ゴッ―― ガァアアン―― ――――ッ ザァ―― 空がひび割れたような雷鳴の後、水瓶の底が抜けたような雨が降り始めた。真田幸村は急ぎ身支度を整え、外へ飛び出す。「佐助ッ!」 声を張り上げてもかき消されてしまうほどの豪雨。それでも、彼の忍、猿飛佐助は声を拾って現れた。「はいよ」「お館様は!」「すでに、向かっているよ!」「よし、急ごう!」 真横に居るはずの佐助の姿さえ消してしまう、大粒の雨の中を蓑と笠を見に着けた幸村が、河原へ向けて駆けだした。それを、配下の忍に指示を出しながら佐助が追う。山上がどうなっているのかは見えないが、おそらく、ここと変わりない様子だろう。土嚢の準備はできている。先に危ぶんでいたお館様――武田信玄は人をやって備えていた。だが、雨の到来が予想よりも早すぎた。「そっち、もっと積めぇえ!」「流されんなよォ!」 下帯姿の男たちが、土嚢を抱えて働いている。その中に、信玄の姿を見つけ「お館様!」「幸村!!」 それだけで、意思は伝わる。 幸村は蓑と笠を脱ぎ捨て川に入り、手薄な箇所へ土嚢を運びながら「足をすくわれぬよう、気をつけよ!」「幸村様だ――」「幸村様も来て下さった!」 笑みを向け、男たちの士気を上げる。佐助は上流を警戒し、大木などが流れてこれば人々に知らせ、水に飲まれそうになる者を見つけては助けた。 轟音を響かせる雨の中、男たちの怒声にも似た呼びかけが水に叩き落とされる。それでも互いの動きや表情を察し、冠水せぬよう必死で土嚢を積み続けた。 いよいよ川の傍にいるのも危なくなり、また土嚢も使い終え、皆をねぎらった信玄が冷えた体を早々に帰って温めるよう指示を出し、幸村もそれに従い屋敷へ戻った。「ふう」 着替え、頭に手ぬぐいを巻いた幸村が息をつく。そこに、佐助が白湯を運んできた。「お疲れ様」「うむ」 佐助も、忍装束から小袖に着替えている。「体、冷えちゃってるでしょ。ちょっと待ってね。お風呂の用意してくるから」 そう言って湯呑を置いて去ろうとする袖を掴み「佐助」「ん? 何」 首をかしげて振り向いた顔に「寒い」「だから、すぐ湯の用意をするから」「佐助は、冷えておらぬのか」「そりゃあ、冷えてるけどさ――こんくらいで寒いって言っていたら、忍働きは務まらないって」 ぐい、と幸村が袖を引いた。膝をつき、顔を覗く。「なぁに、旦那」「湯は、いらぬ」 目を逸らし、うつむいて呟かれた。「何言ってんの。風邪をひいたら、困るだろ」 だから、体を温めなければと言えば「佐助も、温まれば良い」「うん、温まるよ。旦那がホカホカになってからね」「――共に、温まればよい」「一応、主従関係にあるんだから、一緒に入るとか、おおっぴらに出来ないって、わかってるでしょ。元服前ならまだしも」 二人は、情人同士である。けれど、それを表立って現すことは、立場上憚られた。だから、屋敷内で共に湯に入るのは無理だと、佐助は言ったのだが「そうではないッ」 苛立ったように言われ、瞬いて顔を覗く。暗がりに浮かぶ目じりが赤いように見えるのは、自分に都合の良い錯覚だろうか。「旦那、顔赤い」 つぶやけば、カッと睨まれ「もう良いッ!」 そっぽを向かれた。 胸に、甘いものが浮かぶ。「旦那ぁ」 甘えた声を出し、背後から抱きしめれば「知らんッ」 吐き捨てるように言われても、腕を振りほどかれることは無くて「湯よりも、俺様の方が、旦那の事を芯から温められるよねぇ」 胸元の合わせ目から手を入れてみたが、拒絶をされなかった。そのまま筋肉の形をなぞり、ぽつりと指にあたった突起の周囲を撫でても、破廉恥だと言われることなく、幸村は腕の中でおとなしく、少し体を固くして収まっている。「俺様を芯から熱くできるのは、旦那だけだよ」 耳元でささやくと、羞恥に彩られながらも艶を浮かべた目が、佐助を見た。「旦那のこと、温めさせて」 承諾の代わりに瞼が閉じられる。唇を重ね、胸の色づきを撫でたまま、片手で幸村の帯を解いた。「旦那、口、開けて」 言えば、おそるおそる開かれた。「ありがと」 言葉と共に、舌を差し入れる。「ん――ッ、ん、ふ、ぁ」 口づけの深さに合わせ、胸を弄る指の動きの淫を増す。くるくると弄べば「はっ、ぁ――さすけぇ」 甘く、呼ばれた。「もうちょっと、我慢して」「んぅ」 角度を変えて口づけながら、胸の実を指の腹で押しつぶし、つまみ、転がす。その先に見えている、白い布に覆われた箇所が膨らんでいた。「旦那ぁ」 甘ったるい佐助の声に艶を感じ、幸村が身じろぐ。「ふふ」 楽しげに、幸村の背を膝の上に寝かせ、唇を胸に落とした。きゅ、と吸えば「ふぁッ」 脇腹あたりにある幸村の口が開く。そこに指を食ませ、口内をあやしながら乳を吸った。「ぁふ――ッ、ぁ、あは、ぁんむっ、んッ、ん」 湧き出るよだれを飲みこむたびに、佐助の指が吸われる。幸村の肩に、質量を増した佐助が当たった。「だ〜んなっ」 腰をずらし、幸村の頭を床におろして下帯ごと脱ぎ、立ち上がりかけた牡を見せる。「指みたいに、して?」「う――ッ」「いや?」「ううっ――」「あとで、旦那にもしてあげるからさぁ」「ッ――ばかもの」 真っ赤な顔をして身を起した幸村が、口の中に牡を招いた。「ふっ、んむ――は、ぁ、ちゅ」「ふぅ――そうそう、んっ、旦那の口の中……あったかくて、気持ちい」 うっとりと呟けば、幸村の口淫が激しくなった。「んっ、はふっ、ぁ、うむっ、んっ、んっ――げほっ」「ああ、もう。頑張りすぎるから」 必死にすぎ、喉をついて咳込む主をいたわるように髪を撫でる。「げほ――すまぬ」「いいって。それだけ、俺様をきもちよくさせたいって、思ってくれたんでしょ」 ありがと、と呟けば、照れ笑いを必死に噛み殺そうとする。抱きしめたい衝動を抑え、額に口づけた。「一緒に、きもちよくなろ」 足を開いて膝を叩けば、首を傾げられた。腰に腕を回し、自分の肩につかまらせ、座らせる。「もうちょっと、腰、寄せて」「う、うむ」 太ももを絡ませれば、膨らんだ幸村の下帯に、佐助の牡が触れた。「窮屈そう」 揶揄するように口の端を上げれば「しっ、仕方がなかろう」 唇が尖った。それをついばみ「解放してあげる」 下帯をずらせば、ぶるん、と先をぬめらせた牡が待ちかねたように顔を出した。「旦那のよだれで濡らされた俺様のと、同じくらい濡れてる」「っ、ぁ――うるさい」 先端を指ではじきながら言うと、叱られた。肩をすくめ、おざなりに謝りながら鼻先に唇を寄せる。片腕で抱きしめ、片手で双方の牡を握りこむと「旦那」 少し唇を突き出して、強請った。ぎこちなく、幸村の唇が触れてくる。それを合図に「っ、は、ぁあうっ、ぁ、はうう」 互いの牡を擦り合わせながら、扱いた。「ぁ、あっ、は、ぁ、あうっ、さ、す――ッ、あっ」「ふっ――旦那、腰揺れてる」「ッ、ばっ、ぁふ、ぅう」 幸村の唾液と、彼の先走り、それに佐助の欲が混ざり、空気を混ぜて卑猥な音をさせながら、とろかせていく。「はふっ、ぁ、さすっ、ぁ、も、ぁ、い、ぃあ」「うん――……ッ、ほら、旦那、言って」「んっ、う、い、いくっ、ぁ、いくっ、ぁ、さすっ、ぁ、いかせてくれっ、ぁ、あ」「いいよ――いっぱい、出して…………く、ぅ」「ひっ、は、ぁあああッ」 絞りあげながらふたをこじ開けるように、双方の先を爪で掻いた。仰け反る幸村が放ち、佐助の放つものを混ざり、互いの腹を汚した。「はぁ――はっ、はぁ」「ふふ、いっぱい出したね」 幸村の尻をわしづかみ、持ち上げ、二人の欲で濡れた指で双丘の奥に触れた。「ひっ、ぁ、は――あっ、ぁ」「旦那、そのまま、腰、浮かせててね」「ぁ、そんっ、は、ぁ」「足腰の修練だと思って、がんばって」「うっ、うう――ッ」 ぎゅう、と佐助にしがみつき、必死に腰を落とすまいとするも「ふぁ、あっ、そっ、んはっ、ぁ、そこっ――や、ぁ」「や、じゃなくて、良いんでしょ」「ふっ、ぁ、足、ぁ、ちからっ――ッ、ふ、ぁ、ぬ、抜け……」「えぇ〜、でも、しないと俺様、旦那と繋がれないし」「ぁううっ、ば、かもっ、ぁはっ、ぁう、ふ」 首に頭を擦りつけられ、くすくす笑いながら指を動かす。そこが熟れ、熱を持ち蠢動を始めれば「ふっ、ぁ、も、はやく――ッ、来ぬか」 艶っぽさも何もなく、誘われた。「ええ。俺様、もうちょっと解したいんだけどなぁ――ッ! いってぇ」 ゴッ、と頭突きをくらわされ「俺が、保たぬッ!」 真っ赤な顔で噛みつくように睨まれれば「もう。しょうがないなぁ」 浮かれた声で、だらしのない顔をしながら指を抜き、腰を引き寄せた。「ほら、旦那――ゆっくり、腰をおろして」「ぅ――ふっ、んっ、ぁ、あっ、あ、は」 そろりそろりと、幸村が佐助を飲み込んでいく。「は――ぁ」 収縮する肉に食まれ、佐助が息を漏らした。それに身を震わせた幸村の内壁が強く佐助を絞り「っ、あ――」 佐助の形を、まざまざと脳裏に描かせた。「は――ッ、旦那、まだ、半分だぜ?」 思わず腰を止めた幸村に、意地悪く言えば「わ、わかっておる……ッ、う、うう」 進も引くもできなくなったらしい彼が、唇を噛みしめて小さく震えた。「旦那」「わかっておるッ」 ぽんぽん、と幼子をあやす様に背を叩き「最後は、俺様がするよ」 腰を掴んで、沈めた。「ひあぁあっ!」 仰け反り、天井に向かって咆えた幸村の首に噛みつきながら、そのまま揺さぶる。「はっ、ぁ、さっ、さすっ、ぁ、あつ、ぁ、あついっ、ぁ、はっ、はぁあう」「ふっ、俺様も、も、あ、溶けそう――すご、ぁ、旦那のナカ、も、ぁ、すご……絡み付いて――ね、旦那……ッ、きもちい?」「んっ、ん――はっ、ぁ、い、いいっ、ぁ、あ……ッ、さすっ、け、ぁ、はっ、ぁあ」「うん――んっ、俺様も、すご、いいよ……ッ、旦那、もっと、もっと熱くなって、溶け合おう」「ぁひっ、ひぁああっ、あ、さすけぇっ、さすけぇえ――ッ、とけっ、ぁ、あつっ、ぁ、とけるっ、ぅあ、あ」 坐したままの動きでは足りず、幸村を転がし尻を膝に乗せて浮かせ、腰を回転させながら穿った。「ぁひぃいっ、ぁ、さすっ、は、はひゅっ、ぁあうううっ」 背中に、幸村の爪が食い込む。痛みすらも愛おしく、このまま彼に引き裂かれても良いとさえ、思えた。「旦那っ、ぁ、旦那ぁ」「さすっ、け、ぁあ――さすけぇええッ!」 呼び合い、言葉に乗せきれぬ想いを唇で伝えあい、熱を与え熱を起し、骨の髄までとろかせて、灼熱の欲湯で魂ごと温めあった。 着物に袖を通すのもおっくうなほどに乱れ、床に転がり息を整える。整えながら互いに腕を伸ばし、顔を寄せ、唇を重ね、抱き合った。「はぁ――あっちぃ」 言いながら、ぎゅうと幸村を抱きしめる。「もう、汗だく」 笑ってみせると、胸元に顔を寄せられ、小さく「俺もだ」とつぶやかれた。髪に頬を寄せながら「でも、珍しいね。旦那から欲しがるなんて」「嫌だったか」「ううん。すっごい嬉しいけど――でも、どうして?」 ちら、と上目づかいにされて、唇を落とすと、恥ずかしげに顔を伏せられた。「佐助が――」「ん?」「俺よりも、体温が低いくせに、自分のことを後回しにするからだ」「は?」「俺よりも、佐助が先に温まればよいのに、そうせぬではないか」「そりゃあ、主を後回しにして、自分が温まる忍なんて、あり得ないでしょ」「だが、共にと言っても断るではないか」「一応、人目をはばからなきゃいけないだろ」「――なれば、よ」「うん?」「共にぬくもるには、こうするほか――無いではないかッ」 ぎゅうう、と抱きしめられ「ちょ、旦那、苦しい」「すまぬっ」 ぱ、とすぐに離されて、心配げな顔が自分に向いた。つん、と鼻先を指でつつき「お・ば・か・さ・ん」 ふふ、と笑みを含んで言えば、幸村の頬が不満げに膨らんだ。「俺様ってば、愛されてるねぇ」「なっ、ばっ、ばかもの」「違うの?」 かわいらしく首をかしげて見せれば「――違わぬ」 もごもごと、言われた。「ふっふ〜ん」 上機嫌で、幸村の首に頭を摺り寄せ、耳に唇を添えて「愛してるよ、旦那」「ッ! ――し、知っておる」「あ、そう?」 じゃあ、口吸いして、と強請れば真っ赤な顔で、いつまでたってもぎこちなさのぬぐえぬ口づけをされた。「旦那ぁ」 猫なで声で呼ぶ。「このまま、もうちょっと旦那とくっついて、寝ていてもいいかなぁ」「――――俺も、そうしたい」「うん、じゃあ――そうしよ」 雨音が、隠してくれているからね。2012/7/14