「旦那ぁ」 少年特有の澄んだ声音で呼ばれ、真田幸村は顔を上げた。「お客人だよ」 ひょい、と顔を出したのは柿色の髪に深草色の小袖を纏った華奢な少年であった。「おお、すまぬな。佐助」 ねぎらい、立ち上がる。佐助の顔に、さっと刷毛で刷いたような不満が広がり「どうした」「べつに」「別にでは、無いだろう」「――旦那はうれしいのかもしんないけどさ、俺様はアイツ、嫌いだから」 ああ、と納得した。「そんなに、俺はうれしそうにしたか」 ふい、と顔を逸らす佐助の唇がとがっていることに、目じりを下げて手を伸ばし、少し乱暴に頭を撫でた。「すまぬが、茶の用意を頼む」「はいよ」 手の下にあった姿が、搔き消えた。「よお、真田幸村」 そこに、佐助が嫌いと言った男が悠々とした足取りで小姓の片倉小十郎を連れて、入ってきた。「政宗殿。久しゅうござる。――片倉殿も」 鷹揚に挨拶をした政宗の横で、小十郎が頭を下げた。「あの猿は、相変わらず俺が嫌いか」 先ほどのやり取りが、聞こえていたのだろう。「まこと、申し訳ござらぬ」「謝っている顔じゃ無ぇな」 どこか嬉しそうな幸村を、揶揄した。「忍が、あんなに感情を表して大丈夫かよ」 先ほどの少年――猿飛佐助は忍であった。「某の前では、あのように振る舞っておるだけでござるゆえ」 ふうん、と政宗は意味深な目で幸村を見た。「仲の良いこった」 そこに含まれているものに、とんと気付かぬ様子で幸村は微笑み「政宗様」 小十郎がたしなめるように名を呼んだ。「なんだよ。小十郎――妬いてんのか。それとも、うらやましいのか」「ご自重めされよ」 渋面の小姓に、肩をすくめた。「お二人も、相変わらず仲がよろしゅうございまするな」 政宗が、ニヤリとした。「Definitely」 短く言って、勝手知ったる態度で幸村の部屋に上がる。「少しばかり、口うるさいがな」「それは、こちらも同じこと」 彼らの従者は、年嵩でありながらも奔放な主に小言を言うのが常であった。「どうだ、幸村。一回、交換してみねぇか」「――交換?」「猿と、小十郎をだ」「なっ」「冗談ッ!」 こぼれんばかりに目を見開き、絶句する小十郎の背後で、茶と茶請を運んできた佐助が叫んだ。「竜の旦那に付き従うなんて、ごめんだね」「こら、佐助」 遠慮のない態度に、幸村があわててたしなめる。 ぷく、と頬を膨らませた佐助が、それでも隙のない所作で客人に茶を差し出した。「一服、盛って無ぇだろうな」「盛ってやればよかったよ」 ふんっ、と鼻息荒く言い置いて、佐助が幸村の傍に控える。「で、どうだ――猿と小十郎、ひと月だけでも交換してみねぇか」「それは――お断りもうしあげまする」 穏やかに、返した。「なるほど片倉殿は若年ながらも視野広く、臆することなく主に苦言を呈することの出来る胆の座った御仁にござる。なれど、某のもとでは存分に力を発する事、かなわぬかと存ずるが、いかがか」 静かな表面を装いながら、心にさざ波を立てている小十郎に目を向けた。「政宗様が、よろしいのであれば」 平静を装いだされた声は、絞り出すようで「片倉殿は、厭がっておいででござる」 にこりと、幸村が政宗を見た。「ったく、素直じゃなぇな――小十郎。猿ほど、とは言わないまでも、嫌なら嫌っつっても、かまわねぇんだぞ」「私は――期間を限定なされておりますし、猿飛の忍術をもって何かを成そうとされているのであれば……」「そういう堅苦しいことを無しにして、良いか悪いか聞いてんだ」 しばしの間があってから「おそれながら――お断り申し上げたく」 小十郎が頭を下げた。「ったく。少しは猿の柔らかさを、見習ってもらいてぇもんだぜ」「佐助は、政宗殿以外の客人の前では、このようには振る舞いませぬ」「Fum?」 興味深そうに、政宗の目が佐助に向いた。「嫌いきらいも好きのうち――俺に胸襟を開いていると、解釈してもかまわねぇか」「誰が! 礼節を持って迎えるような相手じゃないって思ってんだよ。旦那に対して、なれなれしくしすぎだし」「ずいぶんと、惚れられてんだな」「某も、佐助を好いておりまする故」「妬けるな」「そういう政宗殿こそ、こうやって某らを出汁にして片倉殿をからこうて遊んでおられるは、睦まじい証拠ではござらぬか」 二人の主の目じりがゆるみ、いとおしそうに従者に向けられ「旦那ぁ」「――政宗様」 従者二人が感慨を込めて、主を呼んだ。 その夜、佐助はひどく上機嫌に幸村の寝所の支度を整えていた。鼻歌でもはじめそうな様子に「ずいぶんと、機嫌が良いな」「だって――旦那、俺様の事を好きだって、独眼竜に言ってくれたろ」「その程度の事で、そんなに上機嫌なのか」「俺様にとっては、その程度じゃ無いんだよ。片倉の旦那も、今頃は上機嫌なんじゃないの」「そういうものか」「そういうものっ!」 はずんだ声で支度を終えた佐助に「それじゃ、俺様、下がるね」 就寝の挨拶をされるまえに、手招いた。「なに、旦那」「ん――もう少し、近う」 首をかしげながらも、猫のようにそっと傍に寄った彼を抱えて膝に乗せた。「わ、ちょ――っ」「今宵は、朝まで侍っておれ」「え」「添い臥せと、申しておるのだ」 佐助を抱えたままの幸村は、月夜に頬を朱に染め目を逸らした。「旦那」 ほのかに香る艶に、ごくり、と佐助の喉が鳴った。「政宗殿の手前、片倉殿が力を発揮できぬと申したが――」 ぎゅう、と強く抱きしめられる。「ひと月も、佐助が他の誰かに従うておるなど――耐えられぬ」 首筋に顔を寄せられ、ぶわ、と胸に広がった歓喜と鼻孔に満ちた幸村の髪の香りに、佐助の性が鼓動を始める。「俺も、旦那以外の人に従うなんて、絶対にしたくない」「佐助――」 うれしげに顔を上げた幸村の唇から洩れた自分の名に、佐助の心臓が跳ねた。「ね――旦那」「うん?」「いやらしいこと、したい」 みるみるうちに、幸村の顔に熱が上る。「だめ、かな」「――許す」 再び、幸村の顔が佐助の肩に伏せられた。真っ赤に染まった耳に、唇を寄せる。「旦那」 硬直したまま、年上の恋人は動かない。「口吸い、したいんだけど」 そお、と顔が持ち上がった。「佐助」 幸村から寄せられた唇に、唇を重ねて舐める。薄く開いたそこに、舌を差しいれた。「ふ――んっ」 普段は年上風を吹かせる彼が、睦事になれば途端に幼くなることに、愛おしさが募る。「ね、旦那」 そのくせ、促すと恥ずかしそうにしながらも、自ら肌を晒してくれる。「わ」 あらわになった下帯を、力強く押し上げている幸村に声を上げた。「すごい、旦那――ね、もしかして、旦那もしたかったから、朝まで一緒にって、誘ったの?」「ううっ」「ねぇ、旦那」 そ、と猛る個所に触れて甘えるように見つめると、きゅ、と口をすぼめた幸村が頷いた。「ふふ。嬉しい」「あっ――」 布の上から幸村を食む。布が刺激を緩和させるのをいいことに、佐助は揉むように幹に横から歯を立てた。「んっ、ふ――んっ、ん」 佐助の肩に片手を、自分の口にもう片手を添える幸村が、足の指を握りしめて腰が揺れるのを堪える。「旦那の先っぽ、濡れてきたね」「は、ん、ぁ、さす、ぁ」 じゅう、と布ごと先端を吸い上げると、幸村の腰が浮いた。「俺様の唾液と、旦那のいやらし汁で布越しなのに、ほら」 幸村の目を、自分の股間へ導き「こんなにはっきり、形がわかるよ」「ぁ、ば、か――もの、ふ、ぅう」 それに、きょとんと愛らしく首をかしげて見せた。「どうして? 旦那が俺の事、すごく感じてほしがってくれてるんだなぁって、うれしいから言ったのに、どうして、ばかものって言うの?」 無垢な子どもの表情で、幸村を見つめる。「旦那は、俺様のこと、嫌い?」 しゅん、として見せた。「な――そ、そのような、ことは」「じゃあ、俺様が子どもだから、こういうことするのが、いや?」 不安そうに、目だけを幸村に向ける。「いやでは、無い」「じゃあ、好き?」「そ、それは――」「ね。俺様といやらしいことするの、好き?」「う、うう」 そ、と佐助の両手が幸村の胸の左右の尖りを摘まむ。「こうやって」「はっ、ぁ、ああ」「俺様がいじったら声を上げてくれるのは、俺様が子どもだから、付き合ってくれてるだけ?」 コリコリと指の腹で捏ねられて、幸村の腰が跳ねる。「ぁ、さす、ぁ、ふぅう」「ねぇ、旦那ぁ」 情けない声で呼びながら、きゅうと強く胸の尖りを絞ると「はっ、ぁ、ああっ」 ひときわ大きく腰を跳ねさせた幸村が、下帯を濡らす。「俺様と、こういうことするの、ほんとは嫌なの? だから、ばかものって言ったの? ねぇ」「ひっ、ぁ、や、ぁあ――さ、す、ぁあっ、さすけぇ」「やっぱり、嫌なんだ――?」「ひぃいっ」 強く両方をねじりあげると、甲高い嬌声が上がった。「さす、ぁ、さすけぇ」「なぁに、旦那」 くりくりと乳首を捏ねながら、子どもらしく見つめてくる佐助の体を、幸村が強く抱きしめ耳元に唇を寄せる。「お、おまえとでなくば――このようなことは、せぬ……ッ」「ほんと?」 こくり、と目を合わさぬまま幸村が頷いて「じゃあ、ちゃんと言って」「――え」「俺様と、いやらしいことするのが好きだって――ねぇ」「そ、れは」「やっぱり、嫌なんだ」 ことさら肩を落として落ち込んだ佐助の姿に、あわてた。「い、嫌なわけがあるか」「じゃあ、俺様と接吻するの、好き?」「――うむ」「俺様に、乳首いじられるの、気持ちいい?」「――う、む」「俺様に、魔羅いじられて咥えられるの、好き?」「――ッ」「ね、旦那」「い、言わせるな」「どうして? ねぇ――旦那ぁ」 鼻にかかった声で、佐助が甘える。「俺様にしゃぶられるの、嫌い?」 首を、横に振る。「じゃあ、好き?」 ぎこちなく、首が縦に振られた。「ほんと! じゃ、俺様、はりきっちゃう」 ぱん、と軽く手を叩いた佐助が、幸村の下帯を剥ぎ取り「すっごい」 反り返り、血管が浮き出るほどに猛ったそこを口に含んだ。「はむっ、ん――んじゅ、んっ、ん――らんなぁ、ひもちひ?」 口いっぱいにほおばった佐助の頬が、幸村の牡でゆがんでいる。その姿に、幸村はめまいを覚えた。「ふっ、ぁ、さす、ぁ――んっ、ぁ、い、いぁ」「んふ、んっ、んんっ」 楽しそうにしゃぶられ「ぁはっ――ふ、ぁ、さす、ぁ、も、もぉ、ぁ……ッ、離せ」「ん、やぁだ。旦那の子種、ぜんぶ飲んであげる」「そ――っ、あ、はっ、ふ、ぅうぁああッ」 根元を扱かれながら強く吸われ、あられもない声を上げて幸村は果てた。「はぁ……はぁ、ぁ、ふ」「んっ、はぁ……旦那の子種、いっぱい飲んじゃった」 くすくす笑いながら、首に佐助が絡み付く。親に甘える子どものような姿と、唇に幸村の残滓が見えることに、脳が淫蕩な酔いに揺れる。「旦那ぁあ」 すり、と首筋に額を寄せられた。「旦那のなか、入りたい」 切なげにつぶやかれ、幸村の喉が鳴った。「だめ?」「俺も、佐助が……欲しい」「じゃあ――ね、旦那」 かわいらしく促され、身を横たえて足を広げ抱え、佐助を受け入れる箇所を彼にさらす。「あはっ――まだ触ってないのに、ひくひくしてる」「言うな」「言いたくなるよ。だって、旦那が俺様の事、欲しがってるってことなんだから」 懐から軟膏を取り出し、たっぷりと指で掬って菊花に当てた。「俺様、けっこう我慢の限界だから、いそいで解すね――ごめんね」「え、――ぁ、あぁあっ」 つぷんと埋まった指が、言葉通りに内壁を開いていく。「はぁっ、ぁ、あぁああうっ、あ、はぁああ」「はぁ――すごい、旦那……また子種、吹き出しそうになってる」「ひっ、ひぁ、さす、ぁ、ぁああっ、ぁ」「お尻だけで、達っちゃいそうだね」「ふぅあぁあっ、さすっ、ぁ、ああっ、さすけぇ」「ほらっ」「ぁ、はぁああああ」 びくん、と幸村が跳ねて吹き出し「やらしい」 うっとりとつぶやき、放ち終えぬ間に佐助が幸村に埋まった。「ぁああうっ、ぁ、さすっ、ぁあああ」「ふっ、ぁ、旦那、すご――熱い、ふっ、ぁ」「ひっ、ひぃっ」「絡み付いてくるよ――ねぇ、そんなに欲しかった? ねぇ――俺様のこと、好き?」「あはぁううっ、ぁ、ああっ」「んっ、旦那――ふっ、ぁ、好きだよ……んっ、旦那ぁ」 佐助の声から余裕が消えて、心底から幸村に甘え溺れる響きに変わる。がつがつと腰を穿ち、全身で擦り寄る幼い忍の姿に、わずかばかり残っていた幸村の理性が溶けた。「はぁあうっ、さすけぇ、ぁ、いいっ、ぁ、はぁ、いいっ」「うん――うんっ、俺様も、すご……きもちいよ、旦那ぁ」 互いに甘えあうように、身を擦り合わせ声を上げ、しらしらと日が昇るまで絡みあった。 すうすうと寝息を立てる子どもの髪を掻き上げて、ふわりと目じりを緩ませる。どれほどのことをしても、こうして眠る姿は年相応なのだな、と腕の中に納まる年下の恋人へ唇を寄せる。「ん――」 身じろぎはするが、起きる気配は無い。忍の彼がここまで気を許して熟睡するのは、自分の腕の中だからだと自負している。「ん――だんなぁ」 睫毛が震え、瞼が持ち上がり、寝ぼけた声を向けられた。「起こしたか」 緩慢に首を振られ、へにゃりと笑みを浮かべて「おはよ」「ああ、おはよう」「へへ」 照れくさそうに身を寄せられた。 行為の最中は大人びるくせに、その反動か事後は酷く幼い所作になる彼を、心底いとおしいと思う。「やはり、耐えられぬな」「佐助が、ひと月も傍におらなくなるということが、だ」 きょとんとした佐助が「俺様も」 嬉しそうに体を摺り寄せてきて「もう少し、眠ろうか」「うん」 甘く柔らかなまどろみに身を投じ「俺に対する、あてつけか?」 昼過ぎまで迎えた客人を放置して揶揄されるほどに、幸福な刻を過ごした。2012/4/25