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真理

 闇の中、月に浮かび上がるとび色の瞳を見つめる。そこに、自分の姿を見ながら顔を寄せ、柔らかく唇を押しつぶした。
 掴んだ腕が硬くなり
(拒絶じゃねぇ)
 わずかに惑った自分を、伊達政宗は制した。
 相手の、真田幸村の硬直は拒絶では無い。慣れることの無い行為への、緊張の表れだ。
 わかってはいるはずなのに、幼いころよりの経験が、政宗に拒絶の不安を湧き上がらせる。
(この瞳のどこに、拒絶があるってんだ)
 唇を押しつぶしても、閉じられずに見つめ返してくる瞳の、何処に――
 ただ、政宗と対峙をしていると言う意思だけが、そこにはあった。
「んっ」
 舌先で唇をなぞれば、薄く開く。慣れぬはずなのに、幾度もの行為でそれが何を意味するのかを知った幸村は、政宗の舌をぎこちなくも招いた。
「ふ、ぅん」
 くすぐれば、鼻にかかった息が漏れる。
「は、ぁ」
 睫毛が震え、目じりに艶が浮かんだのが、彼が準備を終えた合図。ゆっくりと体を横たわらせ、帯を解き、腹から胸に掌を滑らせれば
「ぅ――は、ぁ」
 震える肌を抑え込もうと、幸村が四肢をこわばらせる。
「幸村」
「は、ぁ……ま、さむねどの、ぉ」
 彼の形を確かめるように、両手で上半身をまさぐり、腕を撫でながら幸村を隠す布を奪っていく。宵闇に浮かび上がる褐色の肌に目を細め、下帯に手を駆けると
「あっ……」
 思わず、といった態で手首を掴まれた。見れば、幸村の目じりに羞恥が浮かんでいる。
 唇を舐め、掴んできた手を取って口元に寄せる。緊張をほぐすように幾度も唇を押し付け、指の股を舐め、吸えば
「は、ぁ」
 幸村の膝が曲がり、何かを堪えるように足の指が握りしめられる。手を離し、足を撫でて恭しく持ち上げ、足の指を口内に招くと
「っ、は、ぁ……政宗殿、ぁ」
 自らの手の甲で口を押え、震えながら逸らそうとする目を捕らえる。挑むように見つめながら、くるぶしを吸い、足首を滑り、ひざ裏に跡を付けながら下帯に触れれば、今度は止められることは無かった。両手で口をふさぎ、羞恥と期待を織り交ぜた目が、政宗を見続ける。
「Captivating kitten……あんまり、煽るなよ?」
 足を肩に乗せ、体を折って唇を寄せる。幾度かついばめば、幸村の腕が政宗の首に回された。
「ぁ、ん……政宗、どのぉ」
 甘える声音に目を細め、不満そうな目の色に
「? ――なんだ」
 問えば
「某ばかりが……不公平ではござらぬか」
「Ah?」
 幸村の指が、政宗の眼帯に触れた。
「政宗殿も、全てを某に示してくだされ」
 静かな声に、魂が揺れた。
「見ても、面白ぇモンじゃ無ぇだろう」
「面白いと思うて、見たいわけではござらぬ」
 わずかにふくれた頬に
「I know」
 口づけ、そのまま耳に唇を滑らせて
「好きにしな」
 耳朶に、低く注いだ。
「ぁ――」
 薄く肌を震わせた幸村の指が、眼帯の結び目にかかる。ほどかれたそれが隠していた虚を見つめ、政宗の髪を掻き上げるように頭を掴んだ幸村が、そこに舌を伸ばした。
「ふ――」
 あるはずのない眼球が、幸村の舌で形作られる。見えないはずの右目が、幸村の魂を映した。
 ――伊達政宗という名の付いた魂に、触れることを望んでいる。
「は、ぁ」
 魂が、甘く疼く。虚の縁を舐められながら、政宗の手は幸村の肌を滑り、胸に色づく尖りに触れた。
「ぁ、は、ん」
 虚に、幸村の情が滲む息が注がれる。色づいた周囲をなぞり、硬さを持ち始めた実を抓んで転がせば
「ぁ、はぅ、んっ、ぁ」
 遠慮がちな嬌声が、上がった。
「もっと、啼けよ」
 幸村の舌から逃れ、顔を下して胸乳へ舌を伸ばす。追いかける幸村の指に髪を遊ばせながら、舌を絡めて吸えば
「はぁ、あうっ、ん、ぁは」
 幸村の腰が、持ち上がった。床と腰の間に腕を差し込み抱きしめて、余った手で下肢の主張を掴めば
「ずいぶんと、良い反応じゃねぇか」
 口笛を吹いて言えば、睨み付けられた。
「そんな顔で睨まれても、怖かねぇぜ」
「ぁ、は、ぁんっ、ん、ぁあ」
 顎を吸い、手淫を施す。ゆるゆるとした動きに滲みだした蜜を指に絡め、茎に塗りつけながら速度を上げて
「熱いな」
「ぁ、はっ、ぁあっ、ん、まさ、むねどのぉ」
 欲に溺れていく顔を見つめる。
 政宗だけを見つめ、政宗だけを感じ、政宗の与える者を余すところなく受け止めようとする瞳を、見つめた。
「はっ、あ、ん、ぁあっ、ま、ぁうっ、は」
「イきそうなら、言えよ? 顔が、見てぇ」
「や、ぁ……そんっ、ぁ、ああ」
 幸村の感度が上がる。湧き出す蜜の量が増える。そろそろか、と先端に爪を立てれば
「ぁ、はっ、ぁ、ああっ、あぁあああッ」
 大きくのけぞりながら、幸村が果てた。
「Good face――たまんねぇな」
 痙攣する幸村の残滓も全て搾り取るように扱きあげ、指に絡めた蜜に
「大量だな」
 クッ、と喉の奥で笑えば、睨み付けられた。
 ぞく、と背筋が獣じみた歓喜に震える。
「そんな顔、すんなよ……すぐにでも、突っ込んで掻きまわしたくなる」
 熱い吐息と共に瞳を覗き込みながら告げれば、強く抱きしめられた。
「そ、某にも……政宗殿の、その、か、顔をお見せくだされ」
 真っ赤になって言う姿に目を瞬かせ
「なら、どうするんだ?」
 挑戦的に唇をゆがめると、絡んでいた腕の一本がほどかれ、政宗の牡に触れた。
「ぅ――」
「どうした?」
 からかいを含んだ声で言えば、ためらいがちに陰茎に絡んだ指が、ゆっくりと上下しはじめる。
「は、ぁ……」
 幸村の口から、熱いものがこぼれ出た。
「アンタの中で、暴れてるモンの形、しっかりと記憶しろよ?」
「ッ――い、意地の悪いことを、申されますな」
 政宗の肩に額を擦りつけながら、彼を高ぶらせようと緩慢ながらも手淫を続ける幸村の髪に唇を寄せ、日向の香りを味わう。
「俺の顔を、見るんじゃ無かったのか?」
「そ、れは……」
 幸村の動きが止まる。肩に乗せたままの足を抱えるように身を起し、目の前に見えた菊花へ、幸村の蜜で濡れた指を這わせた。
「ぁ――」
「アンタは、俺を弄ってな」
「は、ぁあぁう」
 入口の襞を撫で、ゆっくりと指を埋め込む。きゅんと締まった入口は、指を逃すまいとしているようで
「たまんねぇ」
 政宗の目に、劣情を光らせた。
「ふ、っ、ぁ、あ」
 その顔に自分も煽られたのか、幸村が肩を起して両手で政宗の陰茎を包み、高ぶらせ始める。淫蕩に埋もれた顔に、指に、政宗の欲が凝り溢れる。
「はぁ、あっ、んぁ、あ、ひっ、んぅうっ」
「はぁ、イイ、ぜぇ……幸村」
「ふ、あ、ま、さ……ね、どのぉ」
 探られる内壁の刺激に時折止まる幸村の指でも、十二分に高ぶった政宗が
「ふっ、もぅ……たまんねぇ」
 熱い声を出せば
「政宗殿っ、ぁ、も、もぉ……は、ぁ、一つに――ッ」
 乞われた。
「Ok――Aggressive kitten……存分に、狂い合おうじゃねぇか」
 指を引き抜くと、すぐさま自分をあてがった。幸村の指が離れ、政宗を求めるように持ち上がる。それに体を折って答えれば、肩を強くつかまれた。口の端を持ち上げ、膝の上に幸村の尻を乗せるように貫けば
「ひっ、ぁぐっ、ぁ、ああぁあああ」
 肩に爪が食い込む。その痛みすら悦びに思えるのは、甘い刺激に感じるのは、真田幸村という存在だからだろうと、識っている。
「は、ぁ――すげぇ、食いちぎられそうだ」
「くっ、ぁ、お、ぉおき、ぁ、まさ、むねどのっ、ぁ」
 喘ぐ瞳が濡れている。体を折って目じりを吸えば
「ひっ、ぃ、ぃいっ」
 つながりが深くなった。
「はぁ、すげ、ぁ……すぐにでも、気をやっちまいそうだ」
「ぁ、政宗殿、んっ、は、ぁあう、く、ぅう」
 呼ぶ声に応えるように、ゆっくりと腰を動かし始める。
「はぁ、あっ、ぁ、そこっ、ぁ、は、政宗殿っ、まさっ、ぁあ」
「わかってる……アンタの良い所全部、ちゃんとわかってる」
 だから、俺に溺れ狂えばいい。そう耳元でささやくと、政宗殿もと応えられ
「Certainly――アンタに溺れ狂わねぇわけが、無いだろう」
 ぐ、と強く繋がれば、後は魂を溶け合わせ相手を求める啼き声を上げあいながら踊り続けることだけが、二人の存在意義だとでも言うように無心に絡まり求めあい、溶け合うほどにはっきりとしていく魂の輪郭にもどかしさと己を感じ続けた。
 全て世の中はどろどろに溶け合ったものでできていると言うのなら――存在というものが、溶け合ったものの中でなにがしかの衝突があり偶然に生まれたものだというのなら、釈迦よ……こうして二人が一つに溶け合い高め合うと言う事もまた、真理だと言わしめるのか。

2012/9/01



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