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陰―佐助
 まずった。
 最初に浮かんだのは、そんな言葉だった。
 まずった。
 もう一度、心で呟く。
 俺様も、甘くなったのかね。
 やれやれ、と 自分に呆れてみても、何もかわらない。とりあえず現状を把握しなければ。
 真田忍隊隊長、猿飛佐助。
 それが彼の名前だった。しなやかな四肢を使 い、風のように戦場を駆ける忍は今、自室の寝床で絡め取られている。
 幾 重にも体に巻き付く傀儡の糸により、指先すらも自由にはならない。
 忍は 、あまり単独では存在しない。しているとすれば、里を抜けた者くらいだ。忍の 技は、扱いが難しい。はぐれれば、災いをもたらすことにもなりかねない。野良 法師が怪しげな呪術で人心を惑わすように。
 だからなのか、他の者に秘伝 を洩らさないためにか、忍は里に従い、主に従い、抜けぬよう仲間内で牽制しあ う。よほどの覚悟と実力のないかぎり、裏切りは行われない。はずなのだが―― ――。
 認識が、甘かったのかねぇ。
 やれやれ、とまた自分に呆れてみる。絡むものは、一人のものではない。仮 にも隊長を勤める自分が、やすやすと動きを封じられるはずはない。
 誰か が、俺様に成り代わろうとしてるってことか。
 佐助は、現状をそう結論づ けた。過半数以上が自分以外を支持し、長にと望めば命を仲間に奪われることも ある。そのために、自分は消されようとしているのか。しかし――――。
  誰か、そんな奴が居たっけか。
 はて、と考えてみるも思い当たる人物は無 い。相手の意図が判別しないかぎりは、無理に逃れようとしないほうがいい。そ う思い、佐助は様子を見ることにした。
 何人いるかも、わからないしね。
 目測と違った場合、一瞬の隙が命取りになる。――――油断して眠りこけてい た結果の、今の状況のように。
 しばらくして、かすかに花の薫りが立ち上 ぼりはじめた。甘く濃厚なそれは、すぐにむせかえるほどの香量となり、部屋に 充満した。
 おいおいおいおい、これ、ちょっと――― ―
 内心の焦りを出さずに、佐助は呻いた。この薫りは、知っている。どう いう時に用いるのかも。使うのは、主に、くの一。男を油断させ、情報を聞き出 したり暗殺をしたりする場合に用いる。だが、これほど濃く薫くなどと、聞いた ことがない。
 うわ、ちょっと、いや、かなり、俺様ヤバイかも。
 頬 が引きつる。四肢の自由は自分を取り囲む、気配のないもの達に支配されている 。あらがうことも、防ぐことも出来ずに肌から染み込む薫りに浸食されていく。
 あっ――――
 体の芯に、甘い疼きを覚える。
 ちょっ、ヤバイヤバ イまじで洒落になんないからっ。
 気を逸らそうとしても、知ったものは無 視できない。無視しようとすればするほど、意識してしまう。
 わっ!
 ヒュッと空気を切る音がして、鉤付きの縄が布団にかかり、奪われる。クナイ が夜着の帯を解いた。
 我が部下ながら、良い腕してるね。
 わざと、 そんなことを思ってみる。だが、気を散 らせることができない。芯が疼き、一ヶ所に熱が集まっていくのを自覚しながら 、先ほどのクナイの飛んできた方角から、一人だけでも位置を特定する。縄の来 た方角は、おそらく何かを使って居どころを誤魔化すようにしてあるだろうから 信用はしない。
 んぁ、まずい。
 ぶるり、と体が震える。そういえば 長く仕事が忙しく、禁欲的な生活を続けていた。別段、そういうことを好んでい るというわけではなくとも、雄を呼び覚ます尋常ではない薫りに、若い体が反応 を示す。下帯に包まれているそれがどうなっているかは、佐助を囲むもの達の目 から見ても、明白だろう。
 一体、何を考えてこんな事を。
 けして安 い香ではない。手に入りやすい訳でもない。それをふんだんに使う理由がわから ない。
 殺す前に、慰みものにしておこうって腹かもねぇ。
 情けない 、と自分にため息をついてみる。そうだとしても、気配は消えたままで触れよう としてくるような素振りなど無い。
 様子を、伺っているのだろう か。今の状態で来られたのならば、油断をさせて抜け出す余裕もあるというのに 。
 徐々に息が上がりだす。触れられてもいないのに、肌があわだつ。愛の 行為ではなく、技術の一つとして教わる寝技は、使った事がない。ここにいれば 、そのようなことを命じられることもない。だが、それを施され、教え込まれた 記憶が肌に蘇る。長年思い出さなかったものが、むせるほどの甘い薫りに引き出 される。
 ああ、もう。ヤるなら、さっさとヤれってのっ。
 もどかし さに、自然と腰が蠢く。ごくり、と唾を飲み込む気配がする。視線を感じる。身 体中をはい回る、複数の舐めるような視線。それが、背筋をゾクリとさせた。
「はっ、ぁ…………」
 思わず漏れた自分の声のなまめかしさに、驚いた。 浴びる視線が、より好色になる。自由にならない四肢。煽られる身体――――。
 どのくらい、そのままで置かれているのか時間がわからなくなる。じくじくと 膿のように雄が欲を滲ませる。鼻に届く、自分以外の者の雄の臭いが、 花の香りに交じる。興奮しているのだ。身悶える自分を眺めて―――――――― ッ!
 びくん、と下帯の中で跳ねたものが、臭気を放つ。
 う、わ―― ――。
 自分の失態に、目眩がした。放ちきれないそれは、もどかしさを強 めるばかりで、なんの救いも佐助にはもたらさない。あちこちから、獣の息遣い が聞こえてくる。軽く十は超えているであろう気配がすべて、身体中を舐め回し ている。
 あ、くそっ――――生殺しなんて、辛いっての。
 まだ、警 戒して近づいてこないのだろうか。そう思った瞬間、身体が引かれた。
 傀 儡。
 完全に捕われている。この場にいる全員が、自分にかけているのだろ う。こんな状態では、さすがにこれだけの糸を全て破ることなど出来ない。
 俺様に、何をさせる気なのか。
 冷静ぶってみるが、自分の身体がかなり 堕ちていることなど重々承知している。いっそのこと、気もやってしまえれば楽 なのだろうが、そうもいかない。
 俺様ってば 、精神力、半端ないからねぇ。我ながら感心しちゃうよ、まったく。
 思考 だけが自由になる。操られた右手が、そっと夜着をずらす。痛いほどに張り詰め た胸が布に擦れて、甘い息が漏れた。ほう、と恍惚としたため息が耳に届く。次 に、ゆっくりと足が持ち上がる。膝を立てる形で、尻が浮く。背中で支える格好 になり、手が下帯にかかった。
 なんか、これ―――――すっげぇ…………
 そこで思考がさえぎられた。指がそっと、雄に触れる。
「は、ァんっ」
 自覚している以上に、身体は餓えているらしい。直に触れて強く扱きたい。そ んなことが、頭をよぎった。
「ん、ふっ…………ぁ」
 意志とは裏腹に 、腫れ物を触るように、指は下帯の上からなぞるばかりで辛さが増す。腰を揺ら めかせるのが精一杯で、佐助は奥歯を噛んだ。
 どんな拷問より、キツいぜ 。
 ふいに、短い声がしたかと思うと欲の香りが強まった。誰かが、達して しまったらしい。
 俺様、美形だからね ぇ。
 たまらないだろう、と挑発的な視線を闇に向けた瞬間、手が強く雄を 握った。
「ひはっ――――」
 身震いする。濡れた下帯に包まれた雄が 、自分の意志とは違う動きをする自らの手で煽られる。
「んっ、く、ぅ―― ――」
 鼻から息が漏れる。甘い、甘ったるく高い声。自分のものでは無い ような声。
「は、あぅッ……ン」
 下帯が外される。視線が張り詰めた 雄に集中する。この格好では、尻の奥まで曝しているようなものだ。そう思った 瞬間、ぶるり、と震えた。
「あっ、なんでッ――――」
 急に手が止ま り、思わず抗議してしまった。あと少しで、上り詰められたのに。
 自らの 欲で濡れた手は、胸の突起を捕らえる。液体を塗りこめるようにしたあと、キュ ッと強く摘む。
「ァはっ――――!」
 腰が跳ねる。気をよくしたのか 、両方の突起を両手がこねくりまわす。それが伝わり、雄が脈打つ。
「ぅ、 く…………ぅンッ」
 唇を咬んでも声は漏れる。視線が絡まる。触れられたくてたまらないと、雄が 涎を垂らしているというのに、誰一人として触れようとするものが居ない。
 ちっくしょう。こんな、こんな――――。
 もどかしさが、更に自分を煽 っている。自分の意志で指が動いているのかどうか、わからなくなりはじめた。
「あ、はぁああッ」
 片手が胸から離れ、雄に触れた。垂れ流している欲を たっぷりと掬い取る動きが、早く扱きに変われと願う。しかし、その手はすぐに 雄から離れ、菊花へ進んだ。
「え、ちょ――――ッ」
 つぷ、と指が入 る。
 うそだろォ。
 脳内で驚愕する。自分の意志とは違うとはいえ、 自ら尻の穴を暴くことになるとは。
「ぉ、ふ…………ぅ、ン」
 指は丹 念に、佐助の欲を潤滑剤として内壁に塗りこめる。足りないと判断すれば、また 雄に触れて絡め、菊花に戻る。丹念に丹念に繰り返される間に、絶頂を与えられ ることのない身体には熱が充満し、佐助の意識 を濁らせる。淫欲に瞳は濁り、だらしなく開いた口からは舌が覗いていた。いじ られ続けた胸は痺れる程に張り詰めて、充血している。
「ぁ、も――――、 ぉ」
 達したい。
 混濁した意識が、それを求める。胸にあった手が離 れ、雄にかかる。たっぷりと濡らされ開かれた菊花に、深く指が刺さる。佐助の 心が、喜びに震えた。
「は、ぁあぁァアアァッ!」
 先ほどまでとはう ってかわった激しい指使い。腰を振り、自らの手で自分を犯す佐助に、複数の視 線が突き立てられる。見せびらかしているかのような格好を強いられているのか 、見せびらかしているのか、どうでもいいと思えた。否、そのようなことを思う 余裕など、無かった。
「ん、はぅ――――ァ、ふ…………ぅ」
 ぐちぐ ちと、液体に空気が捏ねられる音がする。巨大な渦に呑み込まれる。雄も、菊花も、自分の意思ではない自分の指が性急に佐助を追い立てる
「はっ 、ぁン……………ァアア――――――――――」
 佐助の意識が弾けると同 時に、四方から欲にまみれた液体が、佐助の身体に降り注 いだ。
 
 汚したいけれど、触れられないのならば、せめてこの欲を、 その身に―――――――。
 
 
 ―了―
2010/03/26



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