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春嵐
 春の嵐は、命の息吹を燃え上がらせようとしているのか、萌え出ずる命をくじけさせようとしているのか――――。

 激しい雨音が室内を包んでいる。手燭の灯りで書簡を確認している小十郎の影が、雷の光で揺れた。この嵐が過ぎれば気温はぐっと上昇するだろう。作付けの時期がきて、進軍に適した時期になり――
(忙しくなるな)
 前準備を怠れば、それだけ無駄な時間を弄することになる。出来ることは、早めにしておいたほうがいい。
 そのために、小十郎は日暮れあともこうして、前準備に勤しんでいた。
 ゆら、と小十郎の影が揺れる。
 雷ではなく、手燭の火が揺れたのだ。――こんな時間、気配をなくしたままでそんなことが出来るのは。
「猿飛か」
「ご名答」
 上から声が降ってきた。
「どうした。降りて来い」
「畳、濡れるとまずいだろ」
 ふう、と息を吐き立ち上がる。
「なら、そのまま付いてこい」
 返事を待たずに、部屋を出た。

 湯を沸かし、着替えを用意し体を吹かせ、小十郎の部屋でくず湯を振る舞うと、ほう、と一息ついたらしい他国の忍びは軽い調子で礼を述べた。
「いやぁ、山の天気は変わりやすいって言うけどさ、これはちょっと予想外だったね。さすがの俺様も濡れ鼠」
「今夜は、泊まって行け。このぶんじゃあ明け方までは止みそうに無ぇしな」
「やっぱ優しいね。片倉の旦那は。御言葉に、甘えさせてもらうよ」
「急な訪問だ。もてなしは、期待すんなよ」
「しないしない。こうして着替えと温かいものを貰った上に、雨風しのげるどころか、ゆっくり休める場所まで確保できるなんて、重畳以外のなにものでも無いでしょ」
 どこかの身分高いものならまだしも、自分は忍なんだから――。そんな言葉をつぶやいて、両手で小さな湯呑を包み、暖をとる忍――猿飛佐助を見つめる。
 何かが、引っ掛かる。いつもの軽口。飄々とした態度。けれど――。
(まぁ、いい)
 忍が他国に来たのなら、何か仕事をしてきたのだろう。その帰りに嵐にあって、ここに立ち寄ったか――。
(嫌な手でも、あったか)
 その、両方だろう。この雷雨は、嫌な手を使った後の鬱々とした気分を煽るように感じたのかもしれない。何があったかは知らないが――忍相手に聞くなどという野暮をしても、答えられないだろう――寄る辺を探し、ここに来たことは少なくとも小十郎にとっては、喜ばしいことであった。
 頑なに忍でいようとする、人を人ではないように認識しようとし、酷な任務も戦場での血なまぐさい行為も受け止めるために“猿”だと思い込み屠る彼の危うさを、闇であろうとする健気さを、いつくしみたいという思いを抱えていた。
「――っはぁ、あったまった。ごうちそうさん」
 差し出された湯呑を受け取る。
「腹は、減ってないか」
「え、あぁ――ちょっと、食欲は無い、かな」
「そうか」
 この場にいる間は、強がる必要などないだろう。好きに弱さを――不器用にも――示していればいい。それを、受け止めさせてくれれば、いい。
 雨音が、二人の耳を打つ。
「なら、茶を淹れるか」
「いいよ。竜の右目に至れり尽くせりされるなんて、後が怖いって」
「そんな料簡の狭い男に見えるか」
「見えないけどさ」
 見えないから、たちが悪いんだよな――。そんな声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろうか。
「――――旦那がさ」
 ぽつり、とつぶやく。
「竜の旦那の事、気にしていたからさ」
「ああ」
 小十郎の主と、佐助の主は互いを好敵手と認め合った仲である。時折、小十郎の主、伊達政宗も佐助の主である真田幸村のことを気にかける言を口にする。
「ついでに、様子を見てこようかな、と思ってさ」
 目線を落とし、薄い笑みを唇に浮かべた彼の姿が、迷子のようで――。
「雨も、ひどいしさ――任務はそう、大したことじゃなかったんだけど。ここんとこ忙しかったし、休ませてもらえたら一石二鳥だな、と思ったっていうかさ」
 指先が膝の上で遊び始める。
「ちょっと、厭な感じが残る仕事でさ――」
 はは、と笑った顔が泣き顔に見えて
「猿飛」
 腕を掴み、引き寄せた体は小さく震えていた。
「誰かさんの所為で――つまんねぇ感情を持つようになっちまったっていうかさ」
 それは、彼の主のことだろうか――小十郎のことだろうか。
「ほんっと、情けねぇよなぁ」
「もう、黙ってろ」
「じゃあ、黙らせてよ」
「ッ――!」
 震える声を、唇で塞いだ。
「んっ、ふ――ん、んん」
 容赦なく、口内をかき乱す。本能的に逃れようとする顎を片手でつかみ口を無理やり広げさせ、弄った。
「ふはっ、ぁ、むぅうっ、ふ、ぁう」
 快楽よりも息苦しさが勝っている声であるのに、小十郎は責めを緩める気配がない。破り捨てる勢いで衣服を剥ぎ取り、手を這わせた。
「あぁ――ッ」
 まだ立ち上がっていない佐助の牡をわしづかみ、無理やり上らせる。
「ぃ、ぁ、あうっ、ぁ、あうぅ」
 首を振り、嫌がるそぶりの佐助を縫いつけるよう肩を畳に押し付ける。
「ぃあっ――はっ、ぁ、ああう」
 痛みに顔をゆがめる目じりに、快楽が滲んでいる。小十郎の手の中で、熱く硬く膨らむものと痛みが、佐助の瞳を濡らした。
「ふっ、ぁ、あぃ、い、ぁううっ」
 小十郎の指が、濡れる。あと少しで放たれる、というところで先端に爪を立てられた。
「ひぎぃいっ」
「――猿飛」
 ぞく、と佐助の心臓がわなないた。行為とは裏腹の、いつくしむような声音が魂を抱きしめ、愛撫する。
「猿飛」
「はっ、ぁ、ぁあう、あ、ふ」
 耳朶をくすぐる甘い吐息に、佐助の腕が小十郎に縋った。
「んっ、んぅ、は、ぁあ」
 強請るように寄せてくる唇を覆うように、唇をかぶせて内部を乱す。伸ばしてくる舌をからめて吸うと、仰け反られた。
「ふんっ、んぅうっんっ、んふ、ぁ、ああ」
 理性など捨て去って乱れたいと、ただ獣のようにまぐわいたいと、佐助の肌が嘆く。それに応えるように、小十郎は佐助の体を反転させ、尻を持ち上げた。
「ひっ、ぁああ」
 佐助の欲で濡れた指を、双丘の奥に咲く菊花へ呑ませた。
「ぅ、ぁ、あはっ、ぁううっ、う」
 強さないギリギリの速度と強さで乱す内壁は、求めるように小十郎の指に絡み、奥へと誘う。ゆらめく腰が、より強く意識を失うほどのものが欲しいと訴えていた。
「ぃ、ぁううっ、あ、ぁうぁんぅううっ」
 クセ――なのだろう。上がる声を抑えようとして、獣の唸りのような声になるのは。嬌声を素直に吐かせたくて、空いている手で牡の先を握りこみ、指で波を作るように揉み込んだ。
「ぁはぁあああ――ぁ、はっ、ぁああ」
 佐助の腰が、激しく揺れる。あふれ出る液のすべりを借りて、小十郎が手を強めるたびに、内壁がもどかしいと――気を失うほどの熱が欲しいと言いながら、赤く熟れた。尻に、歯を立てる。
「ぃいぁあああっ」
 くっきりと歯型がつくほどに噛んだと同時に、佐助がはじけた。
「はぁー、はぁー……ぁ、ひ、ぎぁ、ぉ、ぁふっ、ぉ。あ、ぁ、あ」
 余韻を吹き出す佐助にのしかかり、一気に貫く。空気を求めて喘ぐ彼が小十郎の大きさに落ち着くのを待ってから、穿ち始めた。
「ぁ、はぁっ、ぁ、あ、ああ――ひんっ」
 パァン、と乾いた音が雨音を切り裂いて室内に響く。
「ぁ、ぁあうふぁ、あぁ」
 パァン――と、穿ちながら小十郎の平手が佐助の尻を、馬の足を速めるように叩く。そのたびに内壁がキュンと絞られ、小十郎の形を佐助にくっきりと示した。
「は、ぁあぅうっ、ぁ、あうっ、ぁ、あ」
 震える佐助の牡から、小刻みに先走りがほとばしっている。それをとどめるように、小十郎は亀頭を掴み、鈴口に爪を立てて押しつぶした。
「ぎっ――ぁ、あぁああぁあああっ」
「くっ――」
 根元から先端までをうねる内壁に絞られ、小十郎が放ちながら佐助の先端を握りつぶした。
「ぁぎっ、ぁおぉあああっ」
 絞るような佐助の叫びが、雷鳴にかき消される。雷が壁に浮かべた二人の姿は、獣のようであった。
「はぁ、あ、あぁう、ぁふ、ぅう」
 全てを注ぎ終えると、体を折り涙とよだれで乱れた佐助の頬に、唇を寄せた。
「猿飛」
「ふっ、――ぅ、うう」
 溢れる涙は、責め苦からか先の任務からか――聞くだけ野暮ってもんだろう。
「猿飛」
「は、ぁうう」
 甘やかすような声音に、抱きしめてくる腕に、人を甘やかし世話をする事には長けているくせに、甘え弱音を吐くことにひどく不器用な獣は泣いた。――縋り方を、甘え方を、弱さをさらすことの強さを与えてくれる香に包まれて。
「ふ、ぅ、うう――」
 この腕以外の誰にも知られぬように、春の嵐が吹き荒れていた。優しい獣が、癒しの夜を過ごせるように――――。

2012/03/28



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