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心の月が満ちる時
 真ん丸の月を見上げて、佐助はほっと息を吐く。
 仲秋の名月。
 こんな月夜は、任務がとてもやりにくい。
 煌々と照らされた宵闇に、白く浮かぶ月見団子と飾られたススキを見つめ、ほっと再び息を吐く。
 奥州、伊達領。
 主、真田幸村の好敵手である伊達政宗の誘いを受け、観月の宴を楽しんだ。伊達軍の者たちは敬愛する伊達政宗が認めた相手、真田幸村をすんなりと受け入れ、幸村もまた、彼らになじんだ。
 そうして宴が住めば、褐色の肌に酒のためか、あるいは別の理由でか、頬に朱を差した幸村は、同じく白い肌に朱を上せている上機嫌な政宗とともに奥の部屋へと入って行った。
 佐助は、政宗の腹心、片倉小十郎の私室にいる。
 先ほどまでの大騒ぎが嘘のように、静まり返った夜。やれやれやっと終わったと、楽しむよりも主が呑みすぎぬよう、またあちこちで騒ぐ者たちが徳利を蹴倒したり暴れたりしたものを、客人でありながら手を伸ばしてすぐさま片付けを行っていた佐助が、ほっとした時に肩を叩かれた。
 同じように、この場を冷静な目を持ったまま楽しんでいた男、片倉小十郎に。
「ごくろうだったな。客人であるのに、すまねぇ」
「性分って言うか、ま、俺様もそれなりに楽しんだし」
 そっちこそ、お疲れ様と声をかければ耳元にささやかれた。
 ――俺の部屋で、ゆっくりと飲みなおさないか。
 艶めいた誘いに、薄い笑みを乗せた佐助は、瞼を伏せて了承した。
 そうして佐助は先に彼の部屋に来て、後片付けを行っている小十郎が来るのを待っている。
 ほっと、三度息を吐いた。
 佐助の耳に、近づいてくる足音が響く。
 足の運びで、誰なのかはすぐにわかった。
 障子が開くのと同時に顔を向け、月光を背に立つ姿に声をかける。
「おつかれさん」
「ああ」
 短く応えた小十郎は、後ろ手で障子を閉めて、まっすぐに佐助の前に来て座った。手に、徳利がある。
「これといった肴が無かったんだが……」
 そう言って小十郎が出したのは、漬物だった。
「十分だよ」
 小十郎の丹精込めて作った野菜の旨味は、よく知っている。この漬物は、その野菜を漬けたものだろう。
 小十郎が差し出した杯を受けとり、酒を受けて飲み始める。
 ほろほろと、注ぐ月を受けて。
 無言で、唇を湿らす程度で飲み進め、ゆっくりと、二人の距離を縮めていく。
 どちらともなく顔を見合わせ、唇を寄せた。
「ん――」
 いつから、こういう関係になったのか。どうして、こういう間柄になったのか。
 今はもう、思い出せないほど、自然なことになっていた。
 始まったきっかけなど、どうでもいい。理由など、どうでもいい。ただ、触れたいと感じたままに、二人は腕を伸ばし、帯を解き、肩から着物を落として素肌に触れた。
「は、ん……ぁ、あ」
 唇から逸れた小十郎の舌が、顎を伝い首に触れる。鎖骨を強く吸われ
「ぁ、ん」
 咎めるように、佐助が彼の唇に指を這わせた。
「ふ……」
 咎める指を、小十郎の舌が絡めて口内に招き入れる。
「は、ぁ」
 指の股を舐められ、指を吸われ、ぞく――と背中が震えた。
「片倉の旦那……」
 はぁ、と熱い息を漏らせば
「こういう時は、呼び捨てるもんだと何回言えばわかる」
 節くれだった小十郎の指が、佐助の唇に触れた。
「んっ……」
 指先に吸い付き、舌先でくすぐる。小十郎の指がゆっくりと口の中に入ってくる。舌を絡めて招き入れれば、逃れるように口内で蠢く指に、佐助の下肢に熱が灯った。
「は、ぁん、ん……はふ」
 小十郎の指が、佐助の口腔をまさぐる。
 小十郎の口に含まれた佐助の指が舐られ、吸われ、赤味を帯びだす。
「は、ぁ、あ、んっ、ぁ」
 互いの指を舐り、互いの口腔を静かに乱しながら、ゆるやかに欲が満ちていくのを楽しんだ。
「はぁ……猿飛」
「ん……小十郎」
 慣れぬ呼び名は、互いの肌身を重ねる時のみ使う呼称で、口に上せると気恥ずかしさと共に、えもいわれぬ幸福感が胸に満ちる。
「ぁ、ん」
 佐助の唾液で濡れそぼった指が、ぷくりと膨れた胸の実にふれた。
「赤いな」
「ぅ、んっ……ぁ、は」
 周囲を指の腹で撫でられ、もどかしさに尖りが震える。きゅう、とつままれ
「っ、あ」
 高い声を上げた佐助の唇を、ふわりと塞いだ。
「は、んっ、は、ぁ、ああ」
 小十郎の舌が、佐助の舌を絡めて遊ぶ。それに応えながら、胸を弄られるごとに小さく体を跳ねさせる佐助を、いつくしむように小十郎が見つめた。
(ああ――)
 心が、震える。
 魂ごと、この人に抱かれているのだと、感じた。
「んっ」
 両腕を小十郎の頭に巻きつけて、口づけを深める。
「ふっ、んっ、んぁ、ん、ふ」
 こりこりと、尖りを弄る指は壊れ物を扱うようで、もどかしい。
「は、ぁ……猿飛」
「ぅんっ、ぁ、あ、小十郎――ッ」
 小十郎の頭が滑り、もう片方の胸の実に舌が触れた。
「ふっ、ん、ぅん」
 飴を舌先で転がすように、佐助の尖りを味わう小十郎の下肢に、佐助の太ももが触れる。
「ぁ……」
 そこは、硬く、熱く凝っていた。
(こんなに、熱く――)
 佐助の腰に、熱が疼く。もどかしい両胸への刺激に、早く触れてほしい箇所が、じくじくとした淫らな痛みに疼いた。
「は、ぁ、あ、ああ」
 ぐ、と小十郎の足が佐助の足の間を押しつぶす。滲んだ快楽に、佐助の腰が揺れた。
「はぁ、あ、小十郎ぉ……ふ、ぁ」
 じわりと、先走りが滲んだのを感じる。ゆるゆると胸を弄り舐る小十郎の足に腰を擦りつけ、眉根を寄せる佐助を、ちらと小十郎が見る。ゆっくりと体を動かし、下肢を覆う布を取り去り、淡い茂みを指で探れば
「はぁ、あ、ああ――」
 待ち焦がれていたように、佐助が啼いた。
「いい、声だ……猿飛」
「ぁん、ばか……っ、は、ぁ」
 小十郎の舌が、佐助のヘソを探る。指は、形を確かめるように牡を扱いた。
「ぁ、あぁ、んっ、ふ、ぁ、は、ぁ」
 自ら腰を動かし、強い刺激を求める佐助に目を細め、先端に舌を伸ばす。
「ひふっ、ぁ、あ」
 裏筋をくすぐるように撫でながら、先端をチロチロと舌先で舐めれば
「は、ぁあうっ、ぁ、あ、んんっ」
 求めるように、佐助の指が小十郎の髪をまさぐり、牡に押し付けようと力を込め、腰を浮かせる。
「堪え性の無ぇ、忍だな」
「ぁ、あっ、うるさいな、は、ぁあ……も、ぁあ」
 くすりと笑われ、ぱちんと頭を叩くと
「あ、はぁあ」
 口内に牡が呑みこまれた。
「ふぁ、あっ、あ、あ、はぁ、あ」
 うっとりとした声に、小十郎の息が荒くなる。舌を波打たせ、上あごと擦りつければ蜜が滲んだ。それを時折吸い上げながら、放つまでには至らない刺激を繰りかえしつつ、茂みの奥へ指を這わせ、双丘の奥にある小さな花を撫でた。
「ふ、ぁあ」
 つぷ、と指先を入れれば、口内の牡が跳ねる。そのままゆっくりと根元まで差し込み
「は、ぁあ、ふ、あ」
 佐助の声に苦痛が無いことを確認すれば、ゆっくりと抜き、差しこんだ。
「ぁ、ふ、ぁんんっ」
 足を広げ、求める佐助に小十郎の胸がふわりと温かくなる。牡から離した唇を、佐助の唇に移動させた。
「んっ、ん……」
 腕を絡めて口づけを返す佐助の目は淫蕩に濡れ、小十郎の瞳は淫猥に光っている。
 互いの欲が十分に高まっていることを確認し、佐助は手を伸ばし、小十郎の牡に触れた。
「ああ――」
 熱く凝ったそれに、たまりかねた息が漏れた。指をからめ、扱く。
「ふっ……」
 小十郎の息が上がり、快楽を堪えるように寄せられた眉に、佐助の唇が笑みにゆがんだ。
「は、ぁ、ああっ」
 秘肉に呑まされた指が、増やされる。蠢く内壁とたわむれるように動く指が、佐助の握る小十郎の熱を受け止められるよう、解していく。
「は、ぁ、あっ、ぁ、こじゅ、ろ」
 甘くうわずった声に
「猿飛……」
 掠れた吐息が被さった。
「ん、もぉ……」
「俺も、限界だ」
 迎えるように、佐助が膝を折る。腰を抱き止め、小十郎が指の代わりに牡をあてがい
「ふっ」
「っ、は、あ、ぁあ、あっああ」
 傘を差しこみ、十分にほぐれていると確信を持ってから、腰を進めた。
「ひぅ、ぁ、は、おおき、ぃ、あ、あ」
「その、でけぇのを……っ、ふ……しっかりと迎えて飲み込んでんのは……誰だ」
 からかうように言えば
「ばか」
 恥ずかしそうにつぶやいた唇を、ついばむ。
「ふ、ぅ、んっ、ぁ、あ」
「く、ふ……う」
 時間をかけて根元まで埋め込み、息を吐いた小十郎が佐助の額に口づける。
「ふふっ」
 くすぐったそうに笑った佐助が、嬉しげに唇を寄せてきた。
「んっ……はぁ、動かねぇの? 片倉の旦那」
「何度言ったら、わかるんだテメェは」
「慣れないから、照れくさいんだよ」
「慣れるぐれぇ、すりゃあいい」
「……おばかさん」
「テメェほどじゃ無ぇ。――猿飛」
「小十郎」
 ちゅ、と軽い音を立てて唇を重ね
「テメェが、俺の形をしっかりと覚えたら、動いてやる」
「何それ」
「……どれぐらいぶりだ」
 頬を寄せてくる小十郎の髪を撫で
「どれくらいぶりだろうねぇ」
 他人事のように呟いた佐助は、強く小十郎を抱きしめた。
「ね」
「なんだ」
「このまま、一晩中ずっと、繋がっていようか」
「動かずにか?」
「そう……って言ったら、どうする?」
 からかいを含んだ瞳に
「辛ぇな」
 笑いかければ
「俺様も」
 くすくす笑って、額を重ねる。
「でも、もう少しだけ……このままでも、いいかも」
 照れを含んだ甘える声に
「月は、満ちたばっかりだ。忍ぶに不利な宵闇で、テメェの全てを包んでやる」
「何それ。――ああ、でも……うん、そうだなぁ。うん、それ……いいかも」
 自分の熱を、ゆっくりと相手に移し、相手の熱を、ゆったりと受け入れる。そうして体に満ちていくものが、名月ほどに膨らみきるまで、二人はただ繋がり、互いを抱きしめ言葉の無いささやきを繰り返した。
 ――満ちた月に照らされた夜。
 熱をからめて叫ぶ時を、ただゆったりとかまえて迎え、心の月が満ちると同時に、獣へと変貌を遂げる――――。

2012/09/29



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