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陰―政宗
  暗闇の中、伊達政宗は立っている。――――立っているような感覚がしていた。何もかもが暗く、黒く塗りつぶされていて、平衡感覚が無い。地を踏んでいる感覚も無い。
――――ここは、一体。
 何処なのか。そう思っていると、声が聞こえた。
――――若き竜。蒼き竜よ。
 直接脳内に響く声は、ぼやけてにじみ若い男の声とも、年老いた者の声とも思える。呼びかけにすぐに応えず、政宗は目を伏せた。――視界の全てが黒かったので、目を開けていた感覚も薄かったが。
――――天を裂く爪が欲しいか。
――――天を駆ける爪が欲しいか。
 何を言いたいのかが、わからない。夢の中にいるのではないかとおも思ったが、それにしては自分の感覚が鮮明な気がする。
「アンタ、一体誰だ」
 問いかけてみると、自分の周りで何かが揺らめいた。目を開けて、左目を周囲に走らせるが何も見えない。
――――我らは、竜の爪。
――――我らは、竜の刃。
「Ha――」
 その言葉に思い当たるものは、一つしかない。彼が振るう、伊達の宝『六爪』。それが、自分に話しかけているというのか。
「――――冗談、にすりゃずいぶんと手が込んでいるじゃねえか」
 それに応える声は無い。しばらく待つと、再び声が響いた。
――――見定めよう。
――――受け入れよ。
――――我らにふさわしい器か。
――――竜となりうる存在か。
――――求めよ。
――――屈せず。
「Ah? 何言って――――ッ」
 ぞわり、と背中につめたいものが走る。ぬるりと硬く冷たいものが足に、腕に絡んだ。
「何――?」
 目を凝らすと、腕に蒼い銀の輝きを放つヘビが絡み付いていた。足にも同様の感覚がある。着物の裾で見えないが、同じようなヘビが絡み付いているのだろう。
 腕に二匹、足に二匹――――ふわり、と首にまとわりつかれて五匹目。ゆらりと目の前の空間が揺れて、闇が凝り人の形になった。
「アンタが、六爪目か」
 口の端を弓なりにして鋭く視線を刺すと、目の前に現れた人の形をしたものは表情の欠落した目のまま、政宗に手を伸ばし着物の襟を落とした。
「何を、するつもりだ」
 再び、同じ言葉が脳内に繰り返される。
――――見定めよう。
――――受け入れよ。
――――我らにふさわしい器か。
――――竜となりうる存在か。
――――求めよ。
――――屈せず。
 人型のものの手が政宗の眼帯を落とし、空洞の瞳に唇を寄せる。振り払おうとする政宗の体は何かに戒められており、動けない。顔を背けることすらできず、ぞろりと舌が這うのにまかせる。
「クッ――――何ッ」
 それを合図としたように、五匹のヘビが政宗の体を這い回る。ぞろりぞろりと腕に絡み、太ももに絡み、首に絡むヘビが頭をもたげて彼の口内に頭を入れた。
「んぐっ――――ぉ」
 ざりざりとしたものが口内を蠢き、上あごに甘く擦り寄る。ヘビの細い舌が政宗の舌をくすぐり、唾液が口に広がる。喉の奥まで犯されて、飲み込むことがままならない。顎をつたって落ちたそれを、人型は指でぬぐいながら右目に舌を這わせ続ける。
「んふ、む―――――っ」
 蛇の感覚が、足の付け根に迫っている。ぐるりぐるりと巻きつきながら登ってきた足のヘビらは鎌首をもたげ、政宗の雄にチロチロと舌を当てた。
「若く、猛っているな」
 頭の中ではなく、瞳にある唇から声が洩れる。見ても居ないくせに、触れても居ないくせに正宗の体の変化を言う相手をにらみつけると、蒼い瞳に自分が映っているのが見えた。
「すべては、我の瞳」
 政宗の出さない声が聞こえたように、人型は答える。ちろり、ちろりと二匹のヘビがに淡く触れている政宗の雄は硬く興り脈打って天を指していた。
「もどかしいか――――もどかしいのだろう」
 抑揚の無い声が問う。挑むような目で笑うと、目を細められた。
「――――それでいい」
「は……う…………」
 ヘビが一匹、政宗の雄に絡みつき口を開いて先端に噛み付いた。舌が細い管に差し込まれ、出口をふさぎながらウネウネと体を強く弱く動かして政宗の精を絞り上げてくる。残ったものは双丘の隙間に入り込み、肉の狭間で踊りながら硬く閉ざされた口に甘えるように舌を伸ばしてきた。
「ぅ、おふ――――ん、あぁ」
 腕のヘビはわき腹を這い、胸を這い、咲く前に色濃くなった蕾を中心に舞う。口内のヘビは飽きもせず、政宗の口内で戯れていた。肌がわななく。もどかしさに、足も手も指を握り締め絶える。――――屈することを、全身で拒絶する。
「ふむ――」
 人型が言い、両手で尻をつかまれて割られた。広げられた先にある奥への入り口に、待ち焦がれていたようにヘビが入り込む。
「あぐっ――――ぅう…………お、ぁ」
 口内のヘビが零れそうなほど口を開き、目を見開いて体をそらせる。異物感に吐き気を催すのに、他のヘビが与えてくるものに痺れるような疼きが腰を揺らめかせる。出口をふさがれた雄は割れそうなほどで、逃げ場の無いものが体中を駆け巡る。体内のヘビのウロコが内壁を擦り、それが蜜のような痺れを生みだし政宗の意識を奪おうとした。
「うう――――っ、あ―――ッ」
 生理的に溢れる涙に滲む視界。その先に様子を伺うような人型の顔を見て、政宗は目に力を込めて口内のヘビを噛み千切った。
「っ――!」
 人型が目を見開くのを、勝ち誇った笑みで見ながら口内のヘビを吐き出す。
「Ha――上等だ。この俺を飼いならそうってんなら、やってみな」
 体にまとわりつく蛇の全てが動きを止める。人型は、ゆっくりと笑みを浮かべつぶやいた。
「――――それでいい。我らに屈せず、受け入れよ」
「ッ――――あっ――クッ、あぁあああ…………」
 全てのヘビが、政宗の肌を、熱を、精を、抉り、捏ね回し、追い上げ喘がせ脳髄までも甘く痺れさせた。

 暁を覚える前に、政宗は静かに瞼をあげる。世界でもっとも暗い、黒い時間。一寸先も見えないはずの闇の中、政宗はまっすぐに天を見つめる。
――――蒼い六つの雷光を魂に纏いながら。



2009/10/25



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