主の共で、片倉小十郎は甲斐の真田幸村が屋敷に赴いていた。「――旦那はうれしいのかもしんないけどさ、俺様はアイツ、嫌いだから」 高い、少年の声が聞こえる。「そんなに、俺はうれしそうにしたか」 応えた声は、真田幸村のものだ。「すまぬが、茶の用意を頼む」「はいよ」 そのやりとりを聞きながら、勝手知ったる足取りで小十郎の主、伊達政宗は庭を横切り「よお、真田幸村」 声をかけた。「政宗殿。久しゅうござる。――片倉殿も」 柔らかな笑みを向けられ、頭を下げる。「あの猿は、相変わらず俺が嫌いか」「まこと、申し訳ござらぬ」「謝っている顔じゃ無ぇな」 どこか嬉しそうな幸村を、揶揄した。「忍が、あんなに感情を表して大丈夫かよ」 先ほどの声の主――政宗をアイツと呼ばわり嫌いと言った少年、猿飛佐助は幸村の小姓であり、忍であった。「某の前では、あのように振る舞っておるだけでござるゆえ」 ふうん、と政宗が意味深な目で幸村を見た。「仲の良いこった」 そこに含まれているものに、とんと気付かぬ様子で幸村は微笑み「政宗様」 小十郎がたしなめるように名を呼んだ。「なんだよ。小十郎――妬いてんのか。それとも、うらやましいのか」「ご自重めされよ」 渋面の小姓に、肩をすくめた。「お二人も、相変わらず仲がよろしゅうございまするな」 政宗が、ニヤリとした。「Definitely」 短く言って、勝手知ったる態度で幸村の部屋に上がる。「少しばかり、口うるさいがな」「それは、こちらも同じこと」 彼らの従者は、年嵩でありながらも奔放な主に小言を言うのが常であった。ひそかに、小十郎が心外そうに眉根を寄せる。「どうだ、幸村。一回、交換してみねぇか」「――交換?」「猿と、小十郎をだ」「なっ」「冗談ッ!」 こぼれんばかりに目を見開き、絶句する小十郎の背後で、茶と茶請を運んできた佐助が叫んだ。「竜の旦那に付き従うなんて、ごめんだね」「こら、佐助」 遠慮のない態度に、幸村があわててたしなめる。 ぷく、と頬を膨らませた佐助が、それでも隙のない所作で客人に茶を差し出した。「一服、盛って無ぇだろうな」「盛ってやればよかったよ」 ふんっ、と鼻息荒く言い置いて、佐助が幸村の傍に控えるのを、苦笑交じりに小十郎は見つめる。あの忍の腕なら、そのくらいたやすいだろうが、憎まれ口をたたきながらも、彼が政宗を幸村の好敵手であり戦友であると認めていることを知っていた。「で、どうだ――猿と小十郎、ひと月だけでも交換してみねぇか」「それは――お断りもうしあげまする」 幸村が穏やかに、返した。「なるほど片倉殿は若年ながらも視野広く、臆することなく主に苦言を呈することの出来る胆の座った御仁にござる。なれど、某のもとでは存分に力を発する事、かなわぬかと存ずるが、いかがか」 静かな表面を装いながら、心にさざ波を立てていた小十郎は、心を見透かされたような気がして、はっとした。「政宗様が、よろしいのであれば」 平静を装い、それだけを口にすると「片倉殿は、厭がっておいででござる」 にこりと、幸村が政宗を見た。「ったく、素直じゃなぇな――小十郎。猿ほど、とは言わないまでも、嫌なら嫌っつっても、かまわねぇんだぞ」「私は――期間を限定なされておりますし、猿飛の忍術をもって何かを成そうとされているのであれば……」「そういう堅苦しいことを無しにして、良いか悪いか聞いてんだ」 しばし逡巡をしてから「おそれながら――お断り申し上げたく」 小十郎は頭を下げた。「ったく。少しは猿の柔らかさを、見習ってもらいてぇもんだぜ」「佐助は、政宗殿以外の客人の前では、このようには振る舞いませぬ」「Fum?」 興味深そうに、政宗の目が佐助に向いた。「嫌いきらいも好きのうち――俺に胸襟を開いていると、解釈してもかまわねぇか」「誰が! 礼節を持って迎えるような相手じゃないって思ってんだよ。旦那に対して、なれなれしくしすぎだし」「ずいぶんと、惚れられてんだな」「某も、佐助を好いておりまする故」「妬けるな」「そういう政宗殿こそ、こうやって某らを出汁にして片倉殿をからこうて遊んでおられるは、睦まじい証拠ではござらぬか」 二人の主の目じりがゆるみ、いとおしそうに従者に向けられ「――政宗様」「旦那ぁ」 従者二人が感慨を込めて、主を呼んだ。 幸村と政宗が酒を酌み交わし、それに佐助と小十郎が侍って、たわいない時を過ごした。「そろそろ、休ませてもらうぜ」「ごゆるりと、疲れをいやしてくださりませ」「Good night幸村――猿」「失礼、いたします」 面白げに唇をゆがませた政宗の顔をちろりと見て、小十郎は腰を浮かせた。 客間には褥が二組、きっちりと並べて用意されていた。「You needn't have done it」 呟いた主の声に、多少の苛立ちを見てとり、意味は分からないが政宗が気分を害したことだけは、小十郎に伝わった。「すぐに、おやすみになられますか」 声をかけると「Ah――」 顎に手を当て小十郎を見「そうだな」 何かを企む顔で、頷かれた。「それでは――」 政宗の着替えを手伝うために、小十郎が手を伸ばす。きら、と目を光らせた政宗が手首を掴み、足を払い、褥の上に小十郎を投げた。「うっ」 とっさに受け身を取った小十郎に、政宗がかぶさる。「何を――」 言いかけ、息をのむ。政宗の瞳が、獲物をなぶる猫のようで「政宗様」 小十郎の唇から洩れた声に、唇が覆いかぶさった。「――脱がせろよ」 唇が離れる前に、口内に注がれた言葉に喉が鳴る。「では、体を起こしてくださいませ」 ゆっくりと政宗が身を起し、胡坐をかく。楽しげに小十郎の様子を観察する目の主に、早鐘のように鳴り響く胸を悟られまいと、小十郎は呼気の速度を意識しながら、主を襦袢のみにした。「それでは」 す、と膝を下げて、主の坐している褥の横にあるもう一枚を手にし、部屋の隅に引きずる。その上に坐して「おやすみなさいませ」 手を付き、頭を下げた。「小十郎」 呼ばれ、顔を上げる。「ここは、甲斐だ」「――存じております」「俺は、お前だけを供回りに連れてきた」「身軽なほうが良いと、仰られましたので」 大きく息を吸った政宗が、これみよがしに盛大にため息をついた。「なんで、俺がお前だけを連れてきたと思う」「先ほど、申し上げた通りの理由かと」 再び息を吐いた政宗が、あきれたように首を振り「客間は一つでいいと、俺が言った理由は、わかるか」 しばし考えて「どれほど親しくあろうとも、他国。それゆえの、用心かと」「おまえは、本当に――」 呆れとあきらめと愛おしさを交えた顔で、小十郎を手招いた。「そこに、座れ」「は」 短く応え、指を差されたより少し下がった場所に、きっちりと膝を揃えて座った。「あのなぁ」 苦笑交じりに言われ、首をかしげる。何故、そのような態度をされているのかが、わからない。「何も、思わないのか?」「何も、とは――」「俺が、好きか?」 数度瞬いて、頷く。「むろん。慕うております」「硬い」「は?」「もう少し、猿を見習え」 きゅ、と唇を引き結び「申し訳ございません」 頭を下げた。 ぼりぼりと頭を掻いて、平伏している生真面目な小姓を眺め「小十郎」「は」「相手をしろ」 言いながら帯を解き、膝を崩して足を広げて見せた。「来いよ」 ごく、と小十郎の喉が上下する。「し、しかし……ここは、他国なれば」「だからだよ」「は?」「気を使わずに、俺を情人として好きに扱えっつってんだ」「なっ、あ――」「それとも何か。そう思ってんのは俺だけで、主のわがままだから仕方なく、相手をしていたとでも言うのか」「そのようなことは――」「なら、来いよ。一度ぐれぇ、あの猿みてぇに素直に――欲しがれ」「好きに、乱しても良いと――」「そのための、お膳立だ。据え膳、食うか食わねぇか、さっさと決めろ」 つ、と小十郎が膝を勧めた。「ありがたく、頂戴いたします」「ああ――存分に、味わえ」 小十郎の手が政宗の頬に添えられ、顔が近づく。唇が触れる前に「どのように扱っても、よろしゅうございますか」 確認した。「二言は無ぇ――なんでも、思うとおりに扱えよ」「それでは、お覚悟を」 小十郎が不敵な笑みを浮かべた。「?――――んぁッ」 乱暴に政宗の髪を掴み上向かせ、唇をふさぐ。「んんっ、んぅっ」 開いた口に舌を差しいれ、かき回しながら眼帯をはじくように奪った。「ふんっ、んぁ、は、んぅううっ」 太ももで主の股間を押しつぶし、擦りながら両手で乳首をつまみ、捏ねた。「ぁあッ――はっ、ぁ、こじゅっ、ぁ、は、ぁくうぅッ」「――政宗様」 ぼそりと呟かれた名前に乗る息が、乱れている。唇が離され間近に見た小十郎の顔は「――ッ!」 余裕なく苦しげに歪んでいた。「こじゅ……ろっ――んぅ」 片手で頭を抱きかかえるようにして口づけ、もう片方の手で彼の股間を掴む。そこは、酷く熱く、固く凝っていた。「Terrific!」「ぁ、は――ッ、政宗様」 強くつかまれ、小十郎の息が乱れる。唇を舐めた政宗の左目が、獲物を捕らえた獣のように輝いた。「すぐにでも、喰らいてぇ」「え――あっ」 くるりと体の位置を入れ替えて、若い性を取り出し、食らいついた。「んっ、ん、じゅ――ぁふ、んっ」「はっ、ぁ――ま、政宗様ッ」「んじゅ、んふ、はぁ……一回、出しておかねぇと、辛いだろう」「なれどっ、ぁ、あ――」 小十郎の牡に、政宗の舌が絡み付く。上あごと舌で擦りあげられ、強く吸われて「はっ、ぁ、ぁあッ」 どく、と政宗の口内で果てた。「はぁ――……はっ! も、申し訳ありません」「No Sweat」 口を開けた政宗が、掌に小十郎の精を出した。「ッ――!」 ごく、とつばを飲み込んだ小十郎に見せつけるように指先に絡め、それを自分の足の間へ動かし「んっ、ふ――」 自ら解し始めた主に、小十郎が目を見開いた。「ま、政宗様」「んっ、ふ――ぁむっ」「ッ!」 ほぐしながら、再び牡に食らいついてきた主の髪に触れ、顎を持ち上げる。膝を立てた小十郎は、政宗の背に覆いかぶさり腕を伸ばし、自らの指を主の指の横にうずめた。「んぅうっ、んっ、ぁふ」「政宗様、そのまま……」「んっ、ぉふっ、んぁ」 うっとりとつぶやき、片手は政宗の頭を押さえて固定し、口内に牡を擦りつける。「んふっ、んぅうっ、ぁふっ、ぉ、ぐ」「政宗様――ッ、政宗様」 うわごとのように主の名前を繰り返し、腰を勧めながら政宗の尻を開く。容赦のない指の動きと、のどの奥まで突かれる苦しさに、政宗の口からは唾液があふれ、目じりに涙がにじんだ。「はぁ――ッ、ん、くぅ!」「ごぶっ、げはっ、げほ――はぁ」 上あごに擦りつけて放った小十郎の精にむせ、咳込む政宗の体を乱暴に転がし、足を開く。「げふっ――げは――はぁ……ぁ、こ、じゅ、ぅあぐっ」 まだ息の整わないままの主を、突き上げた。「んぁ――ぁ、あふっ、ぁ、こ、じゅぁあッ」 放ったばかりで、まだ勃ちきっていない小十郎の牡が、政宗の肉に絡まれて硬度と熱を増して膨らみながら、かき乱す。「ああ――政宗様」 苦しげに、うっとりと呟かれる自分の名前に、政宗の腹の奥がゾクリと震える。「は、ぁ、ぁ、あ、あ、あぅ、ふ、っくぁ」 体中をわななかせる政宗の頬を両手で包み、自分の通り名である政宗の右目に舌を這わせる。虚となり落ちくぼんでいる縁を舐め、口吸いのように愛撫した。「はっ、ぁ、こじゅっ、ぁ、ぁあっ、こじゅ、ぅあ」 小十郎の腹の下で、政宗の牡が震えている。それに、手を伸ばした。「ああ、政宗様――このように、はしたなくなされて」「んっ、ふ、ぁ、も、はぁ、こじゅっ、ぁあ」 薄い笑みを浮かべた小十郎の目が、淫蕩に濁っている。穿つ腰の速度が速まり、政宗の肉を爛れさせ、牡を掴んだ手が先端を握りつぶすように捏ねた。「はぁあっ、ぁうっ、あ、ひ、くぁあっ」 声を上げ、仰け反り、首を振りながら腰を揺らす主を見つめる小十郎の熱が凝り、笑みが深くなる。「政宗様――ッ、はぁ、く、ぅううっ」「んぁ、あっ、あっ、あぁ、あっ、あああああッ!」 ぐ、と奥まで押し込まれ、注がれる熱に促され、背を大きくしならせて政宗が叫ぶ声と同じほどに精を吹き上げまき散らした。「はぁ、ぁ――はっ、ぁ、ああ」「政宗様」 そっと名を呼ばれ、荒い息のまま髪を乱した生真面目な従者の頬を撫でる。「はぁ――ッ、ずいぶんな、扱い……だな」「はっ、も、もうしわ――」「You don't need apologise so much」 政宗の人差し指が、小十郎の言葉を止めた。目じりが、うれしそうに柔らかく滲んでいる。「悋気、か?」「え――」「猿に、嫉妬したんだろう」 今にも笑い出しそうに、言われた。「そ、そのようなことは――」「素直になれよ、小十郎」 噴き出す寸前の政宗が、ひどく幸せそうに見えて「――いたしました」 面映ゆそうに、告げた。「ったく、仕方ねぇなぁ」「うわっ」 両手でグシャグシャと小十郎の髪を乱した政宗が「たまには、そうやって素直に求めてみろって――ガキらしく、な」 強く小十郎を抱きしめた。「――政宗様」 感慨を込めて呼ばれた自分の名前に、唇を寄せる。「しかし――こんなに激しい悋気だとは、思わなかったぜ」「それは――政宗様が私を煽らねば、このようなことにはならなかったかと」「小十郎が、もう少し素直なら、俺も煽らずにすんだんだがな」 目を合わせ、くすりと笑い、唇を重ねあう。「今頃、向こうもヨロシクやってんだろうな」「もう少し、言い方をお考えください」「こんなもん、格好つけたって仕方ないだろう――なぁ、小十郎」「は」「このまま、ぞんぶんに俺に甘えてろ」 それに、何事か言いかけた小十郎が口を閉じ、ふうと息を一つ吐き出して「猿飛のようには参りませんが、よろしいか」「皮肉るなよ」 政宗の唇が小十郎に額に触れて「明日は、あの二人をうらやましがらせるくらい、見せつけてやろうじゃねぇか」 子どものような顔で笑う年上の主の右目に、くすぐったさを堪えるような顔で口づける。「まったく、仕方のないお方だ」 かなわないな、と嬉しさを含んだ声音でつぶやいた。 2012/04/27