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リクお題「不倫こじゅ幸」

 雨音がこもったように響く薄暗い小屋の中で、片倉小十郎は籾をつまみ、手に平に乗せて確認をしていた。
 もうすぐ、作付けが始まる。
 そのための種籾の状態を確認する彼を、他のすべての音を遠ざけるように、雨音が包んでいた。
 雨は、雪を解かすだろう。暖かな風も共に運び、とどまろうとする冬を押し流す。溶けきれない雪は泥にまみれ汚れ、あらがえないほどに凶暴な生命があふれ出る。すべてを覆いつくし、何もかもを白く汚れのないものへと変えた雪を、蠢く春が捉えて汚すさまはまるで――
 ふいに、雨音が近くなった。顔を上げると不安げな目が小十郎をとらえている。思考におぼれそうになっていた自分には苦笑を、相手には微笑を浮かべて声をかけた。
「どうした、真田」
 ほっとした顔で入り、傘をたたんで扉を閉める彼の髪も袖も裾も濡れている。扉が閉まると、雨音がまた遠くなった。
「政宗殿が、片倉殿はおそらくここだろうと申された故――」
 彼の目が、小十郎の手元にとまった。
「ああ、作付け用の種籾だ」
「作付け」
 ふらりと近づいた柔らかな髪が小十郎の視界を遮る。手の中を覗き込む姿は、幼子のようであるのに後ろ髪の間から覗く首には、情事のうっ血があった。
 おそらく、昨夜は伊達政宗と
「片倉殿は、すべての農作業にかかわられておられるのか」
「ああ、まあな」
「それはやはり、民の暮らしを身近に感じんがためにござろうか」
「そんな大層なモンじゃあ無ぇ」
 わずかに首を傾けて、種籾をつまんでみる姿の幼さと、戦場での雄々しさがつながらない。けれど、彼はまさしく紅蓮の鬼であり、敬愛する君主伊達政宗の好敵手であり――情人であった。
「某のような者からすれば、野良仕事はまこと不思議にござる。種を植え、育て、収穫をする。それらがあるからこそ、我らは食うことができる。生きる糧が出来る。――お館様は、そのように申されておりました」
 てらいもなく正しいことを口にする中身は、子どもが正論を唱えるのとかわらぬ重さでしかない。彼の仕える武田信玄のように、あらゆる汚れを体験してきた者の言葉とは、含むものが違いすぎる。けれどそれに気づく様子もなく、ただ無邪気に信じている危うさが、小十郎の中に苛立ちのような衝動を産んだ。
「片倉ど――んぅ」
 種籾が床に落ちるのと、小十郎の唇が乱暴に幸村の唇を押しつぶすのと、どちらが先だったのか。
「んっ、んぅう、ふっ」
 無理やりに唇をこじ開け、舌を差し入れて弄る。息苦しさに小十郎の着物を掴み、引き、背を叩く手が縋りつくものに変わるまで、さほど時間はかからなかった。
 小十郎の足に、固いものが当たる。それを掴み乱暴に擦ると、口腔でくぐもる声の質が変わった。
「ふ、んぁ、あ」
 鼻から抜ける甘い息。ふと重なった視線からにおい立つ官能の気配に、小十郎の下肢がうずいた。
「はぁ、あ、かた、くらどのっ、ぁ」
 乱暴に邪魔なものを剥ぎ取り、素肌に触れる。肌に見える政宗の標を追いかけながら唇を落とし、重ねていく。
「ぁう、んっ、や、おやめくださ――ひぃ」
 手の中にまだ残っていた種籾を、あふれる蜜をとどめるために埋め込み、根本から先へ舌を這わせると太ももがわなないた。
「ぁ、は、ぁあう、んぁ、あぅう」
 必死にこらえて踏ん張ることしかできなくなった相手を、さらに追い詰める。種籾さらに詰めながら、彼の蜜で濡れた指を政宗を昨夜受け入れたであろう箇所へ埋めた。
「んひっ、ひ、ぁあ」
 埋めた種籾が噴き出さぬように指先で抑えながら、舐る。蠢く内壁に誘われながら広げる指の本数が増え、嬌声が悲鳴のようになり、ついに膝の力が抜けて頽れた体を抱きとめた。
「ぁ、あぁ、も、もぉ、ぁ、はぁ、い、痛ぉござるぅ」
 快楽に濁った眼は、相手が小十郎だとわかったままなのだろうか。それとも、伊達政宗の幻を見ているのだろうか。
 牡は痛いほどに膨れ上がり、見ているこちらも哀れに感じるほど震えている。しっかりと抱きかかえ、先ほど指で探り見つけた箇所を擦りあげるように膝に乗せて小十郎の猛りを埋めた。
「んはぁあああああ――ッ」
 のけぞり叫ぶ幸村が、埋め込まれた種籾を蜜と共にまき散らす。それを助けるように擦りあげながら、小十郎は彼の中に埋めた狂気を振り回す。
「ぁあ、ぁひ、ひぅぁおお」
 あられもなく声を上げながる彼の内壁が、小十郎をあさましく求めてくる。薄く汗ばむ肌にある政宗の痕が背徳の風を吹かせ、小十郎の炎を燃え上がらせた。
「はぁ、あぁ、あつ、ぅ、ぁあっ、ひ、ひぁあ」
 小屋の中にこだまする生命の叫びは、すべて雨音が遮断し外には聞こえない。

 ぼんやりと、雨音に耳を傾ける。疲れて眠る頬にそっと手の甲を当てた。
「ん――」
 小さな声に目を細める。何度か震えた睫毛が持ち上がり、小十郎の姿をとらえた。
「かた、くらどの」
 焦点の合わない声に返答をするように、頭を撫でる。くすぐったそうに閉じられた目はすぐに開かれ、がばりと飛び起きた彼は周囲を見回し、やがて先ほどの情事の残り香に気付いて頬を赤らめ、うつむいた。
「真田」
 名を呼んでみるが、その先につづく言葉を小十郎は持ち合わせていなかった。しばらく見つめていると、すっくと立ち上がった彼は深呼吸を幾度か繰り返し、よしと気合を入れたかと思うと小十郎にまっすぐ向き合った。
「ま、政宗殿が、呼ばれておりましたゆえ、お戻りくだされ」
 それだけ言うと、さっと踵を返し扉を開けて傘を差し、雨の中を走り去る。あっけにとられた小十郎はただ眺め、やがてこみ上げるものに任せ、笑い声をあげた。
 春に蠢く生命の衝動は、なにものであろうと抗う術を持たず、雪はただ、気高いままに甘んじて蹂躙を受け入れる。

2012/3/05



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