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ひとり

 ひとりが寂しいわけじゃ無くて、ひとりと思うことが寂しい。

 毛利は、いつも自ら求めるのに、拒絶する。
 長曾我部元親は、長年敵対していた毛利元就の居城にある客室で、彼と差向いになり杯を傾けていた。
 徳川家康が世を平定し、彼らが刃を交えることが無くなったから。と、いうわけではない。彼らは配下の者らの目を盗み、あるいは堂々と談合をすると言い置いて、二人だけの時間を持っていた。誰にも知られてはいけない時間を、元就にとってはかけらも他人に知られたくはない時間を、持っていた。
 燈明皿に光る炎が、わずかな風に揺れる。
「そろそろ、休むとしよう」
 元就が立ち、明かりを消して次の間へ入る。残された元親は、しばらく一人で酒を楽しんだ後、腰を上げた。
 足音を忍ばせ、次の間へ進みながら帯を解き、袴を落とし、下帯も外す。臥所の脇に膝を着くころには全裸となった元親が、背を向け眠る元就の肩に手を置いた。
「毛利」
 起きているのに、元就は返事をしない。静かに、寄り添うように横たわり、腕を回して抱きしめる。
 華奢な元就は、大柄で隆々とした筋肉を纏う元親の腕の中に、あつらえたようにピッタリと納まった。しばらくそのまま、元親はじっと元就を抱きしめる。やがて髪に唇を押し当て、抱きしめる手を動かして帯を解き、腰帯に手を掛けながら、自分に体を向けさせた。
「毛利」
 圧し掛かりながら唇を寄せれば、元就の睫毛が震える。
「毛利」
 下帯をほどきながら、彼の名を彼の口に注げば瞼が上がる。
「よせ」
「毛利」
「やめろ」
「毛利」
「ぅんっ」
 元親の唇が、元就の口を覆い拒絶の言葉を舌と共に吸い上げる。
「ふん、ぅ」
 元就の鼻が、甘く鳴った。
「毛利」
「ん、ぅ、長曾我部、ぁ、やめよ、ふっ」
「毛利」
「やめよとっ、ぁ、言うて、んんっ」
 ささやく唇が喉を滑り、細く薄い胸に触れる。色づきを舌であやし吸い上げれば
「は、ぁあ」
 きわまったように、元就が細い顎を反らした。
「毛利」
「やめっ、ぁ、やめよっ、は、ぁあ、長曾我部、んぅ」
 拒絶を求める唇を、やわらかく塞ぐ。ぷくりと膨らんだ旨の尖りを指で転がし、細い腰を抱きしめて、足の間に体を入れた。
「ふっ、ん、ぁあ、やめっ、長曾我部、やめよ、ぁ、ああ」
「毛利」
 言葉とは裏腹に、元就の唇は元親を求める。彼の指は白銀の鬼の髪を探り、たくましい首にすがる。
「ぁ、ああ、やめよ、は、ぁあうっ」
「毛利、毛利」
 熱に育った陰茎を握り扱けば、元就の薄い胸があえいだ。心臓を包む肉の上に、元親の唇が落ち、印をつける。
「あ、ぁあ、やめよっ、ぁ、やめっ、ぁあ、我を暴くな」
 心を、暴くな――。
 自分でも気づかぬほど、綺麗な膜で覆った弱さに、孤独に、触れようとするな。
 知れば、立てなくなってしまう。
 一人では、立てなくなってしまう。
「毛利」
「ぁあ、長曾我部、あ、ぁあ」
 元就の、拒絶の中にある声を、瞳の奥に見つけた鬼は抱き留める。トロリトロリと甘えの蜜をこぼす陰茎を扱きながら、濡れた指を双丘の秘孔へ突き入れ濡らした。
「んっ、ふぁ、あ、や、ぁあ、ちょ、そかべ、あぁ」
「毛利」
 元就の爪が、元親の肩に食い込む。その痛みが、その強さが、元就の弱さそのもののようで、もろさそのもののようで、元親の胸は愛おしさに甘苦しくあたたまる。
「ああ、毛利」
 熱い息で呼べば、元就の唇が元親を求めた。乞われるままに、唇を押し付ける。
「ああ、毛利、毛利」
「んぅ、は、ぁあ、ちょぉそ、かべっ、ぁ、やめよっ、ぁあ、やめっ、は、ぁうう」
 全身で縋りつく元就の、元親の腰に絡め開いた足の間に腰を進める。つん、と元親の猛る牡が秘孔の口に触れれば、元就は潤んだ瞳をやさしく全身でくるんでくる、奥底に潜め隠した弱さを暴く鬼を、見つめた。
「ちょ、そか……べ」
 涙をこぼす目じりに口づけ、元親が彼の内側に埋まる。
「は、ぁあぁああ、ぁお、お、ぅう」
 ゆっくりと沈んでくる熱に押し出され、弱音と孤独が現れる。迷い後のように頼りないそれを、元親は両腕で胸の奥深くに抱き留めた。
「毛利」
 ぴったりと、寸分の間もなく二人が繋がる。
「は、は、ぁあ、ちょぉそか、べ」
「毛利」
「ぅんっ」
 赤子をあやす様に、口づけを繰り返し髪を撫でる。ほろほろと涙をこぼす元就に、冷酷無比な軍師の気配は微塵も残っていなかった。ただ、一人であることに怯え、誰かを求める孤独な心が、そこにあった。
「毛利」
「は、ぁ、ぁあうっ、ふぁう」
 元親が、動き始める。ず、ず、と内壁を擦られるごとに、元就は肢体をくねらせ狂う事を求めた。
「はっ、ぁあ、やめよっ、ああ、やっ、ぁあうう」
「くっ、毛利、はぁ、毛利」
「ひぃいっ、ぁはっ、は、ちょおそ、かべぇっ」
 頼りなく脆い元就の心を、鬼が揺さぶり抱きしめる。強がりを砕き、その奥にある心に触れる。
「いやだっ、ぁあ、いやだっ、ふぁ、もう、ぁ、ああっ」
「毛利、毛利」
 自身の変化に、弱さを示せる強さに、元就が怯える。それを支えるように、元親は腰を打ち付けながら名を呼び、口づけを繰り返した。
「ああ、いやだっ、ぁあ、やめよっ、ぁあ」
「んっ、毛利、毛利」
「は、ぁあ、ちょ、ぉそかっ、ぁ、はぁあっ」
 嬌声を上げ、すがる元就を熱する元親の額に汗が浮かぶ。苦しげに細められた右目に、元就が唇を寄せ頭を抱え込んだ。
「んぁあ、ぁ、も、ぁはっ、は、ぁああぁああああっ」
「く、ぅうっ」
 極まる元就に促されるまま、元親は彼の凍えた心を溶かす熱を注ぎいれる。想いの熱に打たれながら、元就は意識を白い闇に投げだした。

 無防備に、西海の鬼が眠っている。それを静かに元就が眺めていた。
 汗ばむほどに熱せられた肌は、もうすっかり冷えている。手を伸ばし、隆々とした鬼の胸筋に触れれば、あたたかかった。じっと、眠る元親を見つめる。たくましい姿が先に目に止まるので、彼が繊細なつくりをしていることなど、ほとんどの者が気付かないだろう。
 長い睫毛に指を伸ばす。触れるか触れないかで止めて、それが持ち上がらないことを確認すると、元就はおそるおそる、元親の頬に頬を寄せた。
 磯の香りが、元親の香りの奥にある。
「貴様は、我に寝首をかかれるとは、露ほども思わぬのか」
 起こさぬように囁いて、ぴったりと身を寄せれば肌身に彼の熱が沁みてきた。
「長曾我部よ」
 眠る鬼は、返事をしない。
「長曾我部」
 さきほど、飽きるほどに元就を呼んだ唇に、唇を押し付ける。
「貴様は」
 言いかけ、唇が迷い喉が続く言葉を発することを拒む。音の代わりに息を吐き出し、元就は目を閉じ鼻孔に鬼の香りを含み、全身で彼の体温を感じた。
 自然と口角が緩み持ち上がるに任せ、元就は日を浴びた雲につ積まれる夢を見る。
 まだ、冷徹に徹する必要など無かった、無垢な元就の笑みが、こぼれて落ちた。

2013/8/07



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