分厚く白い雲が、日の光を含み輝いている。雨の降る庭を眺めながら、政宗は雲のまぶしさに目を細めた。 このぶんならば丸一日、降り続けるだろう。「be bored to death」 ぼそりと、つぶやく。 時節柄、仕方のないことだとは思いつつ、こう雨続きでは馬で駆けることも出来ない。――やろうと思えばできるのだが、口うるさく小言を言われるのは目に見えていて(What a drag!) 鬱屈している所で、それを聞かなければいけないと思うと、出かける気力も萎え失せる。 袖の中に腕を入れ、組み、障子にもたれかかりながら、濡れた庭を眺めた。 雨の音だけが、耳に届く。 しばらくそうして眺めた後に、ふと思いつき、肩で障子を蹴って歩き始めた。 ぶらぶらと、特に目的も無いような足取りで進んでいく政宗の姿を見止めた者たちが、立ち止まり平頭しているのに「小十郎は、部屋か」「はい」 答えに満足そうに頷いて、物見遊山にいくような態で、腹心である片倉小十郎の部屋へ、向かった。 その頃、小十郎は窓際で、薄い紙に小さな文字がビッシリと詰め込まれている報告書に、目を通していた。「小十郎」 声がかかり、報告書を折りたたんで文机に置くと「は」 襖に体を向け、きちんと坐して声を発した。「入るぞ」「はい」 頭を下げ、答える。 すらり、と襖の開く気配がして、タンと軽い音がして閉まったのを、床板を見つめたまま、聞いた。 真横に気配を感じ、頭を上げる。声の主、伊達政宗へ目を向けると、文机の上の文に目を落としていた。「斥候からの、報告か」「は」 手を伸ばし、文を持ち上げる政宗へ円座を差し出すと目を向けることも無く彼が腰を下ろす。 小十郎がそうするのは、政宗がそうするのは、いちいち言葉にしなくとも良いほどの行為であった。 報告書に目を通す政宗の横顔を、静かに小十郎が見守る。やがて、ぽい、と投げ捨てるようにそれを文机の上に置き「小十郎」「は」 顔を向けた。「暇か」「――は?」「暇か、と聞いている」 なんと答えてよいのか判じかねる小十郎に「暇なんだろう」 そう言え、と政宗が迫った。「野良仕事も、無ぇだろうし」 どうやら主は構ってほしいらしいと察し「暇と言えば、暇と申し上げられるかと」 含んだ笑みを見せると、舌打ちをされた。「如何なさいました」「You beast!」 乱暴に肩を掴まれ、噛みつくように口づけられた。「――畑を弄る時間が空いたんなら、俺を弄るぐれぇ容易いだろうがよ」 拗ねたように睨まれて「畑と政宗様とを同列には、考えられません」 愛おしさに緩んだ頬を、噛まれた。 そのまま、首に腕を回し肩に頭を乗せた政宗が「眼帯が、湿気で蒸れて、気持ち悪ぃ」 ぼそりと呟くのに、眼帯の紐に指をかけてほどき、うかがうように見上げてくる目に唇を落とし、覆われていた光の無い目を、毛づくろいをする獣のように舌を伸ばして舐めた。「ん――」 心地よさそうに目を細める政宗の体を抱きしめ、ゆっくりと覆いかぶさるようにして床に寝かせる。「このように明るいうちから、はしたのうございます」「太陽は、雲の上だ」 吐息交じりに告げられて、仕方のないお方だと呟きながら唇を重ねた。「ん、もっと」 たわむれるように腕をからめてくる主の求めるままに、角度を変えて何度も唇をついばむ。小十郎にあわせるように、政宗も返して「はぁ――小十郎」 互いの息が温まったころに、胸元に手を差しいれて締まった肉を撫であう。「んっ――は、ぁ」 小十郎の手のひらが、政宗の脇腹を撫で上げ鎖骨を吸うと、顎を上げて熱い吐息を漏らした。「こじゅ、は、ぁ」 無言で、小十郎が腹を、背中を、脇を両手で探りながら肌身に唇を寄せる。動く頭に腕を絡ませ、うっとりと目を細めて受け止める政宗の呼気が、甘さを含んで湿り気のある空気に混じった。 あるかなしかの雨音と同じくらいの強さで、政宗があまやかに喘ぐ。 弦をつま弾くように、小十郎の指が、唇が、舌が政宗を奏でた。「はっ、ぁ、あ――ぅふ、ん……っ、ん」 心地よい刺激はやがて、もどかしいものへと変わった。「こじゅ、ぁ、あぁ」 泡立つ感覚に、自然足が開く。小十郎を招くように開いた場所に、小十郎の腹が収まった。そこに、政宗の猛るものが触れる。「政宗様」 低く呼び、腹をそれに押し付けるようにして身を寄せ、耳に舌を入れた。「ぁ、は――ぁ、あ、ん」 爪で胸の実を弾き、腹で猛りをつぶすように抱きしめると、腰を擦りつけてくる。「そのようにして――はしたのうございますな」 揶揄する声を舌と共に耳に流し込み、喉の奥で笑った。「っ、ぁ――てめ、くそ…………っ、余裕こいてんじゃ、ぁ、あ」 悪態をつく主の下肢に手を伸ばし、内腿を撫で上げれば、期待にこもった声が上がった。「触れて、欲しいと――」 自分に命じよ、と耳に注ぐと「は、やく……こ、じゅ――ぁ、触れッ!」「承知」 下知に、吐息と共に諾と告げて内腿の掌を返し、握りこんだ。「はっ、あ、ぁあ」 安堵のような声が漏れる。それに目を細め、やわやわと揉むと腰が揺れた。「ふ、んっ、ん――」 もどかしげに体を捩る主の胸に、吸い付く。「あっ」 尖りを含み、吸い、舌で転がし歯を立てると、手の中の猛りが嬉しげに跳ね、先走りを漏らした。「こじゅ、ろ、ぉ――ッは、く、んぅ」 乱れきれぬのか、どこかで羞恥が働いているのか、声を抑えながらも若い性の熱に急き立てられる体は快楽を求めてわなないている。「お辛いのですね」 いたわる声に「わかってんなら――ッ、さっさと……しやがれ」 喘ぎながら睨み付けた。「一人で、余裕ぶっこきやがって」 心外そうに小十郎が眉を上げ「余裕、と見えておりますか」 政宗の手を取り、自分の股間へ導いた。「ッ!」 自分に負けずとも劣らぬ猛りに、政宗が目を見開く。「どれほどに、耐えているか――おわかりか」 熱に浮かされた低く響く声に、政宗の腰が疼いた。「っ、ぁ――こんなにしてんなら……さっさと、来いよ」 くすりと笑い、首を振る小十郎が唇を寄せて「畑を弄る時間、と仰られたので」「んぁッ」 政宗の猛りの先を握りこみ、軽く捩じる。「丹念に、手入れをいたそうかと」「ば、かやろ――ッ、は、ぁ、ああっ、それ、ぁ、あ」 絞るように先端を捩じり扱くと、面白いように先走りが漏れた。「政宗様――この小十郎めにも」「んっ」 小十郎の牡を握り、ゆるゆると扱き始める。「ぁ、はっ、んっ、ぁ、あうっ」 小十郎の責めに強張るたびに、手の中の彼を強く締め付け、その形をありありと知らせてくる。「こ……っ、じゅうろ――ぁ、もう」「くっ」 思い切り小十郎の熱を握りこみ「こいつを、寄越しやがれッ!」 牙をむくように歯を見せて、咆えた。「我慢、なりませんか」「アンタは、出来んのかよ」 挑む目に「正直なところ――政宗様が早く音を上げて下さらないかと、思っておりました」「Don't waste your time on trifles」 小十郎の肩に、噛みつく。「欲しけりゃ、さっさと貫けよ」 耳朶に唇を寄せてささやかれ、鋭く息を吐き出した小十郎は乱暴に政宗の足を割り、尻に噛みつき、菊坐へ舌を突き入れながら政宗と自分を高めた。「ぁは――っ、あぅ、んぁ、はくっ、ふっ、ぁひ」 腰を浮かされた状態で乱され、息苦しさにあえぐ政宗の目じりに涙が浮かぶ。それを気遣う余裕も無く、小十郎は自身と政宗を追い詰めて「くっ、う」「ぁはっ、ぁ、あああぅう」 吐き出された欲を指に絡め、掌に受け止めた。「失礼いたします」 受けたそれを合わせ、政宗の菊坐を濡らして塗り込める。「んっ、ぁ、あぐ、んっ、ん」 指を押し込み、内壁をくすぐりながら広げ、指を増やしていく合間に、あやすような口づけを繰り返す。指が増えるたびに、苦しげに眉間にしわを寄せながら、小十郎を逃すまいと手足を絡めた。「ぁ、は――っ、ぁんっ、ふ、ぁ、もぉ、いい――から、ぁ」「しかし、まだ――」「いいっつってんだろ!」 早くしろ、と促され、指を引き抜き太ももを抱え、政宗の膝が彼の肩につくほどに折り曲げた。「失礼いたします」 ぐ、と一度放った後とはいえ、十分な質量を持った熱が、肉筒を押し広げた。「ぁが――ぁ、ぎ、ぅ」 小十郎がためらうほどに、解し切れていなかったそこが悲鳴を上げた。「っ――政宗様」 進むのを止め、苦しげに小十郎が呼ぶ。それに、無理やりに余裕を見せようと笑みを浮かべた政宗が「来い」 呻いた。「しかし」「ハンパな事を、すんじゃねぇよ」 誘うように唇を寄せ、小十郎の腰を、絡めた足で叩いた。「――では」「ぁぎっ――はっ、ぁおぉ」 ぐ、と押し込められた小十郎に、頭の先まで貫かれたような衝撃に声を上げる。荒く浅い呼吸を繰り返す政宗が落ち着くまで、そのまま小十郎は待った。しばらくして「は――ぁ」 苦しげに息を吐き「政宗様」「Never mind」 気づかわしげな声に、ため息交じりで応え「Let there be no reserve between us――存分に、アンタの熱を食らわせろ」 獣が獲物を前にしたように、唇を舐めた政宗に「承知」 短く応え、雨が止むまで飽くことなく二匹の竜は、絡まりのたうち、時を過ごした。 2012/06/16