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愛さずに愛を分け合う
 寝所で、袂も裾もくつろげて脇息にもたれかかり、伊達政宗は酒を飲んでいた。
 手酌で杯を満たしながら
「――で、オッサンからの用件は、それだけか」
 目の前の闇に、声をかける。
「それだけって……もう少し、なんかこう、ちゃんとした返事の仕方は無いわけ?」
「Ha――アンタがそれを言うのかよ」
 くい、と政宗が杯を煽る。
 彼の前には、草色の衣を見に纏った忍、猿飛佐助がいた。
「ま、そうだけどさ」
 ひょいと肩をすくめた佐助は、奥州筆頭を相手にしているというのに、慇懃さのかけらも無かった。そしてそれを、政宗が気にする様子は無い。
「普通なら、忍ふぜいがそんな態度を取ろうもんなら、首が飛んでるぜ」
「真田忍は情を重んじられる扱いを、受けているもんでね」
 政宗の声音は、面白がっている色しかない。
「で、猿――アンタ、時間はあるのか」
「時間? 何――大将に返書でも書こうっての?」
「返書をわざわざしたためるような内容じゃあ、無いだろう。アンタが戻って、俺が了承したって言えば済むことだ。――だいたい、そっちも口頭だけじゃ無ぇか」
「それじゃあ、何さ。俺様、こう見えても忙しい身なんでね。はやく帰って、少しでもゆっくりしたいんだけど」
「――証文も何も無ぇ口約束だ。しかも、内容はこちらに負担が多いときてやがる。なら、それなりのことがあるだろう」
 口の端を歪ませ、杯を佐助に差し出す。
「何それ。なんか寄越せってこと? あいにく、何にももってないんだけど」
 両手を広げて差し出して見せる佐助に
「アンタが証文の代わりになればいい」
「は?」
「証を、立ててから帰れ」
 政宗の意図するところを察した佐助の目が、細められた。
「サイテー」
 政宗がクックと喉を鳴らし
「アンタに言われるとは、思わなかったぜ――Beast of the darkness」
 促すように杯を動かすと、滑るように佐助が傍に寄り膝をついた。その唇に杯を当て、傾ける。佐助が薄く口を開き、それを受けた。
「オッサンの信も厚いアンタなら、下手な証文よりも、ずっと信用が置ける」
「俺様をそんなに信用してくれてんの?」
「Honest liar」
「俺様にも、わかるように言ってくんない?」
「嘘つきの正直者つったんだ」
「何それ、意味わかんない」
「俺が、わかってりゃあいいんだよ」
 杯を下すと、佐助が膝を進めてきた。それにあわせ、脇息から身を起した政宗は足を開く。佐助の頭が落ち、政宗の裾を広げ下帯を外し
「急所を、他所の忍に堂々と晒す殿さまってのも、珍しいよね」
「そんだけ、アンタを信用してるってこった。――アンタがオッサンに……いや、アイツを裏切ることは無えと、確信していると言ったほうがいいか」
「旦那のことは、言わないでほしいんだけど」
「なんだ。初心なアイツに知られたくは無ぇってか。安心しな――言うつもりも無え。お互いさまだ」
 アイツ――真田幸村は佐助の主であり友であり、政宗にとっては好敵手であった。初心で世慣れをしていない彼が、政宗と佐助がこのようなことを行う間柄と知れば、どのような顔をするだろうか――好意的なものは、かけらも浮かべないであろうことは、明白であった。
「ほら、猿――」
 促すように、政宗の手が佐助の髪に触れる。
「噛み千切るかも、しんねぇぜ」
「そん時ゃそん時だ」
 あきれたように息を吐いた佐助が、口を開けて政宗の牡を含んだ。たっぷりと唾液を絡めてから、口をすぼめ頭上下させて擦り始める。
「ふッ――」
 柔らかな唇で、ぬるつく口腔でたかぶられる熱は形を変え、佐助の顔をゆがめさせた。
「んっ、ふ――じゅる、ん、はぁ、んっ、ん」
 吸い上げる佐助の髪に指をからめ、撫でる。見下ろす目に、わずかな愛おしさを滲ませる政宗を無視するように、佐助はただ、行為を進めた。
「ん――っはぁ」
 いきり立たせたものを口から外し、裏側を舌先でくすぐる。そうしながら自らの帯を解き、下帯を外して軟膏を取り出すと、それを指に掬った。その手が自らの下肢へ伸びようとするのを、掴んで止める。
「何――?」
 顔も上げずに、佐助が問う。
「俺に、させろ」
「いやだね」
「何故、嫌がる」
「アンタなんかに、触れられたくないんだよ」
 身下す佐助の息が、わずかにあがっている。けれど声は平坦で――
「そうかよ」
 政宗が手を離すと、佐助は自らの秘所を、解し始めた。
「ぁ、ん――は、ぁ、あんっ、ん」
 政宗の牡を舐めまわしながら、自らを解す佐助の姿に、意識が甘く痺れる。指が出入りする様に、佐助が今、ねぶっているものを突き立てた折の感覚が蘇った。
「猿、もう――かまわねぇだろう」
 政宗の息が、熱い。
「はふっ――んっ、まだ……ぁ、一回、出してから」
「っ、く」
 再び、佐助が政宗の牡を口内で包んだ。
「んっ、ふっ、んむっ、んっ、んっ、んっ、んっ」
 激しく頭を上下させ、それにあわせるように自らを掻きまわす佐助の姿に、胸にも腰にも熱いものが湧き上がり
「く、ぅ」
「んぶっ、んっ、ぐ――んっ、ん」
 吸われるままに放った政宗の、残滓すらも吸い上げた佐助が顔を上げ
「ん――濃い…………ほら」
 口を開けて、受け止めた政宗の牡液を見せた。
「――ッ」
 息をのんだ政宗に、ふふと婀娜っぽく笑いかけ、掌にそれを吐き出すと
「はっ、ん――」
 内壁に塗り込めた。
「――猿」
「もう――そんな、待ちきれない顔しないでよね」
 眉根を寄せる政宗を、抱きしめるように首に腕を回す。政宗の腕が佐助の腰に回った。
「それじゃ、いっただっきまーす……ってね、ぁ、ん」
「ふっ」
 佐助が腰をおろし、政宗の玉茎を尻で食んだ。
「ぁ、ん、ふ――っ、は、ぁ……さっき、ぁ、出したばっかだってのに、もう硬い」
「は。ぁ――うるせぇ」
「んっ、褒めてんのに……ぁ、は」
 ゆっくりと、全てを飲み込んだ佐助が
「は――ぁ、ん……ッ、ふぅ」
 息を吐き、薄笑いを浮かべた。
「きもちい?」
「Ha――呑んだぐれぇで、その質問かよ」
「俺様の虜になっちまってるクセに」
「誰が」
「欲しかったんだろ」
「証印がな」
「かわいくねぇの」
「可愛くねぇのは、アンタだろう――竜を味わって、クセになってんじゃ無ぇのかよ」
「なんで、そうなるのさ」
「つっぱねても、良かったんだぜ」
「俺様の立場、わかってて言ってる?」
「そんなもん、気にするアンタじゃ無ぇだろう――しているんなら、もっと慇懃で控えめに使者としての口上を述べてたんじゃ無ぇのか」
「あんなにしおらしく、大将の用件を伝えに来たのに」
「あれがしおらしいってんなら、世の中のほとんどの奴らが、そうなるだろうぜ」
「ひっでぇな――っ、ぁ、ちょ、ぅん」
 笑い合えば、佐助の内壁が絞まり、政宗の形に添う。
「ぁ、も――大きくしないでくれる」
「無茶を言うな」
「ぁ、もう――んっ、ん……ぁ、は」
 突き上げると、促されたように佐助が腰を動かし始めた。
「んっ、ふ、ぁ――んっ、はぁ、んっ、どんどん、ぁ、おおきくなって、ぁ、あ」
「まだまだ、こんなもんじゃ無ぇことは、知ってんだろ」
「んっ、はぁ――スケベ」
 上体をもたせかけ、佐助が腰の動きを速める。円を描くように上下する尻が、政宗の牡を味わい尽くそうと締め上げる。
「っ、は――猿、すげぇな……食いちぎられそうだ」
「ぁ、んんっ――ほんとうに、食いちぎってやっても、ぁ、あ、いいんっ、ぁ、あひっ」
 政宗の指が佐助の牡にからみ、言葉を途切れさせた。
「ぁはっ、ぁ、んっ、ソコ、ぁあ」
 強請るように政宗の頬に顔を擦りつける佐助の髪に、唇を寄せる。
「猿――もっと、狂え」
 耳に熱っぽくささやけば
「ぁはっ、ぁ、あううっ、ぁんぅううっ」
 狂ったように、佐助が腰を振った。
「ぁ、ぁはぁあっ、ぁ、すご、ぁあ、すごぉ、あつっ、ぁ、あ、はっ、ふといぃ、ぁ、はぁあ」
「はっ、ぁ、く――はぁ、猿……もっとだ…………もっと、狂え」
「ぃひぃいっ、ぁ、らめっ、ぁ、そんっ、あ、さきっぽ、ぁ、爪ぁ、らめぇ」
 抱きつぶすほどの力で政宗に縋る佐助が、普段の飄々とした道化の顔をかなぐり捨て、あられもない声を上げて踊り狂う。それを煽るように、政宗は耳朶を食み、彼の牡へ指をからめ、爪を立てた。
「猿――んっ、はぁ……猿」
「はっ、ぁ、ああぅ、あはぁあ、すごぉ、ぁ、すご、ぁあッ、ひ、ひぃい」
 竜の上で、猿が叫びをあげてのたうちまわる。欲に突き動かされるまま叫び、魂ごと竜に差し出し食われた猿は、喜びの涙を魔羅から溢れさせながら、竜の情けを貪り続けた。
「はぁ――はっ、ぁっ、ぁあああああっ!」
「く、ぅうっ」
 最後のほとばしりを迎えた二人は、しっかりと抱き合い余韻を分け合いつつ、ふと重なった瞳が促すままに唇を近づけ、触れる直前にそれを逸らして首に噛みつく。強く吸いあい、互いの標をつけると
「ふふ」
「っふ」
 からかうような、満たされたような笑みを浮かべ、身を離した。
「――次は、いつ来る」
「さぁてね。大将に言ってよ。アンタに用事があるなんて、そうそう無いだろうけど」
「そうか――」
「そ」
 色事の気配などみじんも残さず、佐助が身支度を整えて
「じゃ――大将には、竜の旦那が二つ返事で承諾したって、伝えておくよ」
「手土産に、何か持って帰るか」
「何かくれるんなら、荷駄にして届けてよ。俺様、優秀だからさ。休める時に、少しでも休みたいんだよね。無駄な体力、使いたくないの」
「そうかよ――なら、塩や干物を、後日、届けさせるとするか」
「お礼の品は、期待しないでくれよ? 大将と旦那のせいで、屋敷の修繕でいろいろと要り様だからさぁ」
「アンタが、礼を述べにくればいい」
 交わされた目に、艶が滲む。
「ま、気が向いて暇があったら、来てあげてもいいけどね」
「猿」
「ん?」
 指で招かれ、佐助が顔を寄せる。
「Be out of order to me」
「俺様に、わかる言葉で言ってくんない?」
 ふ、と笑みを乗せた唇が、政宗の瞼に触れた。
「じゃあね」
「Ah――じゃあな」
 闇に溶けるように、佐助の姿が消えた。
 目を細め、杯を拾った政宗は、佐助の余韻を肴に、酒を楽しんだ。

2012/07/30



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