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佐助＋政宗→コマサ

　しくじった――。そう思った次の瞬間には、草むらに身を隠していた。
　何かにせき立てられる。
　じっとしていると襲ってくる得体の知れないものに、彼――伊達政宗は追い立てられていた。
　今現在、彼を追いかけているものは、得体がしれている。彼の命をねらう――人間だ。
　せき立てられ、就寝すると言って部屋に下がった次の瞬間には、ぬけだし、馬で駆けていた。
　弓のように細い月の明かりが焦燥をさらに煽る。――冷静さを奪う。普段ならば掛かからないような罠に、彼はかかってしまった。
　しまったと思った次の瞬間に、馬は低い位置に張られていた糸に足をとらわれ、ドゥと倒れた。とっさに飛び降りた政宗は無傷だが、馬は足が折れているらしい。苦しげにうめいて、起きあがれずにいる。
「すまねぇっ」
　うめき、馬の首を落とす。このまま苦しめることが偲びなく、馬の声で罠を仕掛けた者が現れることを、少しでも遅くするためだ。
　自分の領地を、とうに抜けていたことは知っていた。自分の領地でさえ、安心していると寝首を掻かれることもある時代なのだ。それなのに――
「くそっ」
　自分を追い立てているもの。それが出来た日のことを、政宗は嫌と言うほど記憶している。
　夢に、見るほどに。
――石田……三成ッ
　砕かれた。様々なものを。
　それが政宗の中に焦燥を生み、闇雲に走らせている。――――三成が、ではない。三成と対峙したあの日に砕かれたものの欠片が、政宗を駆り立てる。
　馬の元を離れ、なるべく身を隠せるような場所を選んで歩く。ちらり、と松明の光が見えた。近づいてくる。足跡が残らぬように進んでいるつもりだが、何か向かった先の検討がつくようなものを、残してきているのだろうか。
「Shit」
　口内でつぶやいてみても、なにも変わらない。誰もいない。一人で来たのだ。まったく、ばかげている。どうしようもなく、ばかげた行動だ。後先を考えずに突っ走る――まるで、真田幸村じゃねぇか。
　ふっと口元に笑みが浮かぶ。自分がただ一人認めた好敵手の顔が、脳裏にひらめく。彼が熱くなればなるほど、政宗は胸に湧く熱い思いを冷静に、鋭く相手に打ち込むために神経を研ぎすませることが出来た。――そう、今、彼の顔を思い浮かべ、すっと冷えて明瞭になった意識のように。
――俺としたことが、Coolじゃねぇな。
　あの好敵手が、現状を目の当たりにすればどう思うだろうか。そんなことを考えながら、政宗は松明の火が思ったよりも早く自分に迫っているのを見る。
――とりあえず、現状をなんとかしねぇとな。
　無益に斬るつもりはない。血や骨で、刀を痛めるのも本意ではない。
――さて、どうしたもんか。
　青い自分の陣羽織は、闇夜に溶ける。しかし、それだけでやり過ごすには、心許ない。なにより、わざわざ身を隠すということをあまり経験していない。相手が獲物を見つけることが得意であるならば――犬でも連れているのであれば、自分の居所など、たちどころにわかってしまうだろう。
　松明はどんどん近づいてくる。政宗は周囲に目を配る。獣の息づかいが聞こえる。もしも、な予測が当たっていた。相手は、犬を連れているのだ。馬に残っている自分の匂いをたどられている。
――どうする。
　なんとなく、背をつけて身を隠している木の上を見上げる。木に登り、やり過ごそうとしても、犬は感づく。木の間を移動するような芸当が、自分に、まったく出来ないとまでは思わないが、それしか方法は無いのだろうか。
「っ！」
　見上げる枝に、不意に人影が現れた。気配も、音もさせずにコウモリのようにぶら下がっている人影が、にやりと笑う。
「ちょっとちょっとぉ、こんなところで何やってんのさ、竜の旦那」
　音もなく目の前に降りた人影に、思い切り眉間にしわを寄せる。
「オッサンとこの、忍かよ――――ここはまだ、甲斐じゃねぇだろう」
「甲斐じゃなくったって、俺様どこにでも現れるから。忍だしね。っていうかさ、なんでこなところでコソコソやってんのさ」
「アンタにゃ、関係ねぇ」
「さしずめ、この間の豊臣との戦で、妙に焦っちゃって一人で突っ走ったってところでしょ。まったく、ウチの旦那じゃないんだからさ――っと、そんなことより、追ってきている奴等をなんとかしないとね」
　軽い調子でしゃべっていた甲斐の忍――猿飛佐助の声が、鋭くなる。松明も、犬の荒い息もひどく近い。
「どうにかって、どうするつもりだ」
「ま、簡単なことさ。俺様にとっちゃあ、ね」
　片目を器用につぶって見せた佐助が、袖口から何かを取り出して地面に投げた。かと思うと、政宗に被さるように、彼を幹に押しつける。
「おいっ」
「シッ――黙って。俺様だって、アンタにくっつきたいわけじゃ無いんだよ。こんなとこで、アンタになんかあったら、ウチの旦那がかわいそうだからね」
「っ――、…………」
　文句を言おうにも言える状況ではなく、おとなしく佐助と幹の間に挟まれて気配を殺す。自分の胸のあたりに顔を寄せている忍は、鋭く目を配って何かを待っていた。松明が近づく。すぐそこに犬が迫った。と、再び佐助が何かを取り出し、犬の鼻先を掠めるようにそれを投げる。犬は、ふぅっと息を吐き、少し迷ってから、佐助が投げたものの方角へ走っていった。それを追い、松明も遠ざかっていく。それらが十分に離れてから、佐助は政宗から体を離した。
「ふう、あっぶねぇあぶねぇ」
「おい、何を、したんだ」
「ん――あぁ、あれね。あれ、メスの発情の匂いをつけてるんだわ。動物ってば本能に忠実だからねぇ。いくら訓練していても、かわいい女の子から誘われたら、フラフラっといっちゃうでしょ」
「前田慶次みてぇだな」
　ふっ、と笑んだ政宗に、おどけて肩をすくめてから、まじめな顔で佐助が問う。
「で、どうすんのさ――これから」
「ん。あぁ――」
「どうせ、考えなしで抜け出して突っ走ってきちゃったんでしょ。片倉の旦那も苦労するよ、まったく――――ばれないうちに、帰った方がいいんじゃない」
　佐助の忠言に、政宗が渋面になる。それに盛大なため息をついて、佐助がぼやいた。
「あぁもう。ほんっと、俺様ってば親切なんだから」
「Ah――ッ、な……ん――――」
　トンッと軽く政宗の首に手刀を当てて、ぐらりと傾いた彼の体を抱き止める。よいしょと担ぎ上げ、やれやれと首を振った。
「俺様も、まだまだ甘いね――――無事に送り届けてあげるから、旦那との勝負がつくまで、死んじゃわないでよねっ」
　言葉尻が夜気に溶けきる前に、政宗を抱えた佐助の姿が風になる。
　後にはただ、何事もなかったかのように、月光が森の姿を滲ませていた。

　佐助に抱えられ、帰ってきた政宗を待っていたのは整えられた布団と、渋面の片倉小十郎の姿であった。気がつくと布団に寝かされており、心配と怒りと安堵をない交ぜにした彼の右目――小十郎が枕元に控えていた。
　室内はまだ、月の明かりがある。どれくらい気を失っていたのかはわからないが、自分が馬で駆けて気を失うまでの時間を考慮すれば、明け方少し前くらいだろうか。まさか、丸一日経過した――ということは無いだろう。
「気がつかれましたか」
　色々な感情が混じりすぎて、平坦になってしまった小十郎の声に、体を起こす。
「Ya――――いつから、そこに居た」
「猿飛が、政宗様を連れ帰ってから、です」
「――――そうか」
　沈黙が訪れる。普段ならば小言の一つや二つ、いや――それ以上の説教が雨霰と降ってくるであろうに、小十郎は何も口にしない。口にすべき言葉を、見つけあぐねているようであった。政宗もまた、何も言わない。
　青白く光る室内で、ぼんやりとした空間に、形の定まらない二人の感情がたゆたっている。それを先に破ったのは、政宗であった。
　おもむろに、着物の袖から腕を抜き、小十郎の襟に手をかける。
「政宗様――」
「俺に、最高のDanceを踊らせろ」
　困惑した声の小十郎を、さらに惑わせることを言いながら政宗が体を寄せ、小十郎の鎖骨に唇を寄せて甘えるような仕草をする。
「のぼせた頭を冷やすには、一回狂っちまったほうが、手っとり早い――――何より、はっきりしねぇのは好きじゃねぇ」
　政宗の言う「はっきりしない」は、あの日から続くもどかしい衝動か、現状の二人を取り巻いている空気なのか――――あるいは、その両方か。
　小十郎だけが、それを察して唇を柔らかく緩ませながら、政宗の首を撫で、腰を抱いた。
「まったく――困ったお方だ」
「――手加減は、すんなよ」
「承知」
　言うが早いか、政宗の唇に噛みつくような接吻をする。口を開いて受け入れた政宗の中に舌を差し込み、歯列をなぞり、上顎を撫でて舌を絡め、強く吸う。
「んふっ――――ぁ、はふ」
　息苦しさに喘ぐ吐息さえ食らいつくしてしまおうと、小十郎は角度を変え、飲み込みきれずに政宗の口から溢れた唾液を指で掬い、その手で政宗の胸にふれた。
「んぅッ」
　クニクニと指先でふくらみはじめた蕾をいじりながらも唇は離さない。
「ん、むふ、ぅう――ぁ」
　息苦しさに、政宗の眉根がゆがむ。それを瞳に映しながらもなお、小十郎は口を離すことなくピンと張った胸の蕾を指の腹で擦り潰すようにこねまわす。
「くふっ――――ぁ、ふ、むぁ」
　うめく政宗の手が小十郎の肩をつかみ、爪を立てる。抱き止めている腰が揺らめき始めてから、やっと唇が離れた。
「んはっ――は、はぁ、はっ」
　政宗が空気を求めて喘ぐ。大きく上下する胸の動きを肌で感じながら、愛撫の手を止めて見つめてくる小十郎に、恨めしそうに息苦しさに潤んだ目を向けると、柔らかな顔をして問われた。
「如何なさいましたか」
「っ――――どの口が、そんなことを抜かしやがる」
「狂いたいと、手加減は無しだと仰られたのは政宗様であったように思いますが」
　はて、と不思議そうに言う小十郎に、すねた子どものような顔をする。
「――――相当、怒ってんだろ」
　それには答えず、小十郎はただ、ほほえんでいる。それを憎々しげに見つめ、舌打ちをしながら肩をつかんでいた腕をおろした。
「ッ――――ゥ……」
　無遠慮に、下帯ごと小十郎の中心を握り込む。うめく顔に、ざまぁみろと言いたげな顔で、政宗はソレを緩くきつく何度も握る。
「いたずらが、過ぎますぞ――――」
「Ha――俺を一人で狂わせてやろうなんて、思ってんじゃねぇだろうな」
「何を――」
「一緒に、狂えっつってんだよ」
　政宗の指が布の間をくぐって、熱いものを捕らえる。するりと撫でて、くびれの部分で輪を作り、しごきながら小十郎の顎に吸いついた。
「政宗様――」
　小十郎が、熱い息の固まりとともに名前を吐き出す。それに満足そうな顔をして、頭を首筋に甘えさせた。
「貴方は――――」
「―――――Ah」
「この小十郎が、狂う貴方を見て、平静でいられるとお思いですかッ」
　苦しげに、叫ぶように小十郎がうめく。腰を払われ、地面に頭を打ちつけないように手を差し込まれて、腕枕の様相で政宗が横になる。
「覚悟は、できておりますな」
「できてねぇとでも、思ってんのかよ」
　小十郎の頭に腕を絡ませ、首を浮かせる政宗と啄むような口づけを交わす。両手で背中からわき腹をまさぐり、胸を手のひらで潰しながら首筋を甘く噛んだ。
「んっ……は、ぁ」
　うっとりとした吐息に、小十郎の手が下肢へ延びる。押し開かれる前に自分から足を開いた政宗にクスリと笑い、腰を重ねた。
「ずいぶんと、積極的ですな」
「Ha――気にいらねぇのかよ」
「そう、思われますか」
「ッ、は――」
　ぐっと小十郎が腰を押しつけ、互いの雄が擦り合わされる。
「はぁ、ぁ――すっげぇな…………」
「政宗様こそ、ずいぶんとはしたなくさせておりますが――」
「ン――知ってる、ッ――アァ」
　政宗も腰を揺らし、小十郎にしがみつく。両の胸を、指と舌で弄ぶ小十郎の息が上がっていく。互いの雄から蜜があふれ、空気と混ざってヌチャヌチャと鳴き始める。そこに政宗は手を伸ばし、蜜を掬って自らの菊花へ塗り始めた。
「んっ、ァ――こじゅ、ろぉ……っ、は、あぁ――」
「は、ぁ――自ら広げようとなさるとは……」
「ぁ、んんッ――るせっ……誰の、せいだっ、ぁ、指ッ――こじゅ、ろ」
　政宗が細く高く、切なそうに小十郎を呼ぶ。返事の代わりに、ふるえる睫に口付けて、互いの蜜を小十郎も指で掬い、政宗の中に塗る。
「ひぁ、あぁ――んっ、こじゅ――こ、じゅろ……ぉ」
　政宗の中で、小十郎と政宗の指が絡み合う。擦り合う腰の速度が上がり、政宗の声が高く甘く、小十郎の息が熱く荒くなる。
「んはっ、はんっ――ぁはッ……ふぁ」
「んっ――く、は……」
　自らの菊花を広げていた政宗の指が止まる。小十郎の指が増やされ、甘く蠢く内壁をあやすように、止まった政宗の指を絡めながら広げていく。
「ぁ、も――こじゅ、こ、はやくっ、も……いいからッ、来い――――い、ぅああ」
　誘いに、互いの蜜でぬるついた雄を滑らせ、指の入っていた場所に移動し、一気に貫く。目を見開きのけぞった政宗が、そのままギュッと内壁で小十郎を締め付けながら、体をふるわせ強ばる雄を解放した。
「や、はっ――で、るッ……」
　ビクビクと痙攣しながら放つ雄を手助けするように、小十郎が指を絡め根本から絞るように擦り上げる。
「は、ぁあ―――んんっ」
　うっとりとした表情と、それにふさわしい声を発した政宗の体が、弛緩した。その瞬間、力の抜けた体を掻き抱き、小十郎が乱暴に突き上げ始める。
「んぁあ――――っ、は、だ……ま、ちょ――こじゅ、ぁあッ……そん、ぁ――――ふぁああッ」
「は、ッ―――――狂いたいと望まれたのはッ……ま、さむね様――――ですッ」
「は、ぅあ――――だ、だからって、こ、こんッ……イッ、ぁ――――ばかりッ……でぇ」
「弛緩なされているッ――――時のほうが、は……ッ、よけいな力が、入らず――――ッ、こ、こうして…………遠慮なく、ぁ――――」
　容赦なく内壁を荒らす小十郎の目が、声が、息が、快楽に淀む。汗で乱れた髪が、政宗の顔にかかった。
「ぁ、こじゅ――――もっと、ぁ……あぁああああ」
「政宗様ッ――――くっ、は……」
　政宗の内壁が小十郎にからみ、掻き回してくるものを締め付け、誘い、追い立てる。
「は、ぁ――も、ぁ……こじゅ――――こ……ろ、ぉ」
　譫言のように名を呼んでくる政宗の肩に顔を埋め、体中で抱きしめる。快楽のせいで苦しげにゆがめられた小十郎の眉間に唇を寄せ、腰に足を絡めて薄い笑みを唇に乗せながら、政宗はすべてを小十郎に向けて境界を越えていく。熱の渦に飲み込まれ、抱かれながら相手を抱き、相手を抱きながら相手に抱かれ、世界でもっとも暗い夜明け前に、二人は全てを白い闇に塗りつぶした。

　先に目を開けたのは、どちらだったのか――――。ぼんやりとにじむ天井から、横にある温もりへ視線を移した政宗は、春の日差しのような顔をした小十郎を見た。つられたようにほほえんで、唇を突き出す政宗に、そっと唇を掠めて顔にかかった前髪を指で払いながら小十郎が言う。
「おはようございます、政宗様」
「Ah――Morning」
　寝ぼけているのか、呆けたような声の彼に苦笑し、子どもをあやすような手つきで胸元を軽く叩く。
「まだ、おやすみいただいていても、問題ありません」
「はぁ――――小十郎」
　ため息の後に呼ばれ、怪訝な顔をする小十郎に、純粋そうな瞳で意地の悪い笑みを浮かべながら唇を耳元に寄せた。
「ちったぁ、手加減しろよ――――うっかり三途の川を渡るところだったろうが」
「それは、この小十郎も同じなれば――――」
　返答に目を丸くし、それをゆっくりと細めてから、政宗が全身をすり寄せる。
「ん……今日はもう、こうやってずっと、だらだらしておこうぜ」
「それとこれとは、話が別です。執務は、きちんとこなしていただかなくては、困ります」
「いいだろ。極上な気分なんだ――――」
「政宗様――――」
　言いかけた声を、すぅ――という寝息に止められる。再び意識を手放した主の、普段は見せない幼い顔に、困ったような幸せそうな顔をして、昼餉の時間までならば――とささやきながら小十郎も瞳を閉じた。

　今は、ただ――――今は、まだ――――こうして、暖かくも優しい記憶を――――――――


オニギリサムライ様に掲載されておりましたイラストにブワーッっと脳みそが広がりまして、勢いのまま書かせて頂きました。ありがとうございます！

2010/06/22

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