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優しいウソ
 大嫌いと笑って、それでも腕を絡めて――どちらが本心なのか、どちらも本心なのか…………。

「じゃまするよ」
 と――、と猫が降り立ったほどの音がして振り向くと、気紛れな男が立っていた。
「猿飛」
 呼ぶと、ふわふわと雲の上を歩くような足取りで近づいてきて
「片倉の旦那」
腕を伸ばし、猿飛佐助に向けて体を開いた片倉小十郎の腕へと落ちてくる。
「っはー。相変わらず、土臭い」
「それは、どういう意味だ」
「褒めてんのさ――血の匂いが染みついているより、ずっといい」
 暗く沈んだ声は吐息と混じり合い、夜気に溶ける。こういう時に返す言葉を持ち合わせていない小十郎は、もそもそと更に身を沈めて足の間まで落ちた頭を、猫の背を撫でるようにした。
 静かに、時が流れる。
 眠ってしまったのではないかと思うほど、佐助は身じろぎひとつせず、瞼を閉じている。
 ――何か、あったのか。
 おそらくは、任務の帰りだろう。ここに顔を出したということは、近場で仕事をしてきたはずだ。
 ――明日あたり、何か騒ぎでも起きるか。
 佐助の仕事は、戦の世において裏を支える要となることが多い。そして、彼がこうして立ち寄るのは、秘密裏に血なまぐさいことをしてきた後だということを、小十郎は気付いていた。
 忍という職業に向いていないのではないかと時折思う彼の腕は、文句のつけようがないほどに熟達していて
 ――重宝がられるのも、致し方ねぇだろうな。
 彼が自軍に居れば、策の幅もぐんと広がると認知している。それだけ、敵に回すと恐ろしい男でもあり
 ――だからこそ、頼らざるを得ねぇことが、多いんだろう。
 彼の主の仕えている武田信玄が、佐助の気質に気付いていないわけはない。けれど、今の世では斟酌してばかりもいられないのが、現状だろう。
 ――それに。
 小十郎の目からすれば、うんと幼く世情に疎い彼の主、真田幸村が佐助の与えられた任務の内容を知れば、どう思うか。それが、佐助の気鬱を深めているのだろう。戦場での目覚ましい働きは、小十郎の主、伊達政宗が好敵手と認めるほどで、小十郎自身も無視の出来ない存在として意識をしている。けれど
 ――幼すぎる。
 そう思う節が、幾つもあった。良く言えば純粋だが、それは佐助が彼を慕えば慕うほど、幸村が佐助を信頼し忍ではなく戦友として扱えば扱うほど、佐助の気鬱が深まっていく。
 小十郎は、そう判じていた。
 そして、そのはけ口として自分は丁度良い相手なのだろうと思いつつ、それだけなのだろうか、という思いが胸にあった。
「はぁ」
 大きく息を吐き出し、佐助が頭を持ち上げる。灯明に揺れた瞳が、縋るように見えて小十郎が息をのんだ。
「こんな時間まで、仕事してんの?」
 そっと、佐助の唇がゆがんで声が漏れる。
「草木も眠る丑三つ時は、あやかしが現れるから、眠っていたほうが、いいんじゃない?」
「テメェも、起きているだろうが」
 くすり、と佐助が唇に艶を乗せた。
「だって俺様、あやかしだから」
 見えない糸で絡め取るように、佐助が言葉を紡ぎ、小十郎の肩に頭をもたせ掛ける。
「あんたは、狐に今から化かされるんだよ」
「狐か」
「そう、狐」
 体重を預けてくる背を抱きしめて
「狐が天狗を化かすのか」
 疑問を浮かべた目が、小十郎を見上げた。
「天狐仮面の仲間、なんだろう」
 にやりとすると、思い至ったらしい。
「あんときの片倉の旦那、すげぇ面白かったぜ」
「おまえも、苦労するな」
「でも、ま――退屈はしないよ」
「だろうな」
 破天荒な催しに参加したことを、思い出す。子どもじみた、ばかばかしいとさえいえることを全力で行える人物というものは、そうそう居るものではない。
「かなわねぇな」
「何が」
 薄く笑み、答える代りに唇に唇をかすめた。
「ふふっ」
 くすぐったそうに佐助が目を細めて
「猿飛」
「なぁに」
 遊びを始める前の子どものように、わくわくとした気色で言われて
「抱くぞ」
「何それ」
 けらけらと笑いながら首に絡み付いてきた額に口づけた。

「は、ぁ――」
 腰から背中を撫で上げつつ、着物をたくし上げる。あらわになった余計な肉の無い締った肌には無数の古傷が残り
「ぁ、ふ、ぅん」
 それらを舌でなぞることで、二人の行為は始まりになる。
「ぁ、は――んっ」
 ゆるゆるとした刺激に、徐々に泡立つ肌は朱に染まり始め、もどかしそうに身を捩るのは、猫が愛撫を求めるようで
「は、ぁ、ぁう、んっ、ぁ」
 さまよう腕が、小十郎の背中を行き来し、着物を握りしめ、開き、見えた肌に唇が触れた。
「んっ、ん」
 きゅう、と鎖骨に吸い付く佐助の髪に唇を寄せ、掌で上半身をくまなくなぞる。新しい傷は無さそうだと判じると、その手を傷や肉筋とは違う肌の凹凸――胸に色づく尖りへ動かした。
「んぁっ、ぁあ――ぁ、ん」
 つまみ、転がすと鼻にかかった甘い声が漏れた。
「猿飛」
「ぁ、は――っ、んぁ」
 耳元でささやくと、声の甘さが増した。
「猿飛――猿飛」
「んっ、んぅ、は、ぁ――ぁあ、旦那ぁ」
 あまったるく呼ばれたのは、自分だろうか――彼の主だろうか。
 開いた足が、触れてほしい箇所を示してくる。袴の脇から手を入れて下帯を探ると、男の標が熱く凝っていた。
「んぅ、ん、ふぅう」
 強請るように手に擦り付けてくる姿に、小十郎の股間も熱を帯びる。
「ずいぶんと、いやらしい狐だな」
「ぁ、け、獣は――ッ、素直なんだよ」
「よく言うぜ」
「は、ぁ、ぁああっ、や、ぁ、い、いじわっ、ぁ、ひぃ」
 下帯の横から引きずり出し、先端を捏ねながら鈴口に爪を押し付けると、面白いようにのたうつ。裏筋を根元から舐め上げ、括れをチロチロとくすぐり、溢れる先走りを爪で掻きだすようにすると、佐助の足は大きく開き奥に隠された花を小十郎に示した。
「ぁ、ぁあっ、は、ぁ、ひ、んっ、そこっ、や、ぁ」
「本当に嫌なら、いくらでも逃れることぐれぇ、出来るだろう」
「ぃ――じわるっ、ぁ、も――ぁ、は、ぁひっ」
 佐助が乱された衣から、ハマグリの容器を手にして小十郎に差し出した。そこには傷に塗る軟膏が――こういう時には別の使い方をするものが入っていて
「少しは、はじらいってものが無ぇのか」
「獣にッ、ぁ――そんなもん、は、ぁう、必要ない、だ、ろ――ッ」
「確かにな」
 受け取り、たっぷりと掬うと自ら膝を抱えて足を開いた佐助の望む場所――繋がる秘孔へひたりとあてた。
「つめたっ――ぁ、あ」
 ひく、と花弁が動く。それに合わせて指を押し込んだ。
「はっ、ぁ、ああ」
「すぐに、熱くてたまらねぇように、なるだろう」
「んぁ、も、ぁ、すけべっ、ぁ、はぁあっ」
 眉根が寄り、しわを作った額に唇を寄せる。そのまま根元まで指を押し込み、締め付けてくる肉筒をあやした。
「そんなに締めなくていい――逃げやしねぇ」
「ふっ、ぁ、ばかっ、ぁ――ッふ」
 佐助が唇に噛みついてくる。
「んっ、ふ――んっ、んぅ、んむっ、ん、ぁは」
 そのまま舌をからめ、お互いの口腔を味わいながら、小十郎が佐助を広げていく。
「ひっ、ぁ、そこ、やっ、だめっ、ぁ、ああ――」
「好い、の間違いじゃねぇのか」
「ひっ、んぁあっ」
 会陰と共に肉筒の泣き所を押しつぶすと、佐助の牡が身震いをしながら愉悦を漏らす。それを、吸った。
「ひっ、ぃいいっ、ぁ、ああっ、や、はぁううっ」
 じゅうじゅうと、わざと音を立てて吸い上げると、首を振りながら声を上げるのが愛らしい。
「ぁ、ぁあ、ぃ、ぁうっ、い、ぃいっ、ぁあ、すご、ぁ――や、でるっ、ぁ、あ」
「飲んでやる」
「ぁあっ、ば、ば、かぁ――ッ、は、ぁうぅううッ!」
 ぐ、と内壁のツボを強く押せば、佐助が腰を突き出して小十郎の口内ではじけた。
「はぁ……はぁ、ぁ、ふ、ぅう」
「んっ――ふぅ」
 最後の一滴まで吸い上げて飲みほすと、額を叩かれた。
「なんだ」
「おばかさんっ」
「何がだ」
「知らないよっ」
 目じりを朱に染めて、小十郎にのしかかってくる。
「はむっ、ん――」
 今度は、佐助が小十郎を食んだ。
「ふ、んっ――おおき、ぃ、はぁ」
「はしたねぇな」
「んっ――は、一回出しておかないと、キツイからだろ……んむっ、ふ」
 はぁ、と小十郎の口から熱い息が漏れる。小さな口腔に包まれて、舌と上あごで潰されながら擦られるのが心地よい。佐助の顔が自分の牡でゆがむのもまた、小十郎の欲を膨らませた。
「んぁ、む――ふ、すご……んっ、は、さすがは竜の右目ってね」
「今は、天狗なんだろう」
「それじゃ、天狗の鼻は立派とでも、言いなおす?」
「下らねぇ」
 笑いあいつつも佐助の愛撫に高められ
「クッ」
「んぶっ――んっ、んんっ、ん……っは。ごちそうさま」
 今度は佐助が飲みほした。
「さて、いただいちゃおっかねぇ」
 出したばかりの牡を掴み、先端を尻にあてがう。
「よいしょ――ッ、は、う、ぅう、んぅ」
 またがった佐助が、腰を沈める。ひくりひくりと蠢く肉壁にあわせて、小十郎が食まれていくたびに、佐助の牡が小さく跳ねる。
「ぁ、は、も――んっ、んう、まだ、ぁ、大きくしたら、ぁ」
「仕方ねぇだろう」
「ふっ、は、入り辛くなる――っ、からぁ、も、我慢、して」
「無茶を言うな」
 言って、佐助の腰に手を添えると
「ひはっ、ぁああぁああッ」
 一気に彼の腰を引き落とした。
「ぁはっ、ぁ、ひど、ぁ――ッ」
「これ以上飲み込み辛くなる前に、一気に食っちまったほうが、楽だろう」
「はっ、ぁ、そ――だけど、さ……ぁあ、もぉ」
 ぎゅう、としがみつかれた。
「大嫌い――すっげぇ、意地悪」
 すん、とわざとらしく鼻を鳴らして甘えてくる背を、撫でた。
「は――もぉ」
 身を起し、髪を掻き上げた彼は酷く淫らな顔をしていて
「泣き言いっちゃうくらい、搾り取ってやるから」
「先に根を上げんじゃねぇぞ」
 噛みつくような口吸いをして、気が遠くなるほど絡まりあった。

 しらしらと、夜が明けていく。
「さて、と――そろそろ、お暇しますかね」
 身支度を整えた佐助が言って
「朝飯ぐれぇ、食っていったらどうだ」
 褥の上で肘枕をした小十郎が言った。
「魅力的なお誘いだけど」
 ふわ、と小十郎の前に顔を突き出し唇を重ねて
「ずるずると、居座っちゃいそうだからさ」
 いたずらっぽく片目を閉じた彼を、抱きしめようと伸ばした手は空を切り
「それじゃ、ね」
 声だけが、部屋に残った。
 むくりと起きて胡坐をかき、自分の横に居た男が幻ではなかったことを確認するよう、褥に触れ、彼が吸った肩に触れた。
「やれやれ――とんだ狐に、憑かれたもんだな」
 ぼやく唇は楽しげで
「――どっちが、本心だ? 猿飛」
 天井裏あたりで自分を見ているかもしれない相手が、答えそうもない問いを投げかけた。

 大嫌いと笑って、抱きつかれるたび、愛しくなって――本心は、見えてはいけない間柄で――――けれど…………知りたいと願うのは、傲慢だろうか。

2012/05/15



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