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甘いワナ
 ――どうかしている。
 そう、自分は今、どうかしてしまっている。
 小気味よい、漬け物をかじる音が耳に届く。咀嚼のために動く唇に、上下する喉仏に、目を奪われる。
 知らず、息が淡く洩れた。
「Ah――なんだよ小十朗。小言でも、あんのか」
「いえ、何も御座いません」
 納得していないような目をしながらも、政宗は食事を続ける。全て平らげ箸を置いたのを見て、すぐに膝を進めて膳を脇へやると、指が目の前に差し出された。ごくり、と喉が鳴る。
 ――本当に、どうかしている。
 その指に杯を乗せ、酒を注ぐ。ゆっくりと唇へ移動する杯に、飲み下される酒に、羨望のような、嫉妬のようなものを感じている自分が居た。
 思春期のただ中であれば、そのようなこともあるだろう。だが、自分よりも年若の、しかも主に、薄皮一枚で抑えているものを、自ら曝す訳にはいかない。
 ――まったく、俺としたことが。
 なんてことのない、いつもと変わらぬ所作だった。政をしている最中、ふと墨に伸ばされた指先に、背を羽でなで上げられたような甘やかなものを感じた。
 三日前のことだ。
 それから、主の一挙手一投足に、背骨に欲が溜まっていく自分を、持て余していた。
 治めようと、自慰をしても事後に虚しさを感じるのみで、飢えは渇かない。政宗を見ていなくとも、脳裏に自分を見出す指先が浮かび、目の前にしては、その指をこちらにと望んでしまう。
 主が求めていないのに、望むわけにはいかない。共に過ごす時間は、幸福であり、苦痛でもあった。
 薄く口を開いて、政宗が息を吐いた。
「小十朗」
「は」
 名前を呼ばれただけで、体の奥が疼く。それを堪えると、憮然とした顔をされた。
「俺は、まだ未熟だ」
「は?!」
「だがな、度量が小せぇつもりは、無ぇ」
 話が読めない。
「言ってみろよ。気づいて無い、とでも思っていたか」
 唇を引き結ぶ。深く平頭すると、不機嫌な視線を背中に感じた。
「申し訳ございません、政宗様。この小十朗、まだまだ未熟で――」
「だから、言ってみろっつってんだろ」
「それは……」
 狼狽える。言ってみろと言われても、どう言えばいいのか。
 そのまま、言葉が見つからずにいると、大きな溜め息が聞こえた。
「言え無ぇぐれぇ、俺はまだヒヨッコって事か」
「そのような事は――」
「なら、言えよ」
 顔を上げると、視線に射抜かれる。ずくん、と体の深い部分が躍動を始め、小十朗は意を決した。
「誠に申し上げ難いことながら…………政宗様に対し、浅ましき想いを抱えております」
 器用に、政宗の片眉が持ち上がる。
「もっと、ハッキリ言いやがれ」
「閨を、共に致したく」
「いつからだ」
「三日ほど前より」
 ふうん、と政宗が小十朗の全身を眺める。
「三日前から、俺に抱かれたかったってことか」
 答えるかわりに、再び頭を下げた。
「脱げよ」
「は?」
「抱かれてぇんだろ? なら、浅ましい姿を、見せろ」
 政宗の視線に艶が乗る。唾を飲み込んでから、立ち上がった。
「失礼致します」
 床に、着物を落とす。
「下帯も、必要無ぇだろう?」
 からかいを含んだ声に、鼓動が速まる。奥歯を噛みしめ、ままよとばかりに、一気に取り去った。
「♪〜」
 口笛に、羞恥が掻き立てられる。曝したそこは、すでに半分ほど、持ち上がっていた。
「へぇ? 見られているだけで、デカくなってってんぜ」
 拳を握り、目を伏せる。素肌に、視線が絡みつく。
「座って、足を広げて見せろよ」
「っ!?」
 驚きに目を見張る。政宗が好色そうに、笑っていた。
「余すところなく、俺に見せながら、乞え」
 下唇を噛みながら、座して、膝を立てて見せる。小十朗の中心は、へそまで反り返っていた。
「いい、眺めだな」
 かっ、と顔が赤くなる。政宗が手を伸ばし、牡の先を撫でた。
「はっ、ぁ」
 思わず洩れた声に期待が込められていることを察し、先端を手のひらで握り、こねる。
「んっ、ふ、ぁ、はぁ」
もどかしさに、開いていた膝を閉じかけると「No 小十朗」と咎められた。
「幹は、自分で擦って見せろ」
 まさかと主を見ると、冗談の気配は無い。抗議をしようにも、望んだのは自分、と自らを納得させて手を伸ばす。
「ぁ、は、んっ、ぁ、あ、あ」
 政宗に先端を、それ以外を自分で慰め、小十朗は肌を震わせる。すぐに、先端を握っている政宗の手のひらから、濡れた音がしはじめた。
「気持ちよさそうだな、小十朗」
「ひっ、ぁ、あ」
 鈴口に爪を立てられ、ぷしっ、と欲が勢いよく溢れる。それを、胸に塗られた。
「ちっと、窮屈になっちまった」
 言いながら、政宗がてらいもなく全てを脱ぎ捨てる。そそり立っている陽根に、欲が揺さぶられた。思わず手が伸び、唇を寄せてしまう。
「んっ――はぁ」
 主の、気持ちよさそうな吐息に小十郎の牡が震える。口内で更に膨らむそれをしゃぶっていると、彼の足の指が小十郎を掴んだ。
「んはっ――ぁ、まさ、むねさまっ」
「なんだよ。止めんなよ――ほら」
 思わず口を離した小十郎の頬に、政宗が牡を突き出して頬を叩く。濡れた瞳と声に、小十郎は口を開き、再び口淫を始めた。
「んっ、ふ――ぁ、いい、ぜぇ、小十郎」
「はふっ、んっ、む、じゅっ、んくっ、は、ぁあ」
 足で刺激されながら腰を揺らし、頭を上下に動かしてもどかしさから逃れるように政宗を高めていく。
「呑み下さずに、はぁ、口ん中で留めてろ…………ッく」
「うっ、ん」
 口内で弾けたものを喉に送ろうとするのを、すんでで堪える。小十郎の口内に全てを放ち終えた政宗がゆっくりと引き抜き、彼の頭をひとなでした。
「それで、自分で広げて見せろ」
 小十郎の体が強張る。
「俺が、欲しいんだろう」
 ささやくように与えられた誘惑に、眩暈がした。口を開き、受け止めた政宗の子種を掌に落とし、自らの奥まった箇所に塗りこめ、ゆっくりと指を埋めていく。
「ぅ、く――ふ」
「それじゃ、見えねぇぜ小十郎。こっちに尻を突き出して、広げろよ」
 ごくり、と小十郎の喉が鳴った。眩暈のようなものが体を包み、劣情が撫で上げられる。そろりと床に這い、政宗に向けた尻を上げ、足を広げ、自らを指で探る。
「は、ぁ、あ、あ」
 ゆっくりと広げ、指を増やし、無意識に揺れる腰を抑えようと足に力をこめると指を締め付けてしまう。その刺激を堪えているのか、求めているのかわからなくなりながら広げ続けていると
「いい、眺めだな」
「っ――!」
 政宗の指が、尻をなぞった。期待に震えると、いきなり腰を鷲摑まれて指を抜く間も無く挿入された。
「がっ、ぁ、いぅ、く、ふ、ぁああっ」
「ッ――さ、すがに、き、ちぃ、な」
 笑いを含んだ苦しげな息遣いが、耳にかかる。耳裏を舐められ、きゅう、と内壁が収縮する。そのまま、政宗は小十郎をかき回した。
「はっ、ァ、ひ、ま、さむ、ねさまっ、あ、ぁあっ、ぁ、あ、ああっ、あ」
 政宗の動きを追うように、腰が動く。自分の指を食ましたまま穿たれる刺激は、脳の芯に普段異常に政宗の牡を意識させた。
「す、げぇな」
「ひぃ、ぁあ、はっ、ぁうっ、は、ぁああ」
 政宗の手が、跳ね回りながら欲を撒き散らす小十郎の牡に触れ、先端に爪を立てる。湧き上がる熱のうねりが体を、思考を支配して逃げ場を失う。
「ンひっ、ぁ、ああ、く、ぉああっ」
 だらしなく舌を出し、涙をこぼす小十郎に劣情が掻き立てられる。ガツガツと乱暴にかき回し、ぎゅう、と強く絞られて政宗は小十郎から引き抜いた。
「はっ、ぁ、あああ――――ッ」
「くっ、ふぅ」
 自分の指を強く締め付けながら放つ小十郎の尻に、政宗の子種が降りかかる。震えながら放つ小十郎の尻を叩き、彼の指を抜いた。
「強請れよ。小十郎――――何が、欲しい」
 気だるげに、小十郎が体を政宗に向ける。欲に濁りきった瞳に、政宗は唇を舐めた。
「政宗様の、すべてを――この、小十郎のナカに、注いでいただきたく」
「OK 来いよ――飲みきれねぇぐれぇ、注いでやる」
 胡坐を描く政宗の上に覆いかぶさった小十郎の、乱れた髪をかきあげて口付ける。
「Party on――――OK?」
「はっ、ぁ、ぁああああっ」
 欲の海を、二匹の竜が舞い踊る。

 泥のように眠る小十郎の頬に指を滑らせてから、政宗は立ち上がる。文箱を開け、小さな壷を取り出した。
「一滴で、ここまでとはな」
 ちら、と眠る小十郎を横目に映す。
「素直に、この俺を求めねぇのが悪いんだぜ? 小十郎」
 軽く、小さな壷に唇を寄せて大切にしまいこむ。再び小十郎の横に戻り、首筋に鼻先をすりつけ、瞼を閉じる。
 夜明けまで、まだ、猶予があった。


2011/09/17



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