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小十郎×佐助
  背負い籠に布をかけ、しっかりと蓋がされたのを確認すると、猿飛佐助は岩塩の入った巾着を投げた。
「悪いね、いつも」
「いや」
 受け取った男――野良着姿の片倉小十郎は佐助の配下が籠を背負うのを見ながら口を開く。
「忙しいのか」
「忍に、それ聞く?」
 言外に含まれるものに表情を変えない有能な軍師でもある男に、肩をすくめて見せてから手を上げると、配下の者達が頷いて佐助の荷物も持ち、姿どころか気配も消した。
 この男がニコリともせずに忙しいのか、と問うたのならば、何か探りを入れたいことがあるのではないか――そう判じた佐助は体ごと小十郎に向いた。
「で、何かお互いに有益な話でも、あんの」
 茶化す声音にあるかなしかの鋭さを含ませる彼に、愛想の欠片も無いまま小十郎が背を向ける。
「足をすすいで、表から入れ」
 小十郎の背中から意図を推し量ろうとしてみるが、話は済んだとばかりに片づけを始める姿に息を吐き、了承の意を短く伝えて姿を消した。
 表から足をすすいで入れということは、客分として上がれという事になる。ならば忍装束のままでは具合が悪い。適当な着物を適当なところから見繕って拝借し、姿を整え訪ねると奥の間へ通された。
「今しばらく、お待ちくださいませ」
 茶を運んできた女が、深く頭を下げて辞する。ここに案内されるまでに目を配ってみたが、別段おかしな様子は見受けられない。分身でも放ってみるかと思った矢先、すらりと襖が開いた。
「待たせたな」
「それほどでも」
 たん、と堅縁が小気味よい音を立てて襖が閉じられる。刀を帯びては居ないのに、何かあれば直ぐにでも抜刀できそうな気配と足運びは、常どおりにしか思えない。けれど、この男が食えない相手だという事は、重々承知している。自分を客分として迎えたからには何かがあるはずだ。それを見逃すまいと、佐助は部屋中に意識を張った。
「どうだ」
「何が」
「政宗様は、お変わりなく息災であらせられる」
「うちの旦那も、元気だよ」
「そうか」
 沈黙。
 何時にも増して固い様子に、口にしづらい何かがあるのだろうと身構える。
「その着物は、見覚えがあるな」
「片倉の旦那の着物だからね。表から入るのに、何時もの格好じゃマズイでしょ」
「そうか」
 沈黙。
 ほんのわずかに苛立ちを覚えた佐助の気持ちをさえぎるように、侍女が小十郎の茶と落雁を運んできた。落雁が、佐助の前に差し出される。
「失礼致しました」
 女が去り、小十郎の手が湯飲みの蓋を滑らせ下ろし、口を湿らせる。
 その所作に、指に、佐助の目が向いた。典雅な様に、息が漏れる。舞うように人を屠る指の美しさが、佐助の胸に水にぬれた綿のようにからんだ。
 自分の醜さと卑しさを見せ付けられたようで、口内に広がりかけた暗くねばつくものを流すため、茶を口にする。
「急ぎが無いなら、泊まっていけ」
「――は?」
 動きを止めて、相手を見る。わずかに目を逸らされ、そういうことかと納得する。どれほど意識を凝らしてみても、異変など感じられないはずである。無駄に気を張ってしまった腹いせに、少しからかってやろうと悪戯心が疼いた。
「何。俺様が恋しくなっちゃったとか、言わないでよ」
「悪いか」
「――――え」
 予想外の答えに、思考が停止する。瞬く佐助に、小十郎は逸らしていた目を真っ直ぐに向けた。
「泊まっていけ」
 目の前の男に、冗談の気配は微塵も無く――――
「えっ、え……?」
 重ねられた誘いに、佐助はただ瞬き、口を開いたまましばらく見つめあい、やがて頷いた。

 そうか、とどこかほっとしたような顔をして、政務が終わるまで待っていろと言い残し、小十郎が去っていく。残された佐助は呆けたままそれを見送り、じわじわと状況を認識し、一気に体温を上げて頭を抱え、突っ伏した。
「ちょ――うそだろぉ」
 自分と小十郎は、一度ならず肌を重ねたことがある。けれどそれは常々共に――などという甘い関係ではなく、互いに主君を擁き、それを第一としながらの割り切ったものとして受け止めていた。惚れた腫れたという類ではなく――いわば戦友であり同士であり認め合うところのある、けれど敵対する勢力の――いつか殺しあうかもしれない相手との語らいのようなもので――
「忍と武将が同列ってのは、おかしいってわかってんだけどさ」
 そういうものだと、認識していた。けれど、どうだ。先ほどの小十郎の様子は。はにかんでいるように見えなくもなかったではないか。
 恋しくなったのかと言う問いに、大真面目に同意を伝えた顔を思い出す。じわり、と胸に甘いものが疼き、慌てて頭を振った。
 そんなはずは無い、何かの冗談か作戦のはずだ。そう思おうとする先に、小十郎が茶を口にする一連の動作が――指がふと思い起こされる。そこから連動して、あの指に踊らされる感覚も蘇りかけ――
「あぁあああ、もうっ」
 がばりと体を起こし、苛立ちをぶつけるように落雁にかじりつく。
「あっまい!」
 悪態をつき、それでも齧り続ける。
「なんなんだよ、もう」
 のこのこと誘いに乗って屋敷に上がるために、小十郎の着物を借りたという事も羞恥に拍車をかけた。ふっ、と彼の香りが漂った気がして、身悶える。
「年頃の娘かよっ」
 自分自身に文句を言って、さんざんに悶えた佐助は目を据わらせ
「こうなりゃあ」
 不貞腐れた顔をして、虚空を睨んだ。

 思ったよりも軍議が遅くなった。
 ずいぶんと待たせてしまったと思いながら足早に自室へ戻った小十郎は、次の間から香が漂うのに気付いた。
 いぶかしみつつ襖を開けると、ほの灯りに照らされて布団が敷かれているのが目に入った。いぶかしみながら足を踏み入れると、襖が閉じた。見ると、どこから調達したのか女物の着物を遊び女ふうに来た佐助が襖の横に座している。
「何の、真似だ」
「今宵の伽を、命ぜられましたので」
 艶やかに笑い、手を突く佐助に苛立ちを覚える。
「何の、真似だ」
 自分で思うよりも低い、唸りのような声が出た。意外そうな顔で、佐助が笑う。
「俺様を呼び止めたのは、こういうことでしょ」
「遊び女扱いをした覚えは無ぇ」
「俺様はこっちのほうが、気が楽なんだよ」
 手を伸ばし、首に絡み付いてくるのを抱きとめる。
 唇を重ねる前、ほんの一瞬逸らされた目に真意が見えて、口の端が自然と上がった。
「なら、存分に楽しませてもらおうじゃねぇか」
「明日には帰れる程度に、よろしく」
「遊び女なんだろう――今は。なら、そんな贅沢は、聞く耳持たねぇな」
「鬼畜だねぇ」
 唇同士で噛み合う様な口付けをかわし、互いに着物を奪い合う。素肌になった箇所から掌をはわせ、唇を落とし、痕をつけていく。
「はっ――ぁ」
 傷だらけの、吸い付くような細身の肌を腕に収め、まさぐる。太ももから尻まで撫で上げわしづかみ、折れそうな腰に腕を回して胸を吸った。
「はっ、ぁ、ぁあ――」
 細い声が上がる。その声音が癪に触り、壁に押し付けて足の付け根に顔を寄せた。
「えっ、ちょっと性急――んぅ」
 まだ立ち上がりきっていない牡を口に含み、たっぷりと濡らしてやる。ついで袋を口に含み、濡れた牡の括れに指で輪を作り、絞るように捻る。
「ひあぁぅ、ちょ、まっ――ぁ、ああっ、ふぁ」
 佐助の牡に、熱が凝る。ビクビクと苦しげに打ち震えるそれの先端に掌をあてがい、括れに輪を作ったまま、グルグルと回した。
「ひっ、ひぃいっ、それ、ぁ、おにぃ、ぁ、やあ、も、ぁああ、それ、ほん、やめっ、ぁ、ひ」
 敏感なところが止まることなく擦られ続ける快楽に、佐助の足が震えだす。内腿に唇を寄せ、舐め上げると短い悲鳴が降った。
「はぁあぁ、もぉ、それ、ほんっ、も、ぁ、や、か、たく、ぁああぅ」
 名前すらまともに呼ぶことが出来ぬほどに佐助を攻め、絶頂を迎えそうだと判断した瞬間、手を離した。
「ひっ――ぁ、あぁ……な、に」
「演じようとした、罰だ」
 荒い息のまま、ぺろりと佐助が舌を出す。
「あ、やっぱバレた?」
「当たり前だ」
 渋面の小十郎の足の間に、一瞬にして佐助の顔が移動する。
「じゃ、次は俺様の番」
 ぱくり、と佐助が小十郎を咥えた。
「んっ、ん――はぁ、んっ――じゅっ、ふぁ」
「ふっ――」
 思わず漏れた小十郎の声に、ちらりと上目を向けてから、佐助はさらに口淫に励む。励みながら、どこからか小瓶を取り出しその中の液体を指にからめた。
 ――丁子油か。
 香りから、小十郎は判ずる。僧が稚児の菊の座を寵ずるのに、昔から使われているそれを佐助が自分に塗りこめ始めた。
「ふんっ、んっ――んっ、じゅ、は」
「猿飛――っ、それは」
「んっ――何。自分で広げたいとか、言わないでよね。俺様に主導権、くれたっていいだろ――今の間くらい」
 寸の間を開けての言葉に、喉が鳴った。
「だいたい、片倉の旦那は並じゃないんだから、準備に時間がかかるっての」
 一回ヌいとかなきゃ、入りそうにもないし――と軽口を叩く目じりが赤いような気がするのは、闇に揺らめく火の見せた幻想だろうか。
「んっ、ん――はふっ、んっ、じゅっ、んぁ、はっ」
 咥え、顔を歪ませながら自分を解す彼の姿に、牡以外の部分も高まっていく。
「ぅ、猿飛――ッ」
「んぐっ――んんっ、んっ、ぐ……じゅ、ぅうん、はぁ」
 小十郎が放つのと連動するように、佐助の体がビクリと震え、子種を全て吸い上げ喉を通す。
「っ、はぁ――ん、は、濃い……」
 手の甲で口を拭う彼を抱きすくめ、押し倒す。
「わっ、ちょ――待ってって」
「待てるか」
「えぇえ、ちょっと――ちょっ……ぁあっ」
 高く佐助の足を抱え肩に乗せ、腰を引きながら挿入した。
「はっ、ぁ、も――ちょっと、ゆっくり、ぁ、ああ」
「あんな顔見て、堪えられると思うか」
「ふっ、ん――そんな、の、し、知る、ぁ――かよぉ」
 深々と突き立った小十郎は先ほど果てたばかりだというのに、佐助の中でいきり立っていた。
「も、ぁ、くるし――おぉき、ぁ、ああっ、はっ、ぁ、ああ」
 ゆさ、ゆさ――と佐助を揺さぶりながら、その顔に苦痛が歪まないことを確かめる。問題ないと判じ、佐助の腰が浮かぶほど、小十郎は繋がった部分を持ち上げ、佐助の腰の脇に両手を付いた。
「しっかり、捕まっていろ」
「え、ちょ――この格好、首が苦しいっていうか、自分のが見えて嫌――っ、ぁあ」
 文句を言いながらも首にしがみついた佐助の額に唇を寄せ、突き下ろす。
「はくっ、ぁ、そ、ぁ、ふ、ふかぃ、ぅうぁ――はっ、はぅ」
 反り返った佐助の牡が、欲を溢れさせて自分の腹を汚し始める。
「ふっ、すげぇな、猿飛――っ、内壁が、すがりついてきやがる」
「ぁうっ、ば、バカなこと言っ――ぃイッ、あ、ぁは、ぁも、ぁっ、ああぁああ」
 ぎりぎりまで引き抜いた小十郎が、佐助の一点を強く摺りながら深く刺さり、奔流を注ぐ。それと同時に佐助も果てて、自分の顔に子種を散らした。
「はぁー、は、も、っだから、この格好、いやだって――ぅわ」
 肩で息をしながら文句を言う佐助を、膝に乗せる。
「なら、今度はこれで行くか」
「えっ、連続――ちょっ、ぁ、ああっ、は、何回、する気だよぉお」
「テメェのケツが熱で爛れるまでだ」
「ちょ、しゃれになってない――ぁ、アンタだったら、本気で、ぁ、しそ……ぉ、あぁ、ちょ、も、ぁあ、う、そだろぉ――んっ」
 とろけそうな声で文句を言う唇を、小十郎の熱い吐息が覆いつくした。

 夜明け前。薄く目を開けて手を伸ばすと、横には人の温もりが残っているだけで、形は失せていた。ゆっくりと体を起こすと、首にひやりとしたものが触れる。
「何の真似だ、猿飛」
「俺様がもし、アンタを殺せって言われていたら、どうする」
「――そんな命令をするようには思えねぇが……戦場で会った場合は容赦しねぇ」
「――それを聞いて、安心したよ」
 首から触れていたものが離れ、振り向くと何時もの姿の佐助が闇に掠れて立っている。
「帰るのか」
「帰りたいんだけどね」
 言いながら、装束を解き、横においてあった襦袢を着なおす。
「誰かさんのおかげで腰が痛くてさ。もう少し、休ませてもらいたいんだけど」
「遠慮せず、休息していけ」
 横になった小十郎が、腕を伸ばす。
「んじゃま、甘えさせてもらうよ」
 その腕に頭を乗せて、佐助が笑った。
「おやすみ、片倉の旦那」
「ああ、ゆっくり休め」
 触れ合うだけの唇を交わし、そのままゆっくりと、柔らかな熱に抱かれて落ちた。

2012/02/13



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