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ツメタイカゲロウ

 ふ、と感じた気配に振り向くと同時に、首に軽く何かが当たったような感覚を覚え、次の瞬間、それが何だったのかを知るまもなく、伊達政宗は意識を失っていた。

 ゆっくりと、心地よい眠りから醒めたような感覚で瞼を押し上げる。
 目に映ったのが見慣れた天井ではなく、藁が敷き詰められた納屋のような場所で――藁の上には、暇をもてあましている事を全身で表しながら、面白くもなさそうに書物に目を落としている見知った忍、猿飛佐助の姿があった。
(――?)
 怪訝に思いながら体を動かそうとして
「な――ッ」
 ぎし、と縄が木に擦れて鈍く鳴るのと、政宗が驚きの声を発するのとは、同時であった。
 裸身で後ろ手に縛られ、足を持ち上げる形で梁からぶら下げられている。
「あ、起きた?」
 書物を閉じ、立ち上がってゆっくりと近づいてくる佐助の様子は、特に変わった様子もなく
「どういう、つもりだ」
 彼が何を考えているのかが、さっぱりとわからなかった。
「どういうって……アンタさぁ、自分が奥州筆頭で、俺様は甲斐の忍で、しかも個人的に嫌われているってこと、忘れてるとか言わないよね?」
 普段と変わらぬままに、首を傾げて言われたことに、背筋に悪寒が走った。
「俺を、殺そうってのか」
 声を低め睨み付けると
「おばかさん」
 ぴんっ、と軽い調子で額を指ではじかれた。
「そんなことしたら、アンタの右目が黙っちゃいないだろ。それに、旦那だって」
 チリ、と焦げ付くような鋭さを滲ませ
「悲しむ」
「HA!」
 笑い飛ばした政宗が
「ただの嫉妬かよ、猿」
 唇を皮肉に歪ませると
「好きなだけ、言ってなよ。アンタはもう、手の内に落ちているんだから」
 抑揚の無い声で言う佐助の影が、ざわついた。
「何をする気だ」
「竜を、堕とす。それだけだよ」
 ぶわ、と膨らんだ佐助の影が政宗の背後で立ち上がり
「――ッ!」
 わき腹をすり抜け背後から抱きしめるように、からみついた。
「怪我をさせる気も無いから、安心して」
 佐助の手が、柔らかなまま何の反応もしていない政宗の牡を持ち上げ
「針先は潰してあるから、大丈夫」
 先端から、糸の付いた布団針を挿し込んだ。
「ぁ、ぐ――」
 ゆっくりと、傷が付かないように押し込み
「よっと」
 くるくると、通していた糸で縛り上げれば
「一丁上がり」
 ふふ、と暗い声を発した。
「何を、する気だ」
 問えば、意外そうな顔をされて
「わかんない? 竜の旦那ってば、意外と初心だったとかいうオチでもいいけどさ、わかってて聞いてるんだろ」
 する、と政宗の腹を包む佐助の影が持ち上がり
「淫魔の時間にご招待……ってね」
「ッ――」
 政宗の胸に色づく箇所の、つぼみの周りをなぞり始めた。
「趣味が悪いな」
「悪くて結構。――そんな口を利いてられんのも、今のうちだから好きなだけ言えばいいよ。ま、俺様はオシゴトがあるから、帰っちゃうけど」
 目を細め、含み笑いを浮かべた佐助は政宗の鼻先まで顔を近づけ
「俺様がここにくるまで、アンタはその影に、ずっとソコだけを弄られ続けるんだよ」
 言ったとたん、佐助の姿が掻き消えた。
「安心してよ。物足りなくなったくらいに、また来てあげるからさ」
 声だけが届き、一切の気配が――政宗に触れている影を除いて、消えた。
「くっ」
 力を込めてみるが、縄はびくともしない。傷をつける気はないという言葉は、どうやら本当のようで、ご丁寧に縄と肌の間に布がかませてあり、一点に重さが集中しないよう、膝と肘の四箇所を支点にして吊るされている。
「――打つ手なし、か」
 天井をあおいで、息を吐く。自分の体に残された佐助の影は、佐助の指示したとおりに、政宗の胸の、色づいた周辺をなぞり続けている。
「楽しいか?」
 声をかけてみても、返事があるはずもなく
「Fum」
 つまらなさそうにしていた政宗だが、淡く生まれ始めた感覚に、顔をしかめた。くすぐったいような、甘さを持った感覚が、じわじわと広がり始めて下肢へ移動し、縛られた箇所がゆっくりと起き上がり始める。
「――ッ」
 まずい、と思いながら身をよじっても逃れられるはずもなく
「んっ、く――」
 虫が這うほどの速度で広がっていく甘さに、奥歯を噛み閉める。持ち上がる牡が膨らみ、内部の針を締め付け、糸が食い込み「っ、ふ――」
 その刺激が、胸にゆるゆると与えられるものから快楽を引き出していく。
「んっ、ん――」
 逃がそうにも、上手くいかない。影は、ただ無感動に政宗の乳輪をなぞり続け
「ぁ、は――ッ」
 半分ほど牡が立ち上がったころに
「お待たせ」
 佐助が姿を現した。
「ッ! てめぇ」
「おお怖! そんなに睨まないでよ。気持ちよくない?」
 くすくす笑いながら佐助の指が政宗の牡を撫で
「――ッ、は、ぁ」
 思わず漏れた甘い声に、満足そうに暗い笑みを浮かべた。
「ふふ。まだまだ、大きくなれるよねぇ」
「ぁ、は、あう――この、変態」
 毒づいた政宗にからむ影が、乳首に触れた。
「ッ!」
「今度は、そこをしっかり弄ってあげる」
 にこりとした佐助が藁の上に寝転がり
「ふぁ――ちょっと疲れたから、休ませて貰うよ」
「おいっ――ッ」
 目を閉じてしまった。
 影が、乳腺をもみこむように乳首をつまみ、捏ねてくる。
「ぁ、あは――く、ぅ」
 漠然とした快楽が、輪郭をはっきりと描き始めた。
「んっ――ん……猿――も、止めやがれっ、猿ッ!」
 聞こえていないように、佐助は少しも動かない。政宗の牡の熱がさらに凝り
「くっ、ぅう」
 すっかりと勃ちあがって震え始めた。
「く、そ」
 悪態をつくと、影の腕が分裂し
「ひっ」
 内腿を撫で始める。それは、牡に触れるか触れないかの場所で留まり
「く、ぅう」
 無意識に期待をする欲が、脈打ちながら跳ねる。
「はっ、ぁ――猿ッ、猿…………ッ!」
 ぎち、と食い込む糸が苦しいのに、それすら快楽に変換しようとする自分の意識に愕然とする。先走りすらも止められた欲が体内に逆流し、逃げ場を求めて皮膚の下をうごめいて
「ッ、猿――!」
 噛みつくように呼ぶと、うるさそうに目を開けた佐助が
「安眠妨害、しないでよね」
 言うと、また影が分裂し
「ぅ、ぐ」
 口内をまさぐりはじめた。それを確認すると、佐助はまた瞼を下ろして寝始めた。
「ふっ、ぅうん、ぐ、ぅむっ」
 口内を撫でられ、舌をもてあそばれ、牡への熱がさらに膨らんでいく。背骨に流れるものが水あめになったかのような感覚に、政宗は慄いた。
(まずい――このままじゃ)
 快楽に飲み込まれてしまう。
 けれど、どうすることも出来ず、影が触れてくるのを甘受するばかりで
「んふっ、んぅうっ、んっ、んんっ」
 身をよじっていると、細い影が尻に触れ、探り、孔を見つけて入り込んできた。
「んふっ、ぁ、はぁう、ふぁるっ、ふぁ、うぅうっ」
 口内を乱されたまま呼んでみるも、佐助は何の反応も示さない。影はするすると入り込むと、膨らんだり縮んだりしながらクネクネと動き始めた。
「ふ、ぅうっ、ふぅ、ぁお、ぉ、ううっ、ぅお、ぉあふ……ッ」
 絶妙に、内壁のツボをはずしながら蠢く影に、少しずつ広げられる。
「ぉ、んぅう……んっ、はふ、ぅ、ぅう」
 もどかしさに、気が狂いそうになる。
 皮膚を突き破りそうなくらいに、快楽が脳まで侵し始めたころ
「ふぁ――あぁ、よく寝た」
 伸びをした佐助が首を回し、政宗の姿を見て
「おはよ。ふふ――魔羅、すっげぇ痛そう」
 楽しげに近づき、手のひらで牡を包みながら
「たまんねぇだろ」
 口内に入れている影を抜き取り、涙を滲ませている政宗の目を、覗き込んだ。
「んはっ――何、ぁ、考えて」
「やらしー事」
 懐から壷を取り出し、指に絡めて
「疲れて寝た後さぁ、勃起しちゃうよねぇ」
 世間話のような口調で、液体の粘りを確認すると、孔を広げている影の横から指を差し入れ、内壁のツボを掻いた。
「ひぎっ――ッ、いぃ」
「いい? そりゃ良かった」
「違ッ、ぁは――ッ、ひ、ぁあう」
 政宗の目から、涙があふれ出る。唇を舐めた佐助が、政宗の牡を縛る糸を解き
「痛かったよねぇ」
 甘やかすような声を出して、自分の牡を取り出すと、影と指を抜き、彼の孔に突き入れた。
「ひぁっ、ぁあ――ッ」
「んっ、いい具合……ッは、ぁ」
「ぃ、ぁあっ、や、やめ、ぁッ、猿、ぅう」
「うそばっかり」
 ゆっくりと腰を振り、それと同じ速度で政宗に刺している布団針も抜き差しをして
「はっ、ぁひ、ぃあううっ、ぁ、ああぅう」
「気持ちいいだろ――クセになるなよ? なんてね」
 政宗の真似をしてみせた。
「ふ、ざけんっ、ぁ、ああ」
「まったく――可愛げが無ぇぜ、竜の旦那。ま、これからタップリ、愛玩動物にしたてあげるから、いいけどさ」
「ぁ、何――ッはぁあ」
 両腕で政宗の足をしっかりと持ち、腰を回しながら穿つ。尻にあった影が布団針を抜き差ししながら、牡に絡み付いて擦りあげた。
「ぁひっ、ひ、ぃいっ、ぁあ」
「んっ、ぁ、すご……まだまだ開発の余地はあるけど――素質あるぜ、竜の旦那」
 胸を、内壁を、牡を――筒内すらも乱されて
「あっ、ぁ、あ、ぁお、ぉ、あぃっ、いいっ、ぁ」
 髪を振り乱し、涙を流しながら身悶える政宗に
「少しだけ、達かせてあげる」
 告げて、布団針を引き抜いた。
「っ、は、ぁああッ――いぎっ、ぁ」
 やっと得られた吐精に、恍惚とした色を滲ませた瞬間、針が再び差し込まれ、中途半端に留められた。
「くっ、ぁ――すご……食いちぎられそうなくらい、締め付けてくる」
 再び、佐助の動きと同じように針が抜き差しされて
「ぁ、あぁ、も、ああ……ッ、ひ、ゆるっ、ぁ、ゆるし……ッ、達、きてぇ――ッ、は、ぁあぅ」
「いいよ。俺様が出すときに、ね」
「ひっ、ひぃいっ、ぁ、あぃいっ、ぃあ」
「ふっ、ん、はぁ――そろそろ、ぁ、出すよっ」
「ぁ、はやっ、はやくっ、ぁ、ああっ」
「ふふ――ね、竜の旦那。イクッて言ってごらん。そしたら、栓、抜いてあげる」
「ぁ、はっ、ぁあっ、い、イクッ、イク、イクいくイクいくぅうッ」
「ん――俺様も……ッ!」
 佐助が爆ぜると同時に、針を引き抜いた。
「はっ、ぁああぁああ、いく、ぅううううううッ」
 仰け反りながら佐助の牡を絞り上げ、溜まりに溜まった欲を吹き上げながら、政宗が叫ぶ。
「はぁ……はぁあ、ぁ、ああ」
 焦点の合わない目で、恍惚とした笑みを浮かべる政宗を地面に下ろし
「壊すことはしないから、安心してよ……ちゃんと、奥州筆頭でいられるようには、配慮してやるからさ」
「は、ぁふっ」
 影が、政宗の肌をまさぐり始める。
「ただ、俺様の姿を見たら――よだれ垂らして欲しがるように、するだけだから」
「ぁ、ん、はっ、ぁ、ああう」
 柔らかな愛撫に、政宗の声が震えた。
「俺様にすがって、啼きながらよがって、自分から口をあけてむしゃぶりつくくらいに、するだけだから」
「ぁ、は、あふ、ぅう」
「俺様の名前を呼んで、我慢できなくなって一人でしちゃうくらい、欲しがるように、するだけだから」
「ぁ、はぁ、あ、んっ、はぁあ」
「竜の旦那――」
 そっと、ぬくもりが政宗を包み込む。
 混濁した意識の中で
 ――愛してるよ。
 そんな、痛いほどの悲哀を含んだ声を、聞いた気がした。

2012/07/08



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