何処までも落ちてゆく感覚に、はっと目を開く。手は、背は、床の存在を感じており(夢――か) 伊達政宗は胸を撫でおろした。 細く息を吐き、体を起こす。肌が、うっすらと冷たい汗に覆われていた。(情けねぇ) ゆるく頭を振り、顔を手のひらで覆い、ふと思いついて立ち上がった。 ふらりと襖を開けて、漆黒に沈む廊下に、ひたりと足を乗せた。 ひたり、ひたり―― 闇に竜の足跡が残る。 浸り、浸り―― 闇が政宗を包み、溶かしてゆく。 目的の場所にたどり着いた政宗は、すらりと室内の相手へ了承を得ることなく、襖を開けた。「――政宗様」 首をめぐらせた相手が、ほんの少し目を丸くして、すぐに招き入れる顔になった。 ひたり―― 政宗を捕らえようとしていた闇を、襖を閉めて引き剥がす。肌に残った暗いものを纏ったまま「小十郎」 彼の右目――片倉小十郎へ、倒れこむように身を寄せた。「いかが、為されました」 抱きとめた小十郎の顔を見ようともせず、しがみつく。「狂いてぇ」 呟きに、小十郎の眉がひそめられた。「俺を、実感させてくれ」 かろうじて音を為している息に「手荒くすることを、ご承知くださいませ」 厳かに告げたとたん「ぁうっ」 政宗を投げ捨てるように床に倒すと、衣服をはがし「ひっ、い、ぁあ――」 乱暴に牡を掴み、しごいた。「ぅ、ううっ」 無理やりにしごきながら、尻の合間に舌を伸ばし、奥まった箇所を濡らす。 時折、こうしてひどくされることを、政宗は望んだ。 始めのころは小十郎も戸惑い、遠慮もあった。けれどそれでは彼の望むものは与えられぬと知り、このように乱雑な扱いをするようになった。 自分という存在を、痛みと熱を持って確かめたい。生きていることを、実感したい。 それは、この年頃の男子ならば、一度は経験をする感覚であった。戦場に出て、恐怖よりも高揚を感じる年頃の、生への強い執着とも思えるそれは、はしかのようなものだ。 伊達政宗は、それに囚われている。 失われた母の愛が、それを強めたのか。 与えられた母の厭悪が、それを強めたのか。 多くの人に囲まれ、慕われ、彼らの命を背負う重みが――囲まれておりながら深く横たわる立場の溝が、彼の闇を濃くしていったのか。「ぁ、う、ふ、くぅうっ」 政宗の牡から、先走りが溢れ始める。それが床に落ちぬように手のひらで受け止め牡に塗りつけ、手淫の速度と妙を深めていく。「はっ、ぁ、ああう、く、ぅぁ、あぅ、っ、ぁ、ああ」 政宗がこうして狂えるのは、彼自身の前のみであった。自制をあっけなく取り去り、乱し、痛みと熱を呼び起こせる自身の右目――その存在の前のみであった。「はっ、ぁうっ、ぅ、ふ、んぅうっ」 唾液で濡れた竜孔に、小十郎の指が含まれる。強張るそれを解きほぐし、生きている実感を与えるための杭を埋め込むため、唾液を足しては指を増やし、広げていく。「ぁはっ、ぁ、くふ、ぁ、んぅう」 政宗の爪が床を掻く。床板にひっかけ、それが割れてしまうことを懸念した小十郎が、着物を脱ぎ捨て彼の布も奪い去り、背後から抱き上げた。「っ、ぁ、ああ」 政宗の手が、所在を探して背中の小十郎に触れる。「んっ、う、ふぁ」 膝の上に政宗を乗せ、空気と先走りの混ざる音を立てながら、扱き、先の窪みに爪を立て、掻き出すようにすると「ひっ、ぃぁ、ああっ、ぁ、あぉおっ」 吼える口に、指を入れた。「んっ、んむっ、ぁ、はぁ、んぉ、んっ、ぁむっ」 舌を指でつまみ、口内を犯すと吸い付いてくる。まだ早いかとも思いつつ、自身の竜身が勃ちきってしまうよりは今のほうが、と判断し、わずかに体をずらして「ぅ、く――っ」「ひぎぅ、ぁ、あぉお」 ほぐしきれていない筒へ、身を押し込んだ。「ぁはっ、ぁ、あぉ、お、ぅあ、が、ぉ」 貫かれた痛みに、呼吸を忘れる政宗の口を開かせ、首筋に噛み付いた。「ぁ、痛ッ――ぁ、はっ、はっ、ぁあはっ、ぁ」 別の箇所の痛みから、呼吸を思い出した政宗に目を細め、埋め込みきれていない自分を根元まで食ませるために、政宗の足を膝で持ち上げる。「ぁおぉおお――ッ!」 自らの重さで沈み、小十郎を根元まで飲み込む。蠢動する肉が小十郎の形をはっきりと脳に伝え「はっ、ぁ、あぁ、あぁあああッ」 政宗がはじけた。「まだ、足りないのでしょう」「ひ、ぃんっ」 放ち終える前に強く握りこみ、政宗の竜身に子種を残す。括れを掴み、先端を爪で抉れば「くっ――」 小十郎を飲み込んだ肉壁が、絞まった。「は、ぁ――政宗様」「ぅ、んっ、ぁ、もっと――ぁ、狂わせろ」「承知いたしました」 低く、静かに耳に了承を注ぎいれ「ひぎっ、ぃあ、あぁあ――ッ」 牡を掴んでいた手を離し政宗の足を持ち上げ、埋め込んだ竜身を動かした。「ぁはっ、ぁ、あぎっ、ぁあ、ぁう、ぉ、ぉお」 政宗が、獣のような声を上げ、牡から子種を吹き出しながら涎をたらす。その姿に小十郎の熱が上がり凝り、竜孔を爛れさせる。「んぁあっ、ぁ、あおっ、ひ、ひぁ、あぉおっ」「くっ、ぁ、ふ――ッ」 絡みつき、絞り上げる政宗の肉に、小十郎の息が上がる。それとともに、穿つ速度も速くなった。「ひっ、ぃあっ、こ、じゅ、ぁ、あはっ、ぁ」「ふっ、ん――政宗様……ッ」「ぁあうっ、ぁ、あぃ、ぃ、いいっ、い、ぁ」 涙と涎でぐちゃぐちゃになった政宗に唇をよせ「くっ」 ごぷ、と奥で熱を注ぎ「はっ、あ、ぃあぁあああ――ッ!」 それに追い立てられるように、政宗が精をほとばしらせた。「はひゅっ、は、こ、じゅ、ぁ、まだ――っ、まだ、だ」「無論、承知しております」「ぃ、ひぃいッ」 床に這わせ、尻を掴んで打ち付ける。 ころあいを見計らって「ふっ」「ぃあッ」 尻を叩いた。「ぁはっ、ぁ、ぁおお、はひっ、ひ、ぃい」 嬌声とも悲鳴とも取れる声を上げ、政宗が髪を乱して小十郎の熱を追い求める。応える様に、小十郎は政宗へ自分の熱を注ぎ続けた。「ぃ、ぁあ、ひっ、はひっ、ぁ、あぁあッ」「ふっ、く――ッ」 乱れきり、意識を手放す寸前、どちらともなく腕を絡め、唇を重ねた。 ふ、と瞼を上げて身じろぐと「ぁ」 大きな手のひらが髪を撫で、目をそちらに向ける。やわらかく目を細めた自分の一部が、そこに居た。「小十郎」 呟くと、抱きしめられた。「日が昇るまでは、まだ間がございます」 ささやかれ「そうか」 肩に額を摺り寄せ、鼻腔を彼の香りで満たす。「小十郎」「は」「痛ぇ」 小十郎が、笑みのような吐息のような何かを、政宗の髪に柔らかく落とした。「そうでしょうとも」「――……」「生きて、おられるのですから」「――」「こうして、生きておられるのですから」「――そうか」「はい」 ふ、と政宗の気配が緩む。彼にまとわりつき、深い泥土に誘う闇が、小十郎の手によって拭い去られた。「小十郎」「は」「お前は、俺だ」 滲んだ声に「右目と呼ばれているのは、伊達ではありませんから」 冗談めかして応えると「違ぇねぇ」 政宗が唇をゆがめ、伸び上がり、小十郎のそれに押し付けてきた。「いましばらく、ゆっくりとお休みください」「Ah――」 吐息のような声を唇に受けて、傷つくことで傷を乗り越えようとする手負いの竜を、小十郎の両腕がこの世につなぎとめる。――それは、竜が痛みを乗り越えられるまで続く、誰にも行えぬ、二人だけの儀式であった。 2012/06/25