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心ふやかせ

 蒸風呂は、戦国の世では広く知られた入浴法であった。
もうもうとたちこめる蒸気にあぶられ、毛穴が開き汗が出る。汗で浮かんだ汚れを、竹でできたヘラで垢をこそげ落とす。大衆の風呂屋には、赤をこそげ落としてくれる女がいることもあった。
 薬草などを浸した湯をわかし、浴堂の中に湯気を入れて疲れを癒す、今でいうサウナのような入浴法であった。

 むんむんと湯気のこもる浴堂に、二人の男が入ってきた。
 一人は、痩身の小柄な男であった。つややかで、さらりとした髪の男は薄氷を思わせる切れ長の瞳に、薄く居唇をしていた。
 いかにも怜悧そうな様相の男の名は、毛利元就と言った。
 もう一人の男は、美丈夫と呼ぶにふさわしい体躯の、大柄な男だった。のしのしと歩くさまは逞しく、けれど無益な威圧は備えていない。元就同様、抜けるように白い肌をし、白銀の髪をしている。
 左目を紫の眼帯で覆った男の名は、長曾我部元親と言った。
「いい塩梅じゃねぇか」
 前を隠そうともせず、堂々と中に入り腰を下ろした男が、にっこりと人懐こい顔を元就に向ける。それを鼻であしらし、元就は離れた場所に座った。
「相変わらず、無愛想だなぁ」
「それが厭ならば、我をこのようなところに誘わなければ良い。貴様の愚鈍な野郎共と申すものらと、入ればよいではないか」
「つれねぇな」
「誘いに応じただけでも、ありがたいと思うが良い」
「へいへい」
 元就のこのような物言いにはなれているらしい元親は、湯気にいぶされ毛穴が開き、汗をかくのに心地よさそうに目を細めた。
「ふぃい。いい頃合だな」
 言った元親が、よいしょと腰を上げて垢すり用の竹べらを手にした。
「ほら、毛利。約束どおり、垢すりをしてやるよ」
 それに、元就は心底厭そうな顔を向ける。
「なんでぇ。その顔は」
「貴様が、裸身となり湯気を浴びれば腹を割った話もできると申すから、付き合ってやったまで。そのようなことは、していらぬ」
「せっかくなんだから、磨いてやるよ」
「貴様の馬鹿力でされては、因幡の白兎のように皮がはがれてしまうわ」
「たはは。そいつぁいいや! 毛利がウサギなら、猛禽類どもは食えずに餓えて死ぬだろうぜ」
 かまわず近づいた元親が、ぐいとも隣の腕を掴む。
「やめよと言うておるっ」
「いいから、いいから。傷なんか、つけねぇよ」
「ぬ、ぅ」
 体格の差がありすぎて、あっさりと抱きすくめられた元就は、観念して元親に垢をこそげられることにした。無駄な体力を使うこともないだろうと、されるがままになる元就を、鼻歌交じりで元親が擦る。その手際の繊細さに、元就は思わずうっとりと目を細めた。
「どうでぇ。心地がいいだろう」
 上機嫌な声に
「悪くは無い」
 元就が上から目線で応える。
「素直に、気持ちがいいって言えよなぁ」
 気分を害した様子も無く言う元親が、小さな竹べらを手にして、元就の臍を捏ね始めた。
「んっ、ぅ」
 くすぐったさに、思わず元就が身をよじる。
「ほら、動くなよ」
 元親の大きな手が、器用に動いて元就の臍を磨いていく。
「細かな機巧を扱うこともあるからな。けっこう繊細なことも、できるんだぜ」
 垢を擦りながら、按摩をするように元親の手のひらが肌をくすぐる。それに、元就は心身ともに緩めた息を吐いた。
「どうでぇ」
「んっ、は、ぁ……悪くないと、言うておる」
「ったく。ひねくれモンだな。体は、こんなに素直なのによ」
「あっ」
 突然に下肢を握りこまれ、元就が声を上げた。握られた箇所は、わずかに立ち上がっていた。
「反応しちまってんなら、ちょうどいい。細かなところも、磨いておくか」
「なっ、何処を磨くつもりだ――ぁ」
 びくん、と元就の体が強張る。元親の指先が、元就の胸の実をつまみ、先端のシワに竹べらの角をあてていた。
「溝んとこに、ヘソみてぇに汚れが溜まるだろ」
「んっ、ぁ――」
 小さな歯車を扱うような繊細さで、元親が竹べらを動かす。あくまでも柔らかく擦られる刺激が、甘い疼きを生んだ。
「くっ、んっ」
 鼻にかかった、甘えるような音が漏れる。
「両方の意味で、心地がいいだろう」
 得意げな元親を
「ぁ、は――貴様、はじめから、これが目的か」
 元就がにらみつけた。
「や。どうしようか迷ったんだけどよ。できそうだと思ってな」
 歯を見せて笑う元親に、元就が憮然とする。熱されてなのか、浮かび始めた劣情になのか、ほんのりと朱に染まった頬に、元親が唇を寄せた。
「アンタが一番素直になるときは、これしかねぇだろう」
 柔らかく、愛おしさを存分に込めたささやきを受けて、元就は観念したように息を吐く。
「するのならば、我の置くまで貴様で磨け」
 ふい、と顔を背けた元就の言葉に、元親がニンマリとした。
「おう。奥の置くまで、俺で磨いてやるよ」
 胸の実を捏ねながら、元親は竹べらでシワを擦り磨いていく。もどかしい快楽に甘痒さを浮かべながら、元就の牡はゆっくりと頭を持ち上げていく。それを眺めながら、元親は元就を膝の上に乗せ、執拗に胸を弄った。
「ぁ、は――っ、ん」
「もっと、素直に声を出せよ」
「ぁ、うる、さ……っ」
 きゅう、とうなじを強く吸われ、息を呑む。今度は反対の胸へと元親の手が伸びて、そちらも同じように磨かれた。
「ぁはっ、ぁう、んっ、ふ」
「すげぇな、毛利。アンタの魔羅、ビンビンに反り返ってんぜ」
「はっ、ぁ、貴様、こそ……っ、尻に、硬いものが当たっ――ぁ」
「そりゃあ、仕方ねぇだろう。アンタの色っぽい姿を見て、反応しねぇほうが、妙だろうが」
「ひあぅっ」
 仕上げとばかりに胸の実をねじられて、元就が高い声を上げる。ぶるんと震えた元就の牡を掴み、元親は竹べらをクビレに当てた。
「はひっ、あ、そこもっ、す、る……ぅんっ」
「するに、決まってんだろ。ぴっかぴかに、磨いてやるよ」
「ひぁうんっ」
 ぐりん、と蜜口を竹べらでえぐられて、元就が腰を跳ねさせる。そのままグリグリと刺激ながら擦りあげると、元就の腰が揺らめき始めた。
「ぁはっ、ぁ、は、ぁあうっ、んっ、う」
 ごくり、と元親の喉が鳴る。それに気づいた元就が、手を自分の足の間に伸ばし、後方にある元親の陰茎を掴んだ。
「ぉほっ?!」
 すべらかな指でなで上げられ、元親の牡が跳ねた。腰を動かし、その先を秘孔の入り口にあてがった元就が、たくましいそれを扱き始める。
「っ、毛利――」
「っは、されるばかりの、我ではないわ」
 挑発的な言葉に、元親の口の端が持ち上がった。
「そうかい。そんなら、互いに心地よくなろうじゃねぇか」
「んはっ、ぁ、はぁあううっ」
 元親の攻めの手が激しくなる。それに頭を振り声を上げながら、元就も彼を高ぶらせていく。
「はぁっ、どうでぇ、毛利ぃ。どくどくと濡らして、気持ちがいいんだろう」
 元親の手が、元就の先走りでしとどに濡れている。
「ぁはっ、ぁうんっ、ふっ、貴様こそ――っ、我が口を濡らしておるではないか」
 元親の先走りが、元就の秘孔を濡らし、ひくつかせていた。
「んっ、このまま、ナカに注いじまっていいんだろ」
「っ、貴様のそれを、潤滑油のかわりにするが、賢明であろ、ぅうっ」
 互いの絶頂が近いことを知り、手淫の速度が上がる。そして
「くっ、ぅ」
「んあっ、ぁあぁああああっ」
 ぐぶ、と元親が放ち、元就も欲を吹き上げた。
 互いに絶頂を迎えながら、残滓が残らぬように相手を扱く。そうして全てを絞り終えると、元就が前にのめった。
 尻が持ち上がり、元親の目に秘孔がさらされる。
「も、毛利――」
「このままでは、貴様のソレを呑めぬわ。我を奥まで磨くのであれば、準備せよ」
 命令口調ではあるが、その中に羞恥が滲んでいた。にやけた元親が、応とばかりに元就の薄い尻肉をわしづかみ、左右に割って濡れた秘孔に指を突き入れた。
「ひぅっ、ぁ、はぁううっ」
 元就の喉から漏れる声が、震えている。ぐにぐにと内壁を探られ広げられ、放った元就の牡は再び凝り、細やかにいじられた胸の尖りが痛いほどに張り詰めて震えた。
「ぁ、はっ、ぁあっ、ちょ、ぉ、そかべっ、ぁ、も、ぉ――」
 脳の芯が野欲に痺れている。早く、それをどうにかしてほしいと背中越しに手を伸ばせば、指が絡んだ。そのままゆっくりと元親がのしかかり、元就の髪に唇を寄せる。
「アンタの奥の奥まで、この俺が磨ききってやるよ」
「ぁ、は――無駄口は、ぁ、いらぬっ」
「顔、こっち向けろよ」
 首をねじれば、唇をふさがれた。それを幾度も受け止めれば、ゆっくりと元親が内部に沈み込んでくる。
「んっ、ふ、ぁ、は、ぁあうっ、ちょぉ、そかっ、ぁ、あぁ」
「ふっ、毛利」
 気遣うような挿入と共に繰り返される口づけは、魂ごと甘やかされている気になる。元親の息が熱く乱れていることに、元就の胸がじんわりと温まる。
「は、ぁ――苦しくねぇか」
 全てを埋め込んだ元親は、苦しげに眉根を寄せ、快楽の情動を堪えながら問う。毎度の気遣いに、元就は口の端を持ち上げた。
「見てわからぬのでは、言うてもわからぬであろう。誘ったは、貴様ぞ。ぞんぶんに、我を磨くのだろう」
 挑発的な目に唇を寄せて
「ああ。魂ごと、俺で磨ききってやるよ。つるっつるの剥き身の毛利を、見るためにな」
「ぁひっ、ぁはぁううっ、くっ、ふぁ」
 きゅりっと両の胸をねじられて顎をそらせれば、元親を包む媚肉が締まり彼の形をありありと感じた。たくましい熱に心のひだを擦られて、元就の纏う冷徹な鎧がこそげ落されていく。
「はっ、ぁあうっ、ちょぉそかっ、ぁあ、ちょ、そかべっ」
「ふっ、毛利、毛利」
「んぁあっ」
 背後に手を伸ばし、元親の首にまとわり付かせれば、望むままに口付けを与えられる。幾度も唇を重ねながら突き上げられ擦られて、元就の内壁は元親の先走りで濡れそぼり、響く淫猥な音が繋がりを意識させる。
「はぁっ、あ、ちょぉそかべっ、ぁ、はぁあっ」
「んっ、毛利、すげぇ、からんでくるっ」
「ぁはっ、ぁあ、もっと、ぁ、奥にっ、貴様を――っ、はくぅ」
「ああ、奥の奥まで、磨いてやるよ――毛利の、心の奥底までな」
「はひっ、はっ、ぁああぁあっ」
 達しても角度を変えて幾度も絡み合い続けた二人は、互いの熱にのぼせてしまうまで、剥き身の心を擦り合わせ続けた。

 完全な湯あたりをおこし、ぐったりと寝込んでいる元就の横で、ぐびりと元親が旨そうに酒をあおる。弱っている元就を肴にして呑んでいるわけではなく、一応は看護をしている。手ぬぐいを濡らして絞り、額に乗せて、元親は肴として用意をされた干物をかじった。
「喉が渇いた」
「おっ」
 元親が元就を起こそうと手を伸ばせば、不機嫌に叩き落される。
「なんだよ。喉が渇いたんなら、起きないと飲めねぇだろう」
「貴様が、飲ませればよい」
「あ?」
「貴様が、飲ませれば良いと言ったのだ」
 憮然とする元就の、わかりにくい甘えに頬を緩め、元親は水を口に含み、唇を寄せた。こくりと元就の喉が動き、ふうっと息が漏れる。
「貴様のせいで、ひどい目に遭うたわ」
「毛利だって、俺を放しちゃくんなかっただろうが」
 ぴしり、と腕を叩かれた。
「なんだよ。事実だろ」
 首を傾げてとがめれば、顔を背けられた。
「貴様のせいで、我は具合が悪い。埋め合わせをきっちりとしてから、立ち去れ」
 顔を背けたまま目を向けてくる不器用な甘え方に
「もちろん、そのつもりでいるぜ」
 魂ごとくるむような甘い口付けで返事をした。
「ったく。素直なんだか、そうじゃねぇんだか」
「なんだ」
「こっちの話だよ」
 そっと、湯気にふやけた心が重なった。

2013/5/04



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