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喰らふ

  とっぷりと日が暮れて、星々が存在を主張している刻限。
 灯明が揺れる室内で、憮然としながら真田幸村はつぶやく。
「佐助」
 夜気に消えてしまいそうなほどの声であるのに、影が応じた。
「はいはいっと。どうしたのさ、旦那」
 床に降り立った彼の忍、猿飛佐助は珍しく機嫌の悪い主の顔を覗き込んだ。
「昼間の、事なのだが」
「昼間? どの事さ。――大将と二人して灯篭壊しちゃった事、はいつものことだし、忍の仕事に首を突っ込もうとして薬草まき散らしたこと、じゃないよね。あとは……」
「佐助っ」
「はいはい」
 ますます不機嫌になる顔が、すねて甘える子どものようで、ついつい意地悪を言いたくなってしまう。
「勘五郎のことだ」
「勘五郎――あぁ、あのことね」
 よく気働きができるが少々口が軽く、あけっぴろげすぎる所が問題と言えば問題な初老の下男だ。
「調べは、ついているのか」
「調べって、何を調べるのさ」
「娘御が、食われたと」
「それの何を調べなきゃいけないわけ? ――まさか旦那、そんな下世話な趣味に目覚めたとか、言わないよね」
「下世話?」
 きょん、と首をかしげる主の勘違いに気づき、ほほえましさと同時に湧き上がるむずがゆい愛おしさに身をよじりそうになりながら、顔を寄せる。
「もし、勘五郎の娘が食われたことを調べなきゃいけないんだったら、旦那も調べられなきゃいけないねぇ」
「何故、俺が調べられねばならぬ」
「こういうことだから、だよ」
 ちゅっ、と唇を重ねる。
「わかった?」
「ごまかすな」
「ごまかしてないよ」
「じゃあ何だ」
「ほんっと、旦那ってば鈍いんだから――俺様と、してるのにさぁ」
 本当に、わかっていないらしい。唇をとがらせている主の首に腕を回し、鼻頭を合わせた。
「俺様が、旦那の事を食べてるからだよ」
 ぱくり、と鼻にかみつき目を白黒させる幸村の着物をはだける。肩に掌を滑らせると、手首を掴まれた。
「ごっ、ごまかすなと申しておる」
「まだ、わかんないの?」
 赤く染まった頬に、嫌がるそぶりは見えない。このまま続けても良いと許可を得たも同然の見上げてくる瞳に唇を落とし、んふふ、と上機嫌な息を漏らす。
「俺様が、今から旦那を食べようとしてんの」
 首筋に顔を寄せると、やっと意味が理解できたらしい。触れている肌の温度が、一気に上昇した。
「っ――」
 鎖骨に歯を立て、胸に唇を滑らせる。舌先で弄び、強く吸うと幸村の腰が跳ねた。
「ふぅ、んっ」
 そこが真っ赤に熟れるまで執拗に攻めると太ももに固いものが当たった。
「旦那、乳首だけで勃っちゃった?」
「ううっ」
 耳まで赤く染めて顔をそむける初々しさに、佐助の股間にも熱が籠る。
「うあっ」
 下帯の隙間から指を差し入れて先端だけを取り出し撫でると、太ももで体を挟まれた。
「なぁに、旦那。俺様の事、太ももで押さえつけなくても逃げないよ」
「っ、ちが、ぁ、ああ――」
「下帯からはみ出た旦那の摩羅、やらしいね」
「佐助が、出したのだろ、ぅ……ん」
「だって、果実は剥かなきゃ食べられないだろ――では、いただきます。なんてね。んっ」
「はっ、ぁあ――」
 ぱくりと先端に食らいつく。強く吸いながら袋をもみ、時折先端をチロチロと舌でくすぐると蜜がこぼれ出てくる。
「ぁ、はぁ、ぁ――さす、ぁ……っ」
 両手で髪をまさぐってくる幸村の、快楽におぼれ始めた表情に佐助の牡が頭をもたげ、早く繋がりたいと主張してくる。
「旦那、ごめん――ちょっと、我慢できないかも」
「え……ひっ、ぁ、ああ」
 下帯をずらし、隠れていた菊花に潤滑油を塗り込める。
「あ、下帯で摩羅押さえつけられちゃったね、ゴメン」
 わざとらしい口調に、咎める目を向けるも、すぐに佐助の指で鋭さが溶かされる。
「はっ、ぁ、さす、ぁ、さすけぇ、ぁ、も、もぉ、ぁ、ふぁ」
「わぶっ」
 足で、頭を抱きしめられた。摩羅に顔を思い切りぶつける形になり、痛いほどに張りつめているそれが刺激に跳ねた。
「はっ、ぁ、ぁあっ、あ――――」
「ぅわ、すご」
 佐助の目の前で、蜜がまき散らされる。
「びゅくびゅく噴出して――あぁ、名残りがあふれてるよ、旦那……こんなとこ、俺様に間近で見られたかったの? 旦那ってば、や〜らしぃ」
「や、ちが――ぁん」
 ちゅっ、と先端を吸い、腰を抱えて膝に乗せる。
「ね、俺様のも爆発しそう……いい?」
「き、聞くなっ」
 菊花を牡の先でつつくと、体中で抱きつかれた。彼がまだ元服する前によくしていたように、掌で優しく背中をたたく。
「だ〜んなっ」
 甘えたような、甘やかすような声で呼ぶと、そっと顔が持ち上がった。額に唇を押し当てて、挿入する。
「はっ、ぁ、ああっ、あ、ぁあぁ」
「ふっ、き、つ――あ、でも、んっ、すご」
 内壁が蠢動し、佐助を締め付けながら誘い込む。
「はぁ、だんなぁ、きもちぃ」
 問いかけのような報告のような声に、羞恥を隠すために怒っているような、快楽に上擦った声で幸村が言う。
「っ、先ほど……佐助が俺を食うと、言ったな」
「ん? うん、言ったねぇ」
「ぅ――こ、この状態では、俺が…………食ろうておるではないか」
 言い切る前に語尾が消える。瞬き、肩に額を摺り寄せてくる相手を見つめ、噴出した。
「な、何が可笑しい」
「ん〜ん。ほんと、旦那って負けず嫌いなんだから」
 頬を摺り寄せ、抱きしめる。
「それじゃ、俺様のこと、たぁっぷり食べてよね、旦那」
「えっ、ぁ、あぁっ」
 ゆさ、と佐助が動き始める。
 たっぷり、という言葉通り、幸村が「もう食せぬ」と根を上げるまで、佐助は彼を離さなかった。
「俺様の味、最高でしょ、旦那」
「ばっ、ばかものっ」
 甘い口づけが、交わされた。

2012/2/18



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