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あいたくて

 ぱふ。
 突然空から降ってきて、柔らかく自分の腕の中に落ちたそれは
「――子ども?」
 で、あった。
 自分と同じように、目を大きく見開いて見上げてくる子どもの姿に、知っている面影を見止めて
「真田、幸村――?」
 口に出すと、ぱあ、と子どもの顔が輝いた。
「某の名を、存じておられるのか」
「what?」
 いぶかる伊達政宗の様子など、一向に解する様子も無く、子どもは嬉しげに言う。
「草屋敷に参った折に、うっかり転んでしもうて、薬の棚に倒れてみれば、このような仕儀になっており申した。佐助に見つかる前に戻らねばならぬゆえ、申し訳ござらぬが帰り道をお教え願えませぬか」
「Ah――」
 にこりとする幸村らしい子どもに、眉間に指を当ててしばらく唸ってから
「アンタ、本当に真田幸村か」
 きょと、と子どもは瞬いて
「先だって元服いたし、その名を与えられ申した。それまでは、弁丸と名乗っておりました」
 堂々と答えるのに、政宗は頭の痛む心地がして
「OK――よくわからねぇが、わかった」
 頷き
「とりあえず、屋敷に行くぜ」
 受け止めた姿のまま、子どもを連れて戻ることにした。
(小十郎に、見せねぇとな)
「屋敷とは、どこの屋敷にござる」
「俺の屋敷だよ」
「なにゆえ、貴殿の屋敷に参られる。帰り道を、お教え願えればそれでよろしゅうござるゆえ」
「ガキを一人で帰せる距離じゃ無ぇよ」
 不思議そうにするのに
「ここは、甲斐じゃねぇ。奥州だ」
 応えてやると、ぽかん、と口をあけて
「おう、しゅう」
 繰り返して言うのに
「そうだ。そして俺は、奥州筆頭、伊達政宗だ」
 ニヤリとして教えると、口を開けたまま見つめられた。
「どっちにしろ、猿には知らせねぇとならねぇな」
 びく、と幸村が体をこわばらせるのに
「なんだ。猿に叱られるのが、怖いのか」
「違いまする。草屋敷の薬棚にぶつかるだけで、このように遠い場所へ運ばれたことに、驚いておるだけで」
 明らかなごまかしの言い訳に
「確かに、とんでもねぇ事だよな」
 頷いた。寺の境内で素振りをしていたら、子どもが降ってきただけでも驚愕だというのに、それが甲斐から運ばれた上に、真田幸村の幼少のころだと言う。
(驚きすぎると、冷静になると言うが)
 まさに今、自分はその状態になっているのだろう。
「しかし、とんでもねぇモンを扱ってんだな。アンタんとこの忍は」
「佐助は優秀な忍ゆえ、いかなこともしてのけまする」
 腕の中で胸を張る幸村に
「Ah――確かに、優秀だな」
 応えると、得意げな顔をされた。
「ああ、そうだ」
「?」
「元服して、幸村になったばっかだって、言ったな」
「はい」
「――幼名は、弁丸だったか」
「そのとおりに、ござる」
 少し考えてから
「なら、こっちに居る間は弁丸と呼ばせてもらうぜ」
「なにゆえでござろう」
 また少し考えて
「アンタの迎えが来るまで、俺の小姓として侍らせる。その方が、いろいろと都合が良いだろう」
「どう、都合が良いと?」
「奥州筆頭にもなれば、いろいろとあるんだよ」
「いろいろ、でござるか」
「そうだ。いろいろだ」
 唇を尖らせ、難しい顔をして何やら考え込んでいる様子の弁丸が
「わかりもうした。なれば、そのようにいたしてくだされ」
 頷いたのに、頷き返した。

 自分の部屋に小十郎を呼び、野良仕事から帰った彼が現れるなり
「猿に使いを出してくれ」
 そういう政宗の脇に、きっちりと姿勢を正して座る子どもの姿に、小十郎が首をかしげた。
「弁丸と、申します」
 手をつき、深々と頭を下げた子どもをいぶかるように見て、ニヤつく主に目をうつし
「似ておりますな」
 返答しだいによっては、咎める腹積もりをして、言った。
「本人だ」
「は?」
「真田幸村、本人だよ」
 眉間にしわを寄せた小十郎に
「猿の薬棚に、頭から突っ込んだんだと」
「にわかには、信じかねます」
「だから、猿に使いを出すんだろう」
 値踏みをするように弁丸を見た小十郎が
「信用、なさるのですか」
 なにかの罠ではないかと疑り
「俺が、コイツを見間違えるかよ」
 自信満々で政宗が応える。しばしの沈黙の後
「すぐに、猿飛が迎えに来るだろうが、それまでは政宗様に、兵法などを教えてもらっていろ」
 柔和に弁丸に伝え
「はい」
 背筋を伸ばし弁丸が応えたのに頷き
「他家の御子を預かっている以上、無茶はなさいますまいな」
 笑みをたたえたまま、瞳を鋭く光らせた小十郎に
「of a personality」
「何か、申されましたか」
「なんでもねぇよ――弁丸、苦手なモンは、何だ。猿が来るまでに、しっかり教えておいてやるぜ」
「おお、かたじけのうござる」
 誤魔化した主にそっと嘆息し
「では、さっそく手配をいたします」
「Ah――頼む。ついでに、茶と茶菓子もな」
「は」
 一礼して、辞した。

 あまり人目につかないようにした方が良いだろう、との判断で、自室で兵法や歌などを教え、休息を兼ねて私室前の庭をうろつくにとどめた。
「妙な具合だぜ」
 好敵手が、幼少期の姿となり自分に教えをうけている。彼の人なつこさと屈託のなさは、このころのまま変わりがないのだと感じるたび、愛おしさと屈折した感情が沸き起こる。年のころならば、もう甘さを消してしまっても良いころだ。自身があの年頃であったなら、抱き留められ、そのまま運ばれる事を甘んじて受け入れて等、いなかっただろう。
(甘やかされて育った――だけじゃ無ぇんだろうが)
 戦場で刃を交えた時の、野性味のある鋭さを思い出す。そしてふと、今の状態でなら、どれほどの実力なのかを確かめたくなった。
 対峙した時の圧力、得物が交わった時の重さ、沸き立つ血肉の奔流に身を委ね、個となり魂ごとにぶつけ合う――
「――ッ」
 体が高ぶり、まずいと思った時にはすでに手遅れで
「Shit」
 寝室で一人、政宗は横たえていた身を起し、悪態をついた。
 真田幸村となる少年は、狭い廊下を隔てた向かいの部屋で休んでいる。これが、何の問題も無く、彼の人であるならば部屋に押し込み、組み敷き、四肢を絡めて絶頂まで上り詰めることが出来るのに
「disgusting!」
 口内で吐き捨てて、深く息を吸い、吐いた。
 好敵手であり、情人でもある真田幸村。その人が傍にいながらにして、酷く遠い場所に在る。
「とっとと来て、元に戻しやがれ。猿」
 甲斐の草屋敷の棚には、いったい何があってこのような事態になったのかはわからないが、草屋敷の長である猿飛佐助ならばなんとか出来るだろう。その折は、迷惑料とでも称して幸村殿手合せでも何でも、許可をさせてやろうと思いつつ、高ぶりを抑えるために水でも被ろうかと立ち上がり襖を開き
「What's the matter?」
 そこに弁丸が立っているのに、驚いた。
 声をかけてみたものの、弁丸は顔を上げてすぐに足元に目を戻し、何も言わない。がりがりと頭を掻いて
「入れよ」
 促すと、うつむいたまま政宗の脇を通り、入室する。長い後ろ髪に垣間見えたうなじに、喉が鳴った。
(おいおい。相手はガキだろうが)
 相手のできる年頃ではある。が、政宗は首を振った。
 ぺたり、と政宗の褥の横に坐した背を見ながらふすまを閉め
「どうした」
 問いかけると、うつむかれた。丸められた背を見下しながら、近づく。
「さみしく、なっちまったか」
 勢いよく上がった顔が
(お――)
 きつく政宗を睨み据え、ぞくりと心臓がわなないた。すぐさまその目が不安げにゆれて逸らされたのに、暗いものがジワリと滲む。
「さような、ことは――」
 心細げな声に、しゃがんで目の位置を合わせ
「いきなり奥州まで飛ばされたんだ。不安にもなるだろうぜ。安心しな。猿が、すぐにでも迎えに来る」
「まことでござるか」
 ぱ、と浮かんだ明るさは、幼子のそれで
「嘘はつかねぇよ」
 苦笑した。
「だが、猿に絞られるのは、覚悟しておけよ」
「承知してござる」
 弁丸が尖らせた唇を、つまんだ。
「ガキくせぇ」
「政宗殿からすれば、そうでござろうが――」
「元服は、したんだったな」
「はい」
 得意げに笑う頬に、指を滑らせた。
「なら、もう立派な大人ってワケだ」
「政む――?」
 ゆっくりと顔を近づけ、弁丸の唇を自分のそれで、柔らかく押しつぶす。目を閉じぬまま、弁丸の目にある自分の顔を見た。
「ん――」
 ゆっくりと、角度を変えてもう一度。弁丸は目を開いたまま、政宗の真意を見つけようとしているのか、身じろぎ一つしない。
(わかってねぇのか、それとも――)
 驚きすぎて、反応の仕方がわからないのか。
(まあ、いい)
 ゆっくりと弁丸に向けて体を倒し、背に手を添えて、褥に横たえる。背の手を滑らせ帯にかけ、解いたところで
「まっ、政宗殿」
 困惑した声で呼ばれた。
「なんだ」
「な、何を――」
 顔が、赤い。
(まったく知らねぇわけじゃ、無いようだな)
 口の端を少し上げ
「何が、何を、なんだ?」
 狼狽える目が彷徨う。それを見下しながら、内腿に掌を滑らせた。
「っ!」
 びくりと、体がこわばる。
「嫌がるなら、今のうちだぜ?」
 言いつつ、手を止めることなく下帯の上から牡を掴んだ。
「ぁ――ッ、う」
 ぎゅう、と固く目を閉じるのに、顔を寄せ耳を食む。
「少し、勃ってんな」
「うう――」
 やわやわと揉むと、政宗の手に応えて硬くなっていく。
「幸村」
「あっ――」
 熱っぽくささやくと、弁丸の腰が跳ねた。
「どうした――」
「うう」
「わかんねぇか」
 頷かれた。
「何故、抵抗しない」
 おそるおそる開いた目が、間近すぎる政宗の顔に驚き、逸らされ、ゆっくりと戻る。
「政宗殿」
「Ah」
「某は、政宗殿を好いてござる」
 政宗の目が、丸くなった。
「傍近くの部屋で、政宗殿が眠られておるのかと思うと、その――なんと申せば良いのか……心の臓がうるそうて」
「幸村――」
「勉学をお教えいただいていた折も、傍に、その――政宗殿の身が寄ると、何やら妙な気がいたし…………これは、そのような事ではないのかと、思い至り」
「そのような事?」
「け、懸想を……しているのではと」
 火が噴くのではないかと思うほどに赤くなり、消え入りそうな声で告白してくるのを
「You really are a cool kind of a guy.」
 耳の裏に唇を寄せながらささやき、彼の身を覆う布を剥ぎ、知っているそれよりも薄い胸を撫で、尖りを摘まんだ。
「ぁ――ッ」
「なら、いいんだな」
 奥歯を噛みしめ、目を閉じて頷くのに唇を寄せると、舌を滑らせ首をなぞり胸の実を含んだ。
「んっ――っ」
「声、出せよ」
「なれど――」
「聞かせろ」
「は、恥ずかしゅうござる」
「いまさら」
「え」
「いまさら、つったんだよ」
「何――ひぁ」
 きゅ、と強く胸を吸い、下帯の脇から幼い牡を取り出して握った。
「覚悟を、決めろよ。アンタから、俺に惚れてるっつったんだろう」
「うう――」
 唇をゆがめる姿に、少し憐れみを覚え
「これからする事を、教えてやる」
「え――、あっ」
 弁丸の手を取り、自分の下肢へ導いて触れさせる。
「俺のコレを、アンタのココに、突っ込む」
「ひっ」
 く、と指先で菊坐を押すと、弁丸の体がこわばった。
「どうする――? 今なら、引き返せる」
 触れた尻の薄さと脆さに戸惑いながら、理性の持つうちに留めてくれと望む。――久しぶりの、次にいつ会えるかわからぬ相手との情交を、たとえ幼いころの姿とて容赦が出来る気がしない。手折ってしまうのではないかと、懸念した。なのに
「政宗殿」
 おそるおそる弁丸が手を伸ばし、政宗の首に片方の腕を回し、ぎこちなく唇を寄せてきた。
「――おい」
「なぜかはわかりませぬが、政宗殿と、このようなことをいたすは、初めてとは思われず…………それに、その――ふ、触れておる政宗殿は、と、とても辛そうにござるゆえ」
 もじもじとしながらも、政宗が触れさせた弁丸の手は、立ち上がっている熱を握り
「某も、つ、辛うござる」
 羞恥を含んだ目で窺うように見上げられ
「Good heavens!」
「うぁ」
 ごろんと弁丸の体をうつぶせにさせ、尻にかかる布をまくしあげて下帯を奪い、尻を割って菊坐に口づけた。
「ま、ままま、政宗殿ッ?!」
「アンタは俺のをしゃぶってろ」
「なッ――」
「繋がるぜ、幸村」
「えっ」
「準備しろ」
「は、はいっ」
 普段の体格差よりも、ずっとしやすい身長差に、弁丸の尻を広げながら咥えろと促す。目の前にある政宗の牡を睨み付けるようにしてから、いざ、と覚悟を決めて両手で握り、かぶりついて
「うげほっ」
 喉をついて咳込んだ。
「おいおい――」
「うう……」
「無理して、全部食わなくていい」
「なれど――んぁッ」
 菊坐に指を入れ、内壁を押しながら
「手で擦りながら舐めて、先だけ吸えばいいんだよ」
「っ、ぁ、あ――な、なめ」
「そうだ。でなきゃ、咥えられてんのに、こうして」
「ぁはあッ」
 政宗の指が内壁のツボを押し、弁丸が仰け反る。
「した時に、噛み千切られちゃ、たまんねぇからな」
 冗談めかした口調に
「そ、そのようなことは」
「無いとは、言いきれねぇだろう」
 ほら、と促され、しぶしぶと言われた通りに牡を舐め、手で擦り、舐め、滲んだ液を小さな唇で吸う。
「んっ、ん――」
「はぁ――そうだ。出来るじゃねぇか」
 褒められたのが嬉しいのか、弁丸は行為に没頭し
「なら、俺も――」
「んぁあっ!」
 いつもより小さな尻を、丁寧に解し始めた。
「あはっ、ぁ――んむっ、ん、ふ、じゅ、あう」
 尻を開かれ、政宗をしゃぶる弁丸の口は唾液と先走りでぬらぬらと光り、触れられていない牡が震えながら銀糸を垂らす。その情景に限界を感じた政宗は
「ッ! Stopだ」
「えっ」
 驚く体を転がして、自らを握り擦りあげ
「クッ」
「ああっ――」
 彼の体に降りかけた。
「ふ、ぅ」
「ま、政宗殿――」
 呆然と呼んで来る弁丸の顔に、政宗の子種がまき散らされ、その目は色欲に淀んでおり
(――すげぇ)
 放ったばかりの政宗の腰が、疼いた。
「すぐに、挿れるぜ」
「え――」
「萎えてる間に突っ込んで、ナカでデカくしたほうが、楽だろう」
 尻を向けて這えと言えば、弁丸はおとなしく従って
「幸村も、こんぐれぇ大胆ならな」
 思わず漏らしたつぶやきに
「某が、何と――?」
「なんでも無ぇよ」
 言いながら尻を掴み、菊坐に牡をあてがうと
「っ、ぁ、はぁあああううっ」
 沈めながら、達する直前であった弁丸を擦りあげ、子種を吹き上げさせた。
「くっ――は、狭ぇ」
「ぁお、お、ふぁ、あ、ぁあう」
 射精後の弛緩に合わせて根元まで突き入れると、すぐに内壁は蠢動し政宗に絡み付く。
「ぁ、ああ、ま、まさむね、どのぉ」
「苦しいか?」
 目じりに浮かぶ涙に、気遣いの言葉を向けると
「ま、さむねどのが――ぁ、熱く、お、おおきくなって、ゆきまする」
 苦しげに言われ
「アンタ――本当に…………ッ」
 煽られた情動のまま、突き上げた。
「ぃひっ、ぁ、あぁおっ、ぁ、まさっ、ぁ、はひゅっ、ぁ、はぁうう」
「んっ、そうだ――もっと啼いて、俺を感じろ……ッ、もっと――ッ」
「まっ、まひゃ、むねろのぉ、ぁ、ぁひぅううッ!」
 唾液と涙と、先に放たれた政宗の子種で顔をぐちゃぐちゃにしながら、弁丸が逃れるように、欲しがるように身をくねらせる。それをしっかり抱き留めて、菊坐に飲み込み切れぬほどの精を、政宗は注ぎいれ
「も、もぉ、ぁ、もぉ、あひっ、ひぅあぁあ」
「煽ったアンタが――悪いんだぜ」
 甘いささやきと裏腹の、残酷なまでに激しい愛撫で幼い体を蹂躙し、すべてを自分のものとした。

 目覚めると、ぶすりと不機嫌な顔の、政宗の良く知る真田幸村の姿があった。
「戻ったのか」
「そのようでござるな」
「不機嫌だな」
「誰のせいと、思うておられる」
「誰のせいだ?」
 首を傾げる政宗に
「こっ、子ども相手にあのような」
 真っ赤になって食って掛かるのを
「アンタが、煽るからだろう」
 心外そうに言うと、何か反論しようとした口がわななき、言葉が見つからなかったらしく、閉じられた。ニヤリとし、身を寄せる。
「ずいぶんと、素直だったな」
「なっ――」
「ガキだからってのも、あるかもしれねぇが」
 アンタももっと、大胆に欲しがれよ――耳に吐息と共にささやくと、顔面に掌を打ち付けられた。
「ッ、いてぇな」
「はっ、破廉恥でござるぞっ」
「アンタもな」
「何処が――ッ!」
 手首を掴み、指の間に舌を這わせれば、すぐにおとなしくなる。
「そういうところが、だ」
 唇を相手のそれに寄せてささやく。
「アンタの存在自体が、俺にとっちゃあ破廉恥極まりねぇんだよ」
 そんな相手に、たとえ幼いころの姿であったとしても、好いていると言われ、良いと言われれば自制の利くはずもない。
「――――政宗殿こそ」
「Ah?」
「政宗殿こそ、破廉恥でござる」
 おや、と眉を上げると、ぎこちない接吻をされた。
 ふわ、と政宗の顔が柔らかくなる。お返しに、と軽く唇を重ねあわせ
「そういやぁ、なんでアンタ――甲斐の草屋敷から、俺の所まで飛んできたんだろうな」
「わかりませぬ。ただ、何やら面妖な煙がわきあがり、体が泡立つような感覚になり申して、その折、政宗殿を思い出し――政宗殿に拾われてよりの記憶が、夢の中であったような心地で目覚め、気が付けば、ここにおり申した」
 けれど、それは夢では無かったと政宗との会話で知った。
「Fum――」
 意味深に、政宗が面白そうに唇をゆがめる。
「?」
「アンタは、俺を想って飛んできたってわけか」
「なっ――」
 真っ赤になり、金魚のように口をぱくぱくとさせる幸村を、面白そうに眺める。しばらくして
「――――いかにも、そのようでござるな」
 面映ゆさを隠すための渋面になりつつ、ふてくされたような声で告げられ
「いつでも、来ればいい」
「――政宗殿」
 愛おしさをにじませた声に、二人の顔が近づき
「甲斐より、使者が参りました」
 声がかかって笑いあい
「猿に、こってり絞られて来な」
「致し方、ござらぬ」
 冗談めかして言いあって、もう一度、唇を重ねた。

2012/6/23



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