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 赤い――朱い…………。
 足元を埋め尽くす朱の錦を眺め伊達政宗は細く長く、息を吐いた。
 赤い――朱い…………。
 燃えるような、萌えるような紅に手を伸ばし、拾い上げる。頭上にも、紅。拾い上げた紅と、頭上にある紅を見つめて目を細める。
 焼け付くような色をしているくせに、それは何の熱も帯びてはいない。
 赤い――朱い…………紅い――――。
 屋敷の中から山を見つめ、燃えるような山の色に惹かれてフラフラと足を向けた。
 熱のない焔のように、政宗の周囲にある紅は、彼の胸に一人の男を浮かばせていた。
 赤い、熱い、剣呑でしなやかで――柔らかくて鋭い男。――真田幸村。
 初めての会合以来、伊達政宗の魂に深く深く、彼の槍が突き刺さった。それは逢うたびに深さを増し、魂の一部と同化してしまった。
 そっと、手の中にある紅に唇を寄せる。落ちたばかりらしい紅葉は、まだ柔らかさを残していた。
 政宗の唇に、温かな感触が思い起こされる。みっしりとした、自分よりも厚めの肉質は柔らかく、しっとりと手のひらになじんだ。指を滑らせると小さく振るえ、健康そうな褐色の肌は朱に染まる。
――政宗殿。
 刃を手にしているときとは違う、甘さのある、戸惑いと期待を含んだ声。
 羞恥に硬く凝っていた体は、政宗が促すたびに開いてゆき、やがて奔放な性を現し獣と化す。
――政宗殿。
 艶めいた吐息と共に紡がれる自分の名は、存在そのものを求められているようで、政宗は牙をむき出しにして彼を貪る。――いくら食しても失うことの無い、飽くことのない魂を喰らう。
 ふっ、と息を吹きかけて手にした紅を宙にまわせ、ゆっくりと落ちていく姿を眺める。
 ひとたび戦場に出れば鬼神のごとき雄々しさであるのに、槍を置けば年よりも幼く――こと、色事にいたっては童子と変わらぬほどになる男は、常に冷静であろうとする伊達政宗の心を熱く――自制の箍をあっけなく外してしまう。
 戦場でも、閨でも――。
 何をきっかけとして、この手を伸ばして唇を奪ったのか、その身を貪ったのかはおぼえていない。それほどに、自然なことであった。何の抵抗も感じなかった。そうすることが、当然のことのように思えて――幸村も、戸惑いながらも受け入れた。
 紅葉が落ちる。――穢れを知らぬあの身を、自らの手で、息で、欲の焔の中へ落したい。身も世もなく乱れさせ、ただ政宗の存在だけを感じ、見止め、啼き、叫び、狂い、喰らいあう時を望んでも、政宗は奥州を統べる男であり、幸村は甲斐を治める武田信玄が重用する武将である。引き取ることなどできはしないし、簡単に会いにいける相手ではない。戦乱の世――用も無く領地をあけるわけには行かない。用も無く、幸村を呼び寄せるわけには行かない。
 奥州に、甲斐の勇将が尋ねきたとあっては、何かあるのではないかと諸国に痛くない腹を探られることになる。二人が自他共に認める好敵手であると、周知されていたとしても――だ。
 やわらかな落ち葉の上を、滑るように政宗は進む。
 どれほど焦がれても、あの男に――魂を奮わせる存在に、おいそれと手を伸ばすことなどできはしない。奪ってしまえばいいと、欲しいものは望むままに手にしてしまえばいいと言う男がいる。――幸村を、この手に。
 それは、どういうことになるのか――あの頭の固い、敬愛という言葉では生ぬるいと感じるほどに信玄を慕っている男が、こちらへ来ることなどありえない。何より、そうなれば幸村は政宗の配下となり、今のような関係ではいられなくなるだろう。奪い、囲ってしまうか――それでは、幸村の武将としての尊厳を踏みにじることになる。
 政宗がほしいものは、真田幸村そのもの――あの、震えるほどに熱く眩しい魂だ。戦場で刃を交え、いずれ雌雄を決することが、肌を重ね欲を高めるよりもずっと激しく熱い愉悦を味わえる時が、何よりも互いが望んでいることだ。
 わかっている。――わかっているというのに、政宗の若い性は幸村の甘いすすり泣きを、羞恥に彩られながらも大胆に身をよじる姿を、欲していた。
 体で存在を確かめ合うあの瞬間を――たしかに存在しているのだと、互いに互いを証明しあっているあの時を、求めていた。
 チッ――鋭く舌を打ち、手近な木に背を預けて空を見上げる。
 燃えるような紅の間から、遠く高い蒼が見えた。
 目を閉じて、腕を組み、秋のよそよそしい空気を吸い込む。あるかなしかの風は、木の葉を揺らすこともせずに行き過ぎ、政宗の耳は何の音も拾わない。
 時が、止まったかのような森閑とした空間に、ただ、政宗は在った。
 ほんのわずかな――けれど恐ろしいほど経過したように感じる静寂に、じわりと滲むように政宗の鼓膜を揺らす音が届いた。それは、ゆっくりと、けれど確実に政宗の下へ近づいてくる。それは、今ここで聞こえるはずの無い音で――けれどはっきりと、政宗の耳に届いている。
 目を開けて、近づいてくる音に顔を向けた。
 木の間に、動くものが見える。それは、夢でも幻でもない、紅葉よりも深い紅――政宗の魂を、どうしようもなく奮わせる焔だった。
 それは、政宗の姿を見止めると、人懐こい子犬のような顔をして、くるりと丸い目を輝かせ、小走りに寄ってきた。それを、ゆったりとした気配を纏い――皮膚の下には、すぐにでも飛び掛りたいほどの激情をほとばしらせて、強く思い浮かべ焦がれていた男を迎えた。
「よぉ――久しぶりだなぁ、真田幸村。なんでアンタがこんなところに居るんだ?」
「政宗殿――お館様の命により、奥州へ書状を届けてまいった次第にござる」
 にこにこと、不用意に幸村が近づいてくる。手を伸ばせば、その首を容易く掴んで引き倒せるほど、近くに。
「あの猿はどうした。そういうのは、アンタのような立場の男がすることじゃあ、ねぇだろう」
「佐助は、所用にて別の場所に出向いておりまする。あれは、優秀な忍ゆえ重要な役を任されることが多うございまするゆえ」
 自らの忍の話になると、心なしか自慢げになる幸村に目を眇めた。
「奥州への使いは、重要じゃあねぇってことか」
 揶揄する口調に、はっとした幸村はあわてた。
「そっ、そのような事は……なんというか、その、忍ぶような用向きではないというか、その――」
 半眼で見つめていると、うろたえて何か良いとりなしの言葉はないかと目を彷徨わせていた幸村が、良い言葉を見つけられなかったらしく、しゅんとうつむいてしまった。そして、ぽつりと呟く。
「失言、申し訳ござらぬ」
「――ぶっ」
 思わず噴出した政宗が腹を抱えるのに不思議そうに顔を上げ首をかしげた幸村は、からかわれたのだと気づいたらしく、ぷくりと頬を膨らませた。
「からかうとは、酷うござる」
「こんな単純なことに引っかかる、アンタが悪いんだろう? これが俺じゃなきゃ――アンタ、簡単に言いくるめられて不利な盟約でも結ばなきゃいけなくなるんじゃねぇか?」
「ぬ、ぅう……ぅ」
 反論が出来ないらしい幸村の姿に、むくりと起きたイタズラ心が、皮膚の下に押さえ込んでいた激情を促した。
「っ――!」
 幸村の喉に政宗の手がかかり、顔が近づき、はっとして身構え終える前に唇を奪う。そのまま体ごと彼の体を押して背を木に押し付け、油断をしている唇に舌を差し込み蹂躙した。
「んっ、ふ――ふ、ぁう」
 戸惑う幸村の口から、苦しげな息が漏れる。唇を貪りながら胸に手のひらを這わせ、しっとりと吸い付く肌を滑る指が胸にある尖りを見つけ、捏ねた。
「ぁふっ――んっ、ぁ、ぁは……ま、ぁは、ぅ、んむ」
 抗議の声など聞く耳は持たないと、より深く唇を貪る。政宗を押しのけようと肩にかけられた手は、与えられる刺激に力が入らないのか、本気で抵抗をする気がないのか、ただ掴むだけにとまどっていた。
「はぁ――overly sweet」
「ふ、ぁ、ああ――んっ、ふ、ぁむ、ぅん」
 うっとりと漏れた政宗の息が熱いことに、与えられる甘痒い刺激に、幸村の瞳が潤み、鼻にかかった甘えるような音が漏れる。重ね合わせた腰が、互いの欲が熱を持ち膨らんでいることを示し、胸を弄りながら余った手で腰帯を解き、下帯を落して幸村の牡を空気に晒した。
「ぁ、は、ぁあう」
「ずいぶんと、早いじゃねぇか」
 直につかんだそれは、十分な熱を持っているどころか、先端から蜜を滲ませていた。
「ぁ、は……ま、政宗殿、こそ」
 目じりを朱に染めながら、なんとか羞恥を堪えて挑むように唇をゆがませ、幸村も政宗の下肢に手を置いた。
「このように――は、ぁ……熱く」
「直に、触れろよ」
 唇を離さぬままに言えば、びくりと体が強張った。挑発するように見続けながら、唇で唇を噛み、吸えばぎこちなく両手で政宗の腰帯を解き、下帯に手をかけ、むき出しになった政宗の牡をそっと掴んだ。
「は、ぁ――」
 政宗の唇から、うっとりとした音が漏れたことに勇気を得たのか、幸村は指をからませ、ゆるゆると扱き始める。
「good boy――はぁ……幸村」
「んっ、ぅう……は、ぁあ、ん、ん――政宗殿、ぁ、は……」
 唇が、重ねすぎて血のように赤く染まり、てらてらと光る。政宗の指に捏ねられ続けている胸の尖りが、真っ赤に熟れてポロリと落ちてしまいそうに凝っていた。それを捻ると
「ひ――ぃん」
 高い嬌声があがり、幸村の顎が反る。それを政宗の唇が追いかけ、上がる声すらも奪うように、再び唇を貪った。
「んっ、ふ――ふぅ、んっ、んふ……は、ぁう、ん」
 肌を快楽にわななかせながら、政宗の欲を高ぶらせようと幸村の指が動く。緩慢な刺激にもどかしさを募らせながら、政宗は互いの牡をこすり付けるように腰を寄せた。
「ぁ、は――」
「手ぇ離して、もっと腰を寄せな」
「ぁ、はう――んっ」
 互いの腹で、互いの牡を擦り潰す。鍛え上げられた筋肉の弾力のある硬さに包まれ、互いの先走りで濡れた牡がぶつかり合い、ぬちゃぬちゃと濡れた音をさせている。牡のくびれを絡ませるように腰を寄せると、臍をつつく形になった。
「ぁ、はぁううっ、ぁ、は、ぁあ――」
 政宗の腰の角度が変わり、幸村の足の間に牡が挟まれる。両手で胸乳の実を捏ねれば、幸村の太ももが擦り合わされて政宗の牡を刺激した。
「ふ――そうだ、幸村……もっと、強く締め付けろよ」
「ぁは、ぁ、ああ――んふっ、ぁ、ひ、ぅうんむぅ」
 荒い息を絡めあい、舌を伸ばして吸い上げる。政宗の腰を両手で掴み、腰をすりつける幸村の瞳からは涙が溢れ、嬌声を上げる唇は政宗のそれが離れることを厭い、角度を変えながら首を伸ばして求めてくる。
「ぁ、はぁ、あ――政宗殿……はっ、ぁ、んぁ――ふ、ぁう」
 幸村の蜜が、互いの腹を濡らす。政宗の欲が、幸村の太ももを伝った。
「はっ、ぁ、あ――ああっ、ぁ、んは、ぁ、ああ」
 もどかしそうに、幸村が腰を激しくくねらせ始めた。目を細めた政宗が、腰の動きを早める。
「はっ、ぁあ――ッは、ぁあうっ、ぁ、は、ぁああ――――」
 どくん、と政宗の腹が幸村の牡がはじけたのを感じた。同時に、政宗は腰の角度を変えて幸村の秘孔に先端を突き立て
「くっ――」
 欲を放った。
「は――ぁ、あ……」
 びくん、びくんと体を震わせて押し込められた欲を受け止めた幸村が、淫欲に光る目を政宗へ向ける。ちゅ、と軽くその目に唇を寄せた政宗が、彼の耳に唇を寄せて舌を這わせた。
「その木に、しがみつけよ」
 その言葉が何を意図しているのかを、察することが出来るほどに肌を重ねている。朱に染まった肌を、さらに赤く染めた幸村は唇を結んで頷き、政宗に背を向けて背後の幹にしがみついた。
 うっすらと汗を纏った背に、長い後ろ髪が張り付いている。それに唇を寄せて、政宗は先ほど欲を注いだ秘孔に指を埋めた。
「は、ぁあ――う」
「すげぇな……こんなにヒクつかせて――指にからみついて…………ねだってきやがる」
「ぁ、はぁうぅ……ふ、ぁ、くぅん」
 ゆっくりと、政宗の指が幸村の内壁をほぐしていく。指が抜き差しされ、ぐるりと媚肉をなで上げれば、ゆらゆらと腰が揺れた。
「a loose body――いつから、こんなに猥らな動きをするようになったんだ……真田幸村」
 耳朶を噛みながら、からかうように言えば強い光をたたえた目が、射抜くように政宗を見た。
「某とて――政宗殿を欲することが、ござる」
 きっぱりと言われ、瞠目した。そして
「Ha! Ok――なら、望みどおり、与えてやるよ――最高に熱くなろうじゃねぇか」
「望むところにござる」
 ぐ、と政宗の欲が押し当てられる。そのまま一気に根元まで、幸村の中に埋め込んだ。
「ひっ、ぐ――ぁ、ああ」
 十分にほぐされていたわけではない内壁は、ぎちぎちと痛むほどに政宗を締め付ける。その痛みすらも快楽に変えるように、政宗は容赦なく彼を穿ち、幸村はそれを受け止めた。
「ぁ、は――っ、は、あぁあ」
「く、ぅ……き、ちぃ――は、すげ……溶けそうに熱いぜ、幸村」
「ぁは、ぁ、ああうっ、は、ぁあ、熱ぅござっ――ぁ、は、政宗殿っ、ぁ、はぁ」
 ひやりとした秋の空気すらも、高まる二人の熱を治めることは出来ず、汗を、欲を噴き出しながら紅葉のように肌を赤く染め、求め合う。狂うほどに声を上げ、息を乱し、この世に互いしか認識できぬほどになるまで乱れ、弾けた。
「ぁ、ああ――政宗殿ぉおッ!」
「く、は――幸村――ッ!」
 最後の迸りを絡ませて、唇を柔らかく押しつぶし、汗みずくとなった二人は破れそうなほどに激しい鼓動をゆるやかに沈めるために、腕を絡めてついばむだけの口づけを繰り返した。
「は、ぁ――政宗殿……」
「ふ、ぅ――幸村」
 ゆっくりと、ゆっくりと呼吸と鼓動が収まっていく。そうして秋のひやりとした空気を思い出したころに、落した着物を拾って纏った。
「そういやぁ、なんでアンタがわざわざ使者に来たのかを、聞いていなかったな。――オッサンが、アンタを寄越したのは、そうとうな理由があるんだろう? どんな、用向きだ?」
 きっちりと身を整えた政宗が、汗で張り付いた髪を掻きあげながら問えば、ぼふんと音がしそうなほどに、幸村の顔が真っ赤に染まった。
「――?」
 怪訝な顔をすれば、唇を引き結んだ幸村が目をそらし、もにゅもにゅと唇を歪ませたかと思うと背を向ける。
「なんだよ――」
「政宗殿と、お会いしたいがゆえ、某が使者に立ちたいと申したのでござる」
「――――what?」
 聞き間違いかと政宗が声を出すと、落ち葉を蹴散らすように乱暴な足取りで幸村が進みだす。その耳が紅葉よりも濃い色をしていることに、聞き間違いではなかったのだと確信し、政宗は唇を歪ませた。
「待てよ、幸村」
「待ちませぬ」
「待てって」
「あっ――んぅ」
 腕を掴み、引き寄せて唇を重ねる。
 腕の中に、熱を持った確かな紅が、あった。

2012/11/15



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