小川で瓜が冷えている。 手を伸ばし、一つを取ってかじった。乾いた喉に染み込む旨味に目を細め、伊達政宗はもう一口かじる。 腕を、果汁と川の水の混じったものがつたった。「a delicate flavor」 吐息と共につぶやいて、草の上に寝転んだ。 日差しが、焼けるように暑い。 この暑さは、どこかの誰かを思い出させるな、と口の端を上げた。 目の奥を焼切るほどに強い日差しに、瓜をかざして日陰をつくる。 ぱた、と顔にしずくが落ちた。「あっちぃ」 呟き、再び瓜をかじる。少し草の上をずれて、水に足を浸した。ゆっくりと、熱が奪われていく。目を細め、閉じ、むせるほどの草の香りを吸い込んだ。 そのまましばらく、動かずにいると ぱしゃ―― 水の跳ねる音に、目を開ける。肘をつき、身を起すと「――ッ」 川の中に、思い描いていた男の姿があった。 水の中から顔を出したらしい彼は、前髪から水をしたたらせ、丸い瞳で政宗を見つめている。「なんで――」 ここは奥州で、彼は甲斐に居るはずで「なんで、アンタがここに居る。真田幸村」 声に首をかしげ、すいと傍に寄った幸村は、上体を起こしただけの政宗の上にかぶさり「ッ――」 彼の手にある瓜に、かじりついた。彼の口の端から、瓜の汁が顎を伝い落ちる。政宗の手にも汁がたれて「おい」 手首に、幸村が口をつけた。「ッ――何」 惑う政宗などおかまいなしに、幸村は手首から肘まで唇を動かし、挑むような目で政宗を見上げた。 ぞく、と全身がわななく。政宗の体内で、獣がのそりと身を起した。「政宗殿」 幸村は裸身で、政宗の上にかぶさったまま動かない。「政宗殿」 うわごとのように呼ぶ声に艶が含まれ「ッ! 幸村――」 肩を掴み体を入れ替え草に押し倒したところで「――政宗殿?」 不思議そうな茶色の瞳に、出くわした。「――――What?」 草の上に組み敷いた幸村は、裸身でもなく濡れてもいない。瞳は艶を浮かべるどころか無垢そのもので、政宗を見つめてきている。「俺は――」「よう眠っておられましたが、この炎天下ではお体に障るやもしれぬと、お声かけいたし申した」 政宗が寝ぼけていると判じた幸村が笑むのと、自分が夢を見ていたのだと政宗が理解したのは、同時であった。「――情けねぇ」 深々と息を吐いて、幸村の上に突っ伏する。草の香りに混じって、幸村の香りがした。「政宗殿、いかがなされました」「Ah――」 問われても、答えようがない。扇情的な幸村の夢を、見ていたなどと。(ガキか、俺は) 情けなさに、瓜を握りつぶした。「ま、政宗殿――もしや体調をすでに崩されておるのでは」 気遣う声が、ますます情けない気持ちにさせてくる。ぎゅう、と抱きしめ呻くと、がばりと起きた幸村が「すぐに、屋敷までお連れいたしましょうぞ」 政宗を抱えようとし「その必要は無ぇ」 川向いの木立を指さして「この奥に、湧水がある」「では、そこに参りましょう」 立ち上がった政宗は、思うより日にやられていたらしく、めまいをおこした。「ぅ――」「政宗殿」「問題無ぇ」 気遣いながら、幸村が政宗の体に手を添えて川を渡り、木立に入り、先ほどの川水よりもずっと温度の低い湧水のある場所へ来た。「政宗殿」 そっと、いたわるように政宗を木に添わせるように座らせて、幸村は手に水を受けて彼のもとへ戻る。 目の前に差し出されたそれに口をつけ、舌を伸ばし、指の股を舐めた。「――ッ、ぁ」 びく、と幸村がこわばる。顔を上げた政宗が「足りねぇ」 つぶやけば「すぐに」 頷き、水場へ戻ろうをする腕を掴み「手じゃ、足りねぇ」「なれど、某、あいにく竹筒も何も持ってはおりませぬ」 眉根を寄せる幸村の唇を、指でなぞった。瞬く幸村に笑んでみせると「しょ、承知つかまつった」 顔を赤くして水場へ戻り、口で水を受けて戻ってきた。薄く口を開けて見せると、ごくりと幸村が喉を鳴らし「あっ――の、飲んでしま…………申し訳ございませぬっ」 あたおたと水場へ戻っていくのを、クックと喉を鳴らして見送った。 今度は、しっかりと気合を入れているらしい彼に、再び薄く唇を開けて待てば、ぎこちなく唇が重ねられ、彼の口内で温まった水が、政宗の喉を通った。「はぁ――もっと、欲しい」「わかり申した」 今度は、触れた唇を逃がさぬように頭を掴み、腰を抱き、口内の水を一滴でも逃さぬように舌を入れて、まさぐった。「んっ、ふ――んっ、んんっん……ぷは。――政宗殿」「足りねぇ」 抗議をする目に、けだるげに答える。すると幸村は、政宗がよほどに乾いていたからだと思ったらしい。自分を恥じ入るように目を伏せて、再び水場へ戻り、水を含み、政宗の元へ来て唇を重ねた。「んっ――」「っ、ふ――んんっ、ん、は、ぁん」 水の失せた口内を、まさぐる。幸村の体液を求め、深く、深く唇を重ねた。「んはっ、ぁ、はぁ、はぁ……ぁ」 唇を離せば、幸村の目は潤み、息は荒く甘いものを含んで「もっと、だ」「ぁ、はい」 少しぼんやりとした目で政宗の要求に応えるべく、背を向ける。歩みが、少しぎこちなくなっていることに、ほくそ笑んだ。「ん――」 幸村から、唇を寄せてくる。それを受けて、深く貪る。繰り返す行為に、彼の体が熱くなっていくのがわかる。ほんの少しの罪悪感と、膨らみ続ける嗜虐心に、政宗の目は野生の獣の光を浮かべた。「政宗殿――もう、よろしゅうござるか」 少しかすれ気味の声は、肌の下に性欲が渦巻いていることを、政宗に伝えた。「Ah――情けねぇ所を、見せちまったな」「そのような、事は」 気だるげな息に、捕食の頃を見取り「なら、帰るとするか」 言えば、情けない顔をされた。「どうした」「いえ」 恥ずかしげに目を伏せられ、心中で唇を舐めた。「アンタのほうが、熱にやられたんじゃねぇのか」「いえ、そのようなことは」「赤いぜ」 手を伸ばせば、払われた。「ッ――あ、も、申し訳ござりませぬ」「なんだ。俺の介抱はするくせに、俺にされるのは嫌ってか」「そのような事では――」「なら、なんだ」 口ごもった幸村が、きっちりと正座して拳を握り、うつむいたまま「某、あさましくも欲を興してしまい申した」「何故だ」「その――ま、政宗殿に口内を……その」 背を丸めて力なく言うのを、ただ無言で見つめる。しばらく聞こえぬほどの声で何かを言っていたと思ったら「水を欲する政宗殿の舌に、情欲を思い出してござるッ!」 勢いよく顔を上げて、睨み付けるように言われた。「――――」「――うぅ」 あっけにとられる政宗に、真っ赤な顔をした幸村が非難するような目を向けて「政宗殿が、悪うござる」 ぷい、と顔をそむけた。「Ah――」 心中では、したり顔を、表面では、困惑顔を浮かべて「なら、脱げよ」「え」「俺の所為、なんだろう――だったら今度は、俺が介抱してやるよ」「なれど――政宗殿は、まだ体が気怠いのではござらぬか」「なら、アンタが動けばいいだろう」 え、と目を丸くする幸村に「俺も、アンタとしてぇんだよ」 困ったように笑って見せれば、ごくりとつばを飲み込んだ幸村が「なれば」 着物を脱ぎ「下帯も、いらねぇだろ」 先手をうった政宗に従い、全てを取り去った。「♪〜 ずいぶんと、熱そうだな」「ッ!」 あわてて手で隠す幸村に「見せろよ――でなきゃ、出来ないだろ」 促せば、素直に従う。普段の彼からすれば、ずいぶんと大胆だと言える行動に(正夢、だったのかもな) そんなことを、思った。「政宗殿」 不安げに呼ばれ、帯を解き袴をずらし、足を広げて下帯を解いて見せる。「俺も、人の事は言えねぇな」 政宗の中心も、幸村同様に勃ちあがっていた。「――政宗殿」 熱に浮かされたように、幸村が身を寄せて「ッ!」 政宗の股間に顔をうずめる。ぬるりとした感触に、目を見開いた。(――Unthinkable!) あの幸村が、自ら口淫を始めている。行為の際、政宗から指示すれば、することはあった。けれど、彼からなど――いや、そもそも行為自体を彼から積極的にすることなど、初めてに近いことで「幸村」「んっ、ん――はふっ、んっ……はしたないと、思わないでくだされ」 力なくつぶやかれて「最高だ」 髪を撫でた。「んっ、ん――はふ、んっ、んぅう」 それでふっきれたのか、幸村が貪りついてくる。上下する柔らかな茶色の髪に指をからめ、視覚からも煽られて「くっ――」「ぐぶっ、ぅ、ん――んんっ」 放った政宗を、苦労しながら吸い上げ飲み干した幸村が「は、ぁ――」 泣き出しそうに潤んだ瞳で、身を起した。足の間にある個所が、震えながら先走りをこぼしている。「咥えて、感じたのか」 奥歯を噛みしめ、目を伏せる幸村の頬に指を滑らせ「たまんねぇ」 唇を寄せた。「尻をこっちに向けて、腰あげな」「えっ」「さっさとしろよ――辛ぇだろ」 促せば、素直に尻を政宗に向けて這う。「良い子だ」「ぁ、は――」 尻を掴み開いて、繋がる個所に舌を挿れた。「はっ、ぁ、ぁあ――んっ、はふ、ぁ、あう」 腰を揺らす幸村に「自分で、ち○ぽ弄ってろ」「ぇ、あ――そん、そのような、こと……」「なら、俺を弄ってろ」 しばらく迷った幸村の手が、政宗の牡に触れた。「Ok――なら、アンタのは俺がしてやるよ」「っ、はぁあ、ぁああっ、は、ぁう」 尻に指を挿れ、もう片手で竿をしごき袋を口に含めば、うっとりとした嬌声があがる。「ぁあっ、はっ、ぁあう、ぁ、まさっ、あ、まさむっ、ぁ、どのぉ」 腰を振り、先走りをこぼし続け、いつも以上に素直に乱れる幸村に、もっと焦らして遊びたい思いが湧き上がる。けれど、幸村に掴まれた牡はすぐにでも繋がりたいと、主張して「はぁっ、ぁ、はやっ、ぁ、はやくっ、ぁ、まさむねどのぉっ、ぁ、これをっ、はやくっ、ぁ、あぁ」 強く握られれば、本能が理性を上回った。「ったく、とんでも無ぇな」「ひぁっ」 尻を叩き、腰を掴んで牡を孔へあてがう。「最高に、熱くさせてやる」「ぁ、あっ、あ、ぁあぁああああ」 一気に貫き、衝動のままに突き上げた。「ふっ、すげぇ――焼け爛れそうに、あつ……ぃ」「ぁはっ、ぁひ、ぃあ、まっ、まさむっ、ぁ、あうっ、はぁあっ、あつっ、ぁあ、とけっ、ぁ、とけるぅう」「っ――俺も、は、溶けそうだ」「ひっ、ひぃ、ぁ、ああうっ、んっ、ま、まさむっ、あ、まさむねどのおお」 どろどろに欲にとろけた顔で、背後から突き上げてくる政宗を振り返る。腕を伸ばす彼の背に胸を重ね「幸村」「ぁあ、政宗殿ぉ」 求める唇に、唇を重ねた。 余韻に火照る体を清水で冷やし、衣服を整えて「も、申し訳ござらぬ」 恥ずかしそうにつぶやかれ、政宗は首をかしげた。「介抱をしていると言うのに、あさましくも欲情いたし、休めねばならぬ体で、その――」 首まで赤く染めた幸村に手を伸ばし「お互い様だ」 髪に唇を寄せた。 不思議そうに見上げてくる目に、笑みの形の唇で触れ「だが、なんでアンタが奥州に居るんだ」 はっとした幸村が「そうでござった。お館様の使いにより参ったら、政宗殿は里の視察にいかれたとの由。迎えをと片倉殿が申されましたゆえ、なれば某がと言うて、河原の政宗殿を見つけたのでござる」 背筋を伸ばして言った。「武田のオッサンの使いは、急ぎか」「いえ――なれど、その、あまり遅いと片倉殿がご心配めされておるのではと」 申し訳ござらぬと言いかけた唇を唇で塞ぎ「俺が、なかなか見つからなかったことにすればいい――急ぎじゃ無ぇなら、泊まっていけよ」「なれど、ご迷惑では」 腕の中に彼をおさめ、耳朶を食んで「もっと、アンタの熱を感じてぇんだよ」 ささやいた。「――ッ!」「アンタも、そうだろう?」 こわばる体を強く抱きしめ「Yes――or No?」 髪に顔をうずめて言うと「い――いえす、に、ござる」 幸村の手が政宗の背にまわった。 焼けるように滾る夏を 一℃でいいから君に伝えて2012/7/17