「追儺式だぁ?」 頓狂な声を上げたのは、西海の鬼として名を馳せる美丈夫、長曾我部元親だった。 きらりきらりと宝玉の細石をまき散らしたように、海面が日の光を浴びて輝いている。常と変わらぬ穏やかで美しい風景を、大きな松の根元で眺めていた彼に、彼の好敵手――若干、元親が勝手にそう思い込んでいるだけという節もあるが――である毛利元就の使者という男が声をかけ、追儺式を行いたいので是非に参加をして欲しいと言って来たのだった。「なんでまた、毛利は俺に声をかけたんだよ」 普段、元親が声を掛ければうっとうしそうにするか、さらりと無視を決め込むかの元就が誘いをかけてくるなど、空からイワシが降ってくるんじゃねぇかと元親が言えば、使者はイワシのハラワタだけを口に詰め込んだように、苦い顔をしてみせた。「どうか、どうか誘いを受けては下さりませぬか」 膝に手を乗せ深々と頭を下げる使者の、薄くなり始めた後頭部を眺めながら、元親はなんとも言えない顔をして頬を掻いた。「まあ……別に断る理由もねぇし、誘いに乗ってもいいけどよ」 元親がそう言えば、使者は勢いよく顔を上げ拝むように手を合わせて「ありがとうございます」と幾度も繰り返す。おそらく、元親が断れば激しい叱責が待っていたのだろうなと、冷ややかな目でこともなげに部下を「捨て駒」と言ってのける元就の顔を思い出し、人に気付かれぬほどのため息をこぼした。「で――。追儺式は、いつ何処でやる予定なんだ?」「追儺ですので、立春の前日に我らが城の祭祀埸で行います」 安堵の笑みを浮かべた使者に、元親はふうんと特に何かを思うでもなく返答をした。 そうしてペコペコと頭を下げながら去っていく使者を見送り、海に目を向けてから元親は自分の船へと戻っていく。徳川が平定し、平穏な世となった今、対立をしていた毛利領と長曾我部領は交易を行っており、その交易の様子を見るために、元親は交易船に乗り込むことがあった。それを知っていた上で、元就は使者を遣わしたのだろう。「ちゃっかりしてるよな」 自分の領内に来た折に使者を向かわせれば、時間を短縮できるうえに旅費も節約できる。冷酷だなんだと文句を言いながらも、元就の治政下で平穏を保っている民の暮らしは裕福ともいえるので、隣国の元親へ使者を送るぐらい別段なんともないはずなのだが、あの元就の事だ……と、元親は考えて口の端をニヤリと持ち上げた。 なんとなく、その行為が元就は自分に親しみを感じてくれている――本人に言えば、全力で冷酷な嘲笑を浮かべて静かに否定をするだろうが――ように感じられた。「あ、兄貴!」 戻って来た元親に、彼の部下たちが笑みを向け声をかける。「おう、オメェら。どうでぇ調子は」「すこぶる良いですぜ、兄貴! もうすぐ鬼やらいがあるってんで、イワシが欲しいって声があちこちから、かけられてんでさ!」 元親らの船が扱うのは、何も名産品や渡来品だけではない。彼らの領内で獲れた魚介類もまた、その対象であった。「鬼やらい…………追儺……ああ、そうか。それで、俺か」 なるほど、と元親は一人合点する。追儺式――別名、鬼やらいは、疫病や悪神を、弓を鳴らして追い払う、または豆をまいて邪鬼を追い払う。その行事をするために、何を思ったのかはわからないが、本物の鬼――西海の鬼と呼ばれる、隆々とした筋肉を纏った長身の元親を招こうと思いついたのだろうと判じた。ということは、元就は元親に鬼の役をやらせるつもりということになる。「ふうん……?」 何を思って、そんなことを思いついたのかはわからないが、久方ぶりに、友人に遊びに誘われたような心地になって、元親はほんのりと喜色を頬に浮かばせた。 約束の日。 元親はまだ夜も開けぬうちから船を出し、ようやく空が白みかける早朝に元就の城を訪ねた。 元親の筋骨隆々とした長身の体躯は、とても目立つ。その上に、海を走る男であるというのに色が白く、髪も白いことが――左目を紫の眼帯で覆っていることが、名乗らなくても彼が誰なのかを知らしめていた。 なので、遠目からでもわかる彼の姿を目にした門番は、すぐさま元就の下へ元親の来訪を告げに走り、元親が門に到着する頃には、門を開けて招き入れる準備を整えていた。「お待ちしておりました。長曾我部元親様」 恭しく頭を下げられ、名乗ろうと口を開いたまま瞬く。「まだ、俺は名乗ってすらいねぇんだがなぁ」 驚きに惚けたままの声を出せば、門番がきりりと眉を上げて答えた。「西海の鬼と称される貴殿の姿は、遠目からでもよくわかりますゆえ」「そうか……。ま、そうだろうな。で、毛利は起きてんのか」「明ける少し前より臥所を出られ、今は朝餉をお待ちになっている所です。元就様が、丁度良い頃合いに来たと仰られ、共に朝餉をと仰せになられましたので、ご案内いたします」「なんか、朝飯を催促しに来たみてぇだな。……まあいいや。ごくろうさん。夜通しの番は、大変だったろう? みんなで分けて食えよ」 ひょい、と大きな風呂敷包みを門番に渡す。元親は、元就を用も無く尋ねることがままあり、そのたびにこうして土産を手にしてくるので、元就の部下たちにもその姿と気風の良さを広く知られていた。「これは。いつもかたじけのうございまする」「いいってことよ。そんじゃ、毛利の所へ案内してもらおうか」 歯を見せて笑う元親に、つられたように男が笑い、もう一人の門番が肘で脇腹をつつく。はっと気づいた男はごほんと咳払いをしてから、とってつけたように気難しくまじめな顔を作り、元就の待つ部屋へと元親を案内した。「来たか」 長い廊下を進んだ先の襖の奥から、声をかける前に声が聞こえた。「かまわぬ。入れ」 ちら、と案内の男と元親が目配せをしあい、元親が襖を開けた。「よぉ、毛利。相伴にあずからせてもらえるんだってな」 ずかずかと入って行った元親が、どっかと元就の向かいに腰を下ろす。ふうっと細く息を吐き出した元就が、あきれた目を元親に向けた。「このような時刻に参ったは、それを目当てとしていると取られても、文句は言えまい」「まあな。けどよォ、毛利。アンタの朝がずいぶんと早いってことを知っていたんなら、こんな時間にやってきても、別に普通のことだとは思わねぇか」「ふん――言いよるわ」「へっへ」「褒めてなどおらぬのに、何を嬉しそうに笑う」「別に、褒められたとは思っちゃいねぇよ」「ならば、無駄にヘラヘラとするな」「朝っぱらから、文句の多い野郎だな。寝起きの不機嫌が、なかなか治まらねぇのかよ」「我は、機嫌を損ねてなどおらぬわ。それは、貴様がよくわかっておろう」「へっへぇ。まあな。アンタがどんだけ口が悪いかは、よぉっくわかってるぜ」「失礼いたします」「おっ」 襖の向こうから声がかかり、さわさわと清らかな衣擦れの音をさせて、侍女二人が朝餉の膳を運んでくる。そっと二人の前にそれを置くと、声も立てずに侍女らは去り、きっちりと襖を閉めた。「それじゃあ、遠慮なくいただくぜ」 白がゆに香の物、イワシの乗った膳に箸をつける元親の所作は、豪快そうな外見や豪放磊落な気質からは想像もつかないほど、繊細で品が良い。 はじめのころは静かに瞠目をしていた元就だが、呼んでもいないのに訪れる彼と幾度か食膳を共にするうちに、見慣れてしまった。 もくもくと食事を続けていると、イワシの身をほぐし口に入れた元親が、そうだと膳から顔を上げる。「追儺は、何時からやるんだよ。参加してくれって話を聞いただけで、何時にどうやってすんのかは、さっぱり連絡を寄越さなかっただろう。だから、この時間に来たんだけどよ」 ふっと粥から目を上げた元就が、うっすらと口の端を持ち上げた。「言わずとも、貴様がこの時間にこれば始めるまでに仕度も説明も終えられるであろう」「見越しての、説明なしかよ」 ふっと笑みを交し合い、二人は食事を進める。食後の茶をすするころになって、ようやく元就が追儺式は巳の刻より執り行うと説明を始めた。「領内の子どもらを集めて、貴様に豆をぶつけさせる。貴様はそれを受けて、逃げ惑えば良い」「なんだそりゃ。ずいぶんと漠然とした説明だなぁ」「鬼の役は、鬼が担えばよい。それだけの思いつきよ。それに、貴様は子どもと戯れるのが好きなのだろう。丁度良いではないか」「そんで、アンタは領内の子ども達にも楽しみを与えたってんで、民衆からの株が上がるってぇ寸法か」「好かれたいとも思わぬが、我の治政に従わせるにはそのような方法をとらねばならぬ時もある」「素直に、皆に楽しんでもらいてェとか、楽しんでいる姿を見たいとか、言えばいいだろう」「そのような考えなど、みじんも無いわ」「ふうん?」 にやにやとする元親に、うっとうしそうな一瞥をくれた元就が茶をすする。「で? アンタは何をするんだよ」「逃げ惑う貴様を、眺めてくれようぞ」「そんだけか」「他に、何がある」「一緒に、鬼の役をやりゃあいいじゃねぇか」「我が退じられてどうする」「なら、鬼を招けばいいんじゃねぇか」「追儺と言うたであろうが」「どっかは、追儺で追われた鬼を迎え入れる神事をするって、聞いたことがあるぜ」「それは、ここでは無いわ。貴様は追われてそこへ行けばよい。そうなれば、貴様の領土は我が治めてくれようぞ」「冗談に聞こえねェぜ、毛利」「冗談で言ったわけでは無い」 ひょい、と肩をすくめた元親が、ちらと奥の窓へ目を向ける。日の差しこみ具合からして、まだ卯の刻の半ばというところだろう。辰の刻の間に準備をするのだろうなと思いつつ、ならば別段急ぐことも無いだろうと、元親はゆったりとした気持ちで自身の屋敷にいるように、心を寛がせた。何事も計算し尽くす元就が、手抜かりをするとも思えない。 そのまま、ごろりと横になりそうな気色の元親が、ふと何かを思いついて前のめりに元就を見、にいっと口の端を広げて歯を見せる。「……何ぞ、くだらぬことでも思いついたか」「聞く前に、くだらねぇとか言うなよ。ま、アンタからすりゃあ、くだらねぇかもしんねぇがな。適当な木の枝と、小刀を貸してくれ」「何のためだ」「鬼は、丑寅の方角より来るから、丑の角と虎の毛皮を着てんだろ。虎の毛皮はさすがに用意しろとは言えねぇから、角ぐらいは作ろうかと思ってよ」 さも楽しそうに遊びに誘う子どものような元親に、ふっと呆れた侮蔑一歩手前の様相で、元就が言い放つ。「阿呆か、貴様。面を用意しておるにきまっておろう。……いや、しかし――貴様にしては面白いことを思いついたものよ。その話に、乗ってやってもよい。虎の毛皮程度、我がなんとかしてみせるわ」 そうして片頬だけで笑う元就に、奇妙な形に唇をゆがめた元親が首をかしげた。「なんか、褒められてんのか貶されてんのか、わかんねぇけど……ま、用意してくれんのなら、よろしく頼むぜ」 親しげに目を細める元親に、面白そうに元就も目を細めた。「悪い子は、食っちまうぞ〜!」 腰に虎の毛皮を巻き付けた半裸の元親が、両腕を大きく振り上げてすごむ。頭には木の枝を削り拵えた、立派な角が二本にょっきりと生えていた。「おらあぁあ! 災いを、ふりまいてやるぜぇえ!!」 どすんどすんと、わざと足を大きく持ち上げ力士が四股を踏むように、ゆっくりと進む元親の前には、めかしこんだ子ども達の姿があった。子どもたちの手には炒り豆がたっぷりと入った1合枡がある。きゃあきゃあと元親の登場に歓声を上げた子ども達の背後には、鬼面を被った元就がいた。 さっと手を上げて元親を指差し、高らかに子どもたちへ下知をする。「我らの平穏を乱す悪鬼を、討ち払え!」 その言葉に従い、子ども達は炒り豆を掴んで元親に力一杯投げつけはじめた。「鬼は外〜っ!」「うあぁあ、痛ぇ痛ぇ」 豆を当てられた元親は、大げさに手足を振り回し逃げ惑う。子どもたちがそれを追い、元就は子どもたちに指示を出す。「追い詰め、我が元へ誘いだせ! ――豆が足りぬ者に、補充をいたせ」「はっ」 ささっと元就の傍に控えていた男が、子ども達に炒り豆を運んでいく。補充をした子ども達は、歓声を上げながら元親を追い詰める。「痛ててっ、痛ててててっ、うわあぁあ」「そこ! 右に回り込んで、鬼をこちらへ参らせよ!」 子ども達は元就の指示に従い元親を囲み、彼を元就の前へと追い詰める。そうして「こりゃあ、たまらんっ」 頭を抱えて逃げ惑う元親が、元就の前に来た瞬間、元就は鬼の面で元親の角を討ち払った。「やられたぁああ!」 大きな声で叫んだ元親が倒れ込み、子どもたちが飛び跳ねて喜びの声を上げる。それを満足そうに眺める元就を、ちらりと倒れ伏しながら元親は見上げた。「我に従えば、このように鬼を退じることが出来ると、意識に刻み込むが良い」「はいっ」 子どもたちが背筋を伸ばして元気よく答える。「では、こちらへ参られよ。昼餉を振る舞おう」 元就の傍にいた老侍が、シワの一つと思えるほどに目を細め、子どもたちを手招く。子どもたちが老侍について奥へと姿を消してから、元親は身を起した。「はぁ。やれやれ。ガキどもとアンタが仲良くやってる姿なんざ、初めて見たぜ」「仲良く? 貴様の目は節穴か。我はあれらを従えておっただけぞ。幼年より、我に従うようしつけておけば、良い駒となるであろうが」「はいはい。ったく。素直じゃねぇなぁ――っつうかさ、なんでアンタも鬼面を被ってたんだよ」「鬼を祓うは、人の技では無い。鬼の技ぞ。神も仏も鬼の一種よ」「ほぅん? ま、法師らの力ってのも、鬼の力みてぇなモンだしな。使い方の違いってだけなのかもな」「貴様にしては、頭のめぐりが良いではないか」 ほんのわずかに感心してみせる元就に、元親は薄く笑みながら腰布を払う。空は高く澄んでいて、さっと刷毛で刷いたような薄雲がかかっており、日の光はまぶしいほどに降り注いでいた。けれどそれは冬の空気に溶け広がり、春の日ほどの温もりを感じることが出来ない。 まるで元就のようだと思いながら、かつての彼よりもずっと穏やかに感じる目を見つめた。「何を、にやついておる」「ん? ――鬼を祓うは鬼の力ってんなら、アンタの鬼性も鬼の俺が祓って、穏やかな春みてぇにしてやろうかと思ってな」「下らぬ」 くるりと元就が背を向ける。元親に見えぬ彼の唇は、薄く弓なりにしなっていた。楽しげな唇から、鋭く冷たい声を放つ。「貴様にしては良い働きをしたと、褒めてやろう。昼餉もふるまってやる。有り難くついてくるが良い」 冷ややかな声の中に、春の気配を感じた元親はまぶしそうに目を細め、冷酷な鬼の面を溶かし始めた不器用な男の背中に、春待鳥の鳴き声を真似た口笛を投げかけた。 ごろりと横になった元親の横で、元就がのんびりと茶をすする。腹を満たした元親は、色味だけは春を思わせる日を受けて瞼を閉じた。 目の前に、燃えるような赤がある。それがうるさくて、窓に背を向けるように転がると何かに当った。目を開ければ、いつの間にか傍に寄っていた元就が見下ろしてきている。「なんだ。どうした?」 ふっと、元就が唇をゆがめた。「鬼が鬼を祓うのであろう?」 突き放すような声音に含まれた甘さに、元親の首筋がざわりと騒いだ。「何――って、え……?」 元親の肩を押さえつけ、うつぶせにした元就は呆然とする元親の腕を取り、親指を重ねて縛り上げる。「へっ――?」 行動の意味が分からない元親が、間の抜けた声を出すのにほくそ笑みながら、元就はまだ鬼の装いのままであった元親の腰から、虎の毛皮を剥ぎ取り下帯までをも奪い去った。「うああっ、おい、ちょっ……っ!」 驚き肩で床を蹴り、身を起そうとした元親が息を呑み動きを止める。ぶる、と身を震わせた元親の動きを封じたのは、元就の右手だった。起き上がろうと身を浮かせた元親の、太ももの間に手を差し込んで袋を強く握りしめている。「おとなしくしておれば、良い思いをさせてやる」「っ、ちょ――いきなり」 尻を突き出すような恰好のまま硬直してしまった元親をあざ笑うかのように、元就がやわやわと袋を揉みしだく。指で波を描くように揉み込まれ、そこで生まれた子種が蜜筒に流れゆき、元親の欲を熾して牡を凝らせる。「可愛いものよ」「っ、るせぇ……っあ」 きゅ、と強く握りこみ、元親を黙らせる。若く健康な肢体は、元就の指に促されるまま劣情に包まれた。「っ、ふ……」 呼気が熱くなり始めたのを確認し、元就は手を離す。懐から小瓶を取り出し、栓を抜いた。ふわりと薫った匂いに、自分の尻の向こうで元就が何を取り出したか気付いた元親が、肩で床を這い逃げようとする。「そのように、尺取虫のような動きで逃れられると思うておるわけでは、あるまいな」「ひんっ」 きゅっと牡を握られて、高い声が上がった。びくんと身をすくませた元親の、締まった尻の谷に向けて、元就が丁子油を垂らす。「毛利……逃げねぇから、手をほどいてくれよ」「鬼の言葉など、信用できぬわ」 小瓶の中の丁子油を全て元親の尻にたらせば、双丘の谷を流れた油は下肢の茂みを濡れ光らせるだけでなく、そこから生える太い幹をも伝い、床に落ちる。もどかしくも心地よい触感に、元親の尻が細かく震えているのに目を細め、元就は双丘の谷にできた川へ指を入れた。「ぁはっ、ぁ、んっ、んぅ」 谷を指の腹でなぞれば、ぶるぶると牡を震わせながら鬼が啼く。つん、と谷にある洞窟の入り口をつつけば、ひくひくと入口が求めるように蠢いて、丁子油と空気を食み、濡れた音を立てる。「浅ましいものだな、長曾我部よ。このようにひくついて、まるで餌をねだる鯉のようではないか――西海の鬼の名が、聞いてあきれるほどの淫靡さよ」「っ、言うな……ぅ、ん――毛利、ぁ、文句あんなら、触らなきゃいいだろう」「そのような口がきけぬように、しつけねばならぬな」「ひ、ぃんっ、ぁ、ああ――っ」「子どもらが我の前に連れ出した鬼を、存分に従わせてくれようぞ」 凄味のある静かな響きに、ぞわりと劣情が期待に震え、元親の意識を戸惑わせた。「ぁ、いや……俺はもう、十分にガキどもの豆に打たれて祓われたから、別に…………」 足の間から見える元親の牡が、期待をしているように震えているのに唇を舐め、元就は胸に浮かんだ熱い塊を吐き出すように、息をついた。「ああ、そうか――豆が欲しいのか」 底冷えのする声に、元親の顔がひきつる。「毛利――? なんか、悪いことを思いついたりしてねぇよなぁ」「何を、怯えた声を出している、長曾我部よ。おとなしく我に従えば、心地よい思いをさせてやる」「いや、その心地よい思いをすんのなら、手をほどいてほし――っ、あ、何っ、ちょ、毛利っ、何を入れっ……」 つぷ、つぷん、と何かを菊坐に呑まされる。硬く小さなそれは、元親の内壁に動き、打ちあたり刺激をしてくる。その刺激に蠢く内壁が、呑まされたそれを動かし更に媚肉を蠕動させて、元親の欲を生み出す。「んっ、毛利……、まさか、それ」「愚鈍な貴様でも、これが何かわかったか……旨そうに食んでおるわ――鬼が豆を苦手とするは、嘘であったか」 食膳に添えられていた、手をつけていなかった豆を元就は元親の尻に食わせ続ける。どちらも食べていなかったので、二人分の炒り豆が元親の媚肉に押し込められた。「ぁ、は、ぁあう……毛利ぃ、抜いてくれよぉ」「旨そうに咀嚼をしているというのに、いらぬとは、よう言うたものよ」「はひっ、ぃ、ぁあう、や、ぁあ、掻きまわすな、ぁ、ああっ」 指を突き込み豆を混ぜるようにすれば、元親が腰を揺らす。ごろごろと小さな豆が媚肉の中で踊り、焦らすように元親の欲のツボを刺激して、鬼の肌が朱に染まり始める。「上の口はいらぬと言うが、こちらの口は求めるようにひくついておるぞ、長曾我部よ。どちらが、まことの心根だ」「ぁひっ、抜いてっ、ぁ、抜けよぉ、毛利ぃ……」「どのような心地であるのかを言えば、温情を与えてやらぬでも無い。何ゆえ抜いてほしいのか、申してみよ」 高圧的な物言いは、突き放すようでもあった。くっと奥歯を噛みしめてから、元親は尻に力を込め揺れる腰を堪えながら口を開く。「んぅ……ナカっ、ぁ、豆が――ごりごりしてっ、ぁ、あ、はぁ……辛ぇ、から、ぁあ」「どう辛い」「んっ、んんっ、どうって……っ、辛ぇモンは、辛ぇんだから、ぁ、ああっ、抜いて、くれ、よぉ」 ふん、とつまらなさそうに元就が鼻息を漏らし、元親の腰を押してあおむけにさせると、両脇に腕を差し込み身を起させた。「ぁ、何……」「嫌ならば、自ら吐き出せばよい」「うえっ? ちょ――何考えてんだよ毛利……っ、ぃあ」 ぎり、と強く元親の牡の先を握り、黙らせる。「出来ぬと申すか」「ひっ、ぃん、ぁ、あう、出来ねぇ、よ……っ、ぁ、ああ」 牡の先端を捩じりあげれば、胸を突き出すようにして元親が身を震わせ、目じりに涙をにじませる。飽きれたように息を吐き出し、元親の肩を押した。「痛っ」 ごちっと音をさせて、倒れた元親が床に頭を打ったのに頓着せず、元就は彼の膝を抱えて割り開き、下肢に顔を寄せた。「ぁ、毛利――何、すんだよ」「豆を、出してほしいと申したではないか。……我が、吸いだしてやろう」「えっ――ちょ、その出し方はちょっと、ちょっ…………っ、んぅう」 ひくつく花弁に舌を伸ばした元就が、舌先で豆を転がし引きだそうと強く吸う。豆は元就の舌先が届くか届かぬかの位置で蠢き、一向に出てくる様子を見せなかった。豆が動き、元就の舌が動き、甘痒い刺激に元親の牡が震えて先走りをこぼす。それに手を伸ばし、根元から扱きあげると元親の肉壁がきゅうんとすぼまった。「もっと口を緩めねば、豆を出せぬであろう」「ぁ、は、ぁあっ、だって、ぁ、ああっ、そんっ、擦ったら、ぁ、ああっ、ひっ、ぁ、ああう」 足を震わせ腰を天井に突き上げながら腰を振る姿に、淫靡な愉悦を漂わせ、元就が呆れたように顔を上げた。「うるさい鬼よ――ならば、指で掻きだしてやろう」「ぁひっ、ぃ、ぃあぁううんっ」 指を突き入れた元就が、無造作に内壁を掻き乱し始める。そうしながら牡を擦りあげ、蜜を吹き出す先端を爪で潰せば、高く甘い声で鬼が啼いた。「ひ、ぃいんっ、ぁはぁああうっ、もぉりっ、ぁ、あ……もぉりぃい」「うるさい」「くひぃいっ」 媚肉を抉りながら牡を捩じるように扱けば、ぷしっと先走りをほとばしらせながら、元親が涙を流す。その姿に自身の欲を凝らせつつ、元就は埋め込んだ豆を全て掻きだした。「望み通り、掻きだしてやったぞ。長曾我部――これで、文句は無いな」「はっ、はぁ……ぁ、あはぁあうっ、もぉりぃい」 どろりとした欲に抱きすくめられた元親が、甘えた声を出す。「どうした」「ぅ、ううっ……もぉりぃ」「言いたいことがあるのならば、はっきりと申せ」 恨みがましい目を向けた元親が、身を捩り足を広げ、恥ずかしそうに下唇を噛みながら言った。「う、疼いて仕方ねぇんだよ……なぁ、毛利――鬼を祓えるのは、鬼だけだろ? なぁ……だから、毛利。アンタの熱で、俺の欲を祓ってくれよ」 みっしりとした筋肉を纏う白い肌を朱に染め、快楽に震えながら懇願してくる鬼の姿に、元就は情欲を高めながらも冷たい様相を崩さぬまま、着物を脱ぎ捨て猛る牡を見せつけた。「これが、欲しいと?」「んっ、は、ぁあ、もぉりぃ」「そのように、あさましい目で我を見るか…………長曾我部よ。西海の鬼も、こうなれば飼い犬も同然よな」 ふんと鼻を鳴らした元就が、腰を進めてひくつく菊坐へ牡の先を押し当てる。ぶる、と期待に身を震わせた元親の指の戒めを解くと同時に、奥まで一気に貫いた。「ぃひっ、ぁ、あぃいぉおぉおおうっ、ぁふっ、ぁ、は、ぁあ、もぉりぃ、もぉりぃいっ」「くっ……そのように、ぁ、締め付け……っ」「ひんっ、ひっ、ぁあぃいっ、ぁうっ、ぁ、は、もっと、ぁあ、もぉりっ、ぁ、もぉりぃいっ」 首を打ち振り腰を揺らし、元就を求めながら自由になった手で自らの牡をしごく。欲に浸りきった元親の乱れ姿に、元親の太ももを抱え込んだ元就が艶っぽく目を細めた。「は、ぁ……そのように、急くな…………っ、堪え性の無い――っ、ふ」「ぁはっ、ぁ、ああうっ、もぉりっ、はっ、はぁ、あっ、ああ、もっと、ぁあ、奥にっ、ぁ、奥っもっと、ぁあ」 涙をこぼし求める元親を抱きしめ、元就が激しく腰を打ち付ける。与えられる快楽を寸分も漏らすまいと身を捩る元親が、自慰の手を早めて恍惚を浮かべる。自分よりも体躯の良い元親の上へ身を寄せれば、顔が丁度胸の色づきの傍に寄り、元就は舌を伸ばしくすぐると、強くそれを吸い上げた。「ひぃいっ、ぁ、はぁあ、もぉりっ、ぁ、あぁふぁおっ、ぉあっ、ああんっ、ぁふ、もぉ、ぁ、でるっ、ぁあ、でるっ、ぁ、もぉりっ、でるっでるっでっ――あ、あぁあああっ!」 のた打ち回る元親が、ひときわ大きく体を震わせ顎を反らし、凝った欲を吹き上げる。きゅうんと締まった媚肉に促されるまま、元就も欲を放った。「くっ、ぅ」「ぁ、はぁ……あっ、熱、ぅ…………はぁあ、もぉりぃ……は、ぁあ」 自らの欲で汚れた手を伸ばし、元就にしがみついてくる鬼の胸に耳を当て、元就は全てを注ぎ込み目を閉じる。「ふ、ぅ……もぉりぃ」 甘えるような甘やかすような声で呼ばれ、背を撫でられながら元就は鬼の心音に耳を澄ました。「ふ、ぅ……」 全てを放ち終え、元就の熱を飲干した元親が首を伸ばし、元就の髪に唇を押し当て、ぱたりと四肢を投げ出す。そうしてしばらく元就がじっとしていると、規則正しい寝息が聞こえ始めた。むくりと体を起した元就は元親の中から抜け出し、あどけない鬼の寝顔を見つめる。ふっと目じりを和らげ、触れるか触れないかの口づけをして、再び彼の胸に頭を乗せて、互いの心音を重ねながら眠りに落ちた。 二人の耳に、遠く近く春待鳥が恋しく季節を呼ぶ声が染み込んで――――2013/02/01