宵闇を、薄く灯明がにじませている。 ほろほろと酒を飲む政宗の横に、小十郎が座していた。 常の装束ではない。袴姿である。 政宗の盃が空くころに、そっと徳利を持ち上げて、それを満たしていた。「小十郎」 満たしているところに声をかけられ、伏しかけていた目を上げると、星のひとつでも捉えたかのような瞳が見えた。薄く笑った唇が、音を出さずに再び名を呼ぶ。 わずかに首を傾けると、くい、と盃を空にしてから襟を掴まれ、唇を押し当てられた。 唇が繋がったまま、上向かされる。従うと、促すように舌先が唇をつついた。酒のにおいが鼻をくすぐる。 意図を察し、唇を開くと舌とともに液体が注がれる。「んっ、ふ……」 政宗の口の端からこぼれたものが、小十郎の顎を濡らす。角度を変えながら何度も重ねた唇が、舌が、小十郎の肌に流れた酒を追い、のど仏に触れて甘える。「は……ぁ」 ゆるゆるとゆらめき立つ劣情に、吐息が漏れた。目を細めた政宗の手が、着物の合わせ目に差し込まれ、みっしりとした胸筋の上を滑った。「政宗様――――」 顎を上げたまま、目線だけを向けてくる相手に、いたずらっぽい光を向ける。すべらかな肌にある突起に触れると、指の腹で押しつぶすように捏ねた。「ッ――ぁ」 小十郎が、小さく呻く。「Oh――Sensual voice」 うっとりとした主の声音に、背骨がぞくりとする。手を伸ばし、肩口にある髪に触れた。そっと撫でると、猫が甘えてくるような仕草で額を擦り付けてくる主に、愛おしさが滲んでくる。「ん、小十郎」 眠りにつく直前の、甘えるような呼びかけに目を細める。どちらともなく唇をよせ、啄ばみ合っていると、袴の隙間に政宗の手が忍び入り、下帯ごと小十郎の牡を掴んだ。「んっ、ぅ――は、ぁあ」 持ち上げるように揉むと、すぐにそこは凝り始める。小十郎の息に甘い熱がこもりだし、それが口腔を伝って政宗に伝染していく。「ぁ、あ――ま、さむね、さま」「んっ、小十郎…………」 ゆるやかな愛撫に、互いの頬をすり寄せ合う。打ち寄せては引く快楽の波にさらされて、意識がとろとろと零れていく。 熱い息を吐き出し、理性が消え去り、政宗の中心にも熱が集まる――――。「――――政宗様」 促すように名を呼ぶと、下肢にある手が先端を掴んで捏ね回し始めた。「んっ、はっ、はぁ、ぁ、ぁあっんっ」 額をあわせ、目を伏せて短い声を上げる自分の右目を、面白そうに見つめる。 この男が――頑なそうなこの男が、どのようにすれば熱く乱れるのかを、政宗は熟知していた。――その姿が、どれほどに自分の欲を掻き立てるのかも。「もっと、ほら……乱れて見せろよ――――強請れ」「ぁ、そのようなっ、こと――は、ぁあ」 堕ちかけているというのに、どこかで踏みとどまろうとする。その姿が、どんなにそそるかを知っていて、わざとしているのだろうかと疑うことがある。――もっと、前後不覚になるほどに乱されたいと、望まれているように錯覚する。そうではないと、わかっているのに。「んっ、ぅ……は、ぁあ――――」 下帯が湿り、政宗の手にそれが伝わる。薄く開いた唇から、ひそやかに発せられる声。伏せられた瞼が睫を震わせている。 この男が、自ら求め、すがりつく姿が見たい――そう、思った。「――――筆頭」 小十郎に支配されかけた意識が、部屋の外に現れた気配と声に引き戻される。自分と同時にハッとした小十郎が体を強張らせ、息を潜める気配を感じながら声をかけた。「どうした」「――西に、不穏な動きが。先に片倉様にご報告をと思ったんスが、いらっしゃらなかったんで、筆頭のところへ参りました」 ちら、と目を向けると、唇を噛んだ小十郎が深い呼吸をしながら体の熱を押さえ込もうとしている。その姿に、暗いものが浮かんだ。「――ッウ」「Ya――入れ」 ぐっと手の中にあるものを強く掴んでから離し、声をかける。離れて座した小十郎の頬は、まだ上気していた。常よりも少し膝を開いて正座をしている姿に、心の奥で笑みを浮かべ、すらりと襖を開いて入ってきた者に目を向けた。 小十郎の姿を目に留めて、納得したような顔をした者が胸元から報告書を取り出し、まずは小十郎へ差し出す。しかつめらしい顔で受け取った小十郎がそれを開くのに、覗き込むような格好で政宗が傍に寄った。「――ッ」 わずかに息を呑んだ小十郎に、報告に来た者が表情を硬くする。覗き込む政宗の肩が、小十郎の肩に触れた。「暗くて、見えづれぇな」 身を触れ合わせる理由を口にした政宗が立て膝になり、それで隠した小十郎の袴の隙間から手を差し入れ、下帯の隙間に指を入れて尻の割れ目をなぞる。咎める小十郎の視線など意に介さず、小さな窄まりを小刻みに押すと、キュ、と双肉が指を挟んだ。「――大体はわかったが、これだけじゃ何とも言えねぇな」 顔を上げた政宗に、斥候が巻物を取り出し地図を広げた。「このあたりに――」 説明を始める手元を覗き込むように腰を浮かせ、政宗から体を離し、指から逃れた小十郎に目を細める。「――――らしくねぇぜ、小十郎」 むざむざ弱点をさらすような格好になるなんて、な――と自分にしか聞こえない声で呟き、小十郎の背後から地図を見る。「このあたりで、妙な集団が――」「ッ――ぅ」 小さく呻く小十郎に、斥候が目を上げる。なんでもないと表情で示し、先を促す小十郎の袴の裾から政宗の手が入り込み、窄まりに指を呑まされた。「人数は、どのくらいだ」「確認できている時点では――」 ゆるゆると、指が動く。その度に下帯が引かれ、はちきれそうなほどに膨らんだ牡が圧迫され、開放され、もどかしい疼きが体中を支配し始める。「――――ッ!」「か、片倉様……?」「な、んでも……無ぇ」 政宗の指が、肉筒に爪を立て、強く押し、なぞり、広がった分だけ指を増やす。息を呑み、荒ぶりそうになる呼吸を必死に押さえ込む小十郎の様子に、さすがに異変に気づいた者が何かを言いかけたのを、政宗がいたずらっぽい笑みで制した。「ほかに、気づいた事はあるか」「――ぁ、はい、えぇと」「ふっ、く、んぅ」 あわてて、気づかぬふりを装いつつ説明を続ける斥候が喉を鳴らす。――――必死に快楽に耐える小十郎が、眼前にある。あの小十郎の顔に、劣情が滲んでいる。「なんだ、それの報告が出来ないんなら、現状報告をしてみせろ」「はっ――え、げ、現状……って、筆頭――えっ」 困惑する斥候に、ニヤリとしてみせて目線を小十郎に向ける。理解をした斥候に欲が滲むのを見取り、政宗は内壁を探る動きを猥らに変えた。「んっ、ふ、く――ッ、ぅ」 眉根を寄せ奥歯を噛んで耐える小十郎は、咎める余裕も無いらしい。だんだんに官能の色を隠しきれなくなる姿に、斥候は熱い息を吐いた。「片倉様が――すげぇ、いやらしい顔して……報告どころじゃ、無ぇです」 ため息交じりの言葉に、はっとした小十郎の口に政宗の指が入る。上下とも口を蹂躙され、小十郎の瞳が濁る。「ふっ、ん、ぁ、ぉんぅ――」 政宗の指を噛まないようにすれば、声が抑えきれなくなる。喉の奥でなんとか留めようと身に力を込めるのを狙ったかのように、政宗は彼を一番乱すことが出来る内壁の一部を、引っ掻き回した。「んはっ、ぉんぅうううっ――か、はぁあっ」 こらえきれずに吼える小十郎に、斥候が大きく喉を鳴らす。口にあった手を離し、やはり袴の隙間から差し入れて震えながら漏らす下肢に添えると、うっとりとした音を小十郎が奏でた。「はっ、んぁ、ぁ――」「おいおい、小十郎……目の前に誰がいるかわかって、そんな声出してんのか」 消えかけた理性が、小十郎に戻る。自分に好色そうな顔を向けている部下の姿に、強張った。「ぁ、み……見るな――報告が、終わったんなら――はっ、んあぁ」 平静を作ろうとした声が、政宗の手淫であっけなく乱される。牡の先端を握りこまれ、内部をぐるりとなぞりながら広げられ、湧き上がるものを押さえ込もうと床に着いた手を強く握り締める。「片倉様の下肢が、どんなことになってんのか、すげぇ……見てぇ――」 斥候の言葉から逃れるように顔を背ける小十郎の尻から指が抜かれ、裾をまくった政宗のイチモツがあてがわれた。「めったに、見られるモンじゃねぇぞ――この俺に挿れられて、善がる小十郎なんざ………………見てぇか?」「――すげぇ、見たいっス」「ごっ、ご冗談を――政宗様、戯れはッ」「It is not a joke」「ヒッ、んっ、ぁ、ぉおおおっ」 政宗の腰が、小十郎に重なる。床に額をすりつけて堪える小十郎に、二つの淫猥な視線が向けられた。「顔――見たいです…………すげぇ、見てぇ」「Ok」「や、ぁっ、やめ――ッ」 政宗が、小十郎の肩を引いて自分の膝の上に座らせる。顔を背ける小十郎を覗き込むように、斥候が身をかがめた。「片倉様、そんな顔するンすね――すっげぇ、俺……興奮してきたッス――着物の下、どうなってんのか知りてぇ」「ぁ、あぁっ、見るな――見るんじゃ無ぇッ――はっ、ぁ、んぅうっ」「ひくついて、いつもよりずっと絡み付いてるぜ、小十郎――見られて、感じちまうようなヤツだとは、思わなかったな」「や、違――政宗様、もっ、後生……なればっ」「濡れた音が聞こえるのは、どっちからなんスか、筆頭」「Ah――ちんぽから、ずっと漏らしっぱなしだからな……ぐちゃぐちゃだぜ?」「ふ、あぁあっ――――」 牡の先を包んでいる手を持ち上げると、小十郎の腰が前に突き出すように動く。斥候の目がそこに動き、顔を近づけられた。「あぁ――湿ってんのが、わかります。片倉様――すげぇ牡臭ぇ……」「ぁ、あ……やめ、ぁ、顔、近づけんな、ぁあっ」「なぁ、小十郎――乳首もすげぇ勃ってんじゃねぇのか?」「はっ、んはっ、ぁ――ま、さむ……さまっ」 着物の合わせ目から、政宗の手が入りまさぐる。「安心しろよ――肌を晒すつもりは、無ぇ」「なっ、なれど、こ、このような……ぁ、ぁあっ、ぁ」 政宗の手淫が、腰の動きが、乱暴なものに変化する。斥候が、小十郎の下肢のにおいを嗅ぎ、熱い吐息を漏らした。「すげぇ――片倉様が、こんな淫乱だったなんて知らなかったッス」「やっ、は、ぁあっ、違――ぁ、ん、ぐ、ふっ、は、ぁふ」「違わねぇだろう? 見られて、いつもより興奮してんじゃねぇか」「はっ、や、ぁあっ、違――ぁ、ぁあっ」 中途半端に残った理性が射精を留め、より深く小十郎を追い詰める。乳を、牡を、内壁を同時にかき乱され、着衣のまま乱れる姿を見られている――全てが、小十郎を陵辱し、蹂躙し、飲み込んだ。「ひはっ、ぁっ、ぁあぁあああああ――――ッ!」 大きく仰け反る小十郎が、部屋中に牡のにおいを撒き散らしながら、注がれた政宗を飲み干す。「Ok Good――はぁ……だがな――まだ、終わりじゃ無ぇぜ」「っ――――やめっ、ぁあ」 小十郎を床に這わせ、先ほどよりも強く穿ち、自身の放った液を内壁に塗り込める。それを見ながら小十郎の眼前で、斥候が自慰を始めた。「かふっ、も、ぁあっ、ひっ、あぁ――」 抗えない波に浚われ、小十郎が獣と化す――本能のままに欲を喰らい、月に向かって、吼え続ける発情期の獣に――――。「ヒッ、ぁ、ぉおっ、んふぅうっ、ぁ、ぁああっ」 獣は、政宗に促されるままに吼え、部下の前で着衣のままの痴態を晒し続けた。 野良仕事を追え、出仕した小十郎の姿を認めた者たちが背筋を伸ばして挨拶をしてくる。「ちっす、片倉様」「おう。軍議に、遅れるんじゃねぇぞ」「もちろんッス」 朝議のために必要なものを手に、座に向かう小十郎の足が止まった。前から来る、夢の中を彷徨っているような顔の者に目を細め、一度、深く息を吐き出してから歩みを再開する。「はっ――ぁ、片倉様ッ」 相手が小十郎を見ながら、背筋を正して挨拶するのに、通りすがりながら低く、鋭く言う。「昨夜のことは、忘れろ――いいな」「へっ、あっ、そのっ――」 何かを言いかける相手の言葉を待たず、速度を上げて離れる。脳裏に浮かぶ情景と、体内にくすぶる、常とは違う劣情を振り切るように、人目の無い場所で頭を振り、息を吐いた。「――――ッ」 自分の中にあった、下卑た淫猥さを自覚しながら…………。2011/04/01