蒸風呂は、戦国の世では広く知られた入浴法であった。もうもうとたちこめる蒸気にあぶられ、毛穴が開き汗が出る。汗で浮かんだ汚れを、竹でできたヘラで垢をこそげ落とす。大衆の風呂屋には、赤をこそげ落としてくれる女がいることもあった。 薬草などを浸した湯をわかし、浴堂の中に湯気を入れて疲れを癒す、今でいうサウナのような入浴法であった。 野良仕事を終えた片倉小十郎が、目を閉じて肌に汗の膜を浮かべていると、浴堂の扉が開いた。「邪魔するぜ」「政宗様」 目を開け、あぐらを正座に直そうとした小十郎に、政宗が手のひらを向ける。「no need to be changed」 言葉はわからないが、そのままでかまわないと言われたらしいと、小十郎は浮かせた膝を戻した。それに満足そうに目を細めた政宗が、小十郎の傍に寄り備え付けられている竹べらを手にした。「最近は、無茶をさせちまったからな。この俺がじきじきに磨いてやる」「お気持ちだけ、ありがたく受け取らせていただきます」「遠慮すんな」「遠慮では、ございません」「最近、やつれてきたんじゃねぇのか」「そのようなことは、ございません」「なら、確かめさせろよ」 口調はあくまでも柔らかいが、有無を言わせぬ鋭さがある。こうなれば引くことは無いということを、小十郎は知りすぎるほどに知っていた。「では、お願いいたします」「おう」 ニヤリと口の端を持ち上げた政宗が、小十郎の背を竹べらで擦り始める。広い小十郎の背を擦りながら、肉付きを指先で確かめた。「相変わらず、良い体だな」「政宗様の背をお守りする身が、たよりない体躯をしているわけにもまいりません」「Ha――そうだな」 政宗の所作はやわらかく、小十郎の体の奥に凝り固まっていた疲れを少しずつ溶かしていく。「ふ、ぅ」 思わず息を漏らした小十郎に、政宗が満足そうに目を細めた。 ゆらゆらと、心地よさに小十郎に意識が眠りの船に誘われる。心地よい温度とやさしい指と竹べらの刺激に、小十郎の意識が眠りの川を中ほどまで渡った頃合に「っ――!」 政宗が彼の下肢を握った。「よっぽど、疲れが溜まってたみてぇだな」「っ、あ――政宗様。御放しください」「To refuse」「うっ」 心地よさに、わずかに頭を持ち上げた小十郎の牡を、ゆるゆると扱く。「小十郎」 熱っぽくささやき、首筋に唇を寄せれば小十郎がビクリと震えた。「政宗様」「久しぶりだ。ここんとこ、ずっと忙しかったからな」 胸の奥から疲れを滲ませた吐息に、小十郎の目が細められる。肩に乗る政宗の髪にふれ、撫でた。「政宗様」「いいだろう?」 持ち上がった目に甘えが見えて、小十郎は頬を緩ませた。「私の全てを、政宗様にほぐしていただきたく存じます」「Okay――たっぷりと、ほぐしてやるよ。凝り固まった理性ごと、な」 首を伸ばし、唇を重ねる。「んっ、ふ」 舌を絡めながら、背後から小十郎の腰に腕を回した政宗は、彼の牡を扱きながら先端を手のひらで包み捏ねた。「はっ、ぁ、あ」 浴堂の熱が小十郎の肌に汗を滲ませたように、政宗の熱が小十郎に欲を滲ませた。捏ねる政宗の手のひらが濡れ、ちゅくちゅくと音をさせる。「は、ぁ、んっ、ふ――は、政宗様」「小十郎。気持ちいいか」「ぁは――はい、ぁ、んっ」「そうか」 ちゅ、と音を立てて口吸いをした政宗が、得意そうに目を細める。それに愛おしさを沸き立たせた小十郎は、主に与えられる熱に意識をゆだねた。「ぁは、はっ、ぁ、んっ、政宗様っ、ぁ」「小十郎――いい顔だ」 うっとりと小十郎の耳にささやき、丹念に牡を捏ねる。はちきれそうなほどに屹立した小十郎の牡は、自らの先走りでしとどに濡れそぼり、政宗の両手の動きをすべらかにした。「ぁはっ、は、ぁあっ、んっ、政宗様、政宗様、ぁ」「もう、こらえきれねぇか?」 艶めいた政宗の声に「はっ、ぁ、ああ」 ぞくぞくと背骨に甘い疼きが走った。「俺より先に、イクつもりか?」 喉の奥を震わせからかう政宗に、小十郎は奥歯を噛んだ。「なれば、政宗様。しばし手を御放しください」「Ah?」 首をかしげながら手を放せば、小十郎がすばやく身を翻し、政宗の牡を口に含んだ。「んっ、ふ……んっ、じゅっ、は、んんっ」「は、ぁ……小十郎」「んっ、ん――はっ、んむっ」 袋を揉みながら、口をすぼめ吸い上げ、頭を上下させる。小十郎の頬が内側から牡に押されて歪むのに、政宗は野欲を膨らませた。「はふっ、んっ、んぐっ、んっ、ん」「は、ぁ――小十郎」 政宗の息が熱く乱れている。そのことに小十郎は触れられていない牡を奮わせた。「は――んっ、政宗様……んっ、どうぞ、御放ちください。んっ、じゅっ」「ああ……はっ、んくっ、ぅ」 ぶる、と政宗が震えて欲を放つ。それを口内に受け止め、筒奥に残るものも吸い上げた小十郎は、それを飲み込まず手のひらに出した。「小十郎」 彼が何をしようとしているのか、察した政宗が喉を鳴らす。政宗の欲液で濡らした手を、小十郎は自らの下肢に伸ばし、秘孔の中へと指を埋めた。「んぅっ、ふ、んっ、く……政宗様」 小十郎の目の前に、自らの指を埋めた場所で受け止める政宗の熱がある。放ったばかりのやわらかなソレに舌を伸ばし、甘えるように先端を吸いながら、小十郎は自らを開いた。「ふっ、はんっ、ぁ、政宗様……は、ちゅっ、ぅんっ、ぁ」「小十郎、は、ぁ……たまんねぇ」「はっ、ぁあぁああっ」 小十郎の背に覆いかぶさり手を伸ばし、彼の指の横に政宗が指を並べて埋める。小十郎の指に指を絡め、内壁を探り撫で広げた。「ぁはっ、ぁ、政宗様っ、ぁ、は、ぁあっ、あ」「久しぶりに、そんな姿を見せられてガマンできるかよ」「はっ、ぁ、なればっ、ぁ、もうっ、は、早くっ、政宗様の情けを埋めてください」「I got it」 唇を舐めた政宗が、小十郎の背からのく。顔を上げた小十郎に唇を重ねれば、小十郎は自ら政宗に尻を向けた。「深く、政宗様をお与えください」「ああ。俺も、小十郎がほしい」 腰を掴み、一気に貫いた。「ひぐっ、ぁ、は、ぁああっ」「Oh……まだ、ちっとほぐし足りなかったか」 苦しげに政宗が息をつめる。ぶるると身を震わせた小十郎が、身を引こうとした政宗の腕を掴んだ。「だ、いじょ……うぶ、です。久しぶりの政宗様を、このまま、味わわせていただきたい」 首をねじり眉根を寄せながら笑みを向けた小十郎に、政宗が妖艶に微笑んだ。「いいぜ。たっぷりと、味わいな!」「ぁはっ、ぁ、は、くぅうっ」 遠慮も無く、政宗が小十郎の媚肉を突き上げる。蠕動する小十郎は政宗を包み込み、ねだるように絡みついた。「ふっ、すげぇな、小十郎。食いちぎられちまいそうだ」「ぁはっ、政宗様、ぁあ、もっと、ぁ、この小十郎の何もかもを、政宗様で満たしてくださいっ」「ああ、小十郎」「ひぐっ、ぁ、はぁうううっ」 政宗の動きに合わせ、小十郎が踊る。もうもうと沸き立つ湯気よりも熱いものに包まれて、二人は凝った理性を溶かし落とし獣となった。「はっ、ぁ、ああっ、政宗様、政宗様っ」「っ、小十郎」「っあ、ぁあぁあああああっ!」 政宗が小十郎の体内ではじけ、その熱の奔流に、小十郎の意識が白く塗りつぶされた。 ひんやりとした夜気が、心地いい。 薄い風の行く縁側に、政宗と小十郎は並び座し、ぼんやりと霞む月明かりを眺めていた。「小十郎」「は」「今夜は――」 言いかけた政宗が、ふと口をつぐみ小十郎の肩に頭を乗せた。「こうして、のんびりと月を眺めるのは、久しぶりだな」 呟けば「時折は、こうして過ごさねば視野が狭くなるかと存じます」 小十郎が口元を緩ませた。「Ah――そうだな」 雄々しく猛る竜が、月光に包まれて魂をしばし休める。身を寄せ合い、唇を重ね、互いに互いを甘やかせながら、求めながら。2013/05/05