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コメリク:余裕ヅラしていっぱいいっぱいな佐助

 ちら、と猿飛佐助は横目で鍛錬に励む主、真田幸村を見た。
 空は雲って光の粒を細かくし、木々自体が淡く光っているように、はっきりとしているはずなのに靄っているように、見せている。
 まるで俺様の心みたいだ。
 二人きりで話があると言われ、人気のない場所に連れてこられ、期待と不安を綯交ぜにしてみれば、何の事はない。いつもと変わらぬ鍛錬だ。
 幸村はもろ肌脱ぎで槍を振るい、健康的な汗を滴らせている。彼が動くたびに舞う長い後ろ髪が、佐助を誘う猫じゃらしのように揺れている。
 あの髪に指を絡めて、この腕の中に引き寄せてしまえれば――
 主に対して、そんなことが出来ようはずも無い。いくら真田の忍が優遇されていたとしても、佐助が武田信玄の前でも軽口を叩くことを許されている身だったとしても、だ。
 なんで、俺様を呼び出したんだろ。
 このところ、妙に幸村はそわそわとしていた。わずかな視線を感じるたびに、顔を向ければ目を反らされた。かといって、距離を取られているだとか、そういう事は無い。時折、物言いたげな視線を感じるだけで、あとは何も変わらない。
 旦那も、俺様の事を憎からず思ってくれてるとかなら、いいんだけど。
 ぼんやりと、そんなことを思う。
 主従の絆を深めるため、身を重ねることは珍しくない。佐助は、幸村が求めてくるならば、どちら側になっても構わないと思っている。
 でも、あの旦那が――。
 夫婦で戦場に出た前田夫婦に対して、破廉恥と言う男だ。戦場では「紅蓮の鬼」などと呼ばれるほどの猛者でありながら、平時は年よりも幼く直情的で、春画という言葉を聞いただけでも赤面をするほど、初心だ。
 あり得ないよなぁ。
 佐助の抱える劣情を、彼と共に高めることなど、あり得るはずがない。
 佐助の前で、無防備に肌を晒し汗を輝かせ、槍と共に幸村が躍る。
 輝く獣は、闇に沈む鳥には眩しすぎて、だからこそ狂おしいほどに求めてしまう。
 なんとなく――ほんとうに、何気なく。
 ぼんやりとしすぎた佐助は、何を考えるわけでもなく、夢遊病のように腕を伸ばし、舞う幸村の後ろ髪を指に絡めた。
「ぅおっ」
 くん、と引かれた幸村が動きを止める。
「佐助?」
 夢魔に憑りつかれたように、思考を放棄した佐助は、髪を縛る青い紐に目を向ける。
 佐助の嫌いな、たった一度、刃を交えただけで幸村の魂を揺さぶり、深い場所に住み着いてしまった男の色だ。それを身に着け始めた主に、そんな色を付けないでよ、と言いそうになった自分を抑え、今でもその不快を自分ですら気づかぬように振る舞っていることに、鈍い主は毛ほども気付いていないだろう。
「どうした、佐助」
 幸村の声が聞こえていないわけでは無い。ただ、意識に浸透しないだけで。
「旦那」
 幸村の耳に、かろうじて届くほどの音を発した唇に、指に絡めた髪を近づける。
「っ!」
 幸村が硬直し、佐助の腕を掴んだ。
「何をするっ、佐助」
「えっ」
 そこで、佐助は自分が何をしたのかに気付いた。気付いたけれども、優秀な忍としての本能が、狼狽えることを許さない。
「旦那の髪が、ひらひら待っていたから。つい、ね。猫じゃらしみたいだなぁって思って」
「だ、だからと言って、その、か、髪に唇を、そのっ、よ、よせっ」
「あぁ。旦那も男の子だもんね。どうせされるなら、可愛い女の子のほうが、いいか」
「そんっ、おっ、おなごに、そのようなことを、されとうは無いっ」
「ああ、そうだねぇ。どうせなら、するほうだよね。こんなふうに、さ」
 あくまでも冗談のつもりで。からかうな、と怒られて、あははと笑って離れるつもりで、佐助は幸村の腰を掴み引き寄せ、彼の目の前で愛おしそうに、指に絡めた髪に口づける。
「佐助は、そのようなことを、したことがあるのか」
 おや、と佐助は片眉を上げた。予想していたのと、反応が違う。とうとう旦那も、俺様の予想とは違う反応を示すくらい、成長しちゃったのかぁ。なんてことを、嬉しくも寂しくも感じながら、何かの見本のように、にっこりと佐助は笑った。
「どうだろうねぇ」
 もしや、幸村に思いを寄せる女でも現れて、それで何事か相談をしようとして、物言いたげにしていたのではないだろうか。
「どっちだと、思う?」
 耳元に唇を寄せ、ささやく。もしそうだとしたならば、この不快を慰めるために、少しぐらいの意地悪をさせてもらおう。想いを冗談で包み込み、今の距離を保つ範囲で。
「旦那?」
 幸村が、耳まで赤くなっている。常ならば目をそむけるか、冗談が過ぎると怒るところなのに、幸村はまっすぐに佐助の答えを待っている。
 その瞳が、少し潤んで輝いているように見えて
 あ、やばい――。
 思った時には、吸い込まれていた。
「旦那」
 瞼に、頬に、顎に唇を寄せる。
 早く止めないと、取り返しのつかないことに、なっちまうぜ。
 幸村と自分に呟きながら、佐助は幸村の唇を、柔らかく押しつぶした。
 ちろ、と唇を舐める。きゅっと硬く引き絞られた唇は、それでも柔らかく、甘い。
 花蜜を含んだような心地よさが、佐助の胸に広がった。
「旦那」
 ぎゅっと硬く目も閉じてしまった幸村は、はっきりとした拒絶を口にしない。ただ、佐助のする事に耐えている。
 なんで、やめろって言ってくんないのさ。
 心中で非難しながら、佐助は幸村の首筋を、ぺろりと舐めた。
「旦那もオトシゴロなんだから、こういう事も、そろそろ知っておいた方が良いかもね」
 汗で膨らんだ幸村の香りが、佐助の鼻孔をくすぐり脳をしびれさせる。幸村が欲しいと、心の底からの叫びが体中に響き渡る。ずくん、と下肢が疼いた。
「こうやって、優しく肌を撫でて、唇を寄せて」
「っ、ふ」
 胸に手のひらを滑らせて、鍛錬で興奮した所為だろう。つんと尖った箇所を指で弾けば、幸村が息を漏らした。
 旦那。早く、拒んで――。
「どんなふうに想いを重ねるかを、旦那の年ならもう、教わっていていい頃だしなぁ」
「はっ、ぁ」
 色づきを指の腹で撫でれば、たまらず幸村が唇を開いた。
「気持ちいいの? 旦那。男もね、女に愛撫をするだけじゃなく、愛撫をされて、一緒に心地よくなるんだよ」
「さ、すけ――は」
「ん?」
「おなごと、共に心地よくなったことが、あるのか――っあ」
 問いに、思わず幸村の尖りを強く摘んでしまった。思う以上に甘い声が漏れて、佐助はそれをもっと聞きたいと、こね回す。
「どうだろうねぇ。忍って、色も使う事もあるからなぁ」
「い、ろ……ぁ、は、んんっ」
 小さな蕾が零れ落ちてしまいそうなほどに、硬くなる。愛おしくて、佐助はそれを指で転がし続ける。
「そう。色――意味、わかる?」
「うっ、ぅう……わかりたく、などっ、な――ぃ」
「じゃあ、知ってんだ」
「んぁっ」
 腰を引き寄せ、足の間に太ももを入れれば、硬いものが当たった。太ももで擦りながら押しつぶせば、幸村の腰が揺らめく。
 旦那、このままじゃ俺様にイカされちゃうよ――?
 こうなれば、佐助から冗談でしたと止めることが出来ない。いや、止めたくない。想いが通じていなくとも、幸村が自分の手で昂り劣情をほとばしらせる。それは、どれほどの甘露を胸に与えてくれるのだろう。
「旦那、すごく硬くなってる」
「んぅうっ」
 恥じ入る幸村に、胸が熱くなる。すぐにでも押し倒し、激しく扱き放たせて、痛いほどに脈動する自分の熱を突き立てたい。
 そんなこと――。
 出来るはずはないだろうと、佐助は自分を諌めながら、幸村に飄々とした顔のみを見せる。
「ふふ。可愛いね、旦那。経験を積めば、もっと余裕でいられるようになるよ。旦那には、初心な相手のほうがいいかもね。ああ、でもそれじゃあ、きちんと作法を知っておかないと、相手に痛い思いをさせちゃうことになるなぁ」
「ぁ、は……痛い、とは」
 普段通りの、兵法を問われ応える時と同じ顔をして、佐助は幸村の下帯に手を入れて、滾る熱を握りしめた。
「ひんっ」
「これを使って、繋がるからさ。貫くとき、ちゃんと濡れるように愛撫してあげないと」
「つ、らぬ、く……ぁ、んっ」
 幹を掴み、先端を指の腹で押しつぶすように撫でれば、ぷくりと先走りが浮き上がる。それを全体に塗り広げるように、佐助は幸村の熱を扱き始めた。
「そう。交合がどういうものかくらい、旦那だって知ってるだろう? どこを使って、繋がるか」,
「ぁ、はっ、んぅうっ――さすっ、ぁ」
 よほどに心地いいのか、幸村が太ももをわななかせ、佐助の首に腕を回してしがみつく。
 ちょっと、旦那。それってば逆なんじゃない? ああ、このままじゃ治まらなくて辛いから、身を委ねてくれてるのか。
 想いが通じているわけでは無い。幸村はただ、流されているだけだ。
 佐助の胸に、あたたかな痛みが広がる。
「旦那、旦那」
 甘く耳元でささやきながら、耳朶を唇で噛めば幸村の腰が震えた。
「はっ、ぁあ、佐助、ぁ、さ、すぅうっ、ひっ、あぁ」
 佐助の手が早くなるのにあわせ、幸村の息が荒く昂っていく。佐助の指は幸村の先走りで濡れそぼり、手淫を滑らかにさせた。
「すごいね、旦那。いっぱい溢れて、ぐしょぐしょだ」
「んぅうっ、や、ぁ、佐助っ、は、ぁあっ」
「嫌って言うの、遅くない? こんなになっちゃったら、出すしかないだろ。余計な事を考えずに、俺様の指だけ感じてて」
「ふぁあっ、さすぅうっ、さすけっ、ぁあ、さすっ、はっ、はぁあっ」
 幸村の声が、佐助の言葉に呼応して高くなる。
 そんなふうに反応されると、期待しちまうだろ。
 じくじくと、膿んだ傷のように佐助の股間が疼く。すぐにでも取り出して、がむしゃらに幸村を求めたい。
「佐助ぇ、さすっ、は、ぁ、もぉ、ぁ、でるっ、ぅ」
「いいよ。いっぱい出しちゃいな」
「ひっ、ぁ、あはぁああああああっ」
 先端を爪で掻いて決壊を促せば、幸村が顎をのけぞらせ、腰を突き出し欲を吹き出す。
 旦那の、イク顔――。
 ぞくぞくと、佐助の背中に劣情が走った。残滓も全て放たせるため、放つ幸村の脈打つ箇所を扱き続ける。
「は、ぁ、ぁあ、あ」
 叫びを緩慢にした幸村から力が抜けて、佐助に彼の全体重がのしかかった。胸を喘がせ、浅い呼吸を繰り返す幸村の閉じた瞼に、濡れた睫毛が震えている。
 旦那が、欲しいよ。
 どうしようもなく、欲しているのだと再確認させられた胸を抑え込み、佐助はつむじに唇を寄せ、濡れた手に目を向ける。
 旦那の――。
 ごくりと喉を鳴らした佐助は、ゆっくりとその手を持ち上げ唇を開いた。
「佐助」
 舌を伸ばし、濡れた指を招く前に名を呼ばれ、はっとする。あわてて、飄々とした仮面をかぶった。
「なぁに、旦那。重いからさぁ、ちゃんと自分で立ってくんない?」
「佐助は、仕事でこのようなことをするのか」
 それは、何の感情も含めないほどに、凪いでいた。けれど佐助は知っている。こういう物言いをする幸村は、その奥底に渦巻く激しい思いを抱えているという事を。普段は直情的に叫び猛る彼が、ひとたびこのような声音を使えば、それは底の見えぬほどに深く強い、深海の火山のような感情を抱えていることを。
「忍だからね」
 口の中が、喉が、ひどく渇いている。けれどそれを悟られぬよう、常と同じ声音を使えば幸村は佐助から離れた。
「そうか」
「そうだよ」
 どうしちゃったのさ、旦那。
 放つ幸村の顔を見た恍惚から、心は一気に寒風に煽られ樹氷のように凍えた。幸村が何を思い、考えているのかがわからない。
 そんな焦りなど、おくびにもださぬ佐助の心中に幸村が気付こうはずもなく、幸村は木の根元に置いてあった竹筒を拾い上げ、喉を鳴らして水を飲んだ。
「ふう」
 それを、佐助はただ茫然と見つめる。
「交合が、どのようなものかぐらい、俺とて知っている」
 羞恥を浮かべぬその声は、はっきりとした意志と覚悟で固められていた。
「佐助」
「なぁに、旦那」
 柔らかく返事をしてみたが、心中は緊張でこわばりきっている。
「作法を知っておかねばならんと、言ったな」
「うん、言ったね」
 次に何を言われるのか、予想が全くつかない。こんなことは、初めてだった。
「俺は、惚れた相手としか交合はせぬ」
 どうしちゃったのさ、旦那。何を考えて、何を言おうとしているのさ。
 ぐっと覚悟を決め睨み付けてくる幸村の姿から、佐助は何も読み取れないことに焦る。
 大股で佐助の傍に戻った幸村は、竹筒を放り投げ、代わりに佐助の下肢を握った。
「うっ」
「十分に、凝っておるな」
 わずかに羞恥を浮かべはしたが、破廉恥だと叫ぶ主の姿とのあまりの違いに、佐助は反応を返せなかった。
「今宵、俺の部屋に忍んで参れ。その作法を、教えろ。佐助」
「えっ」
 言葉が、脳に浸透して来ない。
「俺に反応し、これほどに凝るなら、出来るだろう。――今宵、必ず参れ」
「旦那?」
「先に戻るっ」
 堪えきれなくなったらしく、幸村は全身を朱に染めて、あわただしく身支度を整え槍を掻い込み全速力で走り去った。
「えっ、と――」
 呆然とした佐助が、幸村の言葉を脳内に並べる。
 ――俺は、惚れた相手としか交合はせぬ。
 ――今宵、俺の部屋に忍んで参れ。その作法を、教えろ。
 それって、つまり――。
 思い至った結論に、佐助の顔が緩む。
 夜っぴて、作法をたっぷりと教えてあげるよ、旦那。そのかわり、旦那の誰にも見せたことない顔を、聞かせたことの無い声を、堪能させてもらうぜ。
 喜びに打ち震える佐助が、小さく拳を握りしめた。

2013/06/29



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