぐったい」
 目を細め、佐助の唇が首に落ち、鎖骨に落ち、胸に落ちた。
「ッ、ぁ――さ、すけ」
 舌で転がし吸いながら、帯を解いて着物を落す。佐助の影が弁丸を抱きしめ、体中を撫でさすり
「ああ――弁丸様だ」
 うっとりとした佐助の呟きに、影の動きは佐助の望みだと、弁丸は解した。
「よく、見せて――弁丸様のこと」
 影が弁丸を持ち上げる。月明かりの差す窓辺に浮く彼の体を開くように、影は手足をささげ持った。佐助の手が、下帯に伸びて
「あ――ッ」
 弁丸の身を隠すものを全て、取り去った。
「弁丸様」
 口を開き、柔らかな男の標を食む。
「ひゃう、ぁ、あ――ッ、佐助、そのような場所……、汚いッ」
「汚くないよ――それに、儀式は苦しくて汚いと思うかもしれないって、言ったでしょ」
「うぅ……」
「急所、こうやって無防備に晒して、触れられて――それって、命を預けているってことに、ならないかな」
「命を」
「そう。これだけ無防備に急所を晒しているってことは、それだけ、信頼しているってこと――ひねくれたことを言えば、俺様になら殺されてもいいって、思ってくれているってこと」
 言いすぎたかな、とおどけてみせれば
「かまわぬ」
「え?」
「俺の命、佐助に預ける――好きにせよ」
 ぎゅう、と胸が絞られるように、熱くなった。
「じゃあ、容赦しねぇぜ?」
 一段低くなった佐助の声に身を強張らせながらも、頷く。直後
「ひっ、ぁあう、ぅ、ぁあッ!」
 影が意思を持って、動き始めた。弁丸の胸の実を転がし、立ち上がり始めた牡の先から進入し、根元から全体に巻きついて蠢く。やわらかな尻を開かれ、人目に晒されることのない孔が、佐助の目の前に出された。
「弁丸様」
「ぁあう、ふ、ぁひっ、あ、ぁあ」
 唐突な愛撫に、知らぬ体はついてゆけずに困惑している。それをあやすように、秘孔を舐めた。
「ぁひっ――ッ、さ、すぅ、ぁ、けぇえ」
「もう少し――もう少し我慢して……そうすれば、気持ちよくなってくるから」
「ぁううっ、ぁ、は、ぁうう」
 首を振り、目じりに涙を浮かべる弁丸に
「ひとつに、なりたいんだ」
 熱っぽくささやいた。
「ひっ、ひと、つ」
「そう……弁丸様と、ひとつに――ここで、俺様を受け止められるように、体の準備をしているんだよ」
「ひぁ、あ、あ」
 つぷ、と指先を挿れられ、信じられないものを見る目で、佐助を見た。
「やっぱり、やめたい?」
 唇を引き結び、弁丸が首を振る。
「よかった」
 笑って額に口付けると
「ひゃぁ、あぉ、ぉううっ」
 影が、秘孔に入り込んだ。
「ぁはっ、ぁ、ぁあうっ、あ」
 影が――佐助の暗い望みが弁丸の性を呼び起こそうと、蠢いている。それを、佐助は眺めた。
「さ、すけぇえ」
「なぁに?」
「はっ、ぁあ、あつ、あつ、ぃ、いあ」
「うん――もっと、熱くなって……ね、気持ちいい?」
「わ、わから、ぬぅうう」
「そっか――じゃあ」
「ひぁあああっ!」
 胸にある影が、尖りを捻った。
「弄ってほしくてたまらなくなるくらい、いっぱいしてあげる」
「っ、は、ぁあううっ、ぁ、あひっ、ぁ、ああう」
 困惑のみしか浮かんでいなかった弁丸の顔に、淫が滲み始めて
「そう――いい具合だよ、弁丸様」
「ぁはっ、ぁ、ぁううっ」
 牡の先に入っている影が、身を躍らせた。
「まだ、繋がれないけど――」
 佐助が前をはだけ、猛る牡を取り出す。
「――あ、佐助」
「これを、ここに挿れるんだ」
 秘孔を牡でつついた。
「でも、まだ準備が終わっていないから、俺様の子種だけ、先に受け止めて」
「ふぇ? ぁ、ああ――ッ!」
 影が、佐助の牡にも絡みつき、扱き始める。入り口だけを佐助に突かれる弁丸の内壁では、影がそれを受け入れられるだけの広さを作るため、蠢いていた。
「んぁあ、ぁっ、さすっ、ぁ、ああっ」
 弁丸が、泣き出しそうな顔をして
「ふ――ッ、どしたの、弁丸様」
 上がった息で、問いかけた。
「っ、さ、すけ――ッ、ぁ、か、厠、にっ」
「ん?」
「う、ぅうう――ッ、ふ、ぁ、く、くるっ、ぁ、あぁ」
 恥ずかしげにするのに
「ああ」
 佐助が頷くと
「ぃあぁあああっ」
 弁丸の牡に絡んでいる影の動きが早まった。
「厠に行かなくていいよ」
「ッ、な、れどぉ、ぁ、ああっ、でる、ぅうう、は、はぁ」
「いいんだよ――弁丸様が、今、出そうになっているのは、子種だから」
「こ、だね、ぇ――?」
「そう……弁丸様の中に、俺様が今からたくさん注ぎ込もうとしてるものと、一緒」
「ぁ、はぁうっ、こだ、ねぇえ――」
「そう――ッ、は、ぁ……俺様、もぉ、出そう――弁丸様の中に、いっぱい、子種を出したい――ッ、ひとつになって、いっぱい」
 佐助の息が上がっていくのに、弁丸が喉を鳴らした。
「ッ、こ、だねぇ、さすけのっ、こだね――ッ、ぁ、ああ、俺もッ、あ、子種ッ、でる、ぅ、ぁあ、子種ぇ、ぁ、でる、ぅううっ」
「うん、うん――いっぱい、出そうね……ッ、く」
「ひっ、ぃ、ぃいいい――ッ!」
 どぷ、と弁丸の中に佐助が放つと同時に、内部にある影がそれを奥へ奥へと押し上げて塗りつけ始める。弁丸の牡に絡んだ影は、絶頂を迎える瞬間に強くそれを握り締め、内部にある影は膨らんで、彼の子種が飛散するのを留めた。
「はひッ、はっ、ぁ、ああうっ、ぁ、こ、だねぇ――ッ、はっ、ぁあう」
「――ッ、はぁ……ああ、うん。ごめんね、出したかったね――ぱんぱんに膨らんで、苦しいよね」
「ひぁ、ふ」
 そっと、佐助が弁丸の牡に触れた。
「でも、もうちょっと、我慢して――ほかの誰も与えられないくらいの快楽で、包みたいんだ……俺様じゃなきゃダメなくらいにしなきゃ、意味がないんだよ」
「さす、けぇえ……ッう、ぁう、魔羅がぁ、あぁ、魔羅がぁあ」
 ぼろぼろと涙をこぼす弁丸に
「うんうん、苦しいね――じゃあ、少しだけ、出させてあげる」
 影が牡から離れ、佐助の指が絡んだ。
「はぁ、あっ、さす、けぇえ」
 うっとりとした声の弁丸に
「少しだけ、だからね」
 薄暗い笑みを浮かべた佐助が扱き
「はっ、ぁ、ああっ、あ、でるっ、ぁ、でるぅ」
「子種、出る?」
「ひぁ、でるぅ、子種っ、ぁ、でるぅう」
「誰の、子種が出るの」
「おっ、おれのっ、おれの、こだねぇ、でるっ、ぁ、でるっ、でっ――っああぁああ……ッぎ、ぁ」
 腰を突き出し、噴出しかけた牡の入り口に、影がすばやく栓をした。
「はひぁああっ、ぁあ、や、ぁあっ、や、やぁあ、でるぅうっ、こだねぇえっ、やぁああ」
 中断された開放感は体内を逆流し、目覚めたばかりの淫欲を猛り狂わせた。
「ふふ――弁丸様、かわいい…………もっともっと、溺れてよ――俺様にしか出来ない、愛し方に」
 その声はもう、弁丸の耳には届いていなかった。

 佐助とひとつになる事を承諾してから、毎晩のように弁丸は佐助に――彼の望みを具現化した影に、全てをゆだねていた。
 この行為がどういうことなのか、大人たちが時折、弁丸はわからぬ話だといいながらも、弁丸をからかうときに言う話で、うすうすは知っていた。
 佐助は、俺を好いておるのだ。
 だから、このようなことをしているのだと、弁丸は認識していた。具体的な方法がどのようなものなのか、自分が施されていることが特殊であるのかは、知らない。けれど佐助が傍にいるというのなら、知らぬふりをして――儀式とのみ思っているふりをして、彼の望むままに身をささげていようと、思い極めていた。
「弁丸様――お待たせ」
「はぁ――さすけぇ」
 行為に及ぶときの、佐助の声質。それがわかるようになってからは、呼ばれるだけで身が震え、熱くなるようになった。それを
「ふふ。すっごく物欲しそうな顔、してるよ」
 嬉しそうに揶揄する佐助に、胸が熱くなった。
「さすけぇ」
 甘えた声で腕を伸ばすと、抱きしめられる。その後にかならずくれる、柔らかな口付けが、弁丸は大好きだった。
「今夜は、もう少し――俺様の子種を口で吸い上げて飲む練習、しよっか」
 頷き、佐助が前をはだけるのを待つ。
「ほら――弁丸様の大好きな子種、いっぱい飲んで」
 少しだけ硬くなっている牡に手を伸ばし、口を開き
「さすけぇ」
 上目遣いにねだった。
「ああ、うん。そうだね」
 佐助の影が沸きあがり、弁丸の着物を脱がせ下帯を奪い
「はっ、ぁあう、ふ、ぁんぅう」
 胸に絡み、牡に絡み、秘孔を開いた。
「あぁ、ふ、さすっ、ぁ、さすけぇ」
「なぁに?」
 いつも、佐助は弁丸に自分を求めているのだと言って欲しがる。だから、影を沸き立たせても必ず一箇所は、物足りないままにしていた。
「っ、魔羅の……ッ、子種の道も――ッ、は、ん……ッ」
「ああ、そうだったね」
「ひはっ、ぁう、うは……ッ、ぁあ」
 どこかひとつでも欠ければ、物足りなくなるほどまでに、弁丸は淫蕩に溺れることを覚えた。
「きもちい? 弁丸様」
「ぁ、はう――んっ、は……ぁ、さすけぇ」
「ほらほら、おくち」
 促され、しゃぶりつく。
「ふむぅ、は、んんっ、んぐっ、んっ」
「ああ、違う違う――そんな奥までしなくても、いいから」
 佐助が指示をして、それに従う。その間の影の愛撫は緩慢でもどかしく、けれど、そうでなくば佐助の急所を噛み千切りそうで
「はむっ、んっ、んふっ、ん、は、ぁ」
「そうそう――はぁ……ゆっくり、ぅん……覚えていけば、いいから」
 佐助はそう言うが、弁丸の与える行為で彼の目が気持ちよさげに細められるのは、とても嬉しく
「気持ち、よいのか?」
 問えば
「うん――弁丸様にされるの、すっごく、きもちい」
 そう言って撫でられるのが心地よく、早く覚えて佐助が言う前に、自ら彼を好くさせたいと思う。
「んぐっ、んっ、ふっ、ぁは、はぁっ、ぁ――んっ、はぁ」
「弁丸様……」
 懸命な姿に弁丸の想いを悟ったのか
「ひぁああっ」
 影の動きを強め、身をのけぞらせた弁丸の口から牡を外し
「ごめん、やっぱ――繋がってぐちゃぐちゃにしたい」
 すっかり受け入れることを覚え、すぐに解れるようになった秘孔に指を入れてかき回しながら、牡と孔の間に唇を寄せる。
「ぁはぁああっ、ぁ、さ、さすっ、はぁ、あぁあう」
「すごい――もう、こんなに熱くなって、絡み付いてくる」
 十分にほぐし、牡をあてがい
「ふっ――っく」
「ぁはっ、ああぁひっ、ぁおぉお」
 貫いた。
「はぁ――弁丸様……ここ、この中、あぁ、俺様の子種で、いっぱいにしたい――ッ、ね、いいよね」
「ぁ、はひっ、ぁ、ああっ、さすけっ、ぁ、さすけのっ、ぁ、こだね、ぁ、いっぱ、ぁ、いっぱいぁああっ、ほ、ほしいっ、ぁ、さすけぇえ」
 全身でしがみつき、訴える弁丸に
「うん――ありがとう、ごめんね」
 苦しそうな顔をして、佐助は子種を注ぎいれる。
「はぁ、ぁあうっ、ぁうう、こだねぇ、さすけのぉ、ぁあ、はぁあ、いっぱい、ぁあ、は、あつ、ぅう」
「うん――俺様も、すっごい、熱い……ッ、はぁ、弁丸様」
「んぁあっ、ぁ、でるぅ、ぁ、おれのっ、おれのこだねもぉ、ぁ、さすけ、さすけぇえ」
 教え込めば、どのような事も言うようになった弁丸の、昼間の姿からは想像も付かない乱れた姿に、佐助の心は焼け爛れるほどに凍えていく。
 本当に、これで望むようになったのだろうか――本心から、弁丸は佐助を求めてくれているのだろうか――覚えたての快楽にしたがっているだけなのではないだろうか――けれど、ほかに方法なんて何も無い――!
 悦びと後悔を抱えながら、弁丸を性欲の奴隷となるよう教え込む佐助の想いが、片側通行では無かったと知るのには、あと数年を要することになる。
 今は、寂しい道だけど――。

2012/7/16



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