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陰―幸村
  貴方がほしいのに、貴方はいつも、違う方を見ている――――。
 わかってはいるのです。貴方が、あの方を大切にしているということは。もちろん、俺だって命を投げ出して戦場に向かうのは、あの方に天下を獲っていただきたいからで、その気持ちは貴方と同じだと思っています。ですが、ですが俺は――俺は少しでも貴方に見ていただきたいと願っているのに――それなのに貴方はいつもいつも、あの方しか瞳に写さないのです。
――――幸村様!
 まっすぐで、太陽のような貴方を意識し始めたのは、お館様の覚えめでたくなられて少ししてからでした。覚えめでたくなられた貴方は、お館様のことばかりを語り、見るようになられた。何においてもお館様と、おっしゃるようになった。武勲を立てた俺を褒めてくださっていたのに、それも無くなり、お館様の元へ走る貴方に、お館様に、言い知れぬ感情を持つようになりました。
「ん――――」
 軽く身じろぎをされた貴方は、そうして見ると年よりも幼く見えます。戦場にいるときとは、まったく別人のようだ――。ああ、早くその目を開けて、俺を見てください――
「ぅ……あ――――」
 軽く頭を振る幸村様の髪が揺れる。触れて、唇をよせると驚いた顔をされる。あぁ、そんなに零れるほど目を見開かないでください。貴方はこれから、もっと驚かなければいけないのですから。
「いったい何を――」
 体を動かそうとして、息を呑まれる姿も素敵ですよ。あぁ、みるみる顔が赤くなっていく。そうですよね、そうなりますよね。だって貴方は、一糸纏わぬ姿で梁に縄で括られているのですから。
「こ、これはっ――」
 先ほど、貴方が召し上がられた団子。あれに少し、しびれ薬を混ぜさせていただきました。疑うことを知らない貴方が、思ったよりも沢山食べてしまわれたので驚きました。
「はずせっ! 貴様、どこかの間者か」
 違います。貴方の事を想うあまりに狂ってしまった者ですよ。
「――何を」
 わかりませんか。貴方に焦がれるあまり、貴方を力ずくで欲しいと願う者が居るということですよ。あぁ、幸村様。こうして、貴方に触れてみたかったのです。貴方に、俺を見て欲しかった――
「やめろっ、何を考えておるのでごっ…………っ」
 奥歯をかみ締めて、耐えていらっしゃるのですね。若く猛る貴方を見せてください。貴方の中心を、もっと熱く――
「そっ、触っ――っ、ク」
 まだ、誰にも触られたことは無いのでしょう? ご自分でされたことは、おありですか? あぁ、俺の手の中で少しずつ大きくなってこられましたよ。これが、幸村様のお姿なのですね。
「ンッ――――やめっ、クッ」
 あぁ、そんなに体を強張らせて――。硬くするのは、ここだけでいいんですよ。幸村様、ホラ、貴方の中心からくもの糸のごとき雫が――。
「ッ――このような、破廉恥なッ……ことっ」
 破廉恥なのは、こんなふうになった貴方の体ですよ。まぁ、もっとも――そうしたのは俺ですが。しかし、素直ですね。こんなにして――貴方は心だけでなく、体も素直なのですね。
「は、クッ――――ぅンッ」
 少し、刺激が強すぎましたか。こんなに猛っていらっしゃいますよ。幸村様、気持ちがいいのですね? 俺の手で、こんなに感じてくださるなんて光栄です。
「違ッ――やめッ……ハッ、あァ――」
 何も、違うことなど無いでしょう。こんなに熱くして、こんなに溢れて――瞳も、こんなに艶っぽく濡れて…………あぁ、貴方の瞳は――とても甘いですね。肌も、とても甘い。すべらかで、とてもキレイだ。
「ンッ――くふっ、ァ」
 鼻を咥えられると、息がしにくいでしょう。唇を奪いたいのですが、まだ――そこまでの決心がつかないのです。――貴方の体を、こんなにしているくせに、おかしいと思われますか?
「はぁ――ッ、う、くぅう――」
 幸村様の肌、薄く湿ってこられましたね。長い後ろ髪が体に貼り付いていますよ。いつも、背後からこの髪が揺れているのを眺めていたのです。幸村様――貴方が駆けて行く姿を――敵陣に向かう姿にあこがれて、この髪の描く軌跡を見つめておりました。そして、貴方がお館様の元へ駆けて行く姿に、この髪が描く軌跡を手を伸ばして追い、掴んで引き止めたいと願っておりました。こうして触れて、唇を寄せて――――
「も、ぅ…………やめっ、ァ」
 こんなになっているのに、そんなに艶めいた表情をされているのに、それでも俺をにらみつける瞳の強さは戦場のソレとたがわないのですね。ますます、この胸が締め付けられてしまいます。幸村様――あぁ、こうして何度も何度も、狂おしく貴方の名前を呼んでおりました。
「そんっ――知らッ、――ッ」
 あぁ、ここを擂り潰すのは刺激が強すぎましたね。体を仰け反らせて――足の指まで握り締めて――――幸村様。そうですよね、貴方は俺の想いなんて、知らなかった。気付きもしなかったでしょう――こんなことさえしなければ、貴方は俺のことなど忘れて、いや、最初から知らなかったのかもしれませんね。気まぐれで褒めた者が居たことなど、とうに忘れて――幸村様、あぁ、この喉笛を食い破ってしまいたいと願うほどに焦がれているのです。
「ヒッ――あぅ、ゥ――っ、くぁッ…………やめっ」
 大丈夫です。噛み千切ったりしませんよ。この、幼い喉仏を口内で甘やかせて見たかったのです。胸がこんなに大きく上下して――肌をこんなにあわ立たせて――――もう、上り詰めそうなんですね。
「ッ――違うッ――――ちがッ、はぁあッ」
 ウソをつかないでください。貴方にウソは、似合いませんよ。あぁ、強がり――でしょうか。それなら、納得できます。そんなに甘い声を出して強がっても、より俺の胸を苦しく、想いを陶酔へと誘うだけですよ。それとも、貴方はそれを望んでくださっているのですか? この、憐れな者に報いようとしてくださっているのですか――。
「はひっ――ン、ふっ……ぁ、ァ」
 歯の根が合わなくなってきたのですね。こんな刺激は初めてですか。幸村様、あぁ、この手で貴方をこのように熱くできたこと、これ以上無いくらいの喜びに打ち震えています。わかりますか――幸村様。
「わかっ……らぬ、ぅ、うぁ――」
 素直なのに、頑なで――そんな貴方だからこそ、こんなに俺は惹かれるのです。貴方の香りが、ホラこんなに――。
「い、ぁうンッ――はぅ、う…………ッ」
 もどかしいのですね。こんなに猛って、脈打っているというのに最後の一押しが無いことに――。出したい、と一言願ってください。俺に、言葉をかけてください。幸村様、俺を見て、俺に懇願を――俺に、貴方の望みを言ってください。
「う、くぅ――」
 首を振って――そんなに嫌ですか。俺ではいけませんか。俺では、貴方を満たすことは出来ないのですか――お館様のように、貴方に求められることは――たとえ他ごとであったとしても、求められることを望むことは出来ないのですか。
「こ、このっ――よう、な……ァ、――くぅ」
 あぁ、その瞳――ゾクゾクします。幸村様。もっと、俺を見てください。貴方の瞳に、意識に、俺を映して下さい――。
「このようなっ――ことッ、ァ――求めッ…………」
 貴方が求めていなくても、求めるようにしたいのです。だからこそ、このような卑劣なことをしたのですよ。幸村様――貴方を手に入れられるのであれば、ただ一度だけでも貴方に求められるのであれば、俺はどのような事でも厭わない。
「クッ――ぅ、アァ…………ッ」
 あぁほら、もう限界でしょう。涙を滲ませて――それでも貴方は俺を求めて下さらないのですね。――――幸村様!
「あっ、はひっ――ァ、はぁ……ッ、はふ、ゥ、ンアァアアアアア!」
 幸村様、幸村様――そんなに首を振って、ほら、気持ちがいいでしょう? 求めてください。この俺を――偽りでも、一度きりでもいい…………幸村様ッ!
「ァ、はふっ――そっ…………や、ァ――はンッ――はっ、ハァッ」
 ホラ、幸村様――幸村様ぁッ!
「は、ぁああああアアアアアァアアアアア!」
 ああっ――貴方の香りが弾けて…………なんて、芳香――そして、咆哮――――幸村様、幸村様………………幸村様? どうして、唇を噛んでいらっしゃるのです。
「ぅ、ふっ――」
 悔しいのですか。俺のような者に、このようにされたことが屈辱だとお思いになるのは、当然の事ですよね。でも、謝りませんよ。謝るくらいならば、最初からこのような事は――
「……がう」
 え?
「違う、のだ」
 何が、違うのですか。涙を滲ませて、唇を噛んで――このような者にいいようにされて、欲を放ったことが悔しいから、そのような顔をされているのでしょう。
「俺はッ――――そなたに、このような事をッ…………っ」
 幸村様?
「このような事をさせるに至った自分のふがいなさが、悔しいのだッ」
――――ッ
 幸村様――貴方は、なんて――――美しい人なのだろう――――



2009/08/9



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