元就様に踏まれ隊、と書かれた板を小屋の入り口に立てかけた男は、満足そうな顔をして中に入った。そこには、数十名の男たちがひしめきあっている。 扉を閉めた男は、奥で木箱の上に立っている男に頷いて座った。立っていた男は頷き返し、深く息を吸いこむと声を上げる。「それでは、元就様に踏まれ隊の定例会を、はじめる」 おお、という声が上がり、皆がキラキラとした目で木箱の上に立っている男を見つめた。 ここは、毛利元就が捨て駒と呼んではばからぬ兵士たちの詰所の一角。元就を熱狂的に支持する者たちは、それぞれに「踏まれ隊」や「罵られ隊」などといった組に分かれ、定例会を開いていた。 その時に使われる場所がここで、定例会の間は誰にも邪魔をされぬよう、始まるころには看板を立てることが決まりとなっていた。「まずは、先月の定例会よりこちらまでの、元就様の所業を申し送る!」 はい、と勢いよく手を上げた一人の男が立っている男に指されて立ち上がり、得意げな顔で皆を見回して咳払いをし「先の城下をお調べになられる際に、お供仕りました折、輿より御降りなされる元就様の踏み台となりました」 おお、と羨望のどよめきが起こる。「次の者」「はい! 俺は、うっかり元就様の前に出ちまって、おろついている間に足蹴にされたぜ」 場のざわめきが、波のように起きる。そうして報告のある者は挙手をし発言をして、各々が酒を飲みながら、元就がいかに素晴らしいかを語り合う。それが、さまざまな隊の総元締め、捨て駒元就至上主義協会の決まりであった。 そんな協会があるなどとはつゆ知らず、元就は本日も冷ややかな目で「使えぬ者よ」 や「捨て駒風情が」 などと口に上せている。 そんな元就へ、妙な献上品が届けられた。 なんでも、天竺よりも遠い場所から届いた果実の干物だといい、ひとたび食べれば驚くほどの智慧が沸き起こるらしい。「ザビー教から、か」 サンデー毛利という洗礼名を受け、伝説のタクティシャンと謳われた元就に、それを疑う気持ちは無い。無いが、生来の疑り深さにより、果実の干物というよりも木の実か種としか思われないそれを持ち、捨て駒たちの詰所へと足を向ける。適当な者を捕まえ、毒味をさせるつもりだった。 まさか元就が近づいてくるとも知らず、踏まれ隊の者たちは楽しげに元就の魅力を語り合っている。何やら賑やかな声に導かれるようにやってきた元就は、看板を一瞥し鼻で笑うと、勢いよく扉を開けた。「何をしている」 朗々と響いた声に、ぴたりと声が止んだ。中に入った元就は扉を閉め、皆を眺めまわし「これだけいれば、問題無かろう」 つぶやくと、まっすぐに歩き始めた。 元就を通すため、捨て駒たちが道を開ける。 悠々と進んだ元就が、木箱を見つけ足をかけた。 一段高いところで全員の顔を眺めまわし「天竺より遠い場所から参ったと言う果実の干物。我が食す前に毒見をしようと言う者は、手を差し出せ」 声を響かせると、全員が手を伸ばした。ふむ、とその光景を見て献上品の詰まった皮袋を眺め「念には念を入れた毒味、と思えば良いか。本当なれば、使える捨て駒が増えるということ」 傍にいた男に袋を渡し、一人一粒口に含んで残ったものは返せと命じた。 男たちは適当な数を掌に乗せて配りあう。木箱から下りた元就は、そこに座って全てに行き渡るのを待った。「おお、こりゃ旨ぇ」「なんとも言えねぇ甘さが」「んん〜、たまらん」 あちこちから、美味だという声が聞こえる。そうして元就の元に戻った皮袋の中身は、半分くらいに減っていた。しばらく待ってみても彼らの様子に変化は見られない。「――ふむ」 ためしに一粒つまみ、口に入れてみる。くにゅ、と柔らかいそれは舌に甘さを広げ、なんとも言えぬ美味であった。「ほう」 ひとつ、ふたつ……と口に入れる。噛むと広がる芳香が、ふわりと体中に染み渡る感覚に目を細めていると(――ん?) 体が火照りだしたことに気付いた。「遅行性の毒だったか」 我としたことが、と悔やんでも他の者よりも多く食べてしまったものを吐き出すこともできない。気が付けば、帰ってきた袋のさらに半分を、元就は食べてしまっていた。「ふ、ぅ」 体が、熱い。見れば、場に居る男たちも何やら変調をきたしているらしい。彼らの目が、餓えたように、期待をするように元就を見つめている。(これは――) ぶる、と体を震わせて、毒の正体に気付いた。(媚薬か) はぁ、と熱い息が漏れる。肌の上を羽根で撫でられているような感覚に、足が震えた。(これでは――) 私室に戻れそうにない。どうすれば、と思った元就の脳裏に、小屋の前にあった看板の文字が浮かんだ。『元就様に踏まれ隊』(ならば――) 元就は唇をゆがめ、じっくりと小屋の中の面々を身回し、そこそこに見目の良い、遊び慣れしていそうな男を指さした。「参れ」「はいっ!」 嬉々として近寄ってきた男に「わかっていような」「これ、媚薬……ですよね。元就様、けっこう召し上がられていましたが」「余計な事は、言わずともよい」 ぐ、と男の股間を踏みつけた。「はうっ」 嬉しそうな声を、男が上げる。「無駄口を叩く暇があれば、我を喜ばせよ」「喜んでッ!」 叫んだ男が元就の袴をずらし「おぉおお」 感動の声を上げると、他の男たちも集まってきて覗き込んだ。「こ、これが元就様の」「うう、俺もう死んでもいい」 下肢に集まる視線に、媚薬のせいで熾った熱が煽られる。「技に覚えのあるものは、我に尽くせ」「喜んでッ!」 叫びが渦のように巻き起こり、あっという間に一糸まとわぬ姿にされる。「ああ、元就様ぁあ」 感極まった声を上げながら、男たちが元就の肌に舌を伸ばし、吸い付いた。「はむっ、んっ、はぁ、元就様のお宝を拝めるどころか、こうして……んっ、味わえるとは」「っ、は、ぁ、ああ……無駄な口を、ぁ、叩く、な、ああ」 しゃぶる男の腹を蹴れば「ああっ」 うっとりとした声が上がる。そうして口が離れると、別の男が顔を寄せて「んじゅっ、んむちゅうう」「ひはぁ、あっ、ああっ、ふ、ぁあ」 強く吸い上げ、元就をのけぞらせた。そうして反った薄い胸に「はぁあ、元就様ぁあ」 舌が絡まり甘く噛まれる。「ぁはっ、あ、んぁあ」 体中、余すところなく――それこそ、指の間まで愛撫されて、媚薬で灯された欲は元就を焼き尽くさんばかりになっていた。「ああ、元就様ぁあ」「いかがですか、俺の舌技、いかがですか」「はっ、ぁあっ、ふ、あぁ、聞く前に、ぁあっ、もっと、は、ぁあ、励めっ、ぁあ」「はいっ!」 華奢な元就は神輿のように担ぎ上げられ、左右に尻を割られた。「おぉおお!」「ありがてぇ、ありがてぇ」 元就の菊花に、男たちが手を合わせる。そうして次々と顔をうずめ、舌を差し込み舐り始めた。「はぁ、あっ、あ、ああっ、あっああ」 ぐにぐにと動く舌が、唾液を注ぎ込んでくる。次から次へと体を運ばれ違う男の舌で解され「ぁ、はっ、ああっ、あ、ひっ、あぁあああっ!」 思わず放った元就の子種を「おぉおおおおっ!」 男たちが、競い合うように舌を伸ばして求めた。「ひっ、ひぃい」 踏まれ隊の者たちは、競い合いつつも譲る精神があるらしい。「おおい、もう全員、元就様の菊花を味わったか」「こっち、権左がまだだ」 などと声を掛け合い、全員が舌を差し込み唾液を注ぎ、胸乳を擦って牡を舐めた。「はひっ、はひゅっ、ぁ、ああっあ」 数十人に吸い付かれた元就の乳首は、真っ赤に熟れきり求めるように震えている。「ああ、こんなに硬くしこって」 男の一人が抓んで捩じれば「ぁはぁああっ」 顎をのけぞらせ、元就が声を上げた。「こんだけ濡れてりゃあ、大丈夫だよな」 全員の舌で広げられた菊花は適度にほぐれ、ひくついている。そこに指を入れて掻きまわす男が喉を鳴らし「おい、でも、それは……」 そそり立つ自分の牡を擦りながら、淫猥な目をしつつもためらう男に、横の男も「いくらなんでも、俺たちの臭ぇ魔羅を元就様の玉座になんて、よぉ」「だよなぁ」 うんうん、と男たちが頷きながらも指は遠慮なく元就の菊花へ沈めて掻きまわしている。 牡を震わせ、先走りを糸のように鳴らしながら、理性の切れ端を未だ手放さぬ元就が、彼らの会話に忌々しげな目を向けて、手近な男を蹴り飛ばした。「ぐぼぁ」 男が吹っ飛び、全員が元就から手を離す。床に倒れた元就が、荒い息のまま身を起して怯えを浮かべながらも恍惚とした光を放つ瞳を眺め「疼く我の熱を鎮めるため、何が必要かもわからぬのか」 叱咤した。「そ、それじゃあ……」「満足させられぬほどの粗末なものは、必要ないわ」 足を伸ばし、傍にいた男の牡を踏みつけた。「はっ、ぁ、ああっ、元就様ぁあ」 ぐりぐりとすれば、歓喜の声が上がる。そのまま踏み続ければ「ああっ」 男が、放った。踏みつけていた足で男を蹴飛ばし、汚れた足を高く上げ「きれいにせよ」 命じれば、すぐさま舌を伸ばした者たちが足を舐める。それを眺め、参加せずに期待を込めた顔をしている男を見れば、目が合った。す、と視線を下せば、男も視線を落としてそそり立つ自分の牡を見る。「我に、差し出せ」「は、はいぃいっ!」 上擦った声で飛びかかってきた男が、元就を膝に乗せ背後から貫いた。「ぁはっ、ぁ、ああうぅう」 思うよりも質量のあったそれに、元就の顔に苦痛が浮かぶ。それに気づいた男たちが、これはいかんと殺到し、乳首を、牡を労わるように舐め上げて、脇腹や指先までをも愛撫し始めた。「ぁ、は、あああっ、ん、ぁ、はぁあう」 元就の愁眉が開き、快楽のみが顔に上せると、ほっとした男たちはより高みへ元就を連れて行こうと張り切った。「ああ、元就様――こんなに乳首を震わせて」「ふぁ、あっ、ああっんぁあ」「元就様の魔羅汁……んっ、寿命が伸びる味がしますぅうっ」「ひ、ぃいん」「ああっ、元就様のっ、はぁあ元就様のナカにぃいっ、ああ、俺の、俺の……はぁっ、はっ、あああっ」「あっ、あぁああああっ」 放ち終えた男は、余韻を楽しんだ後に次の男へと元就の体を渡す。そうして次の男もまた元就に注ぎいれれば交代し「ぁあ、ぐちょぐちょにっ、ああ、俺たちの子種を、こんなに溢れさせて」「ぁひっ、ぁ、はぁあっ、はぁおぅう」 とっくに飲み込みきれぬほどに注がれた内壁に、順番を待つ男たちの牡が突き立てられ、子種を吹き込まれていく。「まだの奴、どこだ」「お、俺っ、俺はまだだ――ッ、はぁ、あ、こんだけ注がれてんのにっ、締め付け……はぁ、元就様ぁあ」「ふはっ、ぁ、あああっ、もぉ、ぁあ、ひっ、ぁあう」 いまさら止めろとも言えず、またそういう余裕も残っておらず、元就は踏まれ隊全員の牡を受け入れ子種を菊花に飲み込んだ。「はぁ――はぁ…………」 最後の男を受け入れ終えれば、男たちは恭しく元就を捧げ持ち、木箱の上にそっと寝かせる。そうして正座し、元就が何か言葉を放つのを待った。「はぁ……は、はぁ」 ぐったりとした元就は、もう誰も触れていないはずなのに疼く乳首と牡を抱え、まだ何か挟まっている気のする菊花から捨て駒たちの子種を溢れさせつつも、威厳を取り戻そうと呼吸を整える。 ずいぶんと長い時間をかけて整えている間、踏まれ隊の者たちは微動だにせず姿勢をただし、待ち続けていた。(――忠義のみは、大したものよ) 彼らが、真に自分を支えようとしていることが、伝わってくる。 ふ、と口の端に知らず笑みを乗せた元就は、重い体をなんとか起こそうとし、傍にいた男が手を伸ばしてそれを助けた。「元就様」 気遣う瞳に冷笑を向け「この程度で、我が気をやるとでも思うたか」 言い放つ。そうして言葉を待つ面々に向け「このことは、胸の裡に留め置き、今後も我の為に身も心も捧げつくせ」「はいっ!」 一糸乱れぬ捨て駒たちの返事に、満足そうに頷いた元就は気が緩んだためか、意識を手放した。 その後、踏まれ隊たちの結束は今まで以上となり、目覚ましい活躍を見せることとなった。「智慧があふれる、とまでは行かぬが……少々の役には立った、か」 いまだ気怠い体を脇息にもたせ掛け、つぶやく。 果実の干物の皮袋には、かろうじて読めるほどの薄さで『恥栄』と、書かれていた。「智慧と恥栄、か……面白くも無いわ」 ふん、と半眼で皮袋を眺め、いずれ何かの使い道があるだろう、と固く紐を縛り、懐に入れて横になった。「少々、無茶をしたか……」 瞼を下した元就の肌には、捨て駒たちの忠誠の証が、無数に咲いていた。2012/9/28