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そう、だから……

 キュ――
 ゴムの擦れる音がして、良しと頷いてから真田幸村はバスケットボールをカゴに仕舞った。その斜め向かいで、伊達政宗がつまらなさそうにバスケットボールを磨いている。
「政宗殿、もっとまじめに磨いて下され」
「Ah――」
 生返事をし、くるくると指先でボールを回してからカゴに向かって投げる。
 ガゴッ
「っしゃ」
 カゴ上部でバウンドし、ボールは見事に中に納まった。
「政宗殿」
 とがめる色に、眉根を寄せた。
「そのような調子では、いつまでも終わりませぬ」
 二人の周りには、カゴ一杯分のバスケットボールが転がっている。
「こんなもん、真剣にやってられるかよ」
「なれど、罰則で御座いますれば」
「Ha!」
 吐き出すように言って、政宗が肩をすくめる。
「ばかばかしい」
 そのまま、床に仰向けになった。
「政宗殿」
 非難めいた声を拒否するように、背を向けた政宗をとがめる気持ちを粋に変えて吐き出し、幸村はボール磨きを再開した。
 キュ――キュ――
 無機質な音に舌を打ち、起き上がる。
「大体、本気で全部綺麗にしろなんざ思って無ぇんだよ。見せしめのための適当な処分は、適当に済ましちまやぁ良い」
「練習試合中に熱くなりすぎ、みなに迷惑をかけたは事実にござる」
「授業だろうが練習だろうが、本気でやんなきゃつまんねぇだろう」
「それは、そうでござるが――」
「俺とアンタが別のチームになって競い合や、半端じゃすまねぇって事ぐらい誰だって容易に想像が付くはずだ。その上でそうしたんなら、結果は推してしかるべしだ。それが困るってんなら、そうならないようにしむけりゃあいい。そうしねぇで罰則を科すって事は、道理に合わない、だろう」
 身を乗り出し、まっすぐに見つめてくる政宗の理屈になるほどと思いかけ、あわてて否定の言葉を発するために口を開く。
「なれど、周りが見えなくなるは某の未熟……」
「何言ってやがる。クラスメイトどころか学校中が、俺とアンタが対峙すりゃあ行くところまで行っちまう事は承知している。やばいときなら、小十郎や猿飛が止めに入る。加減が出来るわけがねぇとわかりきってんのに、打てる手を打たなかった。みえていた結果に罰則を与えるのは、一応の教師としての行動をとらなきゃならねぇからだ。――つまり、これは形式上のペナルティってだけで、本気じゃあ無ぇ。その証拠に、バスケ部が毎日磨いているモンを改めてやる必要性が何処にある。本気で罰しようってんなら、屋上前の踊り場やら物置やら、普段は誰もしねぇような所を片付けさせるほうが、よっぽど効果があるだろう」
「――ぬぅ」
「だから、下校時間まで適当に時間をつぶしてりゃあいい。与えられたもんがどういうものか見極められなきゃ、大事なものを見落としかねないぜ」
「成程」
 今度は、素直に納得した。
「さすがは、政宗殿にござる」
「It Is natural」
 当然と言い放ち、手を伸ばして招く。疑問符を浮かべながらも身を乗り出し、わずかな距離なので這う形で近づいた幸村の頬に、その手が触れた。横髪に指を絡める。
「今、大切なことは何だ。真田幸村」
 きょとんとする彼に、言葉を重ねる。
「どういう、状況だ」
「――政宗殿と二人で、バスケットボールを磨いておりまする」
「ここは、何処だ」
「体育倉庫にござる」
「どういう所だ」
「運動などをするために必要な道具を、保管する場にござる」
「つまりは」
「つまり、とは」
「教室や図書館、食堂なんかとの違いは、何だ」
「――――用の無い場合は、利用いたしませぬ」
「今日、俺たちは何と言われた」
「下校時間までに、バスケットボールを全て磨けと」
「それは、どういうことを指している」
「何を申されたいのか、わかりかねまする」
 額によった幸村の皺を、政宗の指がほぐす様に撫でる。
「今日は、此処にあるもんを使う部は、休みだ。そして、下校時間までに磨いておけといわれた。さらに、ここは用の無いヤツは来ねぇ。それらを総合して、導き出る答えは、何だ」
「――下校時間までは、誰も来られぬ」
「Yes! それは、何を意味している」
「政宗殿と某は、下校時間まで二人であり続ける、ということにござろうか」
「OK それで、俺とアンタは、どういう関係だ」
「どういう、とは」
 額の指をまっすぐ下ろし、唇を撫でながら甘く気配を変化させた政宗に、幸村の頬が熱くなる。
「Great」
 ささやく声に含まれた色に、幸村の心拍数が上がった。
「はっ、破廉恥でござる」
「俺は、何も言ってねぇぜ」
「――ッ!」
 きゅっと唇を引き結びにらむ瞳に、ぞくりと政宗の心臓が奮えた。喉の奥で笑いながら視線を捉えるように、緩やかに唇を開く。
「俺たちは、若ぇ」
 身の内にある獣に、政宗の声が届く。暗いところから醒めるもののある事に、理性がわななく。人目に触れることの無いそれを起こし、喉もとを撫でるように政宗の指は彼の髪と遊び、長い部分を引き寄せて唇に寄せた。
「ま、政宗殿」
 うろたえる幸村などお構いなしに、政宗の指は髪と戯れる。切なげな息が毛先に触れると、幸村が体当たりをするようにしがみついてきた。
「――ずるうござる」
 額を胸に押し付けてくる。拗ねた声をあやすように、つむじに唇を落とし、髪を解いた。何度も指で梳き、襟元を撫で、シャツのボタンに手をかける。しがみついてくる手に力がこもり、苦い愛しさが湧いた。
「っ――ん」
 手を差し入れ、素肌を探る。全身で抱きしめるように頭に頬をよせ、肩から背中、胸を手のひらでまさぐる。小さな突起にふれ、そのまわりをなぞり、より尖るようにつまんで捏ねると甘えてねだる猫のように、、胸にある頭がすりついてくる。
「ぁ、ふ――んんっ」
 幸村の頭が胸から首に移り、不安げな色をたたえた瞳が伺うように見上げてきた。安心させるように瞼に口付け、首を伸ばして近づいた唇をついばむ。
「んっ、ん――」
 角度を変えて重ねながら深まるのにあわせ、幸村の腕が政宗の頭を抱えるように求めてくる。応えながらシャツのボタンを全てはずし、存在を確かめるように汗ばむ肌に指を滑らせた。時折、尖りを捏ねたり潰したりすれば、重なる口から細い声が漏れた。
「は、ぁ――ふっ、んぅ」
 鼻にかかる息に、政宗の呼気も荒くなる。ベルトをはずし、下着の中に手を入れた。
「ふぁっ」
「ずいぶんと、元気じゃねぇか」
 からかうと、頭突きをくらわされた。仕返しとばかりに先端を揉むと、身悶えながら全身をゆだねてくる。
「幸村」
「ふぁ、あっ、ぁ、まさ、む、ねどのぉ」
 うわごとのように呼ばれた自分の名を食むように唇を重ね、自分の牡を取り出し、幸村のそれと重ねる。
「っあ――」
「隠し事は、無しだ」
 熱い息とともに耳に舌を入れ、牡を擦りあう。互いの液が溢れ、指に絡み、滑りが良くなり快楽がさらに膨らんでいく。それに促されるまま、幸村の腰が揺らめいた。
「はっ、ぁ、ぁあっ、ぁ、ふぅんっ、ぁ」
「幸村――幸村……」
「はぁあっ――さ、むね、どの、っぉお」
 名を呼び合い高まる牡は、これ以上無いくらいに膨らんだ。
「ぁあっ――も、もぉ、ぁ、はぁ、ああ」
「OK――Me Too……くっ」
「んはぁああっ」
 びくんと大きく脈打ち、欲が噴出す。それが残らず出るように指を動かし、放たれたものを手のひらに集めた。
「腰、浮かせろ」
「っ……」
 ささやかれた言葉の意味を察し、小さく震える幸村がしがみついたまま腰を上げる。
「OK. Good」
 下着ごとズボンをずらし、あらわになった双丘を割り開いて二人の液で濡れた指を秘孔へ差し入れた。
「ひっ、ふぁあ――は、ぅん」
 中腰でしがみついてくる幸村の孔と牡をあやす。肩に額を摺り寄せる姿にこみ上げる柔らかなものに、政宗の牡が猛る。
「っ――繋がりてぇ」
 腹の底から溢れた吐露に、欲に溺れた幸村が顔を上げる。軽い音を立てて唇に触れ、政宗は学ランとシャツを脱いだ。
「来いよ」
 体中を朱に染めた幸村の腰が政宗の牡の上に動き、ためらいがちに下りかけ、止まる。
「そのまま、来い」
「っ――う」
 苦しいくらいにしがみつかれ、ふっと息を吐く。入り口に牡をあてがい、両手を腰に添えて促した。
「ふぁ――っ、ぁ、ああ」
 のけぞる幸村の顎に、首に、口付ける。
「全部、入ったぜ」
「ふっ……ぅん」
 ひくっ、と内壁が応える。頬を重ね、動き始めた。
「はっ、ぁん、う――ぁあ」
「すげぇ、蕩けそうに……熱い」
「ぁ、や――い、言わないで、くだされぇ」
「安心しろ。俺も――っ、同じだ」
 苦しげに伝えられた言葉が、幸村の背骨を駆け上がり、理性を麻痺させた。
「っ――は、ぁあっ、ぃ、ぁあっ、はくっ、ぁう」
 押さえつけられていたものが噴出し、幸村の獣が吼え、身をよじる。それに応えるように、政宗も踊り、全てを注いだ。

 くったりとしなだれかかる幸村を横たわらせ、引き抜く。ぼんやりとした目で眺めてくるのに気づき、腹に付いた彼の液を指ですくって舐めて見せた。
「なっ――」
「アンタの、味がする」
「〜〜〜〜〜ッ、破廉恥な」
「さっきまでのアンタに、その言葉、返してやるよ」
「ッ!」
 にやつく政宗にぶつける言葉が見つからず、顔を背けてしまった幸村に手を伸ばし、さらりと髪に触れ、耳元に顔を寄せてささやく。その言葉に甘い夢を見ている顔で首を向けた幸村の唇が、少し迷ってつぶやいた。
「某も――」
 吸い寄せられるように、唇が重なる。それから二人は下校のチャイムが聞こえるまで、吐息を重ねて囁き合った。

2012/2/12



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