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素直じゃない正直者

 賑やかな宴会の席で、毛利元就は一人静かに酒で唇を潤していた。その横に、どかりと腰を下ろしたのは西海の鬼。華奢な元就の横に体躯のいい長曾我部元親が坐すれば、背丈のことはともかく、大人と子どもが並んでいるように見えなくもない。
「せっかくの宴に、シケたツラぁしてんじゃねぇよ。毛利」
 徳利を差し出され、断る理由もなく杯を持ち上げれば、なみなみと注がれる。
「負け戦の後の宴会じゃあ、面白くも無ぇか」
 ぽつりと言って自分の杯を空にした元親へ、す――と冷ややかな目を向けた。鬼はそのようなものを意に介する様子も無く
「ま。アンタよりゃあ、石田のほうがずっと心中複雑だろうぜ」
 元親の目には、眉根にあるかなしかの皺を寄せた西軍の総大将であった石田三成が、徳川家康に話しかけられているのが映っていた。
 西軍と東軍に分かれての戦の終焉。処罰をするのは、自分の掲げている理念に反すると言って、勝利軍の総大将、徳川家康が宴を開き胸襟を開いて、今後この国を導く礎として知恵と力を貸してほしと皆に呼びかけている中に、西軍側であった長曾我部元親と毛利元就もあった。
 元親の姿を見止めた家康が、笑みを浮かべて彼を招く。
「おっ?」
 腰を浮かせた元親が、とんと元就の前に徳利を置き家康の傍へ行く。もともとの知己であった二人は、戦のわだかまりなど無かったように、親しげな笑みを交わし言葉を交わして
「――ふん」
 つまらなさそうに鼻から息を吐き出した元就は、徳利を掴んでそのまま煽った。

 宴もたけなわ。酒のまわった者たちが陽気に語らう中で
「長曾我部よ」
 青白い顔をした元就が、目じりを朱に染めた元親を呼んだ。
「あ――? なんだ、毛利。真っ白じゃねぇか。飲みすぎたか」
 気づかわしげに立ち上がった元親が
「すまねぇな、家康」
「ああ――奥の部屋を、用意してあるから朝まで好きに使えばいい」
 心配そうな顔をする家康を一瞥し、踵を返した元就が
「ついてくるがいい」
 元就に言い、ふらりと歩きはじめる。その横に寄り添った元親の影に隠れるようにして去る彼の姿に
「なんだかんだで、毛利は元親の事が気に入ってんだなぁ」
 前田慶次が呑気な声を出した。

 薄闇の侍る部屋の中、臥所に横たわった元就が呻くのへ
「水でも、飲むか」
 声を駆ければ首を振られた。月明かりに浮かび上がる元就の顔は白く、人の手が届かぬ幽玄の存在であるように見える。
「は、ぁ」
 苦しげな息で帯を解こうとするのに手を貸し襦袢姿にすれば、しらじらとした襦袢に覆われた青白い肌が、宵闇に浮かび上がった。
 ごくり、と元親の喉が鳴る。
 ふる、と元就の長い睫毛が揺れて
「下賤な考えを、浮かべたのではあるまいな」
 黒々とした睫毛に縁どられた瞳が、濡れて光った。
「え、あぁ、いや……」
 狼狽える元親の腹の筋を、元就の指が滑る。
「貴様ごときの浅ましき者。考えを読むなど、たやすいわ」
「も、毛利」
 薄い唇が、元親のそれに触れた。
「熱いな」
 身を寄せた元就が、吐息と共に呟いて元就の胸に身を預ける。ためらいがちに抱きしめた元親へ
「我は、冷たくて気持ちが良いだろう」
 悲しげに響く声音を漏らした。
「いや、それは……」
「温めよ」
「え」
「今宵は、許してやる」
 そ、と元就の指が元親の下肢に触れ
「あ、おい――」
「素直よな」
「う」
 わずかに膨らみかけた牡に絡んだ指は、布ごとそれを扱き始めた。
「毛利、待てって」
「据え膳くわぬは男の恥ぞ。それとも、我では不服か」
 胸に頬を当てていた元就が、顔を上げる。その瞳の深さに息をのんだ元親は
「うぅっ」
 牡を強くつかまれて、呻いた。
「このように、熱くしておるというのに」
「それは、仕方無ぇだろう」
 はぁ、と熱を逃すように息を吐く元親の顎に、元就が吸い付く。
「我が、許すと言っているのだ――有りがたく受け取るがよい」
「毛利、アンタ……相当酔っぱらってんだろ」
 常にない様子に突っぱねることもできず、さりとて酔った相手をこれ幸いと手籠めにするのもためらわれ、動くに動けぬ元親の煮え切らなさに
「痛ッ、おい」
 肩に歯を立てた元就は、元親の帯を解き手を差し入れて直接、鬼茎を握りこんだ。
「も、毛利ッ――離せよ、ほら」
 不機嫌極まりない気配を纏った元就をなだめようと、子どもをあやすように背を叩く。それが更に癪に障り
「ぁうっ」
 鬼茎に爪を立てさせた。
「痛ぇ、毛利、おいっ」
「若狸なれば、良かったか」
「――は?」
「もう、良い」
 ふい、と体を離した元就が、掛け布の中に姿を隠す。こんもりとしたものを眺めながら
「え、っと……」
 先ほどの言葉を脳内で噛み砕き消化して
「妬いてんのか?」
 覆いかぶさるようにして耳と思しき場所へ唇を寄せ、ささやいた。
 元就の反応は、無い。
「毛利?」
 掛け布ごと、包み込むように抱き上げて膝に乗せ、布をめくれば目じりに艶を乗せた目で睨まれた。
「したくないのであれば、もう、せずとも良い」
 ぷいと顔をそむけた毛利の頬に唇を寄せ
「酔って気分が悪くなってるところに、出来るわけが無ぇだろう」
 優しくささやく。すれば
「痛っ、おいっ、こら」
 想いきり、耳を抓られた。
「酒で気分を悪くしては、おらぬ」
「だって、青白いじゃねえかよ」
「酒を飲むと、白くなる者もおることくらい、知っておくがいい」
「痛ってぇ!」
 べちん、と派手な音がして頬を叩かれた。
「てっめぇ、毛利ぃ」
「鬼のくせに、いらぬ気を使うからそのようなことになる。――――下らぬ気を使う暇があれば、我が望みを叶えよ」
 肩口に頬を摺り寄せてきた元就に、のどにせりあがった文句が消える。ふう、と息を吐き出して
「わぁったよ」
 柔らかく、唇を押しつぶした。
「ん――」
 薄く開いた唇に舌を差し込み、労わるように口内を舐る。
「は、ぁ」
 丹念に解せば、青白かった元就の頬に赤みが差して
「さっき、アンタは冷たいと言ったな」
 ゆっくりと、その身を横たえながら濡れた瞳に語りかける。
「俺を、熱いと――」
 唇を重ね
「んっ」
 先を促すように見つめ返す元就へ
「俺の熱を、アンタに分けてやるよ」
 耳朶に、注いだ。
「はっ、あ――最初から、ん、そう素直に……ッ、は、従えば良い、ものを」
 首筋から鎖骨、胸へと唇を滑らせる鬼へ文句を言いながら、彼の髪に指を絡める。
「いっつも捻くれて、素直にならねぇ奴に、言われたかねぇな」
「ぁはっ、ぁ、ん、ふぅ」
 きゅう、と吸えば薄桃に染まり始めた肌に、濃い花弁が舞う。
「ぁ、もっと……ぁ、足りぬ、ん」
「ずいぶんと、積極的じゃ無ぇか」
「ひっ、ぃん」
 元就の陽根を握りこみ、擦れば先走りがあふれ
「おっと」
「は、ぁあ」
 それをこぼさぬように、咥えて吸い上げる。口内で熱を昇らせながら足を開く元就の奥へ指を伸ばし
「ひ、ん――」
 自分の先走りを絡めた指を、菊花を散らさぬように押し込んだ。
「んっ、ふ……コッチは、いつでも素直だがなぁ」
 震え、先走りをこぼし続ける箇所を揶揄すれば
「ぁ、馬鹿を、申す……ぁ、あ」
 太ももを震わせて、文句を言われた。
「ん、じゅ……酒よりも旨い甘露を、飲ませてくれよ」
「ひっ、ぁ、そんっ、ぁ強く、吸っ…………ッふは、ぁ、ああッ!」
 上あごと舌で擦りながら吸い上げ、内壁をくすぐればすぐに果てた。口に受け止めたものを飲み下し、元就の足を大きく広げて抱え、菊花を大輪の花とするために顔を寄せれば、元就の指に阻まれた。
「なんでぇ。ここまできて、オアズケなんぞ言うつもりかよ」
 菊花から彼の顔に目を上げれば
「もう、良い――」
 恥ずかしげに目を逸らされ、言われた。
「は?」
「穿て」
 ぽかんとした元親に苛立ったのか
「愚鈍な者めっ!」
 足を大きく振り上げて、踏みつけるような蹴りを繰り出した。
「ぶっ、ちょ、おい、毛利っ、こら、暴れるなって、おいッ」
 しなかやな足から繰り出される蹴りは、鞭のようにしなって鬼を蹴散らす。身を起した元就は、憮然として元親の頭を叩き、その手で首に絡み付いた。
「なんなんだよ」
 抱き留めれば、膝に乗った元就が片手を伸ばし鬼茎を掴むと菊花へあてがい
「く、ふ……ッ」
「お、おいっ」
 腰を沈めた。
「んっ、は、ぁ」
 顎を逸らし、息を逃しつつ進むも、先の括れより後を入れることが出来ずにいる元就を
「無茶すんなよ」
 労わるように抱きしめて、仰け反る首へ唇を寄せ、胸乳へ舌を這わせる。
「は、ん、ぁ……ぁ、貴様が、ぁ、さっさとせぬから――ッ、我の手を、は、ぁ……煩わせることにっ、ぁあ」
「ああ――悪かったよ、毛利」
「ひ、ぃんっ」
 指で、舌で……言葉と眼差しで元就を解しながら、ゆっくりと自分を埋め込んでいく。
「は、ぁ――」
 全てを埋め込み終えてから
「毛利よぉ」
 万全でない状態で、熱く質量のある杭を飲み込み涙を滲ませて、薄い胸であえいでいる男の名を、愛おしげに呼ぶ。
「家康は、家康で、アンタは、アンタだ。……つまんねぇ心配させちまって、悪かったな」
 滲む愛しみに
「っは、貴様ごときに、煩わされる我では……無いわ」
 悪態を返した。
「ああ、そうだな」
 柔らかな苦笑を漏らし、唇を寄せれば素直では無い、この上なく素直な男が心を委ねるように、元親にもたれかかった。
「熱い、な――」
 つぶやきに
「アンタが、俺をそうさせてんだよ」
 目じりに唇を寄せてささやけば
「そうか」
 満足そうに、ほころんだ。
「しばし――」
「うん?」
「しばし、このままで居るがいい」
「繋がったままでか」
 肩に乗せた頭が、頷く。
「生殺しかよ。酷ぇな」
 もとより、元就の体がほぐれるまでは動かぬつもりでいた鬼は、冗談めかして非難して見せ
「ま、悪か無ぇけどよ」
 全身で、凍えるほどに熱い、孤独な太陽を抱きしめた。
「長曾我部よ」
「うん?」
 持ち上がった唇が求めるままに、海は空へと口づける。
 何もさえぎることの無い水平線のごとく、二人は静かにつながり続けた。

2012/8/29



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