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existence

 ぶわぶわと、体がふくらみたわんでしまいそうなほどに、暑い。
 しっかりと体と大気の境界が目視できると言うのに、感覚としてはたよりなくて。
 自分の形をしっかりと把握し確認できる、自分と言う存在をこの上も無く認識できる場所に、政宗は足を向けた。
 水車の付いている納屋は、ここの持ち主である男以外は、火急の用でもなければ誰も来ない。里とも、屋敷とも離れた、納屋の持ち主である男の個人的な畑の奥にある、隠れ家のような場所。
 幼い頃、まだ政宗ではなく梵天丸と呼ばれていた頃に、よく訪れていた。
 納屋の戸を開ければ、野良着姿の屈強な男が振り向いた。
「政宗様」
 穏やかに微笑む彼は、戦場では竜の右目と呼ばれる軍師であり、武将でもあった。
「いかがなさいました」
 収穫を終えて、農具を片づけている所らしい。ぴしゃりと納屋の戸を閉めて、体ごと振り向いた小十郎の腰に腕を回し、肩に顔をうずめる。
「政宗様?」
 鼻孔を通じて、脳が小十郎の匂いに支配をされた。深く、もっと胸深くにそれが欲しくて、政宗はゆっくりと体内の空気と、小十郎の香りを入れ替えていく。
「どうされたのですか」
 ぽん、と大きく節くれだった小十郎の手が、政宗の髪に触れた。
「暑い」
「なれば、こうしておられたら、余計に暑いでしょう」
 ひきはなされまいと、政宗は小十郎の背に回した腕に、力を込めた。
 やれやれと言いたげな息が、小十郎の鼻から洩れる。
「なつかしいですな」
 こうして、よく人目を忍んで小十郎に甘えた。伊達家を継ぐ者として、右目を失ったことから軽んじられることを厭い、誰に見られるやもしれぬ場所で気を張り続けた幼い頃の、弱さを晒せる唯一の場所は、納屋での小十郎との時間だけだった。
「小十郎」
「は」
 首を伸ばし、顔を寄せて唇を重ねる。
「暑い」
「表に、川で瓜を冷やしてあります」
「体が、たわんじまいそうだ」
「ですから」
「だから、小十郎。アンタで、俺の形を確かめさせてくれ」
 頬に手を添えて見つめれば、まっすぐな瞳が返ってくる。政宗の真意を確かめようとする瞳に、魂までもさらけ出す様に見つめ返した。
「なれば、しばしお待ちください。汚れを落としてまいります」
「必要ねぇよ」
「しかし」
「アンタの匂いが、すげぇする」
「ま、政宗様っ」
 襟をつかみ胸元をはだけさせ、心臓の上に唇を寄せた。
「むせ返るぐれぇに、小十郎に匂いがするのが、いいんだよ」
「し、しかし。その、土を弄っていたので、汚れていますし。汗もずいぶんとかいてしまって」
「だから、イイんだろう」
「っ、あ、政宗様」
 逃れられてはかなわぬと、半袴の裾から手を差し入れて、まだやわらかな小十郎の牡を掴み、みっしりとした胸筋に色づく箇所へ、舌を伸ばす。吸いながら舌で転がし、手の中の牡を揉めば小十郎が喉奥に息を詰めた。
「っ、ふ、ん、ぅう」
「声、聞かせろよ。ここなら、ぞんぶんに叫んでも誰にも気づかれねぇだろう」
「ぁ、は、しかしっ、んっ、ふ」
 手の中の小十郎の熱が硬くなり、胸の尖りがしこった。下帯の横から手を差しこんで先端を捏ね、尖りに歯を立てれば
「んはっ、ぁ、はぁう」
 小十郎の太ももが、わななく。力の抜けたスキを突き、肩で小十郎を押せば彼の背は簡単に壁に押し付けられた。そのまま、攻め続ける。
「はっ、は、ぁ、ま、さむ、は、はぁ」
「こんなになっちまったら、後はもう、出すしかねぇよなぁ」
「ぁ、は、ぅうっ、んっ、ま、さむっ、ぁ、おまち、くださ、ぁ」
「待てねぇよ」
「ひぅっ」
 ぐり、と爪を立てた小十郎の牡先は、欲の香りの蜜を溢れさせていた。
「小十郎。Let me check existence with your body」
 低くささやく声と共に、小十郎の耳に舌を差し込む。ぶるりと震えた小十郎が、政宗の肩を掴んだ。
「ぁ、は、政宗様っ、あ、逃げません、からぁ、一度、放し、っあ」
 快楽に潤んだ小十郎の目じりに唇を寄せ、政宗が手を離す。はぁ、と息の塊を吐き出した小十郎が、頬を朱に染めながら軽く頭を振り、裸身となった。
「汚れては、戻るに戻れなくなりますから」
 促され、政宗も身を覆う全てを取り去る。
「ご自身の形を確かめられたいのであれば、無用な者は全て、お外しください」
 小十郎の手が政宗の右目に――眼帯に、触れた。
「Ah、そうだったな。アンタの前じゃあ、これは必要ねぇ」
 ぐい、とそれを取り去れば、小十郎が政宗の顎を掴み頭を包み込むように腕を回して、虚となった右目に唇を寄せた。
「どうぞ、ごぞんぶんに私で貴方様の形を、ご確認ください。そして、この小十郎に、貴方様の右目であることを、お教えください」
 傘成る唇の隙間からこぼれた声を、想いを受け取るように、政宗は唇を押し付け舌を伸ばし、小十郎の口腔を貪った。
「ふはっ、んっ、は、ぁあ、ぅふ」
 互いの腰に、欲の徴が触れて擦れる。それをすりつぶす様に足を絡め腰を揺らし、互いを抱きしめて呼気を奪い合う。
「ふっ、んふ、は、んむっ、ぁ、はぁ、は、はぁ、政宗様」
「ああ、小十郎。今すぐにでも、アンタを貫きてぇ」
「できうることなら、私も同じ気持ちですが」
「まさか、こんなところで止めろとか、言うんじゃねぇだろうな」
 目を眇めた政宗に、小十郎が羞恥を浮かべる。
「いえ。このような状態で止められては、その、私も辛うございますので」
「なら、なんだ」
「その。解さずに結合をするのは、さすがに苦しく。ですので、政宗様をお待たせさせることになるのですが、その」
 目を逸らして瞼を伏せた小十郎に、政宗が目を丸くした。
「――HA! Ok,そうだな。たっぷりとやわらかく解してから、繋がらせてもらうぜ」
「っ、う」
 思いがけぬ小十郎の様子に、政宗が上機嫌で唇を寄せる。
「そのかわり、たっぷりと確かめさせてもらうぜ? この俺を、アンタでな」
「どうぞ、ごぞんぶんに」
 唇を重ね、ゆるゆるとした愛撫がはじまる。そしてそれは獣の息へと変化し、身をくねらせ天に上る竜の咆哮となって、たわんだ分厚い夏の気配を寄せ付けぬほどの熱を発した。

2013/8/17



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