腰に手を当てて「ああ、もう」 猿飛佐助は怒気を含んだ呆れ声を出した。その向かいに、しゅんとしている青年がいる。「何度言ったら、わかるのさ」「すまぬ」「そうやって謝っても、同じことを繰り返していたら、反省をしていることには、ならないんだからね」「すまぬ。つい……」「ついじゃないの! 旦那はもう子どもじゃないんだから、自分の立場とかいろいろ考えて行動してくんないと。俺様が心労で死んじゃってもいいってんなら、別だけどさぁ」「そ、それは困る! 佐助がおらねば俺は何も出来ぬ」 心の中でにんまりとして「わかってんなら、もう二度としないでよねッ」 くるりと背を向け、悄然とする真田幸村の気配に息を吐く。 ちら、と肩越しに気付かれぬよう彼の姿を見れば、拗ねたように唇を尖らせ両手にあるアケビを見つめている。(欲しいなら、俺様に言えばいいのにさ) 主は、自ら山に入りアケビを両手いっぱいに採って帰ってきた。それを見つけ、叱っていたのだ。 秋の色に染まり始めた山に、主は昔から惹かれるらしい。幼名で呼ばれていた頃より、紅葉がはじまれば山に入りたがり守役を仰せつかった幼忍の佐助は、手を繋いで山へ行き、栗やアケビを拾い、紅葉に目を細め落ち葉を踏みしめ共に遊んだ。大人になり、隊を率いる武将となった今でも、その頃と変わらぬままに――いや、あのころは佐助の手をとり共に山に入っていたのが、ひとりで山に入ってしまうので始末が悪い。仮にも大将首である彼は、いつどこで狙われるかもしれないのだ。(旦那の事だから、大抵の場合は問題ないだろうけど) 万が一、ということもある。腕は立つが人を疑うことを知らぬ彼は、あっさりと騙されてしまう。木こりや猟師のふりをして近づいてきた者に心を許し、危害を加えられるという可能性は十分にあった。だからこそ、佐助は幸村を叱るのだが――(なんで、改めないかなぁ) 食べたいのであれば、佐助に命じれば良いだけのことだ。佐助でなくとも、屋敷の誰かに声をかければいい。幸村は、そういう立場にあるのだから。「やれやれ」 つぶやき、反省をしているらしい主に背を向けたまま、佐助は柿色の髪を掻きつつ草屋敷へと戻った。 幸村の私室が、あまったるい香りで包まれている。 香りの元は、アケビであった。 盆の上に乗せられているアケビの中に、どうも熟れすぎているものがあるらしい。それが、部屋中に匂いを広めていた。 アケビの盆を横にして、幸村は床に大の字に寝転がっている。つまらなさそうに天井を見つめる彼は、自ら採ってきたアケビに興味が無いらしい。ひとつも手を付けずに置いてある。「旦那」 そっと、アケビの香りを巻き取るように風が吹き、佐助が現れた。目も向けず、声もかけない幸村の顔を覗き込み「何、拗ねてるのさ」「拗ねてなど、おらぬ」 ふい、と目を逸らしてしまった幸村に、おやと眉を上げてつみあがったアケビを見る。「食べないの?」「いらぬ」「食べたいから、採りにいってきたんじゃないの?」 幸村は、答えない。ふう、と息を吐いてアケビを手にした佐助が「あま……」 熟し切った味に、眉をひそめた。それを見上げる幸村に「はい」 果実のしたたる実を差し出す。首を持ち上げた幸村は口を開け、佐助の手にあるそれをかじり、ついで「――ッ、旦那」 佐助の指を、舐めた。「んっ」 アケビと共に佐助の指を味わう幸村に、佐助の欲がにじみ出る。果実を彼の口に押し込み、指で掻きまわした。「ふ、んっ、んふ、ぁ、はむっ、ぁ、ふ」 ぐちぐちと、口内でアケビが鳴る。乱され、飲み込めなかった果汁と唾液が幸村の頬を伝った。上体を半端に起して佐助の指をしゃぶる幸村の舌を撫で、濡れた指を首に添える。そのまま肌の上を滑り、着物の合わせ目から手を差し込んで胸を探り、尖りを見つけて抓んだ。「っ、あ」 小さく上がった声に、佐助の喉が鳴る。膝を開き帯を緩めて、立ち上がりかけた自分の牡を取り出す。アケビに手を伸ばし握りつぶして牡に塗り付け「旦那」 促せば、口を開きながら体を回し、うつぶせになった幸村がしゃぶり始めた。「んっ、ん……はふ、ん」「は、ぁ」 目元に艶を滲ませて、佐助を高ぶらせようとする口は未熟なれど懸命で、むくむくと佐助の欲を育て上げる。幸村に欲を凝らせながら、佐助は着物の下に差し入れた手で、幸村の胸の尖りをこねくりまわした。「ぁはっ、ぁんっ、んぅうっ、は、んむ、ちゅ、ぁう」 声を上げつつ佐助をしゃぶる幸村の、腰がだんだんに持ち上がり足が開いていく。獲物を狙う猫のような体制で佐助の股間に顔をうずめる幸村の尻に、空いた手を伸ばして下帯の隙間から指を入れ、菊花をつついた。「んっ、ぁ」 ひくん、と反応した菊花と期待をするような声に、佐助の腰が疼いた。「旦那……せっかくのアケビ、食べないと」 欲にまみれた声でささやき、熟しすぎたアケビを手にする。割り、むせるほどの甘い香りを放つ実を取り、幸村の菊花へ少しずつ押し込んだ。「ぁ、は……ぅんっ、ぁ、佐助ぇ」 もどかしそうに腰を揺らすのに「俺様の熟れてるもの、もっとしゃぶって?」 言えば、身を揺らしながら再びしゃぶりはじめる。全身でねだるように身をくねらせる幸村の下帯を剥ぎ取り、菊花へアケビの果肉を次々と押し込んでは指でかき混ぜる。「旦那の体、すごく甘い香りがするよ」「はむっ、んっ、ぁ、あは、ぁうう」 しゃぶる余裕の無くなった幸村が、佐助の腰にしがみつき、上半身を床に擦りつける。体を折って耳元へ唇を寄せ「自分で乳首、擦りつけてんだ」 くすりと笑えば、びくりと幸村の体がこわばった。「いじってあげるから、体、起こしてごらん」 菊花から指を抜き促せば、おそるおそる起き上がった幸村が恥ずかしげに佐助を見上げる。にこりと綺麗な笑みを向け「そのまま、膝を抱えて仰向けになって」 促せば、丸くなった幸村が仰向けになった。「違うでしょ」 両膝を抱え込んでる腕を解かせ、膝を抱えて足を開く形に変えさせる。真っ赤に染まった顔に唇を寄せ「そのまま、ね?」 優しく言えば、頷かれた。「うん、いい子」 髪を撫で、その手を滑らせ胸乳を掌で撫でまわしながら尖りを押しつぶす。「ぁはっ、ぁ、ん、ぅ」 胸の刺激で跳ねる牡が先走りをこぼし、収縮する菊花がアケビの汁をあふれさせる。「はぁ……すっごい、やらしい眺め」「ぁ、あう、佐助ぇ、ぁ、あぁ」 瞳をうるませ呼ぶ主が、何を求めているかなど佐助にはよくわかっている。「もうちょっと、膝を胸の近くに寄せて足を広げて?」「う、ぅう」 体中を羞恥に染めながらも従う幸村の下肢に膝を進め、菊花を亀頭でつつく。期待をするように、求めるように菊花がひくついた。「旦那……くっ、ぅ」「ぁ、は、ぁあ、あっ、ぁ」 ぐ、と腰を進めて幸村の内壁を広げるたびに、繋がる隙間からアケビの汁が漏れた。「はぁ、旦那……すごい、絡み付いてくる」「ぁ、佐助っ、ぁ、あ、ぁあっ、は、ぁあ」 幸村の牡が、触れてほしそうに震えている。ぽたぽたと蜜をこぼす熟れきった幸村の牡に目を細めながら、両手で乳首を捏ねた。「ぁは、ぁ、あううっ、は、ぁ、ああ、佐助ぇ、佐助ぇえ」 佐助の腰に足をからめ、腕を伸ばして肩を掴む幸村に身を寄せず、ゆっくりと腰を打ち付けながら乳首をつまみ、転がし、絞り、捩じる。「ひっ、ぃいっ、ぁあっ、さすっ、ぁ、ああっ、佐助ぇ」 いやいやと首を振りながら求める幸村の内壁が、佐助の牡に絡み付き、絞るように締め上げた。「ふふ……旦那、きもちい?」「ぁ、あぅうっ、佐助ぇ、は、ぁ、魔羅が、ぁ、ああっ」「臍まで反り返って、ぶるぶる震えながらヨダレたらして……はしたないね」「ぁあ、ふ、触れてくれっ、ぁ、ああ」「そうしたら、コッチ、いじれないよ? 旦那、コレ好きでしょ」 ぎゅう、と強く両の乳首を捏ねれば「ぁひぃいっ」 激しく腰を突きだし、佐助を食いちぎらんばかりに締め上げる。「くっ、旦那……キツイ」「あ、ぁあうっは、ぁあ、佐助ぇえ」 涙を拭きこぼしながら懇願の瞳をするのに息を吐き「じゃあ、旦那は自分でコッチを弄ってね」 幸村の手を取り指を掴んで、自らの乳首を弄るように誘導した。最初は戸惑っていた指が、佐助の手の促すのに従い「ぁ、はぅ、んぁ、あっ、あ」 心地よさげに自らを慰め始める。そっと幸村の手から離しても、彼が自分で乳首を捏ね続けることを確認し、空いた手を愛撫を待ち望む牡へ移動させた。「ぁはっ、ぁ、ああうんっ、は、ぁああ」 肩手で亀頭を捏ね、片手で幹を擦りあげれば心地よさげな嬌声が上がった。幸村の尻を膝に乗せるようにして内壁を穿ちつつ、絶頂を迎えぬよう加減をしながら牡を弄り「ぁ、あはぅうっ、さすけぇええっ、もぉ、ぁ、はぁあ、はやくっ、ぁ、ああ」 淫蕩に思考を浸して啼く幸村を全身で味わう。「はぁ、旦那……すごい、やらしい――ふふ。ねぇ、気持ちいい」「ぁ、はぁううっ、いいっ、きもちぃ、ぁあ」「うん、俺様もすっごい気持ちいいよ」「ぁあ、さすけぇ、は、ぁあ、もっと、ぁあ、は、ぁあっ、おくっ、ぁ、ああ」「うん、ぐちゃぐちゃに、してあげる」「ぃひっ、ぁあっ、は、ぁあっ、いいっ、ぁ、あぁあ」 身も世も無く乱れきり、叫び続ける熟れきった紅蓮の鬼を、貪り尽くした。 アケビにまみれた幸村の体を拭っても、甘い残り香はとどまっている。くたりと佐助の体に身を預け、小さな子どもをあやすように背をさする佐助の仕草に目を閉じた幸村を、これ以上ないほどに柔らかなまなざしで佐助が見つめる。 数を減らしたアケビが、甘い香りで二人を包んでいた。「佐助」「ん?」「しばらくは、おるのだろう」「――ああ」 夏の初めに任務に出て、やっと戻ってきたところだったと思い出す。戻ってきて早々、幸村を叱ったので長く離れていた気を忘れていた。「大将と情勢次第だけど、いまんところは出る予定は無いよ」「そうか」 きゅ、と掴んでくるのに「どうしたのさ」 とびきりの甘い声を出せば、肩口に顔を摺り寄せられた。「……離れてた間にできなかった分、まとめてしちゃったみたいだったね」 耳元でささやけば、強くしがみつかれた。耳が、赤い。「旦那から求めてくれるなんて、思わなかった」 しかも、あんなに乱れて……と耳に注ぎいれると「お、俺とて……ほ、欲しくなることもある」 消え入りそうな声で怒鳴られた。「うん、うん」 髪を撫でていると、ちらと目だけを上げた幸村が、佐助の髪に手を伸ばす。指をからめ、嘆息し「色づきはじめた山を見れば、堪えられなんだ」 すまぬ、と言われて首をかしげる。「佐助の髪は、秋の色をしておるゆえ……我慢ならず山へ入った。ついでにアケビを採り戻れば、佐助が戻って来たゆえ、秋が連れ帰ってくれたのかと」「――え?」「女々しいと、怒るか?」 じわ、と佐助の胸に温もりが広がる。「怒らないよ」 そっと額に唇を寄せて「待たせて、ごめん。――ただいま」「うむ」 首を伸ばした幸村の、ふっくらとした唇に薄い佐助の唇が重なる。「旦那」「うん?」「ただいま」「――おかえり、佐助」 アケビよりも甘い、想いの果実を分け合った。2012/9/24