メニュー日記拍手

昔、小政アンソロに寄稿したもの

 膳を下げている侍女の姿を見止め、小十郎は眉をひそめた。呼び止め、膳を検める。
「また、政宗様は偏食をなされておいでか」
  ため息とともに紡がれた言葉が落ちた膳には、食べ残された野菜が寂しげに乗っていた。

  ほろほろと、酒を呑んでいる。酒の肴は、月光であった。
  自室で、誰に気兼ねすることもなく、政宗は杯を傾ける。
  ふと、襖の向こうに人の気配を感じて顔をあげるのと同時に、声がかかった。
「政宗様」
「Ah――入れ」
  呼んだわけではなく訪れた自らの右目と称される男に、驚く風も待ちかねた風もなく、政宗が言う。するり、と襖が開き、平服の小十郎が姿を見せた。
「酒の肴にと、お持ちいたしました」
  彼の脇には、膳が置いてある。
「Ha――気が利くじゃねぇか」
  ささやかな衣擦れの音とともに入室した小十郎は、ぴたりと、寸の間の隙間すら無くすように丁寧に襖を閉める。常よりも慎重に見えた所作に、政宗はわずかに眉を上げた。
  小十郎が、膝を進めながら膳を運ぶ裾裁きに、律しきられた官能を感じ、思わず漏れた政宗の息が杯の中に満ちた。
  側にきた小十郎に労う言葉をかけようと、膳に目を落とした政宗の唇が、言葉を発しかけたままの形で止まる。
「小十郎――俺は、ウサギになった覚えは、無ぇんだが」
「政宗様をウサギと思うたことは、この小十郎、一度たりともございません」
  大まじめに答える小十郎の真意を量りかね、強張っている政宗の様子など意にも介さず、小十郎は膳を進めてくる。
  そこには、きれいに洗われた生の野菜と簡単な調理器具が、乗っていた。
「政宗様には野菜を召し上がっていただきたく、この小十郎が端正こめて育て、また山に入りては掘り出した逸品でございます」
「Ah――――もしかして、怒ってんのか」
  先刻、野菜を残したことを思いだし、主にとて容赦なく――主だからこそ容赦なく叱責をしてくる相手を、口元をひくつかせながら見る。
「なぜ、私が怒っていると思われるのですか」
「いや――、その、なんだ」
  言ってしまえば、やぶへびになるのではないか。そのような懸念を持ちつつ言葉を濁す政宗へ、ずいと身を寄せた小十郎が素早く腕をとり、瞳を覗く。
「こ、小十郎――」
「政宗様」
  熱っぽくささやかれ、上下に動いた政宗の喉が、急激に小十郎を欲して乾く。それを見越していたかのように小十郎の唇は政宗のそれを潤すように被い、舌を入れた
。 「んっ、ふ――」
  政宗の帯が解かれ、小十郎の帯も外れる。着物を羽織ったような形で後ろ手に縛られ、足を割られ、若い政宗の肌は蜜事の記憶を呼び覚ます。
「はっ、ぁ――ずいぶんと、積極的じゃねぇか、ぁ」
「ずいぶんと、はしたないご様子ですな」
「誰の――せいだっ、は、ぁあ」
  下帯の上から触れられ、政宗の背がふるえる。常では丹念な愛撫があっての行為であるのに、いささか勝手が違っているように感じながら、解かれた下帯で両膝を、肩から吊るような形で縛られても、政宗はどこかに余裕を漂わせていた。
「ぁ、今回はずいぶんと、変わった趣向じゃねぇか」
  縛られ、足を開かれた格好で全てを晒しているのに、政宗は相手を食ったような様子を変えない。
「ええ、大変に変わった趣向で野菜を食していただく所存でございます」
  小十郎の唇に薄氷のような笑みを見つけ、政宗の背骨が冷える。発された言葉の意味が理解できずに居る政宗の前で、小十郎は白葱をタン、と小気味良い音を立てて切った。白葱を箒のような形にしていく見事な手さばきに、政宗はほう、と息をつく。小十郎の手で見事な曼珠沙華のように咲いた葱が、そっと政宗の男根に添えられる。意味が解らないというふうに細められた政宗の目が、次の瞬間、見開かれた。
「あ、おいっ――小十郎ッ?!」
  そっと亀頭をつまんだ小十郎が、鈴口にネギの中心をあわせ、ゆっくりと嵌めていく。
「ッ――!」
  滲むような異物感に息を呑む政宗の様子など意に介さず、嵌め終えたそれを固定するよう、糸でくびれ部分に葱を縛る。行軍の折の馬印のような様相になったそれに、満足そうに目を細めた小十郎が、次に手にしたのは自然薯であった。それを丁寧に、すり鉢で擂っていく。
「こ、小十郎――」
  静かに、黙々と行う小十郎の様子に、ますます背骨が冷たくなる。それとは裏腹に、政宗の男根は熱を持ち、ぷるぷると震えていた。やがて擂り終えた自然薯の粘りを確認するよう、匙で持ち上げた小十郎が柔和に目じりを細め、政宗へ顔を向ける。
「政宗様には、しっかりと滋養をつけていただかなくては」
「ちょ、待て――何をする気だ……おい、ちょッ」
  持ち上げられ、開かれた政宗の双丘の奥にひっそりと咲く菊花へ、とろりとしたそれを注ぐ小十郎の目は慈愛そのもので、彼が冗談でしているのではないと示してくる。ぬめりのあるそれが注がれるのを、奥歯を噛み締めて耐える政宗の仰け反る顎に、全てを注ぎ終えた小十郎の唇が触れた。
「政宗様」
「はっ、ぁ、あ」
  くち、と小十郎の指が政宗の孔を探る。その声が、息が、艶めいたものになっていた。
「沢山、召し上がられましたな」
「んっ、ぁ、あ――こじゅ、ろぉ」
  政宗の牡が跳ね、葱の隙間から先走りが零れ出る。それに目を細め、唇を寄せて軽く口付けた小十郎が次に手にしたのは、人参だった。皮を取り去り、彫刻をするように小刀で削っていく。すぐにそれは、棒きれのような形に変わった。削り取った部分は細切れにして、一つまみ政宗の口に運ぶ。
「んっ――甘ぇ」
「丹精こめて育てた野菜は、甘くなるのですよ、政宗様。どうぞ、御存分に味わってください」
「ッ、小十郎――」
  細切れをまず菊花に食させ、栓をするように棒切れにした人参を食ませる。それを動かすと、ぬちゃぬちゃと下口が音を鳴らした。
「音を立てて食されるのは、行儀が悪うございますな」
「はっ、あ、それは――んっ、ぁ、はっ、あ、あぁ」
  人参を動かす小十郎の手が乱暴になる。脈打つ牡から、乱される箇所から、粘りのあるものが溢れてくる。それらを小十郎の舌が丁寧に拭った。
「ふはぁ、あ、ぁあっ、こじゅ、ろぉお」
  もどかしそうに、政宗の腰が揺らめく。疼く内壁が、むず痒さを訴えている。
「こんなに美味しそうに食されるお姿は、初めて目に致します」
「ひっ、んぅうっ、ぁ、ぁあ」
  もどかしく、舌が敏感な箇所を撫でる。それより先の快楽を知っている体は戦慄き、脳髄が痺れるような甘さを訴えてくる。
「ああ、政宗様……もっと、食されますか?」
「え、ぁ……も、もぉ、いらねぇッ」
「そう遠慮なさいますな。まだ、こちらの口には、入るでしょう」
  小さな子どもに言うような声音を発する口元は、柔らかくほころんでいるのに目が笑っていない。恐怖とは違う甘やかなものが背筋に走り、政宗は当惑した。
――何かを、期待してるってのか……こんな、こんなザマだってのに。
  小十郎が手にしているのは、丸々と育った、見事な蕪だった。それを賽の目に刻んでいく。
「さぁ、食べやすく致しましたよ」
  人参が抜かれ、つぷり、と蕪が押し込まれる。次々と呑まされるそれは、身じろぐたびに先に食(は)まされた人参の細切れと共に、内壁をゴロゴロと刺激した。
「んっ、ふっ、ふんっ、ぁ、ああっ――もぉ、腹、いっぱ……食え、ねぇからっ、ぁあ」
  じゅくじゅくと、政宗の孔から細切れの人参と自然薯があふれ出る。それに再び棒切れの人参で栓をしてから、小十郎は猛る自身を取り出した。
「満腹では、こちらは、召し上がれませんな」
「――ッ!」
  目の前に差し出されたソレが、どれほどの質量と熱を持って自分をかき乱すのかを思い出し、政宗が喉を鳴らす。
「く、ぅ」
「何か、仰られましたか」
「それは、食うッ」
  なんとか体を起こそうとする政宗を手伝い、自分の股間に顔を伏せるような体勢にさせた小十郎は、いっそう柔らかな声を発した。
「どうぞ、御存分にお召し上がりください」
「ッ、違う――そうじゃ無ぇ」
  問うように首をかしげる小十郎に、ギリ、と歯を食いしばってから政宗は目の前の陰茎にかぶりついた。
――欲しがらせてやるッ!
「んむぅ、んっ、ちゅ――はふ、じゅるっ」
「ああ、そのように頬張られては――はっ、ぁ」
  小十郎の声が擦れ気味になっている。それに気をよくした政宗は、喉の奥にまで飲み込み、吸い、顔を上下させて口腔全てを使って愛撫した。
「んっ、は、ぁああっ、んむっ、はっ、はぁ」
  それを邪魔するかのように、小十郎が人参を動かす。負けじと応戦する政宗だが、どうあがいても不利な状況であるのに変わりなく、それどころか痛いほどに張り詰めた箇所が内部に差し込まれている葱の刺激に、射精感とは別の誘惑を昇らせはじめ、困惑した。
「ぁ、も、小十郎ッ、もぉ――」
「もう? この小十郎に、わかるように仰っていただけますか」
――a palpable lie.
  心の中で舌打ちと共に呟きながらも、従うより他はないと知っている。何より、体がもう、限界だった。
「ぁ、ぁあ――もぉ、イキてぇっ」
「仕方がありませんな」
  わがままを言う子どもを相手にしているような様子に、カチンとしつつも手が下肢に伸びたことに安堵する。そっと触れた指が、糸を解き葱を引き抜いた。
「はっ、ぁ、ぁあああ」
  葱を追うように、腰が動く。全て抜かれた場所は、何かを求めるように震え、これ異常ないというほどに立ち上がっていた。
「おかわいらしい」
  ため息と共に呟かれた言葉に、羞恥する。それもつかの間で、すぐに与えられた手淫に、政宗は顎を反らした。
「はっ、ぁあ、ぁ、こじゅっ、ぁ、ぁあっ」
  身をくねらせて求めるたびに、体内の野菜が彼を犯す。力むと零れ落ちる蕪を手にした小十郎が、眉根を寄せた。
「ああ、いけませんな」
「え――ぁ、ひっ、ひぁああっ」
  小十郎が、菊花に唇を寄せ舌を入れてかき回し、そこにあるものを吸い出し、租借する。その感覚に、音に、状況に、政宗は気を失いそうなほど高ぶった。
「やめっ、ら、らめぁ、ひ、ひぅうっ、こじゅっ、らめっ、ぁ、はぁあああっ」
  ぷしっ、と決壊の音がしたかと思うと、とめどなく噴出させる政宗を絞るように、小十郎は更に指を絡ませた。
「ひんっ、ひぅうっ、や、ぁ、と、止まらねっ、ぇあぁあっ」
「こんなに漏らされて――なんと、はしたない」
  嘲りと淫蕩を交えた吐息に、政宗の内部から湧き出る疼きはとめどなく床を濡らす。理性と言う箍すらも決壊させた政宗が、目じりに涙を滲ませて懇願した。
「も、尻――疼いて……こじゅ、ろぉ、はやくっ、ぁ、ぁあ」
  全身をくねらせ、自ら大きく足を開いて尻を突き出す姿に、小十郎の喉が上下する。手の戒めを解くと、首にすがり付いて跨る政宗が、腹に股間を擦り付けてきた。
「まったく――はしたないと申して」
  小十郎の小言は、政宗の口付けで中断させられた。
「も、自分で、食うから――いい、ぁッ」
  片手で小十郎にしっかりと抱きつきながら、もう片手で彼の牡の根を捉え、菊花にあてがうと腰を沈める。
「ひっ、ふぅうぁぁっ、ぁんぅうっ」
「くっ、政宗様ッ」
  ぬちゅり、と音をさせ、擂り下ろされた自然薯の滑りを借りた挿入は、難なく成される。
「はっ、ぁあ、ぁ」
  うっとりと息を吐く政宗が甘えるように顎に吸い付いてくるのに、顔中に口付けることで答えながら、小十郎は目じりを下げた。
「まったく、貴方というお方は――」
「ぁ、も、こじゅろが、悪、ぃ」
  そこから先を促すように、政宗が腰を揺らめかせる。それを両手でしっかりと固定し、戦場に向かう前と同じ笑みを、小十郎が浮かべた。
「振り落とされぬよう、しっかりと、お捕まりください」
「Do not say the fool.――俺が、振り落とされるわけ、無ぇだろ」
  荒い息の合間に、不敵な笑みを浮かべる政宗の鼻先に口付け、小十郎が挑むように唇をゆがめた。
「では、遠慮はいたしません」
「当然ッ――はっ、ぁああっ」
  小十郎が、縦横無尽に政宗を穿つ。それに合わせ、政宗は腰を躍らせた。かき回される自然薯の啼き声が響き、それが更に情欲を駆り立てる。
「はっ、ぁああっ、蕪っ、擦れて――ぁああっ、んぁ、ぁああっ」
「ッ、この小十郎のものにもっ、蕪が、自然薯が――人参が、絡んでまいりますッ」
「ひんぅううッ、も、ぁ、やべぇっ、これ、やべっ、ぁ、はぁあぁあっ」
  何時になく声を挙げ、乱れる政宗の姿に、絡みつくものに、小十郎も常よりも激しく欲を貪る。
「ふっ――いかがですか、政宗様ッ、野菜の――味は」
「はっ、ぁぅううんっ、旨ぇ、ぁあ、野菜ッ、すげ、ぁ、もぉ、は、ぁああっ」
  政宗の牡が小刻みに欲を噴出し、その度に小十郎を締め付ける。間も無く二人は絶頂を迎えるが、一度では治まらず、体力の続く限り、甘味を含んだものを食し続けた。

  侍女が下げていく膳を覗き込み、小十郎は満足そうに頷く。それは、綺麗に空になっていた。そのまま、足を政宗のもとへと向ける。
「失礼致します」
「AH――なんだ、機嫌がよさそうじゃねぇか」
「本日は、全て召し上がって下されましたので」
  にやり、と政宗が唇を歪めた。
「誰かさんのおかげで、野菜好きになっちまったみてぇでな」
  はて、と知らぬ顔をする小十郎に、唇を舐めて見せながら艶を含んだ目じりを細める。
「人が、変な趣向に懲りだしたら、どうしてくれる」
「その折は、この小十郎、どこまでもお付き合いいたします」
  折り目正しい姿勢で答える右目に、政宗は失笑する。
「――なら今夜は……その身一つで付き合え、小十郎」
「承知」
  満足げな政宗が立ち上がり、小十郎の唇に自分のそれをかすめる。
「さて、退屈な軍議に出る準備でも、するか」
「退屈などと――軍議は大切な……」
「ああ、ああ、わかってる。小言は夜に、存分に聞いてやる。ほら」
  政宗が、両手を広げて小十郎を促す。
「誰かさんのせいで、だるいんだよ。着替えさせろ」
  ふっと気配を柔らかく変じた小十郎が、無言で政宗に手を伸ばし、柔らかく唇を押しつぶした。

2011/09/30(UP日2013/07/15)



メニュー日記拍手
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送