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純で淫らに大胆で

 書店でこそこそとしている見知った人に目を止め、猿飛佐助は首をかしげた。
 本屋に居る事は別段珍しいと言うほどでもない。彼も時折はマンガなどを購入したりする。けれど、あのように隠れるような所作をする理由がわからない。
 常にまっすぐ背筋を伸ばし、猫背になることなど無いのではないかと思えるほどの彼が、周囲を気にしながら居るというのは、なぜなのだろうか。
「佐助くん、どしたの」
「ん、あぁ――別に」
 そばにいる甘えたような声を出す同級生に笑いかけ、行こうと誘われ頷く目は、再び書店に向けられた。  迷うそぶりの幼馴染、真田幸村の横に悪童の
笑みを浮かべた伊達政宗の姿を見止め、早めに友人らとの遊びを切り上げなければと思いつつ、佐助は背を向け歩き出した。

 夜。そっと幼馴染の家の玄関を開ける。窓の明かりから、幸村が在宅していることは確認済みだ。
 隣同士という気安さからか、昔から彼の世話役のようにしてきたからか、佐助は真田宅のカギを所有している。共に住めばいいのではないかと思うほど、どちらかの家で食事をすることも多く、佐助が台所に立っていることも、この家に無断で入り込むことも、なんら不自然ではなかった。
 そっと二階に上がり、幸村の部屋の前に行くと、彼にしては珍しく大きな音で音楽を流している。
(怪しいの、まるわかりだよ旦那)
 まるで小さな子どものようだと、くすりと笑みが漏れた。
(俺様に隠し事は出来ないってね)
 そっとドアを開けて隙間から覗き込む。こちらに背を向けている幸村は、床に座り真剣に何かを見ているようだ。
 それはたぶん、あの書店で買い求めたもので――それには佐助の毛嫌いする、幸村が嬉しそうに勝負事を行う伊達政宗が係わっているはずで
(あいつ、旦那に悪いことを吹き込んでなきゃいいけど)
 そう思う頭はすでに、悪いことは吹き込まれた後だと確信していた。
 書店で見た、伊達政宗の笑みが浮かぶ。あれが何も企んでいない顔であるはずがない。
(ほんっと、ロクなことしてくれないんだから)
 そうっとドアを押し広げ、体をすべり込ませてみても、音楽が音を消しているのと幸村は相当に集中しているらしいのとで、気付かれる気配は無い。しっかりとドアを閉め、近づく。時折揺れる頭は、何を思い何に反応しているのだろうか。
 上から覗き込み、ぎょっとする。彼が手にして開いているものは、あろうことか「成人本」と区分けされる分類の、性的なマンガだった。
(え、なん――で)
 彼の手の中で、あられもない姿の女の子が男に蹂躙されている。ちらと眼を動かすと、彼の前には別の本が五冊ほど置かれていた。どれもこれもが淫らな女の子のイラストで表紙が飾られ、タイトルは直球過ぎて買うことをためらいそうになるほどのものばかり。
 そんな本を真剣に見つめ、ページを繰る幸村の耳が赤い。
 幼馴染の彼と、いつの間にか恋仲となり肌を重ねることになって四か月ほど。驚くほどに初心な彼は、幾度行ったとしてもそれが拭われることもなく、毎度嗜虐心を煽るほどに純で、男子のみで集まった折にそういう話が出たとしても、真っ赤になって逃げだしてしまう。そんな彼が、過激な性描写のあるマンガを食い入るように見ていた。
(なんで、こんなもの)
 たとえ伊達政宗にそそのかされたのだとしても、購入に至るまでにはならないだろう。
(旦那も男の子だけど――それにしても)
 幸村の手の中にある本には、男に奉仕をしている少女が描かれている。
(もしかして)
 自分との行為で性に目覚め、気になる女でも出来てしまったのだろうか。
 ぴく、と幸村の肩が震える。そういえば、本を床に置いて片手で抑えるように開き、ページを進めている。では、もう片手は――
 覗き込むと、自慰をしている姿が見えた。
「っ――!」
 ごくり、と喉が鳴る。拒絶するはずの性的な本を開き、初心な幸村が自分を慰めている姿に、むくりと佐助の中の闇が頭をもたげた。ゆっくりと肩越しに覗き込み、耳に息を吹き込む。
「すごいね、旦那」
 飛び上がらんばかりに驚き振り向く顔は上気し、性の余韻を残しながら目を見開く姿に佐助の中で冷たいものが鼓動を始める。
「こんなの読むなんて、知らなかったなぁ」
 なんでもないことのように言いながら、一冊手に取りぱらぱらとめくる。
「わ、すご」
 それは、触手に蹂躙されている少女が描かれていた。
「旦那がこんなヤラシーなんて、知らなかったよ」
「う、ち、違う」
「違う? 何が違うの? 大きな音でごまかして、本を読みながら自分でシてたんでしょ? ねぇ――こんなに固くして」
「んっ」
 手を伸ばして握ると、びくんと股間が跳ねた。
「ふふ、やーらし」
「あ、佐助――これは、その」
「ね、旦那。旦那はこういうの、したいの? それとも、されたいの?」
「ううっ」
 言い逃れは出来ないよ、と目の奥で告げて顔を覗き込む。
「過激だね」
「はっ、ぁ、ああ」
 きゅ、と先端を握りこむと声が上がった。くすくすと喉を鳴らしながら擦り、彼が先ほどまで見ていた本を手にする。
「すごいね。こんなぐちゃぐちゃにされて――旦那にも、してあげる」
「ぁ、ああっ、佐助」
 体を折り、口に含む。もうすでに十分な熱量となっているそれは、わずかな刺激でも破裂しそうで、佐助は丁寧にギリギリの所でとどめるよう、緩慢に舌を這わせ、唇で食んだ。 「は、ぁ、ああ、ぅ」

「ほら、旦那も呆けてないで脱いで。マンガの子みたいに、自分で胸をいじってよ――ああ、そっか」
 ちゅるん、と吸い上げながら唇を離すと、名残惜しそうな声で幸村が啼いた。
「まずは、俺様のをかけなきゃいけないのか」
 ほんのわずかなふれあいで、羞恥を快楽に変えてしまう彼の素直な危うさに目を細め、服を脱がす。
 どうしていいのかがわからなくなっているのだろう。ただ佐助にされるがままの幸村を脱がせ、ベッドに背を預けさせると牡を取り出し目の前に差し出した。
「マンガの女の子みたいに、美味しそうにしゃぶってくれるよねぇ」
 前髪を掻き上げるように撫でると、ぼんやりとした目のまま幸村が口を開けた。まさか、と思う佐助の牡におそるおそる唇をつけると、口を開いて舌を出す。ちら、と目をマンガに向けて確認すると、根本を両手でつかんで口内に入れた。
(え、うそ)
 破廉恥だと断られ、いつも通りの行為になるかと思っていた佐助が、自分で言いだしたことに驚く。股間で揺れる茶色の髪と、時折漏れる鼻息、そして感じるぬめりとぬくもりが現実だと告げてくる。
(う、わ――)
 あの幸村が、自分の股間を口淫している。
 そう認識した瞬間、ぐん、と佐助の牡が一気に硬さを増して口から溢れた唾液に濡れた牡が、幸村の頬を叩いた。
「旦那――もっと、しっかり咥えて」
 佐助の息が上がった声に、きゅ、と唇を引き結んだ幸村が再び口に含む。稚拙な行為は彼が行うということで補てんされ、佐助の牡は凝り、先走りを滲ませ始めた。
「ね、旦那――吸って」
「んっ」
 じゅるる、と音を立てて吸い上げられる。赤子が乳を求めるように懸命に吸い続ける幸村の頭を両手で固定し、ぐ、と喉の奥に突き入れて、佐助がはじけた。
「ぐぶっ、げはっ、がはっ――はぁ、ぁっ」
「ああ、いっぱい零れちゃった」
 むせる幸村の口から、唾液と混じった佐助の精液が吐き出される。それが顎を伝い、首を濡らした。
「ふふ、すごい――あの女の子と一緒だね、旦那」
 口を拭い、濡れた指で胸の実をつまむ。すべりの良い指で強くしても、痛みは感じないらしい。
「んぁああっ」
 くりくりと弄ぶ指のままに声を上げる幸村の牡が、触れていないのに痙攣しているのを見ながら、佐助は両方の乳首をこね回した。
「旦那、乳首だけでイケそう」
「はっ、や、ぁあ、そんっ、ぁ、ああ」
 首を振り、手を伸ばして佐助の腕を掴む姿にムクムクと放ったばかりの箇所が熱を帯びる。
「旦那のヤラシー姿見てたら、俺様また大きくなっちゃった。ねぇ、擦って?」
「っ?!」
 鼻先をあわせて小首をかしげて見せると、真っ赤になりながらも腕を掴んでいた手をおろし、佐助の股間に触れる。
「ぅ――ぅう」
 握ってみたはいいが、動きそうにない指に目を細め、耳朶を食みながら言った。
「おたがい、しゃぶりあいっこ、しよっか」
「えっ?」
 幸村の足を持ち上げ、自分は仰向けに寝転んで顔の前に彼の尻を持ってくる。うつぶせに倒された幸村の目の前には、佐助の牡があった。
「今度は、上手にしゃぶってくれよ」
 言って、しりたぶを開き奥にあるすぼまりへ舌を伸ばす。
「ひぁっ――」
「ほら、ね、旦那――して?」
 すぼまりに舌を差しいれ唾液を注ぎながら牡を握り、やわやわと刺激する。幸村の手が佐助の股間に伸びて、先端に唇が寄せられた。
「んっ――そう、旦那……気持ちいいよ」
 佐助の言葉に押されたのか、幸村の動きが大胆になった。それを邪魔しないよう気を付けながら、彼を高め、繋がる個所を解していく。十分に濡らすと口をはなし、幸村の先走りで濡れた指を差し込んだ。
「はっ、ぁ、ああぅ」
「旦那、おくち」
「ふ、ぅうんん」
 思わず口を離した幸村に注意をし、繋がる個所を広げつつ袋を吸いながら竿を擦る。達してしまわないようにしながら溢れさせたもので、たっぷりと幸村を濡らし広げた。
「はぁ――すごい。ひくひくしてる――――も、ここに入りたいんだけど、いいかな、旦那」
「ふはっ、ぁ、さすけぇ」
 見たことも無いほどにとろけた顔と声が向けられ、ふふと笑って覆いかぶさり抱きしめる。
「マンガに負けないくらい、二人でぐちゃぐちゃになろうね」
「んっ、さすけぇ」
 すがりついてくる彼に口づけ、二人は深く繋がった。

 床に裸のままで転がり、荒い息を吐く。事後の余韻に浸りながら、ぐったりとした幸村の頬に唇を寄せた。
「っ」
 ぷい、と顔をそむけられて微笑み、肩に唇を落としてから本に手を伸ばす。
「しかし、どうしちゃったのさ旦那。いきなりこんな本を読むなんて。――女の子と、したくなっちゃった?」
 語尾に掠れた不安に気付いたのだろう。勢いよく振り向いた幸村は、そんなわけがあるかと叫んだ。
「じゃあ、なんでこんな――」
 うう、と怒るような顔で唸った幸村が目じりを赤くして目をそらす。
「佐助は――近頃、その……さ、佐助のほうがおなごが良いのでは、無いのか」
「はぁ? なんで、そう思ったのさ」
「近頃、よく共に居るでは無いか」
 恨みがましい目を向けられ、それが悋気ゆえと気づき、佐助の頬がだらしなく緩む。
「やだなぁ旦那。もうすぐホワイトデーだからって、彼氏にねだるものを決めるのに、つき合わされてただけだって」
「まことか」
「ほんとほんと」
「そうか」
 ほ、と胸をなでおろす彼に腕を回し抱きしめて、額に口づける。
「でもなんで、それがあの本につながるのさ」
 腕の中で身を固くした幸村に、再度優しく問いかけるとすねたような声が漏れた。
「おなごの良さとは何かと言うたら、政宗殿がよくわかる書物があると……それで、その――――ま、学ぼうかと」
 なるほど、それであの笑みかと思いだし、適当なことを告げた政宗へ対する腹立ちと、素直に受け止めすぎる幸村への心配を抱えながら、ぎゅうと抱きしめる。
「さっきの旦那のほうが、本の女の子よりもずうっとヤラシくて魅力的だったよ」
「んなっ、な、ばっ、なに」
 こぼれそうなほどに目を開けて、真っ赤な顔で見てくる姿がいとおしい。
「俺様が、旦那を嫌になるなんてありえないし。ああ、でも――時々あぁいうことしてくれたら、うれしいかも」
 鼻先をくっつけて笑うと、すねたような怒ったような顔をされた。
「よ、よかった、のか」
「うん。すっごく、気持ちよかった」
「そうか」
 どこか嬉しそうに見える頬に唇を寄せ、甘く耳朶をかんだ。
「これから二人で、いっぱいエッチなお勉強していこうか」
 破廉恥な、と腕から抜け出されるかと思ったのに、幸村はそのままおとなしく腕の中におさまっている。おや、と首をかしげると、頭突きをくらわされた。
「痛っ!」
「お、お前とならば――――か、まわぬ」
 語尾を消え入らせながら顔を伏せた愛しい人に、俺様も旦那とだけだからと告げた。ふわりと目線が絡み合い、どちらともなく顔を寄せ、互いの唇を柔らかく押しつぶした。

2012/3/10



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