ほろほろと、酒を呑んでいる。星明りの薄まった濃紺の中で、何の灯りも付けず月の光だけを頼りに、二人の男が杯を傾けていた。 一人は、この屋敷の主、伊達政宗。もう一人は、来客である西海の鬼、長曾我部元親であった。 二人とも、薄い単衣のみという気楽な姿で、あぐらをかいて酒を酌み交わしている。 月明かりに浮かぶ、二人の肌は白い。無駄の無い、しなやかな筋肉に覆われた政宗は、黒い髪に鋭利な刃物を思わせる鋭さを模らせ、右目を鍔にひもを通した眼帯で覆っていた。冴え凍る月を思わせる妖美さが、眼帯の存在により凄味を増している。 対する元親は、みっしりとした鬼と呼ばれるにふさわしい体躯をしていた。けれど肌は海上の太陽にあぶられているというのに、今宵の満月のようにしらじらと透けるように、すべらかだった。 白銀の髪に左目を覆う紫の眼帯が映え、月光を受け淡く発光をしているような、消え入りそうな色合いであるというのに、圧倒的な存在感を示している。 彼自身が、発光をしているようにも見えた。 ほろほろと、酒を呑んでいる。「良い風が、吹いてきやがる」 そよ、と日中の熱を残した夜気を鎮めるように、風が吹いた。「Ah。良い、風だ」 元親の言葉を、政宗が受けた。「明日は、良い出航日和になりそうだぜ」 突きを見上げる元親の、白く伸びた首筋に政宗の星影のような目が触れた。「明日、帰るのか」「あんま長いこと、開けてもいらんねぇし。やるこたぁ山積みだからな」 歯をむき出しにして笑う男は、快活で豪快。そのはずなのに、はかない危うさを感じるのは、気のせいだろうか。「元親」「ん?」 政宗の手が伸びて、元親の首にかかった。「なんだよ」「このまま、力を込めれば折れちまいそうだな」「そんなに、脆弱に見えるか」 この俺が、と不敵に笑う白い鬼は青い竜が自分を殺すなど、毛ほども危ぶんでいない。「No, he's not」 脆弱だと思ったわけでは無い。ただ「儚いな」 思わず唇から洩れた言葉に、政宗自身も驚いた。目の前の鬼が、きょとんと目を丸くしている。幼い子どものような、無垢な瞳に政宗が映っている。「元親」「なんだよ」 肉厚の唇に、薄い唇を押し付ける。包み込むように、元親の目が細くなった。瞳を重ねたまま、政宗は元親の唇を舌でさぐる。肉厚の唇を、端から端まで舌先でなぞり、前歯に触れる。迎え入れるように口が開き、招かれるままに政宗の舌は口腔へ進んだ。「んっ、ふ」 舌先でくすぐり合えば、深く覆い尽くす様に食らいついた政宗が、元親の舌を吸った。「んっ、ふ、ふんっ、ん」 政宗の手首を、大きな手のひらが掴む。それが拒絶でもなく求めているのでも無いことを、政宗は知っている。元親の目は、政宗の心中にあるものを見ようと開かれたまま、薄い涙の膜を浮かべていた。「ふ、んぁ、ふっ」 片手で三振の刀を扱える政宗の腕力は、屈強な元親の抵抗を抑え込むなど容易い。このような状況になってしまえば、優位な体制にあれば、なおさらに。「ふ、ぅんっ、ん」 息苦しさを覚え始めた元親が、首を振り逃れようとするのを片手で押さえつけ、膝で下肢を押しつぶしながら胸元に手を入れて豊かな胸筋を探れば「ふんぅうっ、ぅ、ぅん」 元親が身を捩り、鼻から甘い息を吐いた。 今更、遅ぇんだよ。 政宗が心中であざ笑う。この竜に圧し掛かられて、絡め取られて、逃れられるとでも思ってんのか。「ふっ、んふっ、ふ、ぅうんっ、ん」 膝で押しつぶし刺激する鬼茎が、むくむくと育ち存在を示しはじめる。弾力のある胸筋の色づきが、固く凝り政宗の指に引っ掛かる。それを抓みながら優しく左右に転がせば「はふっ、んぅふうぅ」 ぶるりと元親が腰を震わせた。「ふっ、ふんっ、んっ、んんっ」 首を振ろうとする元親の頭を、しっかりと固定したまま膝で鬼茎を擦りあげれば、ごりごりとした感触が返ってくる。凝りきったらしいそれの、やわらかな先を彼の腹に押し付けるように膝で押せば「んふぅううっ」 びくんびくんと、元親の肌が戦慄いた。それに合わせて胸乳を強く絞れば、元親の目じりから涙があふれる。 たまんねぇ。 太陽を背に受け、まるでその化身であるかのように豪快に笑い、人々を照らし包むこの男が、腕の中で身を震わせ、白い肌を薄桃の快楽に染めて啼いている。野欲の気配などかけらも見せぬほどの鬼を、淫蕩の地獄に落とし込み、辱めたい。「は、ぁ、はぁ、あ」 口を離せば、元親が夜気を貪る。激しく上下する胸を覆う布を左右に開き、袖を捩じりながら結んで、元親の腕を背面に固定した。「あっ」「人ん家の借り物を、破くなよ?」 片頬だけで笑う政宗の淫靡さに、元親の喉が鳴った。「っ、う」 ごろりと元親を転がした政宗が、下肢を踏みつける。足の裏ですり潰しながら、足指に先端を挟んで揉めば、元親が蛇のように身をくねらせた。「はっ、ぁ、はぁ、ぁ、政宗」「アンタが、こんなふうに暴かれんのが好きだって知ったら、船の男どもはどう思うだろうなぁ」「っ!」 ぶるる、と元親の総身が震えた。それが、恐怖でも嫌悪でも無いことを、政宗は知っている。貶め劣情を煽る自分の中の獣が、高ぶっていく事を知っている。「鬼と呼ばれるアンタが、竜に踏まれてイカされるのが好きだなんて、知られたらとんでもねぇよな」「ぁ、はっ、好きだなんて、誰も言ってねぇだろう」「違うのか」「んひぃっ」 少し体重を掛ければ、元親の顎が反る。そのまま容赦なく踏みつければ、怒張した鬼茎の先が下帯を湿らせ始めた。「踏まれて、漏らして――とんでもねぇな。さしずめ、性欲の鬼ってぇ所か」「ぁはっ、は、ぁあ、政宗っ」 もどかしげに、元親が足を閉じて太ももで政宗の足を挟む。「なんだよ」「ううっ」 頬を染めて恥じらう鬼の下帯に足の指をかけ、ずらした。ぶるん、と待ちわびていたように怒張したものが飛び出す。「早くいじくりたおしてくれって、飛び出してきやがった」 鼻で笑えば「違うっ」 元親の羞恥が否定を口にさせた。「違う? なら、そのままにしてやろうか」 しゃがんだ政宗が腰帯を解いて元親の膝をくくり、後ろ手に縛った腕を通してもう片方の膝をくくる。「月光に浮かぶ鬼の肌を肴に、酒を呑むとするか」「えっ」 足を開いた格好で元親を転がしたまま、政宗はあぐらをかき、杯を手にした。ふるえる元親の陰茎を見ながら、ゆるゆると酒を呑み始める。「うっ、うう……政宗」「そう足を開いていたんじゃあ、キノコ汁も楽しめねぇな」「あっ」 白い茂みに指を滑りこませれば、期待に満ちた声が出る。陰茎に触れぬように、銀糸の茂みを撫で続ければ、触れてもいない怒張の先から蜜が漏れ始めた。「野欲の泉が、湧き始めたか」「は、んっ、ぁ、何を風流ぶってんだよ。この、変態」「変態? HA! 違ぇねぇ」 杯を蜜口に近づけた政宗は、ぎゅうぎゅうと括れから先をしぼる。「んひっ、ひぃ、あぁ」 とろりとこぼれる蜜が杯を満たすまで、続けた。「はひっ、は、ぁあ、政宗、ぁ、ああ」 心地いいのにもどかしい。放つまでは行かぬ快楽に、元親が腰を揺らめかせる。尻がずれて自分から離れて行くのに「じっとしてろよ」「ひぃいっ」 陰茎を強く握り引き寄せ、止めた。「はんっ、はぁ、あ、そのままっ、ぁあ」「このまま? イカせてほしいのか」「んっ、ふ、ふぅう、わかってんだろ。ぁ、こんな、なってんのに」「どうなってんだ? さっぱり、わからねぇな。what gives?」 元親の先走りで満たした杯を、持ち上げて見せる。それに唇を寄せる政宗の、優美な動きに元親の目は奪われて「ぁ、政宗っ」 唇が触れる寸前に、呼んだ。「なんだよ」 快楽に胸をあえがせながら、つばを飲み込み問いに答えた。「む、胸が……乳首が、痺れたみてぇに痒くて、たまんねぇんだよ。魔羅も、痛ぇぐれぇになっちまって、イキたくてたまんねぇ」「だから?」「し、しごいて、しゃぶってくれよ」 ぶるん、と期待をするように元親の陰茎が震えた。「政宗」 じっと、政宗は元親を観察する。肌が泡立ち薄桃に染まり、産毛が逆立っている。肌に触れぬように撫でれば、この男はそれだけで快楽を受け取るほどに開いていることを、理解している。だからこそ「してほしいんなら、それなりのモンを寄越してこそ、だろう? 鬼の流儀は、求めるだけか」 クッと喉を鳴らし、田のみを跳ね返した。「ぁ、何すりゃあ、いいんぁあっ」 杯に受けた蜜に指を浸け、怒張する陰茎とは対照的に、ひっそりと政宗に触れられることを望んでいる花に指を押し込む。探り、すでに知っている肉壁を媚肉に素早く変化させられる箇所を強く押せば「ひっ、ぃいいっ」 元親の腰が浮いた。そのまま、そこを中心に乱暴に掻きまわしながら、胸の尖りに同じように杯の鬼蜜で濡らした指を伸ばし、押しつぶし捻りあげる。「はひっ、はひぃうぁああっ」 鬼が啼く。髪を振り乱し身をよじらせて、淫鬼へと変貌する様を、政宗は薄い笑みを浮かべて眺める。「ぁふぅううっ、ぁ、あ、まっ、さ、ぁあうううんっ」 のたうつ陰茎が蜜をまきちらし、触れてくれと訴えている。それに、かぶりついた。「んはぁあああうぅ」 安堵の嬌声を上げた鬼が、うっとりと目を細めた。しゃぶりながら媚肉を広げ、胸乳を搾れば笑みを浮かべた元親が、淫蕩に浸りきったと全身で政宗に示す。「んはぁううっ、は、はぁ、あはぁううっ、政宗ぇえっ」「竜の熱で、掻きまわしてやろうか」「はひっ、は、はぁあ、政宗っ、ぁあ、突っ込んで、ぁ、ぐちゃぐちゃに、ぁ、はぁあっ」 迎えるように、求めるように、元親が縛られた足を皿に大きく広げ持ち上げ、秘孔を政宗に示す。唇を舐めた政宗は、下帯の内側で静かにみなぎっていた竜茎を取り出した。「コイツで、啼かせてほしいか。元親」 見事な反りを見せるそれに、元親の野欲が噴き出した。「ぁあ、欲しいっ、ぁ、政宗、はぁあっ、早くっ、ぁ、熱くさせてくれよぉお」 よがりながら叫ぶ鬼は、海上で雄々しくもさわやかに部下らに慕われている姿とは、かけ離れすぎている。ただのあさましい鬼と化した元親の野欲に無垢な美しさに、淫靡な竜は胸を高鳴らせた。「OK、元親。ぞんぶんに、喰らわせてやる」 子どもの胴ほどもある、鍛え抜かれた太ももと抱え、えくぼの浮かぶ双丘の谷に竜の爪を添わせ、鬼孔を抉った。「はぎっ、ぃひぃあぁあああっ」「くっ、ふ……そんなに、絡み付くんじゃねぇよ」「ぁはぁあっ、政宗っ、は、はぁあ」「元親ぁ。そんなに、この俺が欲しかったのか? 喰いちぎられそうだぜ」「ふっ、ふぁ、あっ、んぁ、こんっ、あ、久しぶり、ぁ、からっ、は、はぁあ」「久しぶりじゃあ無かったら、ここまでにはならない、か?」 わざと緩慢に腰を打ち付ければ「はんっ、はぁんんっ、ぁ、焦らすんじゃねぇよっ、ぁ、もっと、は、ぁあ」「なら。好きに動きな」 足りぬと訴える元親の戒めを解いた途端、跳ね起きた彼に圧し掛かられ、形勢が逆転する。「っ、おいおい。もうちっと優雅に出来ねぇのかよ」「うるせぇっ、ぁ、余裕ぶっこきやがって、は、はぁあっ、ぁ、こんっ、ぁ、すげ、でかくしてんのにっ」 政宗の顔の横に漁手を着いて、元親が上下に揺れながら腰をひねる。ぶるんぶるんと震える元親の陰茎が、政宗の腹を打ち濡らした。「ひっ、とりだけ、ぁ、涼しい顔しやがって、ぁはぁあっ」「涼しい顔が出来ねぇぐらいに、熱くさせろよ」 冷静な声音の裏にある熱に、野欲に焙られた元親は気付けない。「この鬼に、食らいつくせねぇモンなんざ、あはぁあ、無ぇ、ん、ぁよっ、は、はぁあうっ」「竜の熱がクセになっている鬼が、よく言えたモンだぜ」 手を伸ばし、両の胸乳を絞り上げる。「はひっ、は、はぁふぅううっ」「くっ、よく締まりやがるぜ」「ひっ、ひぃい、あぁ、政宗っ、は、はぁあっ」 いじくられるままに、鬼が竜の腹の上で踊り乱れ快楽の音を奏でる。「んはっ、ぁ、はぁあ、あつ、ぅぁああ、政宗っ、ま、さむ、ねぁあっ」 ひたすらに自分を求め、白い肌に汗を浮かせて薄桃に染まる可憐な鬼を、夜に沈む竜は快楽を教え込みながら慈しんだ。 そよ、と風が吹いて潮の香りが鼻をくすぐる。ぐったりと横になった鬼は、竜よりも一回りほど大きな体躯をしているというのに、幼子のようにしか見えない。腕を伸ばした政宗は、顔にかかり汗ではりついた髪を掻き上げ、何も知らぬ赤子のような寝顔に、くすりと鼻を鳴らした。竜を海へと誘った鬼は、こうして時折、誘いを断った竜に会いに来る。何かを語るわけでも無く、ただ、会いに来る。そして竜は、会いに来た鬼の内側に眠るものを引き出し、暴き、手なずけて長い長い手綱をつけた。その手綱は、どんな名も似合い、どんな名も似合わなかった。 手綱をつけたのは、自分が先だったのか。それとも鬼が先だったのか。 どちらでもいいと呟いて、竜は鬼の額に唇を寄せる。 日が昇れば、竜の爪痕などかけらも残さず笑う鬼を、腕の中に引き寄せ目を閉じた。2013/07/29/font>