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獣になれる密会
 野良仕事を終え、首元を手ぬぐいで拭う片倉小十郎の首筋に、切っ先のような殺気が向けられた。
「ッ――!」
 振り向きざま、手ぬぐいを振るえば、そこに金属の塊がからめとられる。落ちたものは、飛びクナイと呼ばれる指先ほどの大きさの忍び道具で、全身で周囲を窺っていると、目の前に緑の風が現れた。
「なんだ――猿飛か」
 とたんに警戒を解く小十郎に
「あらら。そんなに簡単に、警戒を解いちゃっても、いいわけ」
 首をかしげる。
「テメェの主は、そんな小細工を好まねぇだろう」
「大将は、わかんないよ」
「俺一人を殺ったところで、武田が有利になるとは、思えねぇな」
 佐助に背を向け、井戸水を汲む小十郎に肩をすくめ
「まいったね」
 呟いた。
「で――何の用だ」
「何の用だと思う?」
 振り向き、周囲にさっと目を向けた小十郎が
「俺の顔を見たかった……ってんなら、歓迎するぜ」
「おばかさん」
 一歩、踏み出した佐助の腰に手を置いて、顔を近づける。ゆっくりと重ねあわせ
「時間、あんの?」
「あると思ったから、来たんじゃねぇのか――甲斐の忍の諜報は、一目置いている」
「そりゃどうも」
 佐助の腕が小十郎の腰に回り、ちょん、とつつくように唇を寄せてきた。
「その、甲斐の忍の長が見る所、数日中はどの国も動く気配は無しってね」
「――本気で、俺に会いにきたのか」
 かすかな驚きを声に乗せる小十郎に
「悪い?」
 いたずらっぽく首をかしげる。ふわ、と笑みを乗せた唇を寄せながら
「いいや――」
 愛しい相手を抱きしめた。

 甲斐の真田忍隊に身を置く佐助と、奥州の軍師であり伊達政宗の腹心でもある小十郎が顔を合わせたのは、彼らの主が刃を交え、唯一無二の好敵手であると互いが認め合った時が、初めてであった。
 もっとも、佐助の方は一方的に彼の事は知っていたが。
 奥州の独眼竜、伊達政宗の右目と呼ばれる軍師であり、武勇も誇る男に気を配らぬはずはない。けれどその時は、今のような関係になろうとは、夢にも思わなかった。
 小十郎の私室に通され、小袖姿となった佐助と気楽な長着の小十郎は、旧知の仲であるかのようにくつろぎ、茶を飲んでいる。それも小十郎が手ずから淹れてきたもので、しばらくは大切な客人がきているからと、人払いを行っていた。
 大切な客人――情人である佐助が任務以外で小十郎を訪ねてきたときは、いつもそのように言ってある。一度、興味本位で訪れた主、伊達政宗以外は小十郎と佐助が深い仲であることは知られていない。おそらく、佐助の主、真田幸村もまた気付いてはいないだろう。――佐助は、狐のように人を化かす。忍であるからということ以上に、本能的に嘘をつく。あまりにもそれが自然なので、たいていのものは騙される。
 けれど、小十郎は気付いた。
 気づき、その危うさを指摘した。
 逃げようとした佐助を追い詰めるように、彼自身が自分にすら嘘をつき、傍目からは見えぬほどきれいな殻を作り、自分ですら殻のあることを忘れてしまうほどであることを、突き付けた。
 それは佐助の殻にひびを入れ、ゆらぐ場所へ小十郎は爪をかけてこじ開け覗き見た、佐助すらも押し込めていた本心に手を伸ばし、抱きしめた。
 その瞬間、二人は情を交わすことを自然な事として行い、受け入れ、今日に至っている。
「っはぁ」
 伸びをして、寝転がる佐助に目を細める。彼の心を暴いたときに、子どものように泣きじゃくり、すがりついてきた姿を、小十郎の心は鮮明に覚えている。――気づかぬうちに壊れ果ててしまおうとしていた、彼の心の姿を。
 忍は、心の無いものと心得よ。
 そのような通説のある中、甲斐の忍は血の通う忍として扱われていると、聞いていた。それは甲斐の武田信玄の思想と重なり、さもあらんと諸侯を納得させている。けれど、他所ではそうはいかない。忍というものは、人の形をした道具でしかない。そのように思わなければ出来ぬ仕事を、忍はしてのける。血の通う忍として知られる、甲斐の忍もむろん、そのような任を負う。
 主と共にいれば、好敵手である真田幸村と顔を合わせることになる。その横には、必ず佐助がいた。
 刃を交えぬ時などは、旧友のように心安い顔をする主の姿に目を細めつつ、互いに無茶を行おうとする主への苦言と信頼とを語ることもあった。
 そうしているうちに、小十郎は佐助の横顔に凝る寂しさのようなものに気付き、自立しているように思えるが、危ういほどに幸村に依存をしていることに気付き、指摘し、追い詰め、暴いた。
 一度崩れれば、それを示してこなかった分、抑えが利かなくなる。泣きわめく佐助を抱きしめ、彼の弱さを包み込むことを、小十郎は選んだ。
「同情なら、いらないよ」
「そんなくだらねぇ男に、見えるか」
 薄く笑んだだけで、佐助は何も言わなかったが、こうして甲斐を空けることが出来そうだと判じれば、小十郎に会いに来る。それが、言葉よりも明白な返答だと感じていた。
「ね。しばらく、のんびりしててもいいの?」
 腕を枕に見上げてくる佐助に
「軍議も、無いからな。しばらく逗留していくか」
 異変があれば、すぐに知らせが入るようにしている佐助は少し悩んで
「居てほしい?」
 にやりとした。
「ああ――」
 目じりを和らげ答えると、這いながら傍に来た佐助が小十郎の膝に頭を乗せて
「竜の旦那に邪魔されないなら、居てもいいかも」
 伸ばしてきた手に、唇を寄せる。
「俺様、ほんっとあの人きらいだからさ」
「嫉妬か」
「うれしい?」
「そうだな」
 くすくすと笑う佐助に、体を折って口づける。
「旦那も片倉の旦那も、夢中だもんなぁ」
 滲むように呟く佐助に
「今、俺の目にはテメェしか映っちゃいねぇぜ」
「うわ、はずかし」
 照れ隠しに揶揄するように言いながら、佐助が唇を尖らせ触れてくる。
「ね――しよ?」
 腕が、首に絡んだ。
「ああ――」
 唇を重ねれば、佐助の体が反転し、小十郎の股間に鼻を寄せる。ふんふんと鼻を鳴らして唇を寄せてくる様は、動物が飼い主に甘えているようで、小十郎は茜の髪を指で梳いた。気持ちよさげに目を細めた佐助が、下帯の上から牡を食む。
「んふ――んっ、ん」
 歯で下帯を外し、まだ柔らかい牡を口に含む。舌と上あごで揉むように擦りあげれば、そこは熱を持ち硬さを持ち、ふくらんでいく。それと同時に小十郎の息も熱くなって
「は、ぁ――」
 佐助の目に、艶が滲んだ。
「猿飛」
「ん――」
 佐助が、身を起す。唇を重ねあいながら帯を解き、着物を脱ぎ、肌を重ねた。
「ぁ、は――んっ、ん」
「なんだ――もう、こんなにしてんのか」
 佐助の足の間に指を滑らせ、茂みを探る小十郎が、震えるまぶたに口づける。
「んっ――俺様だって、健全な男子なんだから、ぁ、仕方な……ッ、ぁう」
「咎めてんじゃねぇ――褒めてんだ」
「はっ、ぁ、あ――何それ、ぁあ」
 佐助の足が、小十郎の腰に回る。
「んっ――ゆっくり、するのは、ぁ、後でいい、から……っ、はやく、ぅん」
 強請るように、口づけられて
「淫乱な狐だな」
 囁けば、小十郎の手に丁子油の壺が握らされた。
「ね――早く」
「まったく……堪え性の無ぇ」
「一回、したら……はぁ、ん、落ち着くからさ――そしたら、ゆっくり、ね」
 甘えるように言われて、指に油を絡め取り、繋がる個所に押し込めた。
「ぁ、はぁ、う、んんっ」
 節くれだった長い指を、きゅうと締め上げる内壁をあやすように、ゆっくりと解し始める。
「ぁ、は――う、んんっ」
 肩に頭を擦りつけてくる佐助を、あやすように抱きしめながら指を増やし、受け入れる用意を進めていく。
「は、ぁ――も、はやくっ、て、ぁ……言ってんのに」
「傷が出来て、任務が出来なくなりゃあコトだろうが」
「もっ――ぁ、そんなこと言って……焦らすの、好きなんだろ、ぁ、もぉッ」
 焦れた佐助は片腕だけで小十郎にしがみつき、油を指に塗り込めて、小十郎の指の横から自分の指を差し入れた。
「ぁはっ――ふ、ぅう」
「――とんでもねぇな」
「ふっ、ん――それだけ、ぁ、欲しがってるんだって思って、ありがたがっても……いいだろっ、あぁ」
 佐助の内部で、小十郎の指が佐助の指に絡んだ。
「猿飛――」
 小十郎の声が、情欲に濡れている。ぞくりと背骨を震わせて
「――早く、繋がろうぜ」
 獣の笑みをにじませた佐助に
「ああ――」
 応えながら指を引き抜き、牡をあてがい腰を進めた。
「はっ、ぁあぁああ」
 両腕と足で小十郎にしがみつく佐助が、押し進んでくる熱の塊を飲み込んでいく。秘門は誘うように拒むように蠢いて、小十郎の太さを脳髄に知らしめた。
「ふっ、ぅ」
「ぁ、はあぁう、ぁ、おおき、ぃあ、ああ」
 慎重に埋め込みながら、佐助の声に苦痛の無いことを確認する。
「はっ、ぁ、ん――すご、ぁ、は」
 笑みを浮かべた佐助が
「は、ぁ――ぐちゃぐちゃに……して、くれんだろ?」
「やめてくれと泣き叫んでも、離さねぇぐれぇにな」
「おお、怖い」
 おどけて見せて、全身を摺り寄せてくる。
「真っ白に、塗りつぶしてよ」
「まかせておけ」
 深く深く口づけて、獣の刻を開始した。

 ぐったりと横たわる佐助の横で、小十郎は筆を走らせている。それを上目づかいに見てくる彼に
「なんだ」
 顔を向ければ
「鬼」
 唇をとがらせて、言われた。
「望んだのは、猿飛――おまえだ」
「そうだけどさぁ」
 ごろんと転がりながら小十郎の膝元へ来た佐助が、腰を包むように全身を寄せてきた。その髪を撫でれば、気持ちよさそうな息を吐く。
「後半、記憶が無いんだよなぁ」
「聞きてぇか」
「遠慮しとく」
 同じ笑みを浮かべ、佐助は首を伸ばし、小十郎は身をかがめて口を吸う。そのまま膝の上に頭を乗せた佐助が
「お仕事?」
「ああ――眠っている間に、終わらせようと思ったんだがな」
「ふうん?」
 身を起した佐助が小十郎の手から筆を取り上げ
「急ぎじゃ無いなら、めったに逢えない可愛い可愛い俺様を、もうちょっとかまってみても、いいんじゃない?」
 ふふんと鼻を鳴らした。
「素直に、構ってほしいと言えねぇのか」
「構いたいのは、片倉の旦那だろ」
「そういうことに、しといてやるよ」
「素直じゃないねぇ」
「どっちがだ」
 額を重ね、笑いあい、唇を寄せる。
 添えない立場を拭い去り、心と体を添いあわせ、鋼の自制を脱ぎ捨てて、二人は獣になっていく。。

2012/08/16



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