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惚れたモン負け

 ぼんやりと頬杖をついて、流れゆく雲を見つめる猿飛佐助の様子に、主である真田幸村は首をかしげた。
「佐助」
 声をかければ、魂の抜けたような顔をゆっくりと向けてくる。
「ああ、旦那」
 そこで、盛大なため息をつかれた。
「ど、どうしたのだ、佐助」
 おろおろと傍に寄れば、あるかなしかの笑みを浮かべた唇が
「なんでもないよぉ」
 気だるげな声を出す。
「なんでもなくは、無いではないか。具合でも、悪いのか」
「別にぃ」
「おかしなものでも、食べたか」
「旦那じゃあるまいし」
「じゃあ、何だ」
「そんなことしか、思いつかないわけ?」
 呆れた顔をされ、言葉に詰まれば佐助が立ち上がる。
「佐助、何処へ行く」
「自分の部屋」
「まて、佐助」
「なぁにぃ」
「う、その……何が、あった」
「べつにぃ。なぁんにもぉ」
 ぬぅう、と幸村が唸っている間に佐助が歩き出した。その足の弱々しさに駆け寄り、前に回る。
「一体、どうしたのだ」
 二の腕を掴んで顔を覗き込むと、ふっと目を逸らして遠くを見つめた佐助が
「いい天気だねぇ」
「ごまかすな」
「……草屋敷の軒先に、薬草の団子を吊るして、干していたんだよなぁ」
 びく、と幸村の腕から佐助の腕へ、動揺が伝わる。けれど佐助は気付かぬふりで
「獣か鳥が取ったのか、無くなってたんだよなぁ」
 ひとりごちた。
「あれ、作るのって結構大変なんだけどなぁ」
 幸村の手が落ちて、視線が彷徨う。ふら、と幸村の横をすり抜けた佐助が
「三日くらい、眠れねぇかもなぁ」
 落胆の色を隠そうともせずに呟いた声が、去りゆく背中を見つめる幸村の耳にこだました。
 佐助には、団子を奪ったものが誰かなど、とうにわかりきっていた。あの団子には、はちみつをたっぷりと練り込んである。その甘い香りと木の実をすりつぶしたものに、幸村が反応をしないはずは無い。おそらく、佐助を訪ねてきたものの、誰の姿も無く小屋の周りをうろついていた時に、見つけたのだろう。ダメだと思いつつも、少しだけと思ううちに全てを食べてしまい、そのあと佐助をしばらく待っては見たものの、帰ってくる気配が無いので修練に戻った、というのが佐助が浮かべた団子消失事件の推理だ。
 大きく外れていることは無いだろうと思いながら、幸村に何も言わなかったのは反省をさせるためだ。叱るのは、容易い。けれどそれでは、深い後悔として彼の中には残らない。幸村はどこかで、佐助は許してくれるものだと無意識に思っている節があった。
(甘やかせすぎている気は、無いんだけどなぁ)
 けれど、実際にそうなのだから佐助にも反省すべき点はある。思えば幸村は、弁丸と呼ばれていた幼少のころから、佐助がギリギリの許容範囲で受け止められることから逸脱したことはない。どれほど佐助が叱っても、そのあとはケロリとして佐助の傍に来てまとわりつく。似たようなことを繰り返す。まるで
(かまってもらいたがっているような――)
 気がしないでもなかった。それを、くすぐったい悦びとして受け止めていることを自覚しながらも、今回ばかりは叱るよりも自ら反省させようと思ったのは
(はちみつって、けっこう集めるの、大変なんだよなぁ)
 他の者たちにも示しがつかない。幸村を叱り、手伝わせたなら集める労力も少なくて済むだろう。だが、そういう問題では無い。
(ここにも、来ちゃだめだって言ってんのに)
 何度言っても聞かないのは、なんだかんだで許してしまっているからだと、許されると思っているからだと、わかっている。だからこそ今回は、直接に叱るのではなく、自ら反省するようにと思ったのだが
(なんで、来ちゃうかなぁ)
 小屋の外に幸村の気配を感じて、息を吐く。小屋に来てはいけないことは、彼の中では忘れ去られているのだろう。ただ、団子の件のみを気に病んで来たに違いない。
「佐助」
 する、と戸が引かれて幸村が覗く。振り向きもせず、佐助は全身に落胆を纏った。不安げな気配が小屋の中に入り、戸が閉められ
「佐助」
 おそるおそる、幸村が横に座った。
「なぁにぃ」
 目も向けずに、暗い声で応えた。
「すまぬ」
「何が」
「俺が、食った」
 しゅんとする姿は、弁丸と呼ばれた頃のままで
(あ、かわいい)
 そんなことを思ったが、おくびにも出さずに
「そっか」
 気のない声を出した。
「お、怒らぬのか」
「もう、団子は返ってこないし」
「ぬ、ぅ……」
 常にない佐助の反応に、どうして良いのかわからぬ幸村は
「佐助」
 不安そうに、顔を覗き込んできた。それと目を合わせてしまえば、いつもどおりのことをしてしまいそうで、目を逸らす。それが更に幸村の不安をあおったらしい。
「叱ってくれ、佐助」
「もう、いいよ」
「俺の気が、すまぬ」
「旦那の気なんて、どうでもいいし」
「佐助ぇ」
 情けない声を出す幸村に、盛大なため息をかけて
「じゃあ、もう……はい」
「おわっ」
 幸村を膝の上に乗せて、スパンと尻を叩いた。
「さ、佐助ッ?!」
「おしおき」
「このような、子どもじみた仕置きなど」
「子どもじみたことをしたのは、アンタでしょうが」
 つまらなさそうな顔で、しぶしぶという態度で、幸村の尻を叩く。
「佐助、ちゃんと叱れ!」
「なんで、そんなこと言われなきゃなんないのさ」
 佐助が上の空の態でいるのが、不安をあおっていることなど見通している。
「これでは、仕置きにならぬ」
 尻を打つ佐助の手は、優しい。
「大将にぶん殴られてる旦那に、少々の事をしたって、効かないでしょ」
「なれど、これでは叱られている気がせぬ」
「あのねぇ、旦那が叱られている気になるようにって配慮しながら叱るのは……」
 そこで、ふと意地の悪い事を思いついた。
「……じゃあ、旦那が嫌だって思うことをすれば、いいんだな」
 薄暗いものを含んだ佐助の声に、幸村の体がこわばった。
「自分から御仕置を望んだんだから、逃げずにちゃんと受けなよ」
「っ、な、何を」
 手旗苦帯を解き、ずるりと幸村の袴をずらし
「泣いて謝っても、許してやらないぜ」
「ひぁッ」
 下帯を掴み腰を持ち上げ、濡れていない孔に指を突き入れた。
「ッ、さす――」
「一本くらいなら、傷つかないだろ」
 ぬこぬこと指を動かせば、きゅうと孔が指を締め付けてくる。幸村の体が貝のように硬く閉ざされた。
「旦那」
「ッは、ぁあ」
 くん、と内壁のツボを押さえれば、あっけなく開いた。そのまま閉じぬように、そこばかりを柔らかく責め続ければ
「ぁはっ、ぁ、あ、ああうっ、さすぅ、ぁ、あうう」
 体が火照り、息が上がり、腰がくねる。
「ほらほら。どうしたの、旦那。御仕置が欲しかったんでしょ」
「ぁ、ああぅ、や、ぁあっ、さす、はっ、はぁ、あんぅうっ」
「嫌がることをしないと、仕置きにならないからねぇ」
「ひぅうんっ」
 ぎゅう、と佐助の太ももにしがみつく姿に
(やば――)
 むく、と佐助の牡が起き上がる。思った以上に腰にクる仕置きに
「ね、旦那。このままイッちゃおうか」
 意地の悪い言葉が、口から洩れた。
「やっ、ぁ、あっ、無理っ、ぁ、佐助っ、さすけぇ」
「無理じゃないでしょ。さっきから、俺様の膝に擦りつけてるくせに。旦那も、イキたくてたまらないんじゃないの」
「ひっ、ぃあ、やっ、ぁ、あっ、このようなっ、ぁ、あ、やっ、ぁあうっ、あっあ」
 首を振る幸村の腰は、自らの陰茎を刺激しようと佐助の膝に擦り付けられている。下帯がじっとりと濡れきっていることに、幸村の絶頂が近いことを知り
「ほら」
 押しつぶすように膝を持ち上げ、秘孔の一点を強く押せば
「ぁはっ、ぁああぁああああっ!」
 あっけなく、幸村がはじけた。
「あ〜あ、下帯、ぐしょぐしょ」
「ひっ、ん」
 数度擦ってから下帯を外せば、前の部分が粘ついている。それを捩じって棒状にすると
「どんだけ濡れてるか、自分で感じてご覧」
「ぁはぁううっ」
 秘孔に押し込んだ。
「ほら……御仕置きをされてるのに、旦那――こんなに濡らしちゃったんだよ? 御仕置き、気持ち良かったら意味が無いよなぁ」
「ふっ、ぁううっ、さすっ、ぁ、ああうっ、さすけぇえッ」
「なぁに? あぁもうガッチリ下帯くわえちゃって――キュウキュウに絞り上げるから、染みだしたのが太ももに垂れてる」
「はぁんっ、ぁひっ、ぁうう」
 下帯をねじ込みながら入口に舌を伸ばせば、伸縮した内壁から幸村の精液が染み出てくる。
「旦那、御仕置きなのに、いっぱい出しちゃったねぇ」
「ふ、ぁあうっ、佐助ぇ、ぁあ、佐助ぇえ」
 掴んでいた太ももを叩きながら、幸村が何かを訴えようとしてくる。尻に被せていた顔を上げ
「なぁにぃ」
 涙で潤んだ目を見て問えば
「さ、佐助が……欲しい」
 恥ずかしそうに求められ
「ッ――旦那ぁあ」
 がばりと彼の上に覆いかぶされば、足を高くつかみ上げ、下帯を引き抜いて一気に貫いた。
「ぁあぁあああああっ!」
「ふっ、すご……熱い」
 逃すまいと佐助を飲み込んだ肉壁が絡み付き、誘うように蠢動している。それにめまいを覚えるほどの快楽を感じながら
「ふふ、すっごい絡み付いてくるよ。旦那、やーらしー。そんなに、俺様が欲しかったの?」
 耳元でささやけば
「……俺は、いつでも佐助のみを、欲しておる」
 強く、抱きしめられた。
「――え?」
「だから、ここにも来るのだ」
 団子の件は、すまぬ――と小さな謝罪の声に
(俺様、もう……ダメかも)
 幸村に甘いのは、惚れた弱みでどうしようもない事だよなと観念し
「後で、一緒に材料を集めてくれる?」
 ちゅう、と頬に甘やかすように唇を寄せて
「ふ、無論……だから、ぁ、はやくっ、佐助……ぁ」
「了解ってね」
 幸村の求めるまま、自らの望むままに睦みあった。
 俺様、死んでも旦那にはかなわないんだろうなぁ――。

2012/9/07



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