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喰らふ

 伊達政宗の自室で、真田幸村は酒を口に運んでいた。時折、肴をつまみながら、ほろほろと月光を含んだ酒を酌み交わす。
 武田信玄の使いで、ここ奥州に来た幸村は、本来そのような任務をこなすような身分ではない。文を届けるだけであれば、甲斐武田の中でも名だたる武将たる彼が出るのは稀有なことであった。――が、事情がある。
 奥州筆頭である伊達政宗と真田幸村は、さながら武田信玄と上杉謙信のような好敵手の間柄であった。年若く、血気盛んな年頃の二人が燻るのを見て、大地のような信玄がついでに腕を磨いてこいと送り出すは必定。むろん、諸国に不穏が無い場合のみではあるが。
 そしてそれに甘んじ、かつ心躍らせて奥州へ来た幸村と、それを迎えた政宗の心中には好敵手とはまた別の、甘い感情も有った。
 今宵は、淡く立ち上るそれを、ゆるゆると酒に溶かしながら身をゆだねる気でいた政宗であったのだが――――
「そういえば昼間、食うの食われたのと申されておったは、いかな話でござったのか」
 ぐっ、と飲みかけた酒をのどに詰め、咳込む。
「政宗殿、いかがなされた」
「げほっ、アンタが急に妙なことを口走るからだろうが」
「妙――とは?」
「昼間の、勘五郎の話だろう。娘が食われたっていう」
 こくりと頷く。
「奥州には、人食いの輩でも――」
「んな訳あるかよ」
 そんなこったろうと思ったぜ、とつぶやきながら大きく胸に息を吸い込み吐き出す政宗を、不思議そうに見つめる。
「ありゃあ、娘の良い相手がとうとう娘を食っちまったってぇ、父親の複雑な心境ってやつを愚痴ってたんだよ」
 怪訝な顔で首をかしげる幸村に、盛大にこれ見よがしなため息をついて見せ、眉間を抑える。
「色気もへったくれも無ぇな」
「何を申されておるのか、わかりやすく説明していただきたい」
「わかりやすく――ねぇ」
 きらりと政宗の目が光ったかと思うと、幸村の腕をつかみ、引き倒す。
「うっ、ぁ」
 抵抗する間もなく仰向けに倒れた彼の上に、覆いかぶさり顎を掴んだ。
「なっ――んぅうっ」
 口で口をふさぐ。驚きに開かれた口内に舌を差し入れ、歯列をなぞり、上あごを撫で、舌を吸う。
「ふっ、んふぅ、はっ、ぁ」
 逃れようとする体を押さえつけ、息苦しさに瞳を潤ませても行為を止めない。体温が上昇していくのを楽しみながら袴の裾をからげ、手を差し入れると腰が大きく跳ねた。
「ひっ、ぁっ、ぁあっ、ぁ、あっ」
「ずいぶんと、威勢がいいじゃねぇか」
「ひぅっ」
 下帯の上から握りしめる。脈打つ鼓動が掌に伝わり、政宗の牡も高ぶりはじめる。
「はっ、ぁ、ま、さむね、どのぉっ――いき、なりっ……何を、ふあっ」
「アンタが、わかりやすく説明をしろって言ったんだろう」
「っ、これの――どこが説めっ……っ、んんっ」
 先端を握りこむと、じわりと下帯が湿った。
「わかりやすいだろう――アンタが今、俺に……食われようとしてる」
 耳奥にささやく。困惑しながらも淫らな色を帯び始めた眼球を舐め、いたずらを思いついた子どものような顔をした。
「もっとも――つながる時は、俺が食われてるがな」
「はっ、はれっ――んぁ」
 下帯をずらし、双丘の奥――谷に隠れた秘窟へ指を差し入れ、蠢かす。
「しっかり銜え込んで――しばらく会わねぇうちに、一段と淫乱になったじゃねぇか」
「はっ、だ、だれがっ、ぁ、そ、そのよ……うなっ、ぁ、ああ」
「無ぇ、と言いたいのか? じゃあ、この吸い付くような肉壁は、もとからだったってことか」
「やっ、違っ――ひっ、ぁ、ま、まさむね、どのっ」
「アァン?」
「き、着物が、よっ、よごれてしまっ――ぁ、はぁ、汚れてしまいまするっ」
「――我慢しな」
「ひっ、ぁ、ああっ、ひぅうっ、そこっ、そこはっ、そ、ぁっ、あぁ」
「なんだ――もっと、して欲しいって? OK,期待に応えてやろうじゃねぇか」
「ひぃんっ、ぁ、ああっ、まさ、むねどのぉっ、ごっ、後生なればっ、ぁ、も、ぁ、ぁあ、ぁ」
 必死に政宗を止めようと、体内をまさぐる腕を掴んで首を振る。膨らむ牡を膝で押し上げるように擦ると、幸村の腰が強請るように、逃れるようにくねった。
「もぉ、あ、もっ、も……もぉ、は、ぁあっ、あぁああ」
 大きくのけぞる幸村の牡が強く政宗の膝に押し付けられる。じわりと暖かなものが下帯に滲んだことに、からかうような、あざけるような顔で射精した幸村の目を覗き込んだ。
「漏らすなよ」
 カッと幸村の顔が熱くなったのに、のどの奥を震わせる。
「うっ」
 下肢に、刺激が走った。
「政宗殿こそ――そ、某に触れながらこのように猛らせて……っ」
 負けん気が起こったらしい幸村が、政宗の股間に手を伸ばし、掴み、睨みつけながら放った言葉は尻すぼみに消えていく。後息が艶めいたものとして漂うと、政宗はからかう色を潜めて艶めいたものを纏った。
「ぞんぶんに、アンタを食らいてぇ」
「――政宗殿の猛りを、某に食させてくだされ」
 くすり、と同じ笑みを浮かべ額を合わせる。
「いいぜ――存分に喰らわせてやる。竜の、熱を」
「虎の若子の魂、存分に喰らわれよ」
 どちらともなく吸い込まれるように引き寄せられ、唇を、体を、重ね――月光に切り取られた刻の狭間で貪り合う獣が、二匹。

2012/2/17



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